資金移動業者とは? わかりやすく解説

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資金移動業者

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/25 06:59 UTC 版)

資金移動業者 (しきんいどうぎょうしゃ)とは、銀行等[注 1]以外の者が為替取引すなわち資金(外貨はもちろん、チャージ残高なども含む)を移動することを業として営むべく、資金決済に関する法律(以下、「法」という。同じく資金決済に関する法律施行令は「施行令」、資金移動業者に関する内閣府令は「規則」と略す。)に基づいて登録を申請し、内閣総理大臣の資金移動業者登録簿への登録を受けた者である[1]。かつては資金移動業者の取り扱える送金額は100万円までに限られていたが、2021年の同法改正により送金額の上限が撤廃され、資金移動業者は送金額の上限により、第一種資金移動業(送金額の制限なし[注 2])・第二種資金移動業(送金額100万円相当額まで)・第三種資金移動業(送金額5万円相当額まで)と分かれることになった[1]。日本国内においては銀行および登録を受けた資金移動業者以外の為替取引を禁止している[1]

登録の要件

資金移動業者の登録を受けるには数々の要件がある[2][1]

  1. 株式会社または「国内に営業所を有し、かつその代表者が国内に住所を有する」外国資金移動業者[注 3]であること。
  2. 「資金移動業を適正かつ確実に遂行するために必要と認められる財政的基礎」を有すること。
  3. 「資金移動業を適正かつ確実に遂行する体制の整備」・「法第3章の規定を遵守するために必要な体制の整備」がともに行われていること。
  4. 他の資金移動業者と同一・類似の商号・名称を用いていないこと。
  5. 過去5年間に、資金移動業の登録、資金清算業の免許を取り消しを受けたり、資金決済法、銀行法等に相当する外国の法令の規定により同種の登録、免許を取り消されたことがないこと。
  6. 過去5年間に、資金決済法銀行法等、出資法またはこれらに相当する外国の法令に違反し、罰金の刑又はこれに相当する外国の刑に処せられたことがないこと。
  7. 他に行う事業が公益に反しないこと。
  8. 取締役若しくは監査役又は会計参与(外国資金移動業者にあっては、国内における代表者を含む)に不適格者がいないこと。
    なお不適格者は以下のとおり。
    1. 精神の機能の障害のため資金移動業に係る職務を適正に執行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができないため資金移動業に係る職務を適正に執行することができない者[3]
    2. 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者又は外国の法令上これに相当する者
    3. 禁錮以上の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む。)に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
    4. この法律、銀行法等、出資法もしくは暴力団対策法またはこれらに相当する外国の法令の規定に違反し、罰金の刑(これに相当する外国の法令による刑を含む。)に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
    5. 資金移動業者が第五十六条第一項若しくは第二項の規定により第三十七条の登録を取り消された場合又は法人がこの法律に相当する外国の法令の規定により当該外国において受けている同種類の登録(当該登録に類する許可その他の行政処分を含む。)を取り消された場合において、その取消しの日前三十日以内にその法人の取締役等であった者で、当該取消しの日から五年を経過しない者その他これに準ずるものとして政令で定める者[注 4]
なお、登録申請書の提出先は、主たる営業所の所在地を管轄する財務(支)局長等宛て、となる[1]

