フィンスイミング
歴史と概要
フィンスイミングとは、文字どおり、足ヒレ(フィン)を装着して水面・水中を泳ぐことです。
フィンの歴史は、紀元前885年頃の古代アッシリア兵士のレリーフの中に、足ヒレらしきものを履き水中を移動している姿が描かれています。これが歴史上みられる最古の記録です。ルネッサンス期にはレオナルド・ダ・ビンチが「水掻き」を考案し、そのイラストが残っています。
フィンスイミングは1950年代に、スクーバ(SCUBA)ダイビングの発達とともに広がっていきました。ヨーロッパを中心に様々なフィンが考案され、競技会を通して改良が加えられました。1970年代には、旧ソビエトで考案された両足をそろえて履く「モノフィン」によって推進力は飛躍的に向上しました。このモノフィンの開発により競技会だけでなく、人間は水の世界でより一層、水生哺乳類に近づくことが可能になったのです。
フィンには、先に述べたモノフィン(両足をそろえて履く1枚フィン)とビーフィン(片足ずつ履く2枚フィン)があります。
ビーフィンは、簡単に楽しめる利便性と自由度の高い機動性が特徴です。初心者でもすぐに始められ、4泳法(クロール、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ)のコンビネーションなら、推進力は30%アップするといわれています。ビーフィンは水中ゲームでは欠かせないフィンです。水中ホッケーや水中ラグビーではビーフィンしか使えません。
モノフィンは、イルカの尾びれのような形状をしています。泳ぎ方もイルカと同じように体全体をうねらせ、両手を前方に突き出して組み、抵抗を減らして泳ぎます。推進力はビーフィンよりはるかに大きく50mを14秒台、100mは33秒台で泳ぎきり、秒速3メートルを上回ります。まさにイルカか人魚です。
競技方法(フィンスイミングの種目)
●サーフィス(水面泳)
呼吸法としてスノーケル(長さ48センチ以内)の使用も可能です。スタート、ターン時を除き、身体の一部が水面から出ていなければなりませんが、腕のかき方は自由です(スタートおよびターン時の潜水は15mまで)。プールでの公認種目は50m、100m、200m、400m、800m、1500mがあります。
●アプニア(息止泳)
息を止めて一気に50m泳ぎます。顔を水面に出すことはできません。
競技は50mのみで行われます。
●イマージョン(水中泳)
スクーバ器材(空気ボンベ、レギュレーター使用)を使い水中でのスピードを競う競技です。顔を水面に出すことはできません。公認は100m、400m、800mの3種目です。
●ビーフィン競技
日本国内でフィンスイミング普及のため、大会等で実施されている競技。50m、100m、400m、1500mで争われます。国際競技としては認知されておらず、通常のサーフィス種目の範疇に含まれます。
●水中ラグビー
ビーフィンを履いて、飛び込み用に使われる水深のあるプール(3.4m~5m)で行われます。水中でのパスが可能なボールを使い、両端に置かれた網のゴールにボールを入れるというラグビーとバスケットを合わせたような水中ゲームです。息を止めていられる時間だけしかプレーができないので、息止め能力も要求されます。非常にエキサイティングなゲームで、世界選手権等の国際大会では水中映像を大型映像装置に映し出し、水中でのゲーム内容が観戦できるようになってきました。2年に一度、世界選手権が開催されています。
●水中ホッケー
こちらもビーフィンを履いて行う水中ゲーム。プールの両端にゴールを沈めて、小型の団扇(うちわ)のようなスティックを使い、プールの底でゴム製のパッドをパスしあってゴールを目指します。これも、息を止めている時間だけしかプレーができないので、息止め能力が要求されます。しかし、水深が浅く、足の立つところでも練習できるため、世界では急激に競技者人口が増えています。2年に一度、世界選手権が開催されています。
●水中ターゲットシューティング
フィンを履き、息を止めてプールに潜り水中銃で標的を撃ちます。撃ち終わったら矢を抜いて元の位置まで潜って帰ってこなければなりません。水中バイアスロンのようなゲームですが、世界中に大勢の愛好者がいます。世界選手権は2年に一度開催されています。フィンはビーフィン、モノフィンを問いません。
