自殺の手法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/05 04:30 UTC 版)
詳細は「自殺の方法」を参照 WHOは、世界の自殺のおおよそ30%は服毒であり、特に地方農村部や、低中所得国に多いとしている。他に多い方法としては、首吊りや焼死を挙げている。 自殺未遂者は、自殺者の約10倍以上いると考えられている。そのなかで何度も自殺を試み自殺にいたるのは3-12%である。どのような方法であろうと、確実には死ねず、自殺しようとして生き残った後には大きな怪我や病気や後遺症となるリスクが大きく、本人以外の社会や周囲の人間に与える影響も大きいため、関係者は自殺を止める努力を行っている。 縊頸(首吊り) 詳細は「縊死」を参照 日本において自殺する手法として、男女を問わずもっとも多いのが、首をロープなど紐状のものによって吊り、縊死することによる自殺である。 死後、括約筋の弛緩により吊り下げられた体内から重力により地面に向け鉛直方向に体液(糞尿、唾液、涙など)が流出する。死亡直後に発見された死体は、時により眼球が飛び出し、唾液や糞尿が垂れ流れ、男性は陰茎が勃起した状態で発見されることもありうる。 未遂の場合、脳が酸欠を起こした時点で脳細胞の破壊が始まっているために、植物状態や認知症、体の麻痺などといった重い後遺症を残してしまう可能性が高い。また、首を吊る際の衝撃で頸椎骨折や延髄損傷などで即死(または即失神)する場合がある。自殺ではないが、日本などで行われる絞首刑「落床式首吊り死刑台」に多くみられ、救出後仮に命をとりとめても、重大な障害が残る。また軽度であっても、脊髄液の漏出から激しい頭痛などの後遺症に長く苦しむ。 ガス ガスの有毒成分による中毒死と、無酸素または低酸素のガスを吸入することで酸欠による意識不明、そのまま吸入し続けることで心肺停止で死亡する窒息死の2種に大別できる。有毒ガスの場合、屋内の部屋で行うと発見者や救助者、同居人、さらに集合住宅の場合は配管のためのパイプスペースなどから、重いガスは階下の人を、軽いガスは階上の人を、さらに爆発性のものならば近隣の者さえ巻き添えにする極めて危険な方法であり、自分だけでなく無関係の者への殺人の危険性すらある方法である。 日本では、過去に都市ガスに含まれる一酸化炭素による中毒死が多く見られたが、天然ガスへの転換に伴い一酸化炭素の含有量が減少。都市ガスを吸引して死亡する例は少なくなる一方で、死亡する前にガス爆発を起こし負傷する例も増えた。1978年には、東京都内だけでも9件の自殺に伴うガス爆発が発生している。こうした爆発事故では自殺を企図した者が生き残り、ガス漏出等罪で有罪判決を受けた例もある。その他のガス自殺についてはシンナーなど揮発性の高い薬品を容器に入れ、容器と一緒に布団をかぶり窒息死した例(『完全自殺マニュアル』)、ヘリウムガスを使用した安楽死(Final Exit)、塩素系の洗剤など家庭用品を混ぜた際に発生する塩素ガスや硫化水素などの有毒ガスを吸って中毒死する方法などがある。なお、有毒ガスによる自殺は周辺住民や救助者にも被害を及ぼす可能性がある。 これらの自殺方法は、首吊りと同じく、長時間の酸欠によって脳細胞が破壊されるために、未遂時、有毒ガスの場合は呼吸器、皮膚なども含め、植物状態や認知症、体の麻痺や感覚異常などの重篤な後遺症を残す可能性が高い(「一酸化炭素#一酸化炭素中毒」も参照)。 大量服薬・服毒 詳細は「オーバードース」および「シアン化物中毒」を参照 精神疾患などの治療を受けている人が、処方された薬を大量服薬して自殺を図ることがある。家族や友人が薬を服用しており(特に三環系抗うつ薬などの賦活症候群)、かつ自殺願望やうつ症状を持っていたり、リストカットなどの自傷行為を頻繁に行ったりするような状況の場合、注意が必要である。