星新一 作品の特徴

星新一

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 05:45 UTC 版)

作品の特徴

星の作品、特にショートショートは通俗性が出来る限り排除されていて、具体的な地名・人名といった固有名詞が出てこない。例えば「100万円」とは書かずに「大金」・「豪勢な食事を2回すれば消えてしまう額」などと表現するなど、地域・社会環境・時代に関係なく読めるよう工夫されている。さらに機会あるごとに時代にそぐわなくなった部分を手直し[注釈 7]しており、星は晩年までこの作業を続けていた。激しい暴力や殺人シーン、ベッドシーンの描写は非常に少ないが、このことについて星は「希少価値を狙っているだけで、別に道徳的な主張からではない」「単に書くのが苦手」という説明をしている。加えて、時事風俗は扱わない、当用漢字表にない漢字は用いない、前衛的な手法を使わない、などの制約を自らに課していた。もちろん例外もあり、『気まぐれ指数』などは五輪前の東京の雰囲気がきめ細かく描写された風俗ユーモアミステリである。『ほら男爵現代の冒険』も人名、地名が頻出するが、人名は意図的にシンプルまたは奇妙なものが使われている。

ショートショートの主人公としてよく登場する「エヌ氏」などの名は、星の作品を特徴づけるキーワードとなっている。「エヌ氏」を「N氏」としないのは、アルファベットは、日本語の文章の中で目立ってしまうからだと本人が書いている。

しばしば未来を予見しているかのような作品が見受けられるが、いずれも発表された時点では、何をどう予見しているのかは誰にも(あるいは本人ですら)分からなかった。以下にその例を挙げる。

声の網(1970年
電話線を経由する情報(血圧や体温なども感知する)をコンピュータに管理させている。コンピュータはいたるところに設置され、すべてネットワークでつながっている。人間たちは好きな時に好きな場所で必要な情報を取り出している(インターネットの普及、ユビキタス社会の実現)。
おーい でてこーい(1958年)
ある日突然出来た深い底なしの穴に、生産することだけ考えていて、その後始末は誰も考えていなかった人間たちは、これ幸いとばかりに都会のゴミや工場の排水や放射性廃棄物など、物を生産することで発生した不用なものをどんどん捨てていく(公害、生態系の破壊、大量消費社会)[注釈 8]
白い服の男(1968年)
戦争に関する事物、事象などあらゆるものを封印してねじ曲げて管理された世界を描く(表現の自由言論の自由などに踏み込んだ監視社会。有害情報規制児童ポルノ法改正などに含まれる単純所持規制問題など)。

作品は20言語以上に翻訳され[注釈 9]、世界中で読まれている。

寓話的な内容の作品が多く、星も自らを「現代のイソップ」と称していた(『未来いそっぷ』と題した作品集もある)。その柔軟な発想と的確に事物の本質をつかんだ視点の冷静さから多くの読者を獲得したほか、学校教科書(光村図書出版『国語 小学5年』に掲載された「おみやげ」、東京書籍NEW HORIZON』に掲載された「おーいでてこーい」(英語の教科書であるため、英訳され「Can Anyone Hear Me?」のタイトルで収録)など)やテレビ番組『週刊ストーリーランド』(「殺し屋ですのよ」など)・『世にも奇妙な物語』(「おーい でてこーい」「ネチラタ事件」など)の題材に採用されている。

評論家の浅羽通明は自身の評論の中で星のショートショートをしばしば引用し、どんな時代においても通用する星作品の「普遍的な人間性への批評」を強調している。

また、筒井康隆は星の作品について、ストイシズムによる自己規制と、人間に対する深い理解、底知れぬ愛情や多元的な姿勢が、彼の作品に一種の透明感を与えていると評した。その一方で日本人が小説において喜ぶような、怨念や覗き趣味、現代への密着感やなま臭さや攻撃性が奪われ、結果として日本の評論家にとっては星の作品が評価しづらくなり、時として的はずれな批評をされることになったと指摘している。星は後期の作品においてその形式を大きく変化させたが、筒井はそのことにも触れ、星は数十、数百に及ぶ膨大な対立概念・視点・プロット・ギャグ・ナンセンスのアイデアを持っており、後期の作品に見られる「価値の相対化」「ラスト一行の価値転換によるテーマ集約の排除」といった変化は、彼の視点のアイデアのうちのほんの一例に過ぎないと評価している[20]

