賃金 賃金の概要

賃金

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/11/15 02:26 UTC 版)

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賃金の定義

  • 本項で労働基準法について以下では条数のみを挙げる。

労働基準法では「この法律で賃金とは、賃金、給料手当賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者労働者に支払うすべてのものをいう。」と定義されている(第11条)。

所定貨幣賃金の代わりに支給されるもの(その支給により貨幣賃金の減額を伴うもの)、労働契約においてその支給があらかじめ明確に定められているものは「賃金」とみなされる(昭和22年9月13日発基17号)。具体的には休業手当通勤手当[注釈 1]スト妥結一時金、税金社会保険料の補助は「賃金」に含まれる。特に税金など、必ず支払わなければならないものを使用者が補助又は立替払いすると、「賃金」とみなされる(昭和63年3月14日基発150号)。

一方、代金を徴収するもの(その代金が甚だしく低額なものを除く)[注釈 2]、労働者の厚生福利施設とみなされるものは「賃金」とみなさない(昭和22年9月13日発基17号)。具体的には以下のものは「賃金」に含まれない。

  • 恩恵的・任意的給付
退職金、結婚祝金、病気見舞金、死亡弔慰金、災害見舞金など。ただし、労働契約就業規則労働協約などであらかじめ支給条件が明確になっているものは「賃金」とみなされる(労働基準法の施行に関する件(昭和22年9月13日付け発基第17号、都道府県労働基準局長あて労働次官通達))。
  • 福利厚生的給付・企業設備(現物給付)
住宅の貸与、食事の供与(昭和30年10月10日基発644号)、あるいは支給される制服作業服(昭和23年2月20日基発297号)、作業用品(昭和27年5月10日基収2162号)などの現物給付福利厚生的給付であり、原則として「賃金」にはあたらない(労働基準法解釈例規について(昭和63年3月14日付け基発第150号・婦発第47号、都道府県労働基準局長あて労働基準局長・婦人局長通達))。ただし、住宅を貸与する場合に、住宅の貸与を受けない者に均衡上一定額の手当を支給している場合には、その均衡給与相当額は「賃金」とされる。
労働者に対し、労働協約によらずして物又は利益が供与された場合において、それを「賃金」とみるか否かについては、実物給与に関する法の趣旨及び実情を考慮して慎重に判定する。支給されるものが労働者の自家消費を目的とせず明らかに転売による金銭の取得を目的とするもの、労働協約によってないが前例もしくは慣習としてその支給が期待されている貨幣賃金の代わりに支給されるものは「賃金」として取り扱う(昭和22年12月9日基発452号)。
ストックオプションの付与は、「賃金」に当たらない。オプション保有者たる労働者が権利の行使について任意であるため、制度として実施するには就業規則に記載すべきとされる(改正商法に係るストツク・オプションの取扱いについて(平成9年6月1日基発第412号、道府県労働基準局長宛て、労働省労働基準局長通達))
  • 解雇予告手当
解雇予告手当は「賃金」ではないが、解雇の申渡しと同時に通貨で直接支払わなければならない。
  • 休業補償(法定超過額を含む)
休業補償として第76条に定める「平均賃金の60%」は最低の基準であるから、事業場で休業補償として平均賃金の60%を上回る制度を設けている場合には、その全額が休業補償であり、「賃金」とはならない(昭和25年12月27日基収3432号)。
休業手当(第26条)は法定超過額を含む全額が「賃金」となる。
労働者が自己を被保険者として生命保険会社と任意に保険契約を締結したときに企業がその保険料の補助を行う場合、その保険料補助金は、労働者の福利厚生のために使用者が負担するものであるから、「賃金」とは認められない(昭和63年3月14日基発150号)。
チップは旅館従業員等が客から受け取るものであって、「賃金」ではない(昭和23年2月3日基発164号)。使用者がサービス料として一定率を定めて客に請求し、収納したものを集計し労働者に分配する場合は賃金となる。

他法による定義

労働保険の保険料の徴収等に関する法律(労働保険徴収法)では「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの(通貨以外のもので支払われるものであつて、厚生労働省令で定める範囲外のものを除く)をいう。」と定義されている(労働保険徴収法第2条2項)。