精神疾患患者に対する精神安定剤や睡眠薬などの多剤大量処方も問題となっている。 大量服薬をした場合、服用後の経過時間が比較的短い場合は、胃洗浄を行うのが一般的であるが、服薬量や経過時間、意識状態などによっては胃洗浄を行わないこともある。発見・処置が早ければ後遺症が残らないことも多いが、気道閉塞を伴っていた場合などは死に至ることもある。その他、誤嚥性肺炎、低体温症、肝障害、腎障害、長時間筋を圧迫することによる挫滅症候群などの合併症が生じることもある。 毒物を飲むことで自殺を試みる場合もある。毒物の種類はさまざまである。近衛文麿、ハインリヒ・ヒムラーなどが用いた青酸カリが名高いが、古くはソクラテス、クレオパトラ(服毒ではないが)が用いた動植物性の神経毒、賈南風、御船千鶴子が用いた金属毒などさまざまであり、対処法、後遺症も違う。一般に吐かせることが有効だといわれるが、飲んだものが石油系製品や強酸・強アルカリ性の物質の場合、吐かせるのは禁忌である。強酸・強アルカリ性の物質を飲んだ場合は、飲んだ時点で食道や胃の細胞が破壊されていることが多く、消化器官に後遺症が残る場合がある。 飛び降り 詳細は「飛び降り」を参照 ビルや崖、滝などの上から飛び降りることにより、自由落下によって重力で自らの体を加速させ、地面などに激突する衝撃で肉体を破壊し、死亡を試みる方法。投身自殺ともいわれる。 入水 入水は「じゅすい」とも読み、海や川、湖沼などに身を投げ、窒息死を試みる自殺方法。水中で水が気管に入ると咳きこみ、それがさらに大量の水を肺の中にいれ、肺によるガス交換を妨げ、血液中の酸素を低下させることで脳への酸素を断つことにより死亡に至る。したがって肺の中を水で満たされると水死する。古くからある方法の1つである。息を止めるようなことはせず、冷たい水の中に入ることで体温を奪われることにより自殺することもあるが、それは「低温」の項で後述する。未遂に終わった場合、心停止15分以内に処置ができなければ、他の酸欠による自殺と同様に生き残ってもアダムス・ストークス症候群により脳や神経に重い障害が残る可能性が高い。冬の川や湖など水温の極端に低いところで入水した場合、低体温症により死亡するまでの時間が延びて、他の人に救助される可能性も高くなる。条件がよければ、数時間の仮死状態ののち、ほとんど脳にダメージを受けることなく蘇生することもある。ただ、このような場合は寒さにより入水した直後ショック死をすることもある。 また、滝の上のような高い場所から飛び降り、入水することで自殺しようとする場合もあり、日本では栃木県日光市の華厳滝で藤村操が滝つぼへ飛び込み自殺した事件や作家太宰治は愛人と玉川上水に入水自殺を遂げた事例がある。 艦船が沈没する際に艦長船長が船と運命を共にするということがある(船員法の「船長の最後退船の義務」が拡大解釈されたもの)。氷山と衝突したタイタニック号や、イギリス海軍やその伝統を受け継いだ日本海軍でも広く行われた。 飛び込み 鶴見済の著書『完全自殺マニュアル』によれば、車や鉄道などへの飛び込みによって自殺を行う飛び込み自殺は、鉄道の場合は死体の肉片や血液が周囲に飛び散るために周囲へ与える影響や印象も大きく、自殺後の死体は悲惨なものとなる。高速で走行する新幹線の場合はさらに凄惨で、瞬時に跡形もなく粉砕され、臓器や肉片が衝突場所から2 - 5 kmにわたって散乱する。未遂に終わった場合でも、四肢が切断されるなどの大怪我を負い、残りの人生を寝たきりの状態や車椅子などに頼って生きなければならないことが多い。通勤・通学途中や帰宅途中の駅で飛び込み自殺に及ぶケースが多く、割合が高いのは、男性のサラリーマン である。 2013年(平成25年)9月、京都大学の研究グループは、直前数日間の日照時間の少なさが鉄道自殺に関係すると明らかにした。 ただし、線路への落下は、必ずしも自殺ではないことも多い。