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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/15 04:04 UTC 版)

世界の言語

世界の言語の分布図

言語の数と範囲の不確定

現在世界に存在する言語の数は千数百とも数千とも言われる。1939年にアメリカのL・H・グレイは2796言語と唱え、1979年にドイツのマイヤーが4200から5600言語と唱えており、三省堂言語学大辞典・世界言語編では8000超の言語を扱っている[12]

しかし、正確に数えることはほぼ不可能である。これは、未発見の言語や、消滅しつつある言語があるためだけではなく、原理的な困難があるためでもある。似ているが同じではない「言語」が隣り合って存在しているとき、それは一つの言語なのか別の言語なのか区別することは難しい(「言語」なのか「方言」なのか、と言い換えてもよい)。さらに、ある人間集団を「言語の話者」とするか「方言の話者」とするかの問題でもある。たとえば、旧ユーゴスラビアに属していたセルビアクロアチアボスニア・ヘルツェゴビナモンテネグロの4地域の言語は非常に似通ったものであり、学術的にはセルビア・クロアチア語として同一の言語として扱われる。また旧ユーゴスラビアの政治上においても国家統一の観点上、これらの言語は同一言語として扱われていた。しかし1991年からのユーゴスラビア紛争によってユーゴスラビアが崩壊すると、独立した各国は各地方の方言をそれぞれ独立言語として扱うようになり、セルビア語クロアチア語ボスニア語の三言語に政治的に分けられるようになった[13]。さらに2006年にモンテネグロがセルビア・モンテネグロから独立すると、モンテネグロ語がセルビア語からさらに分けられるようになった。こうした、明確な標準語を持たず複数の言語中心を持つ言語のことを複数中心地言語と呼び、英語(イギリス英語アメリカ英語など)などもこれに含まれる。

逆に、中国においては北京語やそれを元に成立した普通話(標準中国語)と、上海語広東語といった遠隔地の言語とは差異が大きく会話が成立しないほどであるが、同系統の言語ではあり、書き言葉は共通であるためこれら言語はすべて中国語内の方言として扱われている。

同じ言語かどうかを判定する基準として、相互理解性を提唱する考えがある。話者が相手の言うことを理解できる場合には、同一言語、理解できない場合には別言語とする。相互理解性は言語間の距離を伝える重要な情報であるが、これによって一つの言語の範囲を確定しようとすると、技術的難しさにとどまらない困難に直面する。一つは、Aの言うことをBが聞き取れても、Bの言うことをAが聞き取れないような言語差があることである。もう一つは、同系列の言語が地理的な広がりの中で徐々に変化している場合(言語連続性または方言連続性という)に、どこで、いくつに分割すべきなのか、あるいはまったく分割すべきでないのかを決められないことである。

こうした困難に際しても、単一の基準を決めて分類していくことは、理屈の上では可能である。しかしあえて単一基準を押し通す言語学者は現実にはいない。ある集団を「言語話者」とするか「方言話者」とするかには、政治的・文化的アイデンティティの問題が深く関係している。どのような基準を設けようと、ある地域で多くの賛成を得られる分類基準は、別の地域で強い反発を受けることになる。そうした反発は誤りだと言うための論拠を言語学はもっていないので、結局は慣習に従って、地域ごとに異なる基準を用いて分類することになる。

言語と方言の区別について、現在なされる説明は二つである。第一は、言語と方言の区別にはなんら言語学的意味はないとする。第二のものはまず、どの方言もそれぞれ言語だとする。その上で、ある標準語に対して非標準語の関係にある同系言語を、方言とする。標準語の選定は政治によるから、これもまた「言語と方言の区別に言語学的意味はない」とする点で、第一と同じである。この定義では、言語を秤にかけて判定しているのではなく、人々がその言語をどう思っているかを秤にかけているのである。

ある言語同士が独立の言語同士なのか、同じ言語の方言同士なのかの判定は非常に恣意的であるが、その一方で、明確に系統関係が異なる言語同士は、たとえ共通の集団で話されていても、方言同士とはみなされないという事実も有る。たとえば、中国甘粛省に住む少数民族ユーグ族は西部に住むものはテュルク系の言語を母語とし、東部に住むものはモンゴル系の言語を母語としている。両者は同じ民族だという意識があるが、その言語は方言同士ではなく、西部ユーグ語、東部ユーグ語と別々の言語として扱われる。また海南島にすむ臨高人も民族籍上は漢民族であるが、その言語は漢語の方言としては扱われず、系統どおりタイ・カダイ語族の臨高語として扱われる。

