形態論とは? わかりやすく解説

けいたい‐ろん【形態論】

読み方:けいたいろん

言語学一部門。活用曲用などにみられる語形変化や語の構成について論究するもの。語形論


形態論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/28 15:01 UTC 版)

形態論(けいたいろん、: morphology)とは言語学における概念の1つで、ヒト言語の「(単語)」を構成する仕組みのこと。また、それを研究する同学門の一分野。

基本となる概念

形態素

多くの意味を持つ複数の部分から構成されている。例えば「青空」は「青」と「空」の二つの部分で構成されている。意味を持つ最小の構成要素のことを形態素(けいたいそ、morpheme)という。「 あ」や「お」も「あおぞら(青空)」の一部だが、これらは意味を持たないため形態素ではない。

言語学では、形態素と形態素の境目はハイフン「-」で示す。

語彙素と語形

形態論では、辞書の見出し語のような抽象的な意味での語と実際に発音できる具体的な語の区別が重要であり、それぞれ「語彙素」、「語形」と呼ぶ。

例えば「食べろ」と「食べた」は、それぞれ実際に発音できる具体的な語である。命令するときに使うか、過去の出来事を述べるときに使うかという点で異なるが、どちらも同じ種類の行為を表すことができ、辞書ではふつう同じ見出し語として扱われている。

このように、文法的な意味機能は異なるが、具体的な意味は共有していると考えられるAとBについて、AとBは同じ語彙素(ごいそ、lexeme)であり、AとBは同じ語彙素の二つの語形(ごけい、word-form)である、という。

語彙素は、一つ以上の語形の集合であり、それぞれの語形は語彙素に属する。例えば、「食べる、食べた、食べよう、食べて、食べろ」などは、それぞれ同じ語彙素タベルに属する語形である。「リンゴ」のように、語形が一つしかない語彙素もある。一つの語彙素に属する全ての語形をまとめたもののことを、その語彙素のパラダイム (paradigm) という。

屈折と派生

同じ語彙素に属する複数の語形同士の関係を、語形変化(ごけいへんか)または屈折(くっせつ、inflection)という。例えば、「食べる、食べた、食べよう、食べて、食べろ」などの語形は、語形変化の関係にある。

一方、語形同士ではなく、語彙素同士が形式と意味を一部共有している場合、それらは派生(はせい、derivation)の関係にある、という。例えば、英語のinstall「インストールする」とinstaller「インストーラー」は、派生の関係にある。

なお、実際に使われて、見たり聞いたりすることのできる語のことは、語の具現形(ぐげんけい、token)という。

接辞と語基

形態素のうち、文法的な機能を担い、それ自体では語として自立しえないものを接辞(せつじ、affix)という。例えば、日本語の「食べる」の「る」、「お花」の「お」などは、具体的な意味を持たず、単体では使われないので、接辞である。屈折に関わる接辞は屈折接辞、派生に関わるものは派生接辞という。

語の、接辞を除いた部分を語基(ごき、base)という。語基は具体的な意味を持つ。それ自体で語となることもあるが、そうでないこともある。

接辞は語基に付く。屈折接辞が付く語基のことを、特に語幹(ごかん、stem)という。例えば「お花」において、「花」は接辞「お」の付く語基である。また、「食べる」において、「食べ」は屈折接辞「る」の付く語基であり、語幹である。

それ以上分解できない、一つの形態素からなる語基を、語根(ごこん、root)という。「お花」の「花」はそれ以上分解できない語基なので、語根である。一方、「お花畑」の「花畑」は、語基ではあるが、「花」と「畑」に分解できるので、語根ではない。

接辞は、語基に対する位置によって分類される。例えば、「お」は語基の前に付くので接頭辞(せっとうじ、prefix)であり、「る」は語基の後ろに付くので接尾辞(せつびじ、suffix)である。その他に、接中辞接周辞などがある。

異形態

一つの形態素に複数の異なる形があるとき、それらの形はその形態素の異形態(いけいたい、allomorph)である、という。例えば日本語の「書いた」と「嗅いだ」の「た」と「だ」は、形は違うが両方とも過去の意味を表すので、それぞれ一つの形態素タの異形態である。

異形態同士がある一つの形態素に属すると見なされるのは、それらが相補分布を示すからである。

異形態は、日本語の「た」と「だ」のように、音韻的に似ている場合もあるが、朝鮮語の「이」と「가」のように、そうでない場合もある。音韻的な共通点の少ない異形態を補充的な異形態という。

複数の異形態を持つ形態素が実際にある文脈でどちらの異形態を選ぶかを決める条件には、音韻的、形態的、語彙的の3種類がある。

形態論的プロセス

屈折・派生の具体的な手段は、形態論的プロセスと呼ばれる[1]。形態論的プロセスは連結的であるか非連結的であるかのいずれかである (後述)。最も一般的な方法は接辞化 (affixation) であるが、言語によってはその他にも次のような手段が用いられる[2]

