言語か方言か?
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/10 01:09 UTC 版)
学会では、バレンシア語の起源はカタルーニャ語にあり、レコンキスタによってバレンシア王国となった地域に持ち込まれた言語であると広く認められている。カスティーリャ語が南方の新カスティーリャ地域やアンダルシアに広まったように、アラゴン王国からアラゴンとカタルーニャの人間がバレンシアに移住したとされる。カタルーニャの南西地域の言葉とバレンシア語が似ているのは、その地域からの移住者が多かったためと推定されてきた。 しかし、アラゴンの学者アントニオ・ウビエト・アルテタはその著書『バレンシア王国の起源』で、ハイメ1世が残した記録の数字に基づき、レコンキスタと14、15世紀の間、カタルーニャからの移住者はたった5%だったと示している。バレンシアの人口の70%はモサラベ(イスラム支配下のキリスト教徒)とムーア人のままで、11%がカスティーリャから、10%がアラゴン王国から、7%が外国からだったとしている。 もっとも、大規模な人口の移動がなくても言語が変化する例は多い。たとえば、アイルランド、ウェールズ、スコットランドでは、移住がほとんどなくても、数世代で在来の言葉が英語に入れ替わった。 バレンシア人のアイデンティティは、何世紀もの政治的な展開の結果であり、バレンシア人はカタルーニャのアイデンティティを受け入れたり拒否したりしてきた。2つの地域にはしばしば軋轢も生まれた。こうした歴史的な要因のために、バレンシアで話される方言の地位について言語学的な陣取り争いが起きたのも不思議ではない。スペイン政府とバレンシア自治政府による現在の公式な定義はあいまいである。バレンシアの自治法ではバレンシア語は独自の言語であると解釈できるが、バレンシア語の規則を定める州公式の言語学アカデミーはバレンシア語をカタルーニャ語の一種としている。 言語学的な見地では、バレアレス諸島、ルシヨン(フランスのカタルーニャ語地域)、とりわけアルゲーロの方言よりも、バレンシア語はカタルーニャ州のカタルーニャ語に近い。にもかかわらず、そうした方言はすべてカタルーニャ語の方言と見なされており、書かれるときには標準カタルーニャ語の文法に従う。対照的にバレンシア語には別の標準があるが、バレンシア語とカタルーニャ語の標準文法は完全に互いに理解可能である。公式には、バレンシア語の標準はバレンシアの言語学アカデミーによって制定される。しかし、バレンシアで制定される以外の部分は、カタルーニャの研究機関によって定められるカタルーニャ語のルールに従うのが一般的である。 バレンシアの自治法ではバレンシア語を「valencià」と呼んでいるが、これは15世紀以来伝統的に使われてきた名称である。Lo Rat Penat という私的な団体は、バレンシア語を別の規則で綴ることを主張しており、バレンシア語とカタルーニャ語の規則を分ける試みは、地域主義者や右翼の政治家に支持されている。しかし、学会からはそうした理論は支持されていない。
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