なお、使用する文字は同言語かどうかの判断基準としてはあまり用いられない。言語は基本的にどの文字においても表記可能なものであり、ある言語が使用する文字を変更することや二種以上の文字を併用することは珍しいことではなく、また文法などに文字はさほど影響を与えないためである。(たとえば日本語をアルファベットのみで表記したとしても、それは単に「アルファベットで書かれた日本語」に過ぎず、何か日本語以外の別の言語に変化するわけではない)。上記のセルビア・クロアチア語においてはクロアチアが主にラテン文字を、セルビアが主にキリル文字を用いていたが、ユーゴスラビア紛争において両国間の仲が極度に悪化するまでは同一言語として扱われていたし、デーヴァナーガリー文字を用いるインドの公用語であるヒンディー語ウルドゥー文字を用いるパキスタンの公用語であるウルドゥー語も、ヒンドゥスターニー語として同一言語または方言連続体として扱われることがある。

普段話されている言語の人口順位(上位15言語)

1位 中国語 12億9900万人
2位 スペイン語 4億4200万人
3位 英語 3億7800万人
4位 アラビア語 3億1500万人
5位 ヒンディー語 2億6000万人
6位 ベンガル語 2億4300万人
7位 ポルトガル語 2億2300万人
8位 ロシア語 1億5400万人
9位 日本語 1億2800万人
10位 ラフンダー語 1億1900万人
11位 ジャワ語 8440万人
12位 トルコ語 7850万人
13位 朝鮮語 7720万人
14位 フランス語 7680万人
15位 ドイツ語 7600万人

人口は2018年現在の概算。 ただし、中国語は13方言, アラビア語は20方言, ラフンダー語は4方言 それぞれの合計である。統計および分類は、エスノローグ第21版による。

上図の通り 最も話者の多い言語は中国語であるが、公用語としている国家は中華人民共和国中華民国台湾)、それにシンガポールの3つの国家にすぎず、世界において広く使用されている言語というわけではない。また、共通語である普通話を含め, 13個の方言が存在する。

話者数2位の言語はスペイン語である。これはヨーロッパ大陸スペインを発祥とする言語であるが、17世紀のスペインによる新大陸の植民地化を経て、南アメリカおよび北アメリカ南部における広大な言語圏を獲得した。2007年度においてスペイン語を公用語とする国々は19カ国にのぼる。さらにほぼ同系統の言語である7位のポルトガル語圏を合わせた新大陸の領域はラテンアメリカと呼ばれ、広大な共通言語圏を形成している。

英語の話者人口は3位だが、公用語としては55か国と最も多くの国で話されている。さらに、英語はアメリカ合衆国イギリスの公用語であるため世界で広く重要視されている。さらに世界の一体化に伴い研究やビジネスなども英語で行われる場面が増え、非英語圏どうしの住民の交渉においても共通語として英語を使用する場合があるなど、英語の世界共通語としての影響力は増大していく傾向にある。

英語に次ぐ国際語としては、17世紀から19世紀まで西洋で最も有力な国際語であったフランス語が挙げられる。フランス語の母語話者は7680万人とトップ10にも入らないが、フランス語を公用語とする国々はアフリカの旧フランス植民地を中心に29カ国にのぼる。ちなみに、国連の公用語は、英語、フランス語ロシア語、中国語、スペイン語アラビア語の6つであるが、これは安全保障理事会の常任理事国の言語に、広大な共通言語圏を持つスペイン語とアラビア語を加えたものである[14]

話者数4位のアラビア語も広い共通言語圏を持つ言語である。アラビア語はクルアーンの言語としてイスラム圏全域に使用者がいるが、とくに北アフリカから中東にかけて母語話者が多く、公用語とする国々は23カ国にのぼっていて、ひとつのアラブ文化圏を形成している。ただしこれも文語であるフスハーと口語であるアーンミーヤに分かれており、アーンミーヤはさらに多数の方言にわかれている。

言語と国家

言語は国家を成立させるうえでの重要な要素であり、カナダ(英語とフランス語)やベルギーフラマン語ワロン語、ただし公用語は同系統の大言語であるオランダ語とフランス語)のように異なる言語間の対立がしばしば言語戦争と呼ばれるほどに激化して独立問題に発展し、国家に大きな影響を及ぼすことも珍しくない。東パキスタンのように、西パキスタンの言語であるウルドゥー語の公用語化に反発してベンガル語を同格の国語とすることを求めたことから独立運動が起き、最終的にバングラデシュとして独立したような例もある[15]。こうした場合、言語圏別に大きな自治権を与えたり(たとえばベルギーにおいては1970年に言語共同体が設立され、数度の変更を経てフラマン語共同体フランス語共同体ドイツ語共同体の3つの言語共同体の併存する連邦国家となった[16])、国家の公用語を複数制定する(例えばスイスにおいては、それまでドイツ語のみであった公用語が1848年の憲法によってドイツ語・フランス語・イタリア語の三公用語制となり[17][18]、さらに1938年にはロマンシュ語国語とされた[19][20])ことなどによって少数派言語話者の不満をなだめる政策はよく用いられる。この傾向が特に強いのはインドであり、1956年以降それまでの地理的な区分から同系統の言語を用いる地域へと州を再編する、いわゆる「言語州」政策を取っている[21]