資金移動業者への主な規制

資金決済にかかる履行保証金の供託義務
資金移動業者は、送金途中にあり滞留している資金の100 %以上の額を履行保証金として供託所への供託や銀行との契約などで保全しなければならない[1][4]。これにより、資金移動に伴う決済不能の連鎖リスクを最小限に抑えている。
また、履行保証金保全契約をもとに、利用者から受け入れた資金を原資として貸付け又は手形の割引を行うことは禁じられている[5]
利用者の保護
資金移動業者は利用者の保護等を図るため、次のような措置を講じる必要がある[1][6]
  1. 社内規則を定め、利用者の保護を図り、資金移動業の適正かつ確実な遂行を確保すること[7]。情報の漏えい、滅失又はき損の防止その他の当該情報の安全管理ならびに犯罪防止のために必要な措置を講じること[7]
    委託(再委託等も含む)先にも指導を行い、社内と同等の業務運営体制を取ること[7]
  2. 利用者が銀行等が行う為替取引と誤認することを防止する措置を講ずること[6][8]
  3. 為替取引に係る手数料その他の契約内容に関する情報を利用者に対し提供すること[6]
  4. 利用者資金の保全内容や、無権限取引が行われた場合の取り扱いに関する情報を利用者に対し提供すること[6]
など。
裁判外紛争解決制度(金融ADR制度)への対応
資金移動業は裁判外紛争解決制度(金融ADR制度)の適用対象であり、資金移動業者は法に基づいて資金移動業に関連する苦情処理措置および紛争解決措置を講じることを求めている[1][9]
認定資金決済事業者協会である一般社団法人日本資金決済業協会は、金融ADR制度へ次のとおり対応している[1]
  1. 資金移動業関連苦情処理措置
    会員である資金移動業者は、協会が行う苦情解決により、資金移動業関連苦情の処理を図ることができます。
  2. 資金移動業関連紛争解決措置
    会員である資金移動業者は、協会と東京の三つの弁護士会との間で締結した資金移動業関連紛争の解決を図る旨の協定を利用することにより、資金移動業関連紛争の解決を図ることができます。なお、協会が締結している東京の三つの弁護士会との協定においては、上記の紛争解決の実効性確保の措置が規定されているとともに、申立手数料及び期日手数料の利用者側負担部分についても資金移動業者が負担することとされています。また、東京三弁護士会の金融ADRによる平均的な紛争解決期間は約90日です。

履行保証金

履行保証金 りこうほしょうきんは利用者の資金を全額保護するために資金移動業者が供託している保証金である[10][11]

資金決済法は資金移動業者に対して履行保証金の供託を義務付けており[12][10][11]、その最低額(要履行保証額)は各営業日における未達債務と還付手数料の合計額と定められている[13]。万が一資金移動業者が破綻した場合、利用者は履行保証金を優先的に還付される権利が保証されている[14][11]。簡単に言えば、履行保証金によって利用者の資金が全額保護されている[注 5][10]

履行保証金は供託所へ供託されるが、これは現金以外にも国債証券・地方債証券・その他の内閣府令で定める債券が認められている[15]。要履行保証額は各営業日ごとに記録する必要があり[1][16]、また履行保証金の入金期限は資金移動業者の種別ごとに設定されている。

第二種資金移動業者

第二種資金移動業者 だいにしゅしきんいどうぎょうしゃは政令で定められた少額以下を扱う資金移動業者である[17][18]

第二種資金移動業者は「第二種資金移動業を営む資金移動業者」と定義されている[17] 第二種資金移動業 だいにしゅしきんいどうぎょうは政令で定められた少額以下を扱う資金移動業である[18]。2025年時点で「少額」に対応する送金上限額は1件あたり100万円である。

従来の資金決済業者との変更点

  • 従来の資金決済業者は、ほぼ第二種資金移動業の規制と同じだが、改正により履行保証金による保全が図られるまでのタイムラグが縮小されたほか、新たに滞留規制が設けられた[8]:Q1
  • 第三種資金移動業は低コストで利便性の高いサービスを提供することを主眼とするべく、利用者1人当たりの受入額を5万円相当額以下の資金の移動に留め、その代わりにた履行保証金の保全義務が軽減され、新たに預貯金による分別管理の方法が認められることとなった[8]:Q3。また、未達債務額の全額を預貯金等管理にした場合、最低要履行保証額を 0円 にするなど、供託の負担を減らしている[19]
  • 資金決済業者で100万円を超える資金移動を可能にするべく、第一種資金移動業を制定した。他の資金移動業と同じく登録制だが、事実上の認可制とした[8]:Q3。さらに、第一種資金移動業には厳しい滞留規制が敷かれ、また、履行保証金の保全については、保全すべき額を毎日算定し(いずれの資金移動業者も同じ)、不足がある場合にはその翌日から起算して2営業日以内に保全することが求められる[8]:Q3[20][21]

脚注

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j 資金移動業とは”. 日本資金決済業協会. 2022年11月27日閲覧。
  2. ^ 法第40条
  3. ^ 法施行規則第9条
  4. ^ 法第43条から第48条まで。
  5. ^ 規則 第30条の3。
  6. ^ a b c d 法第51条
  7. ^ a b c 規則 第32条
  8. ^ a b c d e f 事業者のみなさまからよくあるご質問”. 日本資金決済業協会. 2022年11月27日閲覧。
  9. ^ 法第51条の4
  10. ^ a b c 「履行保証金」の供託により利用者保護が図られている ... 資金決済法では、資金移動業者は、送金途中にあるお金と同額以上の金額を「履行保証金」として保全することが義務づけられています。履行保証金の保全は法務局に現金を供託するなどの方法により行なわれます。p.13 より引用。日本資金決済業協会『新しい資金移動サービスご利用のご案内』2015年https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/kessai_sg/siryou/20150121/07.pdf 
  11. ^ a b c 資金移動業者は「未達債務の額」について資産保全義務を負う ... 仮に資金移動業者が破綻しても、未達債務に係る債権者は、保全資産(履行保証金)を引き当てとして他の債権者に先だって優先的に弁済を受ける(神作 2025, p. 58)
  12. ^ 第四十三条 資金移動業者は ... 履行保証金を ... 供託所に供託しなければならない。資金決済法より引用。
  13. ^ 「要履行保証額」とは ... 各営業日における未達債務の額(資金移動業者がその行う為替取引に関し負担する債務の額...)と第五十九条第一項の権利の実行の手続に関する費用の額 ... の合計額資金決済法より引用。
  14. ^ 第五十九条 ... 資金移動業に係る為替取引に関し負担する債務に係る債権者は ... 履行保証金について、他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有する。資金決済法より引用。
  15. ^ 履行保証金は、国債証券、地方債証券その他の内閣府令で定める債券(社債、... 振替債を含む ... )をもってこれに充てることができる。資金決済法より引用。
  16. ^ 法第52条・第53条および、規則 第33条。
  17. ^ a b 第二種資金移動業を営む資金移動業者を「第二種資金移動業者」... という。p.6 より引用。金融庁「資金移動業者関係」『事務ガイドライン』2025年6月https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/14.pdf 
  18. ^ a b 「第二種資金移動業」とは、資金移動業のうち、少額として政令で定める額以下の資金の移動に係る為替取引のみを業として営むこと(第三種資金移動業を除く。)をいう。第三十六条の二の2 より引用。
  19. ^ 施行令第14条第2号
  20. ^ a b c 法第43条および 規則 第11条
  21. ^ 第二種・第三種資金決済業者は3営業日[20]。なお資金移動業者が定める期間ごとに(1週間以内)、要履行保証額の最高額以上の額に相当する額の履行保証金を期間の末日から3営業日以内に供託すれば良い[20]
  22. ^ 犯罪による収益の移転防止に関する法律 第2条2項31号。

注釈

  1. ^ 別の法律で為替業務を行うことができるとされた、資金決済に関する法律第2条第17項に列記した金融機関を含む。
  2. ^ 認可された業務実施計画の内容によって、個別に取扱金額の上限が設定されている場合がある。
  3. ^ 外国において日本の法第37条の登録と同種類の登録・許可等を受けて為替取引を業として営む外国会社(法第2条第4項)
  4. ^ 具体的には施行令 第13条各項を参照。
  5. ^ 理論的には「裏付け国債がデフォルトし、かつ、同タイミングで資金移動業者も破綻した場合」において資金が毀損しうる。
  6. ^ 当然ながらこれらの対策は、どの類型の資金移動業者にも求められる。

参考文献

関連項目

外部リンク





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