挿絵の多くは真鍋博和田誠が担当している。真鍋とは特に初期からの名コンビで、真鍋の挿絵を星がセレクトした『真鍋博のプラネタリウム 星新一の挿絵たち』という本も出している。

アメリカの一コマ漫画の収集家でもあり、それらをテーマ別に紹介した『進化した猿たち』(全2巻、文庫は3巻)という本も刊行している。さらに官僚の壁に立ち向かい、そして敗れた父・一を描いた『人民は弱し 官吏は強し』、明治時代の新聞の珍記事を紹介した『夜明けあと』のようなSF以外の近代史ノンフィクションや『きまぐれ - 』で始まるタイトルのエッセイ集なども多数残している。


注釈

  1. ^ 北杜夫との対談「わが習作時代とSF文学と」では、北杜夫から好きな外国作家を聞かれ「シェクレー、ブラッドベリー、ハインライン、フレドリック・ブラウンもうまいし」と答えている[2]
  2. ^ ただし、堤の場合は西武の経営参加や上場よりも創作活動が遙かに先行しており、星の場合は完全に経営を離れたのちに創作活動が始まっている。
  3. ^ 通常なら帝国大学の場合は満23歳。
  4. ^ ただし、星自身は「先日、東大の大学院の女性の会(妙なのがあるな)に呼ばれ、話をした。修士課程を二つ出て、博士課程に在籍の人もいた。まいったね。それから私は、自分の略歴から、大学院に行ったことを削るようにしている。学歴で作品が書けるわけじゃない」と述べている。[9]
  5. ^ その後、1970年の『日本紳士録』第58版にも「星薬科大理事」との肩書が記載されている。
  6. ^ ただし最相葉月は『星新一 一〇〇一話をつくった人』(新潮社、2007年平成19年))のpp.208-217で「矢野からしきりに『セキストラ』を読むよう勧められた乱歩は、一読してこれは傑作だと思い『宝石』に掲載することを考えたが、自分が責任編集をしている雑誌に自分が推薦するのではどうも具合が悪い。そこで乱歩が大下宇陀児に提灯もちを依頼し、九月末発行の十一月号でデビューさせることになった」「大下が推賞したのは事実であるとしても、大下が『発掘』したというのは宣伝用の惹句で、矢野が書き残している通り、乱歩から依頼された大下の『提灯もち』が、いつのまにか大下の『発掘』という定説になってしまった」と述べている。その根拠として当事者だった矢野の証言の他、肝心の大下本人の推賞文が短い一文しか存在しないこと、それに比して乱歩が『宝石』の『セキストラ』末尾に記したルーブリックは約800字と長く、作品の具体的内容にまで言及して絶賛していることなどを挙げている。
  7. ^ 「電子頭脳」を「コンピュータ」に、「ダイヤルを回す」を「電話をかける」に直すなど。
  8. ^ 星新一は『きまぐれエトセトラ』「いわんとすること」で、執筆、発表当時は公害という言葉も概念もなく、公害問題と結びつけられたことでショートショートとしての面白さが損なわれると嘆いている。
  9. ^ 1985年時点で英語ドイツ語フランス語イタリア語中国語ロシア語朝鮮語ルーマニア語ポーランド語チェコ語インドネシア語ウクライナ語ノルウェー語ラトビア語リトアニア語ベンガル語セルビア・クロアチア語マジャール語アゼルバイジャン語エスペラントの20言語[19]
  10. ^ 2人とも父親は医薬系組織(製薬会社と病院)のトップで東北出身、欧米留学経験あり、母親は東京のブルジョア(小金井良精の娘と大病院の娘)で、本人は東京山の手(本郷と青山)育ち。
  11. ^ 外祖父・小金井良精と大伯父・森鴎外については有名だが、父・星一も留学経験こそないものの、フリッツ・ハーバー訪日の援助をしたり、ベルリン工科大学名誉教授の称号を贈られるほどの親独家として名高い。
  12. ^ 5年以内にショートショートの公募に匿名で応募して入賞することを目指すとしている。
  13. ^ 下訳は当時早川書房の編集者だった福島正実南山宏常盤新平らが担当している。星による訳者あとがき(2005年の再版では割愛されている)では、単に協力者として3人への謝辞が書かれているが、下訳の事実について福島らの元同僚・内田庶がエッセイの中で言及している。

出典

  1. ^ 星新一「『心中』に魅入られて」(『川端康成全集第6巻』第7回月報)(新潮社、1969年)
  2. ^ 北杜夫『マンボウ談話室』p.183、講談社、1977年
  3. ^ 宮崎哲弥『いまこそ「小松左京」を読み直す』 NHK出版新書、2020、p.7
  4. ^ 『きまぐれ読書メモ』p.219(有楽出版社、昭和56年(1981年))
  5. ^ 星新一『きまぐれ読書メモ』p.20(有楽出版社、1981年昭和56年))
  6. ^ 『きまぐれ暦』p.225(新潮文庫1979年(昭和54年))
  7. ^ a b c d 東宝特撮映画全史 1983, p. 540, 「特撮映画スタッフ名鑑」
  8. ^ 『きまぐれ読書メモ』(有楽出版社)p.108
  9. ^ 『気まぐれスターダスト』p.75(2000年、出版芸術社)を参照
  10. ^ 「星新一年譜」(『別冊新評 「星新一の世界」 76 AUTUMN』、新評社、1976年(昭和51年))、p.202。
  11. ^ 『人民は弱し 官吏は強し』、『星新一 一〇〇一話をつくった人』
  12. ^ 探偵作家・雑誌・団体・賞名辞典・多岐川恭
  13. ^ 星新一『きまぐれ遊歩道』pp.90-92(新潮文庫、1996年)。星は「高級住宅地なのだろうが、高級さをひけらかさないところがいい」「戦前の本郷の屋敷町にも、そういうムードのとこがあった」と述べている。
  14. ^ 最相葉月『星新一 一〇〇一話をつくった人』上、新潮社〈新潮文庫〉、2010年、pp.11-18。
  15. ^ 1968年 第21回 日本推理作家協会賞
  16. ^ 日本SF大賞
  17. ^ 『'60年代日本SFベスト集成』への星の収録作「解放の時代」の解説
  18. ^ 牧眞司「ぼくのSFファン修業時代、星作品に関係することなど」http://www.hoshishinichi.com/note/34.html
  19. ^ 深見弾「星新一―億の読者をもつ作家」(新潮文庫「たくさんのタブー」巻末)より)
  20. ^ 『ボッコちゃん』解説(新潮社
  21. ^ 最相葉月『星新一 一〇〇一話をつくった人(下)』新潮文庫 pp.161-163
  22. ^ 星新一「文句を言い忘れた『W3』の主人公名」『朝日ジャーナル臨時増刊 手塚治虫の世界』朝日新聞社、1989年。
  23. ^ 第一回奇想天外SF新人賞選考会:選考過程”. 2009年2月7日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2008年6月20日閲覧。 (『奇想天外』1978年2月号「新人賞選考座談会」より一部抜粋)
  24. ^ 『きまぐれ読書メモ』(有楽出版社)p.178
  25. ^ 武田康廣『のーてんき通信 エヴァンゲリオンを創った男たち』ワニブックス、2002年、pp.120-121。
  26. ^ 『きまぐれ遊歩道』(新潮文庫)pp.111-112他
  27. ^ 星新一『きまぐれ遊歩道』p.76(新潮文庫、1990年)
  28. ^ 北杜夫『怪人とマンボウ』p.118(講談社、1977年)
  29. ^ 北杜夫『怪人とマンボウ』p.119(講談社、1977年)
  30. ^ 佐々木清隆『さよならバーバリー 2』(1998年)http://www.asahi-net.or.jp/~jg3k-ssk/hoshi2.html
  31. ^ 第3回星新一賞に応募しました。” (2015年9月24日). 2016年1月29日閲覧。
  32. ^ ホシヅルの日@SFの国”. 日本SF作家クラブ. 2014年12月29日閲覧。
  33. ^ "『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』放送決定 水原希子、永山瑛太、高良健吾、北山宏光ら出演". ORICON NEWS. oricon ME. 18 February 2022. 2022年2月18日閲覧
  34. ^ "「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ」放送のおしらせ". ドラマトピックス. 日本放送協会. 18 February 2022. 2022年2月18日閲覧
  35. ^ 最相葉月『星新一(下)』(新潮文庫)p.267






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