水泳 教育

水泳

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/14 09:27 UTC 版)

教育

Pont d'Iénaでの水泳教室(Garsonnet画、1852年

ハーバード大学医学部によると、通常、子どもは4歳まで水泳能力を獲得するための認知能力を持たないので、注意が必要であるとしている[12]

欧州での水泳教育

ドイツオーストリアでは、子どもの約90%に「初歩泳者」(Frühschwimmer)資格を取らせることを目的とした小学校のカリキュラムがある。教育大臣によって設定された目標は95%であり、実際のパーセンテージは一部の学校で75%と低い。この資格を定めたのは、オーストリアでは民間組織と政府機関の共同委員会であるオーストリア水救助作業委員会(Arbeitsgemeinschaft Österreichisches Wasserrettungswesen)である。次のレベル1の 「自由泳者」(Freischwimmer)は、15分間の自由形、1mの高さからの飛び込み、および水泳のルール10項の習得を必要とする。レベル3「日常泳者」(Allroundswimmer)は、クロールと背泳ぎ各100メートルのメドレー、100メートル自由形2分30秒未満、水平潜水10メートル、2.5キログラムの重りをつけての垂直潜水2メートル(厚い物体を拾う)、背泳ぎ50メートル、同程度の体重の人との20メートルの救助泳英語版、水泳のルール10項の習得を必要とする。ドイツでは「水泳記章」(Schwimmabzeichen)は初歩、銅、銀、金の4つのレベルに分かれる。「初歩泳者」の水泳テストでは、飛込、25メートル自由形、水面下のものの拾得を行う。銀バッジでは、400メートル自由形12分以内、2メートル以上の垂直潜水(物体を拾う)、飛込、10メートルの水平潜水が必要である。ライフガード証明書は、組織ごとに別々に制定されている。初歩レベルは、世界最大の水難救命機関のドイツ救命協会ドイツ語版DLRGでは下級救助者(Junior-Retter)、ドイツ赤十字の水難救助分社である水守衛社では下級水救助者(Juniorwasserretter)に相当する。

スイスでは 「水泳試験」(Schwimmtests)は技能横断的な構成になっていない。各能力は単独でテストされ、複数のテスト証明書がグループを成す。基本レベル・グループなら「カニ」(Krebs)、「カワウソ」(Seepferd)、「カエル」(Frosch)、「ペンギン」(Pinguin)、「鳥類」(Tintenfisch)、「ワニ」(Krokodil)、「北極熊」(Eisbär)の7種の試験がある。

スウェーデンデンマークノルウェーフィンランドでは、5年生(11歳)で、すべての子供が泳ぐ方法と水の近くで緊急事態に対処する方法を学ぶべきだと定めている。オランダベルギーでは、水泳の授業を政府が支援している。フランスでは、小学校2-3年生・4-6歳の体育で水泳が行われる。英国には、11歳までに泳げない児童を対象に、集中的な毎日のレッスンを受けるよう求める「トップアップ制度」がある。スコットランドでは、8-9歳の生徒が水泳の授業を受ける。一般に、STA(水泳教師協会)またはASA(アマチュアスイミングアソシエーション)の2方式の制度に従い、優秀カリキュラムには泳げる距離についての定めがない。

日本での水泳教育

日本赤十字が、安全に水と親しみ、事故を防止しつつ泳ぎの基本や身を守る方法を習得するため、また水の事故に遭った場合の救助法・手当法なども習得するための講習を行っている[13]。救助員Iと救助員IIの講習がある[13]

日本では、小学校および中学校で水泳教育が適切な水泳場を確保できない場合を除き必修化され、「体育」の授業で水泳が行われている[14](なお小学校低学年では「水遊び」と呼ばれる)。1960年代から文部省が、プールや体育館などの体育設備の設置に補助金を支出したことにより、プールの設置が進んだ[15]。夏休みにプール指導が行われている学校も多い。なお2012年度以降、学習指導要領は小中学校の授業での飛び込みの指導を禁止している。学校や地域によっては、水難事故に備えた着衣水泳なども行われている。日本泳法古式泳法の伝承、海での遠泳寒中水泳などを教育訓練の一環として行っている学校もある。また水泳授業以外でも学校主催の旅行や自然学校、林間学校で海や川などでの体験学習として楽しむ水泳なども学校管理下や自治体の主催で幅広く行われている。この他自衛隊員や消防隊員などの特定職では一定上の水泳の能力を得られる教育を行っている[16]

