賃金と消費支出
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 04:09 UTC 版)
大不況(世界恐慌)時代、古典理論(新古典派のケインズ以前の理論)は、大量失業の原因を実質賃金率が高止まりしていることに求めた。 ケインズにとって、賃金率の決定はもっと複雑なものであった。第一に、使用者と労働者の間の交渉によって決められるのは、物々交換と違って、実質賃金ではなく名目賃金である、とケインズは論じた。第二に、名目賃金の切下げは、法律や賃金協定によって実効性を持ちにくい。古典的理論家たちでさえ、このような困難が存在することは認めた。そしてかれらは、ケインズとは反対に、労働市場の柔軟性を回復するものとして最低賃金法、労働組合、長期雇用契約の廃止を訴えた。しかし、ケインズにとっては、労働組合がなくても、人々は他の人々の賃金が実際に低下し、かつ物価が一般的に低下することを見ないうちは名目賃金の切下げには抵抗するに違いなかった。 賃金切り下げが不況脱出の治療法となるという考えをケインズは退けた。このような考えのよって来るところを検討し、それらがすべて誤った前提に立つことを発見した。ケインズは、また、さまざまな異なる状況のもとで、不況時に賃金を切下げることの帰結を考察した。ケインズは、そのような賃金切下げは不況を改善するどころか、かえって悪化させてしまうと結論した。 さらに、もし賃金と物価が低落するなら、人々はそれらがさらに低下することを期待し始める。このことは、経済を螺旋降下させるに違いなかった。そのような場合、貨幣をもつ人々は、支出する代わりに、物価がより低下し、貨幣価値が上がるのを待つようになる。それは景気をいっそう悪化させる。
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