  • 労働基準法による「賃金」との相違点としては、
    • 労働協約等によって支給条件の明確な見舞金、結婚祝い金等は賃金とはしない。
    • 住宅を貸与する場合に、住宅の貸与を受けない者に均衡上一定額の手当を支給している場合には、その均衡給与相当額は賃金となるが、社宅入居者から賃貸料として3分の1を超える額を徴収している場合は、福利厚生とみなされ、賃金とは認められない。
    • 通貨以外のもので支払われるものの範囲は、食事、被服及び住居の利益のほか、所轄公共職業安定所長・所轄労働基準監督署長が定める。評価に関する事項は厚生労働大臣が定める。

健康保険法では、「この法律において「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び3月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。」と定義されている(健康保険法3条5項)。また、「この法律において「賞与」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもののうち、3月を超える期間ごとに受けるものをいう。」とも定義されている(健康保険法第3条6項)。

  • 労働基準法による「賃金」との相違点としては、
    • 被保険者の在職時に、退職金相当額の全部または一部を給与に上乗せする等前払いされる場合は、報酬に該当する。
    • 臨時に支払われたもの、3月を超える期間ごとに受けるもの(賞与等)は、報酬に含まない。ただし、年4回以上の賞与等は、報酬に含める。
    • 報酬又は賞与の全部又は一部が、通貨以外のものによって支払われる場合においては、その価額は、その地方の時価によって、厚生労働大臣が定める。

賃金の決定

賃金の決定は、個別の労働契約により決定されるものである。公共職業安定所の求人票に記載された賃金額は、その後に個別の労働契約を締結しなければ、労働基準法上の支払い義務のある賃金額とはならない[注釈 3]。 賃金制度の体系・内容は、労働組合のある企業では労使の交渉によって合意されたうえ、労働協約・就業規則の賃金規定に定められ、また毎年の賃上げや賞与の額も労使交渉によって決せられる。この場合、使用者は労働組合との誠実な団体交渉に応じる義務がある(労働組合法第7条)。労働組合のない企業では、使用者が賃金制度の内容を就業規則に定め、賃上げ・賞与の額は市場の動向に応じて使用者が決定する。いずれの場合においても、賃金の計算方法等賃金制度の内容は使用者が就業規則に記載しなければならない(第89条)。

賃金を含め、労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである(第2条1項)。使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならず(第3条)、使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない(第4条)。事業主は、通常の労働者と同視すべき短時間労働者については、賃金その他の待遇について、短時間労働者であることを理由として通常の労働者との間で差別的取扱いをしてはならず、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」に該当しない短時間労働者についても通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、その賃金を決定するように努めるものとする(パートタイム労働法第9条、第10条)。

また、使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならず、最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効となる。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされる(第28条、最低賃金法第4条)。

なお株式会社において取締役の「報酬」は定款の定めがない限り株主総会の決議に基づくことを要するが(会社法第361条)、取締役が使用人を兼務している場合、使用人として受ける賃金はこの報酬に含まれない旨を定めることも適法である(シチズン時計事件、最判昭60.3.26)。

厚生労働省「平成28年賃金引上げ等の実態に関する調査結果の概要」によれば、平成28年中に賃金の引き上げを実施しまたは予定していて額も決定している企業について、賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素を見ると、「企業の業績」が51.4%(前年同調査では52.6%)と最も多く、「重視した要素はない」を除くと、「労働力の確保・定着」が11.0%(同6.8%)、次いで「親会社又は関連(グループ)会社の改定の動向」が5.9%(同5.4%)となっている。また、厚生労働省「平成29年賃金構造基本統計調査」によれば、一般労働者の賃金は、男女計304.3千円(年齢42.5歳、勤続12.1年)、男性335.5千円(年齢43.3歳、勤続13.5年)、女性246.1千円(年齢41.1歳、勤続9.4年)となっている。賃金を前年と比べると、男女計及び男性では0.1%増加、女性では0.6%増加となっている。女性の賃金は過去最高となっており、男女間賃金格差(男性=100)は、比較可能な昭和51年調査以降で過去最小の73.4となっている。