水難から身を守り、総合的な身体能力を養うために、幼少時から水泳を習うことは非常に効果的であり、またスポーツ少年団より手軽で保護者負担がないことから、水泳は習い事としても人気である。2015年の調査では37.9%の子供が学校以外にスイミングスクールなどで習い事として水泳を学んでいる[17]。また成人しても、数多く開設されているスイミングスクールフィットネスクラブ、公営のプールなどで日常的に水泳を行う者も青年・中高年層を問わず多い[18]。スイミングスクールやスポーツクラブでは水泳の習得や身体トレーニングのためだけではなく、水泳(特に競泳)の有力選手を輩出する大きな役割を担っているが、各施設での指導カリキュラム・レベル認定は統一されていない。

学校に設置された25m屋外プールの建設費用は、概算で1億円[19][20][21]。25mプール(422立方メートル)を一回満水にする必要な水道料金は約27万円。学校に於ける屋外プール設置総数は2万8千箇所(2007年時)となっている[22]。プールが無い場合や気象条件により十分な授業時間が確保できない場合は通年で利用可能な専用施設を借りて授業を行うことがある[23]。近年では学校生徒だけでなく一般市民も利用可能な学校内プールもある。

安全性

シンガポールでの水泳教育

シンガポールでは、ほとんどの水泳学校が、新加坡体育理事会の支援を得て、2010年7月に新加坡國家水安全理事會によって導入された「游泳安全計劃」を教え、子供たちに泳ぐ方法と水中での安全の保ち方を学ばせる。子供はまた、水の安全性一般、プールの入り方、水中を前後に移動する方法についても学ぶことができる。「游泳安全階段3:個人水生存和中風發展技能」では子供たちは水中で生き残る方法と、さまざまな救助技術の扱い方を学び、100メートル泳ぐ。課程の最後は「游泳安全黃金:高級個人水生存和游泳技能熟練」である。

米国での水泳教育

米国の疾病予防管理センターでは、溺死を防ぐための予防措置を講じたうえで、1-4歳の子供たちに水泳を習うことを勧めている[24]ライフガード証明書はアメリカ赤十字が直接主催するコースで取得する。

米国では、ほとんどのスイミングスクールで、アメリカ赤十字社が定義したスイミングレベル「泳ぐことを学ぶ」を使用している。

  • レベル1:水技の紹介
    • 水慣れ。バタ足、ボビング、水中探検、伏し浮き・背浮き、水中での開眼を行う。ビート板、腕用の浮き輪を補助具として使用する場合が多い。
  • レベル2:基礎的水泳技能
    • クロール・背泳ぎで15フィート(4.6m)泳ぎ、潜水して物を取る。
  • レベル3:泳ぎの基礎
    • クロール・背泳ぎで15ヤード(14m)泳ぎ、深い水に飛び込む。
  • レベル4:泳ぎの開発
    • 25ヤード(23m)のクロール・背泳ぎ、15ヤード(14m)のバタフライと平泳ぎを行う。ターンも認められる。
  • レベル5:泳ぎの洗練
    • すべての泳ぎで25ヤード(23m)泳ぐ。フリップターンは潜行距離が15ヤード(14m)以下ならば認められる。
  • レベル6:泳ぎの熟達
    • クロール・背泳ぎ100ヤード(91.4m)、バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、横泳ぎ50ヤード(46m)の、計500ヤード(457米)を連続で泳ぐ

カナダでの水泳教育

カナダでは、毎年100万人以上がカナダ赤十字水泳プログラムに参加している。生徒がプログラムを進め、経験を積むにつれて、深い水で泳ぐために学んだテクニックを身に付け、水泳中も安全であるという自信を高めるようになっている。より速いペースで同じ仕組みの追加プログラムが、安全に水泳する方法を学び自信を深めたい10代の人や大人に向け用意されている[25]

以上のような国別の教育のほか、ウォータースポーツ類の多くが水泳を基本的技術として含んでおり、そうしたスポーツのレッスン・講習では泳ぎ方も教えられる。たとえばライフセービングサーフィンスキューバダイビングフィンスイミングは基本技術として水泳を含んでおり、それぞれの泳ぎ方のレッスンが行われる。