「視力が弱い人」、「泥酔者」、「幼児の保護者の不注意」、歩きスマホによる「注意散漫」などのほか、悪ふざけや犯罪など「他者による突き落とし」と言った理由による転落事故もある。 鉄道への飛び込み自殺 鉄道事業者では、自殺でない場合も考慮し、発生直後は「人身事故」と呼ぶ。鉄道への飛び込みは列車の遅延・運休、車両自体の損傷を生じ、多くの利用客に影響(損失)を与えるので社会問題化している。 また、偶然飛び込み自殺の現場付近に居合わせた乗務員や旅客が傷害を負う事故も多数発生している。 事故後に鉄道会社が請求する損害賠償額は原則として非公表だが、例えば京浜急行電鉄の場合、被害額が200万円程度であっても、実際の請求額は高くても100万円に満たないという。(京浜急行電鉄の広報宣伝担当による)。なお、自殺を図った者が死亡した場合、自殺者の遺族が相続放棄を行って賠償を免れるケースもある。洋光台駅での事例では、PTSDを発症した30代の女性が自殺した男性の遺族に慰謝料を請求したものの却下。女性は「鉄道会社に責任がある」としてJR東日本を提訴した。 鉄道会社の対策 自殺・転落防止のためにホーム柵やホームドアを設置している路線もあるが、建設費が高額、車両の種類によって扉の数や開口幅が異なる、ホームドアとの位置が合わない、混雑が激しい区間である、などの理由により普及は遅れている。 JR東日本は企業の社会的責任の一環として、いのちの電話の活動を財政的に支援しているほか、ホームと向かい合う壁に鏡の設置、発車ベルを発車メロディに変える、青色照明や緊急停止ボタンの設置、転落検知するセンサーの開発 などの試みもなされている。 失血死 刃物による失血死を試みるケースも少なくない。静脈を切断した場合は、切ってから死に至るまでの時間が長いので、セネカのように意図して緩慢な自殺を選んだ場合を除けば、誰かに見つかって未遂に終わることが多い。また、自殺する際の苦痛も大きい。ただし、心臓や動脈を切った場合は、出血性ショックにより死亡する可能性がある。なお、後述するが、死ぬのが目的ではなく自傷行為そのものが目的であったとしても、出血がひどくて失血死をしてしまう場合もある。切ったのが静脈の場合、発見・対処が早ければ後遺症が残ることはまれである。切ったのが動脈の場合は、一刻も早く止血する必要がある。健康な成人の場合、体内から半分の血液が失われると死亡するといわれている。ただし、失った血液量にかかわらず、傷口が深い場合は神経が破損している場合や、そうでなくても切った傷跡が何年も残る。解剖学に通じていない者の場合、頚動脈を切ろうとして頚静脈を切ってしまう例がある。 発見した場合は、腕を切っているのならば、脇をベルトやネクタイなどで止血する。腹などの場合は圧迫して止血し、止血した時間を救急に知らせる。なお、自殺かどうかにかかわらず、事故・事件の場合も含め、頭部や腹部に刃物などが刺さっている場合に無理に抜くと、かえって傷口を広げる場合も多く、刃物が傷口の「栓」の役割も兼ねている場合は抜くことで失血死する可能性が高まるため、抜かないでそのままにしておく。発見した場合は一刻も早く救急に連絡し、体温低下によって体力が消耗するのを防ぐために毛布などをかけて体温を保つ。無理に揺り動かすのは傷口が広がる可能性があるために良くない。針と糸で動脈などの傷口を縫合できれば生存率は上がる。 特徴的な自刃自殺として武士がその名誉を守るために行っていた切腹が挙げられる。腹部を損傷することにより、内臓出血による緩慢なショック死をもたらす。ただし、江戸時代以降は苦痛が長引くことを嫌って、切腹を行った直後に、傍にいる刑手が斬首して即死させる「介錯」と呼ばれる行為がなされた。 焼身自殺 詳細は「焼身自殺」を参照 自らの体にガソリンや灯油などの燃料をかけ、それに火をつけて行う自殺である。