注釈

  1. ^ 通勤用の定期乗車券の支給は「賃金」に当たる。6ヶ月定期乗車券であってもこれは各月分の賃金の前払いとして認められるから、平均賃金算定の基礎に加えなければならない。
  2. ^ その徴収金額が実際費用の3分の1以下であるときは、徴収金額と実際費用の3分の1との差額部分については、これを「賃金」とみなす(昭和22年12月9日基発452号)。
  3. ^ 平成30年1月1日施行の改正職業安定法により、当初の明示と異なる労働条件を提示する場合には、契約締結の前に新たな明示が義務付けられる。
  4. ^ モデルや子役として報酬を受け取る児童も例外ではないが、実際には直接手渡しされることはまずなく、(紛失や盗難のリスクを回避するため)当人名義の銀行口座への振込になる。
  5. ^ その後に起きた、群馬県教職員給与減額支払等請求(最判昭45.10.30)においては、10月分及び12月分の過払いを翌年3月分から控除した件につき、「相殺をするかどうかまたはその法律上の可否、根拠等の調査研究等に相当の日時を費し、あるいは他の所管事務の処理に忙殺されていた点にあった」などの事情にとどまるときは、全額払いの原則の例外として許される場合に当たらないとして、相殺を認めなかった。
  6. ^ 保障給の大体の目安としては、休業の場合についても平均賃金の60%の休業手当の支払いが必要であることとのバランスから、労働者が現実に労働している第27条の場合については、少なくとも平均賃金の60%程度を保障することが妥当であると解されている[4]

出典

  1. ^ 三省堂「新明解国語辞典 第六版」
  2. ^ 岩波 国語辞典 第六版
  3. ^ 給料日が休日に当たる場合、支払日を繰り下げてもいいのですか?
  4. ^ 厚生労働省労働基準局編平成22年版労働基準法上巻p.378
  5. ^ 福岡労働局 監督課:Q&A[リンク切れ](Q7およびA7を参照)
  6. ^ ユニデンホールディングス事件(東京地裁平成28年7月20日)
  7. ^ 横浜地方裁判所判決 昭和51年3月4日 大瀬工業事件
  8. ^ 不払い残業(サービス残業)を撲滅しよう” (日本語). 日本労働組合総連合会. 2011年11月7日閲覧。
  9. ^ 「わかりやすい賃金の法律実務」厚生労働省労働基準局賃金時間課編著
  10. ^ 財団法人 社会経済生産性本部の日本的人事制度の変容に関する調査[リンク切れ]も参照されたい。
  11. ^ 大竹文雄 『競争と公平感-市場経済の本当のメリット』 中央公論新社〈中公新書〉、2010年、191頁。
  12. ^ 統計局ホームページ/家計調査
  13. ^ 統計局ホームページ/平成29年就業構造基本調査
  14. ^ 毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査)|厚生労働省
  15. ^ 賃金構造基本統計調査|厚生労働省
  16. ^ 賃金構造基本統計調査(初任給)|厚生労働省
  17. ^ 図5 賃金カーブ/早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)
  18. ^ a b 国民生活基礎調査|厚生労働省
  19. ^ 賃金引上げ等の実態に関する調査|厚生労働省
  20. ^ 社会保障審議会 (年金数理部会) |厚生労働省
  21. ^ 事業年報 | 協会けんぽについて | 全国健康保険協会
  22. ^ 民間給与実態統計調査|統計情報|国税庁
  23. ^ 中央労働委員会:賃金事情等総合調査の概要
  24. ^ 職種別民間給与実態調査
  25. ^ 国家公務員給与等実態調査
  26. ^ 2015年度 モデル賃金・モデル年間賃金の実態 – 賃金 - 産労調査 - 人事・労務に関する情報 - 産労総合研究所
  27. ^ 統計情報|労働政策研究・研修機構(JILPT)
  28. ^ ユースフル労働統計2015 ―労働統計加工指標集―|労働政策研究・研修機構(JILPT)
  29. ^ 中小企業の賃金・退職金事情|統計・調査|東京都産業労働局
  30. ^ 平均年収ランキング2016(平均年収/生涯賃金) |転職ならDODA(デューダ)
  31. ^ Exclusive UHNWI Analysis: World Ultra Wealth Report 2017 - Wealth-X
  32. ^ a b 民間給与実 態統計調査|統計情報|国税庁
  33. ^ a b 標本調査結果|統計情報|国税庁
  34. ^ 調査の概要|厚生労働省
  35. ^ 平成29年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省
  36. ^ 賃金構造基本統計調査 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口





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