同素体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/08 05:49 UTC 版)
![]() |
この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。(2011年7月)
|

同素体(どうそたい、英語: allotrope、英語: allotropism)とは、同一元素の単体のうち、原子の配列(結晶構造)や結合様式の関係が異なる物質同士の関係をいう。同素体は単体、すなわち互いに同じ元素から構成されるが、化学的・物理的性質が異なる事を特徴とする。
典型的な例としてよく取り上げられるものに、ダイヤモンドと黒鉛(グラファイト)がある。 炭素の同素体である両者は硬度以外にも、透明度や電気伝導性が大きく異なるが、これはダイヤモンドの分子(正四面体の格子) とグラファイトの分子(平面的な六方格子の層)の構造に大きな違いがあるためで、物性における分子構造の重要性を示す例となっている。
多くの同素体は安定した分子として存在し、相転移(気体、液体、固体)しても化学形は変化しない (例:O2、O3) が、例外的にリンの同素体は固体でのみ現れ、液体ではすべて P4 の形を取る。
歴史
同素体の概念は、1841年にスウェーデンの化学者であるイェンス・ヤコブ・ベルセリウス男爵によってギリシャ語のαλλοτροπος(異なっている)から命名・提唱された[1]が、証明はされなかった[2]。しかしその後、1860年にアボガドロの仮説によって多原子分子の存在が理解されるようになり、酸素の同素体である O2 と O3 が広く認められるようになった。20世紀初頭になると、炭素の同素体などは結晶構造の違いによるものであると広く認められるようになった。
1912年、ヴィルヘルム・オストヴァルトは、元素の同素体は化合物で知られている多形の特殊な例であり、 allotrope と allotropy の用語がとり違えられている点に言及した。多くの化学者がこの主張を行ったが、IUPAC や多くのテキストは元素のためだけの allotrope と allotropy の使用を支持している。
おもな同素体
一般的に、可変な配位数と酸化数を持ち、また、連鎖 (catenation) しやすい元素ほど同素体を多く持つ傾向にある。同素体は一般に、ハロゲンと貴ガス元素を除く非金属元素と、半金属元素で顕著であるが、金属元素も多くの同素体を持つ。
非金属
炭素
- ダイヤモンド - 非常に硬い無色の結晶。炭素原子が正四面体格子状に配置した分子構造をとる。電気伝導性が低い。優れた熱導体。
- ロンズデーライト - 六方晶ダイヤモンドとも呼ばれる。
- グラファイト - 黒鉛とも呼ばれる薄片状に剥がれやすい層状の黒色固体。中程度の電気伝導性を持つ。グラフェンが何層にも重なった構造をとる。
- グラフェン - 1原子分の厚さを持つ六角形格子構造をしたシート状の形をとる。
- 不定形炭素 - 顔料、着色剤として使用される。
- フラーレン - C60の炭素のみで構成された閉殻空洞体の総称。
- カーボンナノチューブ - 炭素が円筒形のナノ構造を構成している。
- カルビン - 炭素同士がsp混成軌道で連鎖した構造をとる。
- schwarzites
- Cyclocarbon
リン
酸素
窒素
硫黄
セレン
- 赤色セレン Se8
- 灰色セレン Sen
- 黒色セレン
ホウ素
ホウ素には5種類の結晶性ホウ素および2種類のアモルファスホウ素の合わせて7種類の同素体が存在しており、通常は粉末状ホウ素もしくはβ-菱面晶ホウ素の形を取る。α-正方晶、β-正方晶およびγ-斜方晶は特殊な条件下でのみ形成される。
- 結晶性ホウ素 - α-菱面体晶、β-菱面体晶、α-正方晶、β-正方晶、γ-斜方晶。黒色で硬い(モース硬度:9.3)。室温で弱い電気伝導性を持つ。
- アモルファスホウ素 - 粉末状、ガラス状
ゲルマニウム
- α-ゲルマニウム
- β-ゲルマニウム - 高圧時
ケイ素
- アモルファスシリコン - 茶色粉末
- 結晶性ケイ素- - 金属光沢のある暗灰色。結晶性ケイ素の単結晶はチョクラルスキー法で成長させる方法が知られている。
ヒ素
- 黄色ヒ素 As4 - ニンニク臭のあるロウ状の同素体。
- 灰色ヒ素 - 重合体。金属光沢がある。半金属性。
- 黒色ヒ素 - 金属光沢を持つ同素体。半金属性。
アンチモン
- 青白色アンチモン - 安定。半金属性。
- 黄色アンチモン - 非金属性。
- 黒色アンチモン - 非金属性。
金属
天然に存在する金属元素のうち、Li,Be, Na, Ca, Sr, Ti, Mn, Fe, Co, Y, Zr, Sn, La, Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb, Dy, Yb, Hf, Tl, Po, Th, Pa, U の27種は同素体を持つ。
チタン
チタンは882 °Cで六方最密充填構造(αチタン)から体心立方構造(βチタン)に転移する。
スズ
- 灰色スズ(αスズ) - 面心立方格子構造。展性がなくもろい。βスズからの転移点は13.2 °Cだが、低温下でない限りは変化は穏やか。
- 白色スズ(βスズ) - 常温での形態。金属的で展性に富む。
- 斜方スズ(γスズ) - 161 °C以上。
- σスズ - 高圧下のみ。
低温下でのβスズからαスズへの転移はスズペストとして知られている。
鉄
- フェライト(α鉄) - 911 °C以下の温度領域の相。体心立方格子構造をとる。770 °Cまでは強磁性体であり、770 °Cを超えると常磁性体に変化する。この温度は鉄のキュリー温度と呼ばれる。
- β鉄 - かつて770 °C - 911 °Cの温度領域にあるとみなされていた鉄の相。現在ではα鉄に統一されている。
- オーステナイト(γ鉄) - 911 °C - 1392 °Cの温度領域の相。面心立方格子構造をとる。
- デルタフェライト(δ鉄) - 1392 °C - 1536 °C(融点)の温度領域の相。体心立方格子構造をとる。
ランタノイドとアクチノイド
- セリウム、サマリウム、テルビウム、ジスプロシウム、イッテルビウムはそれぞれ3種の同素体を持つ。
- プラセオジム、ネオジム、ガドリニウム、テルビウムはそれぞれ2種の同素体を持つ。
- プルトニウムは常圧下で6種の同素体を持ち、加工処理を複雑にしている。高圧下ではさらにもう1種の同素体がある。
- プロメチウム、アメリシウム、バークリウム、カリホルニウムもそれぞれ3種の同素体を持つ[3]。
脚注
- ^ ベルセリウス著(田中豊助、原田紀子訳)『化学の教科書』p30 内田老鶴圃 ISBN 4-7536-3108-7
- ^ Jensen W.B., "The Origin of the Term Allotrope", Journal of Chemical Education, 2006, 83, 838-9
- ^ http://www.iop.org/EJ/article/0305-4608/15/2/002/jfv15i2pL29.pdf?request-id=AFlRqDDL3BGhbarg2wi7Kg
関連項目
外部リンク
同素体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/26 07:28 UTC 版)
炭素は4本の共有結合ができ、結合の状態によって数種類の同素体を形成する。炭素同士がsp2混成軌道を形成し、正六角形の平面構造を取った膜が重なったものがグラファイトになる。2009年、グラファイトの基本構造である薄いグラフェンは非常に高い硬度を持つことが判明した。しかし、グラファイトから薄いグラフェンを経済的に剥ぎ取る技術は確立されておらず、事業性の確立は今後の開発を待つ必要がある。また、炭素がsp3混成軌道を形成して正四面体の立体結晶構造を取った巨大分子となったものがダイヤモンドとなる。同じ炭素の同素体であるが、前者は電気伝導性が高く軟らかい、後者は絶縁体で硬いなど、まったく異なる性質を示す。ダイヤモンドが炭素の同素体であることを示したのはラヴォアジエである。実験内容は、密閉容器に納めたダイヤモンドを虫眼鏡により燃焼させると二酸化炭素だけが生成されるというものである。 木炭やススなどは結晶構造を持たないアモルファス状態であり「無定形炭素」と呼ばれる。この種類には、工業的に重要な炭素繊維や活性炭、コークスなども含まれる。 以上3種は古くから知られていたが、20世紀後半以降、球状のグラフェンであるフラーレンや多分野での開発が進んでいるカーボンナノチューブ、カーボンナノバッド、カーボンナノファイバー(英語版)などや、ロンズデーライトやガラス状炭素、カーボンナノフォーム、カルビンなどの複雑な構造を持つ炭素の同素体が多数発見されている。 a. ダイヤモンド 立方晶系の結晶。産出量は少ないが産業的に利用可能な程度には豊富。宝石として、また工業用のカッターなどに利用。現在では合成ダイヤモンドの開発技術も確立され、実用化されている。 b. グラファイト(黒鉛、石墨) 六方晶系の結晶であり、炭素の結晶としてはもっとも一般的。板状のグラフェンが多数重なった構造で、平面同士の結びつきは弱く剥がれやすい。日常的なものとしては鉛筆の芯などに用いられる。 c. ロンズデーライト(六方晶ダイヤモンド) 六方晶系の結晶。隕石中にきわめて稀に見られる。今のところ非常に小さな結晶しか発見されていない。純粋なものはダイヤモンドに近い硬度をもつと推測される。 d, e, f. フラーレン 炭素原子からなるクラスターの総称。天然にはきわめて稀に存在するとみられる。図dはいわゆるサッカーボール型のC60で「バックミンスターフラーレン」と呼ばれる。図eはC540で、図f はC70である。 g. 無定形炭素 (a)と(b)の2種の構造が混在した状態(非晶質)。木炭や活性炭などの一般的な炭は、これに不純物が含まれたものである。 h. カーボンナノチューブ グラフェンが円筒状に巻かれた構造のもの。同じ重量の鋼鉄と比較すると、80倍の強度を持ちながら60度ほどの屈曲にも耐える弾力性を持つ。1層のものから多層構造を持つものがある。これに近いものとして、筒の一方が閉じた角状のものをカーボンナノホーンと呼ぶ。
※この「同素体」の解説は、「炭素」の解説の一部です。
「同素体」を含む「炭素」の記事については、「炭素」の概要を参照ください。
「同素体」の例文・使い方・用例・文例
- 同素体の、同素体に関する、または、同素体を見せている
- 炭素と硫黄とリンは、同素体の要素である
- 石墨とダイヤモンドは炭素の同素体である
- 4つの同素体を持つ金属元素
- 磁性を帯びた鉄の同素体
- 非磁性であること除き、アルファ鉄と同じ鉄の同素体
- オーステナイトの基礎である鉄の非磁性同素体
- セ氏1403度から融点(1532度)の間の温度で安定する鉄の同素体
- 黄燐という,燐の同素体
- 斜方硫黄という,硫黄の同素体
- 錫ペストという,低温における錫の同素体の転移現象
- 白燐という,燐の同素体
- 赤燐という,燐の同素体
- 同素体のページへのリンク