ヨーグルト
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/09 10:19 UTC 版)
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 259 kJ (62 kcal) |
4.9 g | |
3.0 g | |
飽和脂肪酸 | 1.83 g |
一価不飽和 | 0.71 g |
多価不飽和 | 0.10 g |
3.6 g | |
ビタミン | |
ビタミンA相当量 |
(4%) 33 µg(0%) 3 µg |
チアミン (B1) |
(3%) 0.04 mg |
リボフラビン (B2) |
(12%) 0.14 mg |
ナイアシン (B3) |
(1%) 0.1 mg |
パントテン酸 (B5) |
(10%) 0.49 mg |
ビタミンB6 |
(3%) 0.04 mg |
葉酸 (B9) |
(3%) 11 µg |
ビタミンB12 |
(4%) 0.1 µg |
ビタミンC |
(1%) 1 mg |
ビタミンE |
(1%) 0.1 mg |
ビタミンK |
(1%) 1 µg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(3%) 48 mg |
カリウム |
(4%) 170 mg |
カルシウム |
(12%) 120 mg |
マグネシウム |
(3%) 12 mg |
リン |
(14%) 100 mg |
亜鉛 |
(4%) 0.4 mg |
銅 |
(1%) 0.01 mg |
セレン |
(4%) 3 µg |
他の成分 | |
水分 | 87.7 g |
コレステロール | 12 mg |
ビオチン(B7) | 2.5 μg |
ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[2]。別名:プレーンヨーグルト | |
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%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
ヨーグルトの定義
FAOとWHOによって定められたヨーグルトの厳密な定義[3]によると、「ヨーグルトとは乳及び乳酸菌を原料とし、ブルガリア株(Lactobacillus bulgaricus)とサーモフィルス株(Streptococcus thermophilus)が大量に存在し、その発酵作用で作られた物」と定められている。
日本において乳等省令では「発酵乳」(乳等省令2条39項)のことである。
歴史
ヨーグルトの起源はヨーロッパ、アジア、中近東にかけての様々な説があり、およそ7000年前とされる[4]。生乳の入った容器に環境常在菌である乳酸菌が偶然入り込んだのがはじまりと考えられている。
気温の高い地方では、生乳のままだと腐りやすいが、乳酸菌で乳を発酵させると保存性がよくなる。イランなどでは乳を醗酵させた後で乳脂肪分を分離し、バターを得ることも行われていた。
ヨーグルトに相当する食品は世界各国に存在し、それぞれの国でさまざまな名称を持つ。欧米や日本において用いられる「ヨーグルト」という言葉は、トルコ語でヨーグルトを意味する「ヨウルト(yoğurt)」に由来する。ヨウルトは「攪拌すること」を意味する動詞yoğurmakの派生語で、トルコにおけるヨーグルトの製法を反映している。
イリヤ・メチニコフ(微生物学者:ノーベル生理学・医学賞 1908年受賞)がブルガリア(当時はロシア領だが直前までオスマン帝国領)を訪れた際に、ブルガリア人が長寿で有ることを発見し、その原因を現地の伝統食品であるヨーグルトであるとし、『ヨーグルト不老長寿説』[5]を発表した事によって広まった[4]。なお、日本語のヨーグルトという呼称は直接にはドイツ語のJoghurtを由来とする[6][7][8]。
人体への効果
乳酸菌は通常、腸内細菌として棲息しているが、ヨーグルトの乳酸菌は、腸内定着することはできない。ただし、その代謝物などが腸内のウェルシュ菌(Clostridium)などを減少させ、Bifidobactoriumなどの在来乳酸菌を増殖させるという整腸作用をもつ。結果として、腸内細菌叢中のウェルシュ菌などの比率の低下と産生される物質を減少させ、腸管免疫系を活性化させるとされている[9]。乳酸菌の耐酸性には差違がありヨーグルトでよく利用されている「ブルガリア株」は胃酸で不活化(死滅)する。また、生存し胃を通過したとしても小腸内で胆汁酸により不活化(死滅)するため大腸内に定着はしない[10]が、その菌体や代謝産物が腸内で有効に働くとされる。一方、ビフィズス菌もヨーグルトで利用されるが、胃酸、胆汁酸で不活化(死滅)せず、大腸内で定着する性質を有する[11]。定常的に摂食することで乳清由来乳酸による腸内環境が弱酸性(pH5.3から)化し、糞便菌叢の胆汁酸(弱アルカリ:pH8.2から)に耐性があるクロストリジウム属(Clostridium)株の生育を減少させ、腐敗産物(アンモニア、フェノール、p-クレゾール、インドール、スカトールなど)生成量を低減させると報告されている[12]が、詳細メカニズムは解明されていない[12]。
「免疫力を高める」「アレルギーが治る」などの宣伝文句が使われるが、ヒトを対象にした臨床試験では支持する結果が得られていない[13]とする指摘もある。
乳中の水溶性ビタミンは乳源動物の血中濃度にほぼ依存し変化する[14]が、牛乳にビタミンCがほとんど含まれていないのは、ウシなどの動物は自らビタミンCを合成できるので摂取する必要がないためである。乳酸菌は発酵の際にビタミンCも生成し、発酵前の生乳等のビタミンCよりも濃度が高くなる[15]。このため、ヨーグルトには若干のビタミンCが含まれている。