  1. ^ 逆に、発展途上国の多くではプールを建造する経済的な余裕が無く、競技の環境が整わず、競技の水泳を行う人数は増えにくい。

出典

  1. ^ 広辞苑【水泳】
  2. ^ a b https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202108/202108_05_jp.html 「日本の伝統的な泳法」Public Relations Office of the Government of Japan 2021年8月 2022年3月22日閲覧
  3. ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p69-76 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
  4. ^ 水泳の水分補給「熱中症、熱射病、日射病のHP」
  5. ^ a b 「スポーツの世界地図」p82 Alan Tomlinson著 阿部生雄・寺島善一・森川貞夫監訳 丸善出版 平成24年5月30日
  6. ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p20 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
  7. ^ a b 水泳の歴史[リンク切れ]
  8. ^ 「なぜ人間は泳ぐのか? 水泳を巡る歴史、現在、未来」p45-47 リン・シェール 高月園子訳 太田出版 2013年4月30日第1版第1刷発行
  9. ^ a b 「泳ぐことの科学」p49 吉村豊・小菅達男 NHKブックス 2008年1月30日第1刷発行
  10. ^ 「なぜ人間は泳ぐのか? 水泳を巡る歴史、現在、未来」p47-48 リン・シェール 高月園子訳 太田出版 2013年4月30日第1版第1刷発行
  11. ^ https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/zentai/html/honpen/b1_s00_01.html 「スポーツにおける女性の活躍」男女共同参画白書 平成30年版 日本国内閣府男女共同参画局 2022年3月29日閲覧
  12. ^ MD, Claire McCarthy (2018年6月15日). “Swimming lessons save lives: What parents should know” (英語). Harvard Health. 2022年6月10日閲覧。
  13. ^ a b 水上安全法
  14. ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p185 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
  15. ^ 三 学校体育施設の充実 学制百二十年史編集委員会、2022年1月23日閲覧
  16. ^ 水泳
  17. ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p21-22 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
  18. ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p23-28 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
  19. ^ 参考資料① (17645kbyte) - 富山市
  20. ^ 平成 26 年度 七ヶ浜中学校プール改築工事基本設計及び実施設計業務委託 実施設計仕様書
  21. ^ 初の学校プール完成 | 大磯・二宮・中井 | タウンニュース
  22. ^ 体育・スポーツ施設現況調査の概要 文部科学省
  23. ^ 多摩区で水泳の授業に温水プール利用、天候に左右されず水道代削減も/川崎 神奈川新聞
  24. ^ "Drowning Happens Quickly– Learn How to Reduce Your Risk". 疾病予防管理センター。 2014年8月18日閲覧。
  25. ^ Swimming Lessons Information from the Canadian Red Cross – Canadian Red Cross. カナダ赤十字。 2016年6月12日閲覧。
  26. ^ 「泳ぐことの科学」p37-38 吉村豊・小菅達男 NHKブックス 2008年1月30日第1刷発行
  27. ^ a b 「泳ぐことの科学」p41 吉村豊・小菅達男 NHKブックス 2008年1月30日第1刷発行
  28. ^ 「なぜ人間は泳ぐのか? 水泳を巡る歴史、現在、未来」p90 リン・シェール 高月園子訳 太田出版 2013年4月30日第1版第1刷発行
  29. ^ 「泳ぐことの科学」p39-40 吉村豊・小菅達男 NHKブックス 2008年1月30日第1刷発行
  30. ^ 「なぜ人間は泳ぐのか? 水泳を巡る歴史、現在、未来」p84-89 リン・シェール 高月園子訳 太田出版 2013年4月30日第1版第1刷発行
  31. ^ 「なぜ人間は泳ぐのか? 水泳を巡る歴史、現在、未来」p93-94 リン・シェール 高月園子訳 太田出版 2013年4月30日第1版第1刷発行
  32. ^ 「なぜ人間は泳ぐのか? 水泳を巡る歴史、現在、未来」p94-95 リン・シェール 高月園子訳 太田出版 2013年4月30日第1版第1刷発行
  33. ^ 「泳ぐことの科学」p57-58 吉村豊・小菅達男 NHKブックス 2008年1月30日第1刷発行
  34. ^ 「泳ぐことの科学」p69 吉村豊・小菅達男 NHKブックス 2008年1月30日第1刷発行
  35. ^ https://www.joc.or.jp/sports/waterpolo.html 「水泳・水球」公益財団法人日本オリンピック委員会 2022年3月22日閲覧
  36. ^ https://www.joc.or.jp/sports/artisticswimming.html 「水泳・アーティスティックスイミング」公益財団法人日本オリンピック委員会 2022年3月22日閲覧
  37. ^ https://www.joc.or.jp/sports/swimming.html 「水泳・競泳」公益財団法人日本オリンピック委員会 2022年3月22日閲覧
  38. ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p170 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
  39. ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p170-171 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
  40. ^ 「健康・スポーツ科学における運動処方としての水泳・水中運動」p171-183 出村愼一編著 杏林書院 2016年9月20日第1版第1刷
  41. ^ https://news.yahoo.co.jp/articles/84710a8194d8afda061929168f415aa901e330f1?page=2 「スラップスケートOKで高速水着禁止の過去…ナイキ厚底シューズは“技術ドーピング”なのか、それとも技術革新なのか?」THE PAGE 2020/1/17 2022年3月29日閲覧






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