●オープンウォーター・ロングディスタンス
海・川・湖などでの競泳です。モノフィン、ビーフィンを問わず人気のある競技です。公認種目は男女ともロングディスタンス6kmと20km、それに2km×4人のリレー種目があります。このロングディスタンスも2年に一度、世界選手権が行われています。
●水中オリエンテーリング
スクーバ器材を装着し、コンパス・測量機などを使用して、水中に設定されたポイントをオリエンテーリング競技のように、いかに短い時間で周り終えるかを競うゲームです。非常に知的な競技のわりに、安全のために体に結び付けられたブイ状の浮きが、水面をちょこまかと動き回る様はコケティッシュで、観ていても大変楽しめる競技になっています。これも2年に一度、世界選手権が開催されています。
フィンスイミング
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/16 02:56 UTC 版)
フィンスイミング(英語:fin swimming)とはフィンと呼ばれる足ひれを装着して行なう水泳競技をいう。広義にはフィンを用いる水中スポーツの総称としても用いられる。腕を頭上で組むストリームライン(流線型)の姿勢をとり、全身を波(ウェーブ)のようにうねらせて進むウェービングと呼ばれる泳法を基本とする。ワールドゲームズの正式種目の1つである。
用具・服装

フィンスイミングで用いるフィンには、1枚のフィンに両足をそろえて装着するモノフィンとそれぞれの足にフィンを装着する2枚のビーフィンとがある。
競技施設
プール(50m・25m)もしくはオープンウォーター(海・湖・川)などで競技する。
競技種目
サーフィス
水面泳。サーフィスとは英語の「表面(surface)」の意。スタートとターンの際を除いて、シュノーケルを含む体の一部が水面から出ていなければならない。シュノーケルなしでも競泳のように水面で息継ぎをして競技することができる。国際大会では、個人種目として50m・100m・200m・400m・800m・1500mがあり、4人で1チームとする団体競技では各選手が100mもしくは200mずつ泳ぐリレー種目もある。
アプニア
息止泳。アプニアとは英語の「無呼吸(apnea)」の意。無呼吸で水中を泳ぐもので、顔は水面に必ずつけて競技しなければならない。国際大会の種目は50mのみ。
イマージョン
水中泳。イマージョンとは英語の「浸入、沈入(immersion)」の意。スクーバダイビング用のタンク(ボンベ)を手に泳ぐ。国際大会では個人種目として100m・400m・800mがある。アプニア同様、顔を水面から出してはならない。
ビーフィン
ビーフィンを用いた種目。競技としてのフィンスイミングではより高速に泳ぐことができるモノフィンが主流であるが、初心者により親しみやすいことから、競技普及を目的に日本国内ではサーフィスとは独立してビーフィンの競技が行なわれてきた。2007年より世界選手権などの国際大会でも独立した競技種目として採用された。国際大会では個人種目で50m・100m・200mがある。
ロングディスタンス(オープンウォーター)
国際大会では個人種目で6km(シニアのみ)、団体種目で4人1チームで各選手が3kmずつ泳ぐリレーがある。オープンウォーターで行なわれる。
おもな競技会とその活躍選手
年齢別クラス区分はシニア(18歳以上)、ジュニア(18歳未満)、マスターズ(50歳以上)の3つがある。
世界水中連盟(CMAS)による、プール種目の世界選手権大会が偶数年に、オープンウォーター種目の世界選手権(ロングディスタンス世界選手権と言われる)が奇数年に、そして、大陸別選手権がその逆年で開催されるほか、ワールドカップもある。しかし、世界選手権の開催は近年変則的となり、2005年の世界選手権(イタリア・トリノ)ではプール種目とオープンウォーター種目が同時に行われた。2007年には「水中スポーツのオリンピック」とも称される[1]CMASワールドゲームズの第1回大会がイタリア、バーリで開催された。これはフィンスイミング(プール(ビーフィンを含む)およびオープンウォーター)、水中ラグビー、水中オリエンテーリング、そしてアプネアなど、CMASの水中スポーツ部門に属する競技が、一大会で実施される競技会である。また、国際ワールドゲームズ協会主催のワールドゲームズにも第1回より採用されている(ワールドゲームズフィンスイミング競技)。