非連結的形態論

接辞付加複合のように、形態素を組み合わせて語を構成する仕組みを、連結的(れんけつてき、concatenative)な形態論という。非連結的な形態論も存在するが、連結的なものにくらべると珍しい。非連結的形態論には以下のようなものが含まれる。

形態論のモデル

形態論には、以下のような複数のモデルがあるが、それぞれに一長一短があり、適宜組み合わされて説明することが多い。

IA モデル

IA(Item and Arrangement)モデルは、語の形式と意味を、それを形成する形態素の形式と意味から導こうとするモデルである。このモデルでは、形態素というアイテムをアレンジし結合することで語の形成を説明できると考える。例えば、「あおい」は「あお」+「-い」から形成され、unhappiness は un- + happi- + -ness から形成される、という説明の仕方である。

IA モデルにはいくつかの問題点が指摘されている。まず、形態素の融合(fusion)を説明することができない。融合とは、普通は複数の形態素として現れるものが、単一の形態素となって現れることである。例えば、トルコ語において、

gel-ir-im(来る - 現在 - 1人称単数)「私は来る」

で「-ir-」「-im」として現れている形態素は、その否定文で、

*gel-me-r-im(来る - 否定 - 現在 - 1人称単数)

というようにはならないで、

gel-mem(来る - 否定・現在・1人称単数)「私は来ない」

というように、否定の形態素「me」と融合して現れる。IA モデルでは、形態素を単純に繋げれば語を形成できると考えるので、このように形態素が融合する場合を説明できない。また、

see - saw;sing - sang - sung - song

などの変化も、形態素の結合によらないので、単純な説明ができない。

IP モデル

IP(Item and Process)モデルは、IA モデルの問題点を克服するモデルで、形態素をプロセスとして捉える。例えば、see - saw、sing - sang で、過去を表しているのは母音の変化であるが、それを捉えるために、英語の動詞が過去形になるプロセスとして、形態素「-ed」の付加と同時に、「母音の変化」というものがあると考える。

IP モデルも万能ではないことが指摘されている。補充法的な語形を含む語の場合、語形と語形の間に全く類似点が無く、合理的なプロセスを提示できない場合がある。例えば、go の過去形 went は、動詞 wend に由来する補充形で、現在形の go との間に形態的な類似が皆無である。IP モデルでは、この語形変化を説明できない。

WP モデル

WP(Word and Paradigm)モデルは、ある語について、全ての語形をパラダイム(範列)として列挙する方法である。これによれば、補充形も含めて、あらゆる語についてもっとも正確な記述が可能だが、同時にもっとも煩雑なモデルでもあり、説明としてすっきりしない場合が多い。

脚注

  1. ^ 長屋 2015, p. 60.
  2. ^ 長屋 2015, pp. 60–61.

参考文献

  • 長屋, 尚典 著「屈折・派生」、斎藤, 純男、田口, 善久、西村, 義樹 編『明解言語学辞典』三省堂、2015年、54頁。 
  • 長屋, 尚典 著「形態論的プロセス」、斎藤, 純男、田口, 善久、西村, 義樹 編『明解言語学辞典』三省堂、2015年、60-61頁。 

関連書籍

関連項目


形態論(概要)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 09:07 UTC 版)

ロジバン」の記事における「形態論(概要)」の解説

ロジバン言葉は、その姿(音・綴り)から三つの型に分けられる。 brivla ・ ma'ovla ・ cmevla である。これら三つ形態品詞は、それぞれに固有の音声構造すなわち子音(C)母音(V)並び方特徴づけられており、互いに混同されないようになっている。すなわち、ロジバンにおいて或る語が発せられるとき、読み手聞き手は、その語の意味知らなくとも品詞察知できる。これはロジバン固有の言葉と外から借り入れる言葉とが同音異義語となるのを防ぐうえで有意義である。たとえば「近畿大学」という日本語名称を英語に持ち込むと「Kinki University」となるが、「kinki」の音は「kinky」と重複し、「近畿本来の意味知らない英語話者には「Kinky University」すなわち「変態大学」と解されかねないロジバンでは借入語をその音形から固有語区別できるのでこのような問題起こらないウィキブックスロジバン/形態論関連解説書教科書あります

※この「形態論(概要)」の解説は、「ロジバン」の解説の一部です。
「形態論(概要)」を含む「ロジバン」の記事については、「ロジバン」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「形態論」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ

形態論

出典:『Wiktionary』 (2021/08/22 10:34 UTC 版)

日本語

形態 (けいたいろん)

  1. 単語内部構造形式研究する言語学分野

翻訳


「形態論」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。



固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「形態論」の関連用語

形態論のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



形態論のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの形態論 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaのロジバン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Text is available under Creative Commons Attribution-ShareAlike (CC-BY-SA) and/or GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblioに掲載されている「Wiktionary日本語版(日本語カテゴリ)」の記事は、Wiktionaryの形態論 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、Creative Commons Attribution-ShareAlike (CC-BY-SA)もしくはGNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS