セレン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/13 02:51 UTC 版)
用途
金属セレンは、半導体性、光伝導性がある。これを利用してコピー機の感光ドラムに用いられる。またセレンは整流器(セレン整流器)に使われたり、光起電効果によりカメラの露出計やガラスの着色剤[6]、脱色剤に使われる。
歴史
1817年、スウェーデンの化学者イェンス・ベルセリウスとヨハン・ゴットリーブ・ガーンによって発見された。2人はスウェーデンに化学工場を持ち、鉛室法で硫酸を生産していた。ファールン鉱山の黄鉄鉱 (Pyrite) は鉛室の中で赤い沈殿物を作り、それがヒ素化合物と推定されたために硫酸の製造は中止された。この赤い沈殿物を燃やすとテルル化合物の場合と同様にホースラディッシュのような臭いがすることを確認したため、当初ベルゼリウスはこれがテルル化合物と考えた。しかしファールン鉱山の鉱物の中にテルル化合物がないことから、やがてベルゼリウスは赤い沈殿物を再分析し、1818年に硫黄とテルルに似た新元素と考えた。地球から名付けられたテルルに似ていることから、ベルゼリウスはこの新元素を月にちなんでセレンと名付けた。
1873年にウィルビー・スミス (Willoughby Smith) らが灰色セレンの電気抵抗が周囲の光に依存することを発見した。セレンを使用した光電池が1870 年代半ばにヴェルナー・フォン・ジーメンスによって開発され、セレンを用いた最初の商用製品となった。セレン電池は、1879年にアレクサンダー・グラハム・ベルが開発した光電池にも使用された。セレンは光の量に比例した電流を流すことを利用して、光量計などが設計された。1876年にアダムス (Adams) とデイ (Day) らがセレンと金属との接合面における光起電力効果を確認した[7]。
セレンの半導体特性は、電子工学分野において多くの利用された。セレン整流器の開発は1930年代初期から始まったが、より効率的な酸化銅整流器に、その後はより安価でさらに効率の高いシリコン整流器に取って代わられた。
1883年、チャールズ・フリッツがセレンに薄い金の膜を接合した、セレン光起電力セル (Photovoltaic Cell) を作製した[8][7]。このセルは現在で言うショットキー接合を使ったもので[9]、変換効率はわずか1%程度であった[8](現在の太陽電池はpn接合を用いる)。この発明は1960年代まで光センサーとして、カメラの露出計等に広く応用された[7][10]。
セレンは後に工業労働者に対する毒性という観点で医学的に注目されるようになった。またセレン含有量の多い植物を食べた動物に見られる重要な獣医学的毒物としても認識されるようになった。1954年、生化学者のジェーン・ピンセントによって、セレンの特定の生物学的機能の最初のヒントが微生物で発見された。 1957年に哺乳類の生命に必須であることが見出された。1970年代には、2つの独立した酵素のセットに存在することが明らかにされた。これに続いて、タンパク質中のセレノシステインが発見された。1980年代には、セレノシステインがUGAというコドンによってコードされていることが示された。その再コード化のメカニズムは、まずバクテリアで、次に哺乳類で解明された。
セレンの化合物
酸化物とオキソ酸
セレンのオキソ酸は慣用名をもつ。次にそれらを挙げる。
オキソ酸の名称 | 化学式 | 構造式 | オキソ酸塩の名称 | 備考 |
---|---|---|---|---|
亜セレン酸 (selenous acid) |
H2SeO3 | 亜セレン酸塩 ( - selenite) |
||
セレン酸 (selenic acid) |
H2SeO4 | セレン酸塩 ( - selenate) |
強酸である。 | |
ペルオキソ一セレン酸 (peroxomonoselenic acid) |
H2SeO5 | ペルオキソ一セレン酸塩 ( - peroxomonoselenate) |
三酸化セレンと過酸化水素から作られる。 |
※ オキソ酸塩名称の '-' にはカチオン種の名称が入る。
ハロゲン化物
有機セレン化合物
セレンに有機基が結合した化合物として、セレノール (RSeH)、セレニド (RSeR') など多くの種類の化合物が知られる。
鉱物
- セレン銀鉱 (Ag2Se)
- セレン銅銀鉱 (CuAgSe)
その他
- セレン化水素 (H2Se)
- 塩化セレニル (SeOCl2)
- セレノシステイン - アミノ酸の1種、特殊なタンパク質中に見出される
- セレノメチオニン - セレノシステインとは異なりタンパク質の構造や機能には影響を与えない
- セレン化亜鉛 (ZnSe) - 赤外線を透過させる光学素子として最も良く使用される光学材料
- ^ “Selenium : Selenium(I) chloride compound data”. WebElements.com. 2007年12月10日閲覧。
- ^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds Archived 2004年3月24日, at the Wayback Machine., in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
- ^ https://www.gadsl.org/
- ^ https://www.env.go.jp/recycle/waste/sp_contr/01_table.html
- ^ a b “アメリカ国立鉱物情報センター”. 2021年9月9日閲覧。
- ^ インドではガラスの腕輪の着色に好んで使われるインドは「自分の写し鏡」(中村繁夫(アドバンスト マテリアル ジャパン社長)、Wedge Infinity 2012年9月4日掲載)
- ^ a b c 桑野幸徳『太陽電池はどのように発明され、成長したのか』オーム社、2013年8月。ISBN 978-4-274-50348-1。
- ^ a b Pre-1900 Semiconductor Research and Semiconductor Device Applications, AI Khan, IEEE Conference on the History of Electronics, 2004
- ^ 桑野幸徳. “<Page Not Found.>太陽電池はどう発明され、成長し、どうなるか?”. 太陽エネルギー 35 (3): 67 .[リンク切れ]
- ^ Peter Robin Morris (1990) A History of the World Semiconductor Industry, IET, ISBN 0-86341-227-0, pp. 11–25
- ^ 奥本真史, 要田裕子, 北村智樹, 近森正和, 中西紀男「微量元素欠乏における問題点の考察 ──セレン欠乏,亜鉛欠乏の症例経験から──」『日本農村医学会雑誌』第60巻第4号、日本農村医学会、2011年、548-554頁、CRID 1390282679888186496、doi:10.2185/jjrm.60.548、ISSN 04682513。
- ^ “血中亜鉛およびセレン濃度の低下は血液透析患者の生命予後に強く影響する” (PDF). NMCC共同利用研究成果報文集24. (2017) .
- ^ a b 水口斉, 脇野修, 川合徹, 菅野義彦, 熊谷裕生, 児玉浩子, 藤島洋介, 松永智仁, 吉田博「透析患者におけるセレン欠乏症の臨床的意義」『日本透析医学会雑誌』第54巻第5号、日本透析医学会、2021年、191-201頁、CRID 1390851122090539520、doi:10.4009/jsdt.54.191、ISSN 13403451。
- ^ 日本人の食事摂取基準 厚生労働省
- ^ ミネラル補給用サプリメントの含有量調査 セレンの分析 東京都健康安全研究センター 研究年報 2007年 (PDF)
- ^ 児玉浩子「経腸栄養剤・治療用ミルク使用で注意すべき栄養素欠乏」『脳と発達』第46巻第1号、2014年、5-9頁、doi:10.11251/ojjscn.46.5、NAID 130005005682。
- ^ セレン - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所)
- ^ 過剰のミネラルを含むダイエタリーサプリメントについて 東京都食品安全情報評価委員会 (PDF)
- ^ “セレニウム | 海外の情報 | 一般の方へ | 「統合医療」情報発信サイト 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業”. www.ejim.ncgg.go.jp. 厚生労働省. 2019年2月14日閲覧。
セレンと同じ種類の言葉
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