選手層を世界記録に見ると、2005年以前は、男子はロシア、女子は中国の活躍が主であった。しかし、2005年以降は、男子においてイタリアやウクライナ、女子においてロシアの活躍も目立っている。世界的な強豪国としては、ロシア、中国、イタリア、ドイツ、フランス、ウクライナ、韓国そしてギリシアなどが挙げられる。過去に世界的に活躍していた日本選手としては、酒井秀彰(2008年ワールドカップモスクワ大会3位など)、坂本弥生(2001年ワールドゲームズ大会5位など)、そして堀内直(日本人として初の世界選手権決勝出場、2000年世界選手権8位など)などが挙げられる。
日本においては、日本水中スポーツ連盟が主催する最も権威ある大会として、日本選手権(プール種目)が1989年より行なわれている(その他、短水路日本選手権、地方大会(千葉、横浜、東海など)、そして、日本学生選手権なども開催されている)。日本選手権大会では、2007年度から現在まで、Delfino[2]が総合優勝を果たしている。また、2014年12月現在、プール種目の日本記録保持者(リレーを除く)は、酒井秀彰、長谷川雄太、関野義秀、柿添武文、細田貴史、篠田昌裕、鎌田香織、立元瑞季、山岡明奈など。[3]。
日本国内におけるオープンウォーター種目は、2005年度より、日本最大級のオープンウォーターイベントである、湘南オープンウォータースイミング[4]に組み込まれ、2.5kmの距離で、モノフィンの部およびビーフィンの部が開催されている。2013年8月現在におけるオープンウォーター種目の活躍選手は、柿添武文など[5]。
また、上述のように2007年より世界選手権などの国際大会でも独立した競技種目として採用されたビーフィン種目における、日本記録保持者(2014年12月現在)は、平拓也、吉田麻紀、山階早姫、加藤恵理子[6]。
2015年6月6日にイタリア・ラヴェンナで開催された『フィンスイミングワールドカップマスターズ2015』、 4X100mサーフィスにおいて、堀本晋哉、金子祐介、高阪将人、春日俊彰が3位を獲得した。[7][8]
注
- ^ 坂本弥生. “フィンをつけたスイマーたち Vol. 23 第1回CMAS WORLD GAMESレポート”. スイミングストリート. 日本水中スポーツ連盟. 2008年9月28日閲覧。
- ^ フィンスイミングチーム デルフィーノ
- ^ 日本水中スポーツ連盟. “世界記録・日本記録”. 2008年9月28日閲覧。
- ^ 湘南オープンウォータースイミング(笹川スポーツ財団)
- ^ 坂本弥生. “フィンをつけたスイマーたち Vol. 35 湘南オープンウォーター フィンスイミング編”. スイミングストリート. 日本水中スポーツ連盟. 2008年9月28日閲覧。
- ^ 日本水中スポーツ連盟. "世界記録・日本記録", 前掲.
- ^ Finswimming Master World Cup
- ^ オードリー春日、アンカーで失態も世界大会でメダル獲っトゥース!
参考文献
- CMAS (2006-11-17) "Finswimming: Rules Version 2006/02"
- 野村武男、松崎裕子「日本における新水泳(フイン水泳)の現状」『生理人類学研究会会誌(Japan Society of Physiological Anthropology, The Annals of physiological anthropology)Vol.4, No.3, 1985-07-01, pp. 267-271. CiNii
- 北川勇人、日本レクリエーション協会『改訂ニュースポーツ事典』遊戯社、2000年、pp. 134-141.
関連項目
- 潜水泳法
- フィンスイミングの世界記録一覧
外部リンク
固有名詞の分類
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