かつては油のしみこんだ蓑に火をつけて殺すなど、拷問的な火刑の一つに採用された方法である。燃えるのは主に気化した燃料である。燃料は体温で気化し、引火後は燃焼で気化し燃焼を続け体を焼く。液体の燃料を体にかけると、厳冬期でも体の体温で気化し引火性のガスが被服の間に充満し、わずかな火気や静電気に対しても非常に危険な状態になる。灯油などの着火点の高い(40℃程度)燃料も、体温による気化ガスが発生するので、床に流れた灯油とは比較にならない引火性をもつ。ここで点火もしくは引火し着火すれば、一瞬で全身が火だるまになる。燃料がごく少量でも、化繊の被覆ならば溶けて燃え、燃料とともに体を損傷する。肌を濡らすほどの燃料に引火すると、仮に消火に成功しても大きな障害が残る。燃焼中も自らの皮膚が白く変色して硬化し、激痛を感じる。広範囲な熱傷、気道熱傷を伴い死に至ることも多いが、即死する場合は少なく、死に至るまでの期間も比較的長いことが多く、呼吸不全、全身のやけどによる激痛により苦痛は長く激しい。また、救命される例も多いが、急性期には集中治療を要し、その後も何度にもわたる激痛を伴う植皮手術を行う必要があり、その治療には長期を要する。回復後も四肢機能の低下や美容的問題などの後遺症を残すことが多い。 抗議手段の1つとして焼身自殺が選ばれることも多い。ベトナム戦争当時の南ベトナム政権による仏教徒弾圧に対する抗議のためにビデオカメラの前で焼身自殺したティック・クアン・ドック(釋廣德)師、彼を範にしてベトナム戦争抗議の焼身自殺を遂げた由比忠之進、アリス・ハーズなどが知られている。 感電 自分の身体を感電させることによって自殺する方法。『完全自殺マニュアル』によれば1995年の日本の統計では感電自殺者の95%が男性という極端に性差の激しい手段として紹介されている。手段としては湯船に水を入れ、自身も入った後に感電物を入れる、電源コードの銅線をむき出しにして体に貼り付けて電源を入れるなどがある。いずれの場合も発見者、救助者の感電の危険性がある。 銃による自殺 銃の所持に寛容な国では銃による自殺が多い。アメリカは自殺手段の半分以上を銃が占める。銃自体も100ドル程度から手に入り、弾丸も1発20セントから買える。また、自衛の意識が強く、狩りが盛んであるため、多くの家庭に銃があり、州によってはスーパーなどで手軽に弾薬も購入できる。アメリカ以外では、カナダ、オーストラリア などの国々も、銃による自殺が多い。一方、日本では銃は銃刀法によって厳しく取り締まりが行われているため、銃による自殺は極めて少ない。拳銃自殺にいたってはほとんどが警察官や自衛官、暴力団である。。 銃で頭を撃ち抜いても、脳幹の機能を破壊できないと死亡に至らない。映画などでよく描写される拳銃自殺に、こめかみに銃口を当てて引き金を引くという方法があるが、発射の反動や引き金の固さ(大型リボルバーなどは撃鉄をあげても引き金はかたく、射撃も両手で行う)によって銃口が動き、弾道がそれて生存する場合がある。 より確実な方法として、脳幹を狙える口に銃口をくわえて発射する方法を取る場合が古くからある。1978年に自殺した田宮二郎や、1987年会見中に自殺したR・バド・ドワイヤー、1993年に、クリントンアメリカ大統領次席法律顧問のヴィンセント・フォスターや、1945年8月15日古賀秀正近衛第一師団参謀が割腹した時、とどめに口中を撃っている。2007年6月に島根県出雲市の出雲署内で、25歳の女性巡査長が拳銃で口から頭を撃つなど、多数例がある。 その他の手法 実行されることそのものが極めてまれで、統計上は「その他の手段」に分類される手法としては凍死自殺などがある。1961年のアメリカでは原子力発電所の技術者が制御棒を引き抜いて原子炉を暴走させて自殺したとみられる事故も発生している。
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