ヨーグルトが形成される過程で、乳酸菌の働きによりラクトースの一部がグルコースとガラクトースに分解されるため、乳糖不耐症の牛乳を飲むと下痢をしてしまう人がヨーグルトと共に牛乳を飲んだ場合、牛乳だけよりも症状が軽減される[16]との研究がある。
- ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
- ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
- ^ “Standard for Fermented Milks (CXS 243-2003)” (PDF). 食品規格委員会. 2020年11月3日閲覧。
- ^ a b c d e f 堀内啓史、ヨーグルトの温故知新 ― ブルガリアの伝統的なヨーグルトを科学することで生まれた研究成果 ― 日本乳酸菌学会誌 2012年 23巻 3号 p.143-150, doi:10.4109/jslab.23.143
- ^ 牧野聖也、池上秀二、ヨーグルト乳酸菌が産生する菌体外多糖の利用と培養条件の影響 日本乳酸菌学会誌 2013年 24巻 1号 p.10-17, doi:10.4109/jslab.24.10
- ^ 小学館『国語大辞典(新装版)』1988年
- ^ 岩波書店『広辞苑』第五版 1998年
- ^ 三省堂『大辞林』第三版 2006年
- ^ 後藤真生、「腸内常在菌は腸管免疫系にどのように影響するか?」『化学と生物』 2000年 38巻 4号 p.248-249, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.38.248
- ^ 瀧口隆一、鈴木豊、乳酸菌の人工消化液中での生残性 腸内細菌学雑誌 2000年 14巻 1号 p.11-18, doi:10.11209/jim1997.14.11
- ^ 神戸保、「ヨーグルト」『生活衛生』 1983年 27巻 4号 p.224, doi:10.11468/seikatsueisei1957.27.224
- ^ a b 寺田厚、原宏佳、長部康司 ほか、ヨーグルトの投与が糞便菌叢および腐敗産物生成量に及ぼす影響 食品と微生物 1993年 10巻 1号 p.29-34, doi:10.14840/jsfm1984.10.29
- ^ 夏目幸明、「ヨーグルトは身体に良い」はウソだった!? ダイヤモンドオンライン 2016年7月22日
- ^ 佐藤基佳 ほか、「乳牛と新生子牛の血中ビタミンB1、B2、B6およびB12濃度」『動物臨床医学』 2003年 12巻 2号 p.93-98, 動物臨床医学会, doi:10.11252/dobutsurinshoigaku.12.93
- ^ 石井智美、「内陸アジアの遊牧民の製造する乳酒に関する微生物学的研究」『国立民族学博物館地域研』JCAS連携研究成果報告4、2002、pp103-123 (PDF)
- ^ 村尾周久ほか、「乳糖不耐症者による牛乳とヨーグルト飲用後の呼気中水素と腹部症状の相違」『日本栄養・食糧学会誌』 45巻 6号 1992年 p.507-512, doi:10.4327。
- ^ 佐々木泰子、「ヨーグルトを造る乳酸菌共生発酵研究の最近の知見」『日本乳酸菌学会誌』 2015年 26巻 2号 p.109-117, doi:10.4109/jslab.26.109
- ^ a b 村上和保、「家庭で作られるケフィールの細菌汚染状況」『日本家政学会誌』 1995年 46巻 9号 p.881-883, doi:10.11428/jhej1987.46.881
- ^ 野白喜久雄ほか 『改訂醸造学』 1993年3月。ISBN 978-4-06-153706-4
- ^ a b 日本植物生理学会-みんなのひろば- 質問:樹木の枝に住む乳酸菌について
- ^ @nifty:デイリーポータルZ:牛乳に木の枝を入れるとヨーグルトになるらしい
- ^ 小項目事典,日本大百科全書(ニッポニカ), ASCII.jpデジタル用語辞典,デジタル大辞泉,栄養・生化学辞典,世界大百科事典 第2版,大辞林 第三版,ブリタニカ国際大百科事典. “カード(かーど)とは - コトバンク”. コトバンク. 2018年11月6日閲覧。
- ^ 世界の人々の暮らし ~ブルガリア~ 日本成人病予防協会
- ^ 崔岱遠『中国くいしんぼう辞典』 川浩二訳 みすず書房 2019年、ISBN 978-4-622-08827-1 pp.193-196.
- ^ 横田哲治 『天皇家の健康食』 新潮社、2001年12月、18-21頁
- ^ 宮崎正勝『知っておきたい「食」の日本史』P213 角川ソフィア文庫
- ^ a b c 小田宗宏、身近で活躍する有用微生物II 食品と有用微生物 -西洋の食文化と微生物 (PDF) モダンメディア 2016年11月号(第62巻11号)
- ^ “【衝撃】明治ブルガリアヨーグルトをブルガリア人が食べた感想「ウマすぎてヨーグルトが好きになった」”. ロケットニュース24 (2018年11月7日). 2019年11月27日閲覧。
- ^ ヨーグルトの製造方法|ヨーグルトと乳酸菌飲料|乳と乳製品のきほん知識|一般社団法人日本乳業協会
- ^ 桐生 高明, 木曽 太郎, 駒 大輔, 田中 重光, 中野 博文, 村上 洋、「食品用途に利用可能な機能性糖質ラクトビオン酸の生産法の開発」、『日本食品科学工学会誌』2016年 63 巻 4 号 137-141 DOI https://doi.org/10.3136/nskkk.63.137
- ^ 新沼杏二『チーズの話』 新潮選書 P.107-108 ISBN 4-10-600238-8
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