さきどり‐とっけん〔‐トクケン〕【先取特権】
せんしゅ‐とっけん〔‐トクケン〕【先取特権】
読み方:せんしゅとっけん
先取特権(さきどりとっけん)
先取特権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/21 13:27 UTC 版)
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先取特権(さきどりとっけん)とは、一定の類型に属する債権を有する者に付与される、債務者の財産について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利(民法第303条)。
- 民法について以下では、条数のみ記載する。
沿革
先取特権は「権利発生の先後ではなく原因をもって評価せよ(non ex tempore aestimatur, sed ex causa)」という法諺が反映された「ローマ法上の対人的訴訟権間の特権(privilegium inter personales actiones)」に由来する[1]。このようなローマ法上の特権は、フランスの古法において受容されて現在と類似した内容に変わった[1]。この古法上の特権は、フランス民法典において、先取特権(Privilège)という法定担保物権として法制化した[2]。
概説
先取特権の性質
先取特権は、特定債権を特別に保護するものであり、債権者平等の原則[注釈 1]を破るものであるから、本来は軽々しく認めるべきものではない(ドイツ民法やスイス民法にはこの制度はない)。しかし、特に公平の観点から法定担保物権として設けられている。
ある債権を先取特権の対象として法で認める場合、その債権を一般債権に優先して保護しなければならない合理的な理由が求められる[3]。先取特権が認められる理由としては、(1)債権者間の公平(共益の費用)、(2)社会的弱者が有する少額の債権を保護するなど社会政策的配慮(雇用関係、葬儀費用、日用品供給)、③債権者の有する通常の期待や意思の推測(不動産賃貸)、④特定産業の保護·育成といった政策的配慮(農業、工業の労務)が挙げられる。各先取特権はこのうち1つまたは複数の理由で認められるというのが通説である[4]。
- 不可分性
- 留置権の不可分性の規定が準用される(305条)が、特約により解除することも可能である。
- 物上代位性
- 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない(304条)。但書の趣旨について、先取特権者による物上代位権行使の目的となる債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、そののちに先取特権者が該債権に対し物上代位権を行使することを妨げないと解すべきと判示されている[5]。
先取特権の効力については、特に定めるもののほか、その性質に反しない限り、抵当権に関する規定が準用される(341条)。
先取特権の種類
先取特権には民法上規定されている先取特権と、特別法において規定されている先取特権とがある。このうち民法上の先取特権には以下が存在する。
- 一般先取特権(第306条以下):債務者の総財産について優先弁済権を付与される
- 動産先取特権(第311条以下):債務者の特定の動産について優先弁債権を付与される
- 不動産先取特権(第325条以下):債務者の特定の不動産について優先弁済権を付与される
動産先取特権と不動産先取特権は、いずれも債務者の特定の財産について優先弁済権を付与されるものであるため、これらを総称して特別先取特権という。
以下、この項目では民法上の先取特権を列挙した後、特別法において規定されている先取特権の一部を取り上げて解説する。
実務上の効用
民事執行法上、先取特権者は担保権の存在を証する文書を裁判所に提出することにより、債務者の債権・不動産について執行ができる。訴訟等によって債務名義を取得する必要がない等の利点があるので、債務者の有する売上債権、預金債権等を差し押さえて未払給与・未払管理費などを迅速に回収するためにしばしば活用される。
民法上の先取特権
先取特権の種類
一般先取特権
- 以下に掲げる原因より生じた債権を有する者は、一般の先取特権を有する(306条)。
- 共益の費用
- 雇用関係
- 葬式の費用
- 日用品の供給
- 一般の先取特権の順位(329条)
- 一般の先取特権が互いに競合する場合においては、その優先権の順位は、上に掲げた順位による。
- 一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合においては、特別の先取特権は一般の先取特権に優先する(329条2項本文)。
- 一般の先取特権の対抗力(336条)
動産先取特権
以下に掲げる原因より生じた債権を有する者は、特定動産の先取特権を有する(311条)。
- 不動産の賃貸借(312条〜316条、319条)
- 旅館の宿泊(317条、319条)
- 旅客又は荷物の運輸(318条、319条)
- 動産の保存(320条)
- 動産の売買(321条)
- 種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む)の供給(322条)
- 農業の労役(323条)
- 工業の労務(324条)
動産の先取特権の順位は、原則として上記に掲げる順序に従う(330条)。
債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない(333条)。
不動産先取特権
以下に掲げる原因より生じた債権を有する者は、特定不動産の先取特権を有する(325条)。
- 不動産の保存
- 不動産の工事
- 不動産の売買
先取特権の順位
不動産の保存・工事の先取特権は高順位の担保権に優先するが、不動産の売買の先取特権は担保権と同じ優先度である。そのために、不動産の売買の先取特権は、担保権実行時の優先順位の変更の効果は発生しない。また、登記された一般の先取特権は、登記されていない一般の先取特権に優先する。
先取特権の効力
- 先取特権と第三取得者
- 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない(333条)。
- 抵当権に関する規定の準用
- 先取特権の効力については、その性質に反しない限り、抵当権に関する規定を準用する(341条)。
特別法上の先取特権
- 国税徴収法上の先取特権
- 国税徴収法8条により、原則として国税は納税者の総財産について全ての公課その他の債権に先だって徴収される(国税優先の原則)。
- 地方税法上の先取特権
- 地方税法14条により、原則として地方団体の徴収金は納税者や特別徴収義務者の総財産について、国税などを除き、すべての公課その他の債権に先だって徴収される。
- 建物の区分所有等に関する法律上の先取特権
- 建物の区分所有等に関する法律7条により、管理者・管理組合法人等は、職務上の債権(マンションの管理費が代表的な例である)等について、債務者の区分所有権等の上に先取特権を有する。
- 行旅病人及行旅死亡人取扱法の先取特権
- 行旅病人及行旅死亡人取扱法第15条により、その費用に関しては「行旅病人行旅死亡人及其ノ同伴者ノ救護若ハ取扱ニ関スル費用ハ所在地市町村費ヲ以テ一時之ヲ繰替フヘシ」とされ、具体的な費用徴収に関しては
- 15条第2項「前項費用ノ弁償金徴収ニ付テハ市町村税滞納処分ノ例ニ依ル」
- 15条第3項「前項ノ徴収金ノ先取特権ハ国税及地方税ニ次グモノトス」 と規定されている。
参考文献
- 池田雅則、今尾真、直井義典、加藤貴仁、鳥山泰志、古積健三郎 著、道垣内弘人 編『新注釈民法(6) 物権3』有斐閣、2019年。
- 鄭相旼 (2020). “선취특권과 우선변제권의 비교법적 고찰 - 일본법 및 민사집행상 쟁점을 중심으로 -” (朝鮮語). 법조 69 (6): 306-339 .
脚注
注釈
- ^ 債権はその発生原因、発生時期の前後、債権額の多少にかかわらず全て平等に取り扱われるべきであり、特定の債権者だけが優先的に弁済を受けることはできないとする原則。
出典
外部リンク
- 『先取特権(さきどりとっけん)』 - コトバンク
先取特権
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