公用語、共通語、民族語

国家における言語の構造は、公用語-共通語-民族語(部族語、方言)の三層の構造からなっている。もっとも、公用語と共通語、また三層すべてが同じ言語である場合はその分だけ層の数は減少する。

日本を例にとれば、各地方ではその地方の方言を使っている。つまり、同じ地方のコミュニティ内で通用する言語を使用している。これが他地方から来た人を相手にする場合となると、日本語(いわゆる標準語)を使用することとなる。日本では他に有力な言語集団が存在しないため、政府関係の文書にも日本標準語がそのまま使用される。つまり、共通語と公用語が同一であるため、公用語-方言の二層構造となっている。

公用語と共通語は分離していない国家も多いが、アフリカ大陸の諸国家においてはこの三層構造が明確にあらわれている。これらの国においては、政府関係の言語(公用語)は旧宗主国の言語が使用されている。学校教育教授言語)もこの言語で行われるが、民族語とかけ離れた存在であることもあり国民の中で使用できる層はさほど多くない。この穴を埋めるために、各地域においては共通語が話されている。首都がある地域の共通語が強大化し、国の大部分を覆うようになることも珍しくない。しかし文法の整備などの遅れや、国内他言語話者の反対、公用語の使用能力がエリート層の権力の源泉となっているなどの事情によって、共通語が公用語化はされないことがほとんどである。その下に各民族の民族語(部族語)が存在する[22]


  1. ^ a b c d e 広辞苑 第六版「げんご(言語)」
  2. ^ 大辞泉「げんご(言語)」
  3. ^ a b c d e ブリタニカ百科事典「言語」
  4. ^ 「物語 エルサレムの歴史」p166 笈川博一 中央公論新社 2010年7月25日発行
  5. ^ http://www.afpbb.com/articles/-/3024935 「経済成長で少数言語が失われる、研究」AFPBB 2014年09月03日 2017年2月6日閲覧
  6. ^ http://www.afpbb.com/articles/-/2691446?pid=5282181 「最後の話者が死亡、消滅危機言語が絶滅 インド・アンダマン諸島のボ語」AFPBB 2010年02月06日 2017年2月6日閲覧
  7. ^ http://www.afpbb.com/articles/-/2783379 「ジャラワ族も存亡の危機、インド・アンダマン諸島」AFPBB 2011年01月26日 2017年2月6日閲覧
  8. ^ Nature. 413(6855):519-23.
  9. ^ Current Biology 17:1908–1912
  10. ^ 「フランス語学概論」p40-41 髭郁彦・川島浩一郎・渡邊淳也著 駿河台出版社 2010年4月1日初版発行
  11. ^ 塩川伸明 『民族とネイション - ナショナリズムという難問』p40 岩波新書、2008年 ISBN 9784004311560
  12. ^ 城生佰太郎・松崎寛 『日本語「らしさ」の言語学』 講談社 1995年 p.22
  13. ^ 「人類の歴史を変えた8つのできごと1 言語・宗教・農耕・お金編」p30-31 眞淳平 岩波ジュニア新書 2012年4月20日第1刷
  14. ^ 「言語世界地図」p209-210 町田健 新潮新書 2008年5月20日発行
  15. ^ 大橋正明、村山真弓編著、2003年8月8日初版第1刷、『バングラデシュを知るための60章』p58、明石書店
  16. ^ 「物語 ベルギーの歴史」p179 松尾秀哉 中公新書 2014年8月25日
  17. ^ 「図説スイスの歴史」p86 踊共二 河出書房新社 2011年8月30日初版発行
  18. ^ 森田安一『物語 スイスの歴史』中公新書 p198 2000年7月25日発行
  19. ^ 「図説スイスの歴史」p111 踊共二 河出書房新社 2011年8月30日初版発行
  20. ^ 森田安一『物語 スイスの歴史』中公新書 p198 2000年7月25日発行
  21. ^ 塩川伸明 『民族とネイション - ナショナリズムという難問』p123 岩波新書、2008年 ISBN 9784004311560
  22. ^ 「アフリカのことばと社会 多言語状況を生きるということ」pp18-21 梶茂樹・砂野幸稔編著 三元社 2009年4月30日初版第1刷


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