ワーキングプア ワーキングプアの概要

ワーキングプア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/17 16:47 UTC 版)

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これまで貧困はよく失業と関連づけられてきたが、しかし雇用に就きつつも貧困という新しい種類が米国・カナダ、さらにイタリア・スペイン・アイルランドなどの先進国で見られると論じられるようになった[2][3]

日本では国民貧困線が公式設定されていないため、「正社員並み、あるいは正社員としてフルタイムで働いてもギリギリの生活さえ維持が困難、もしくは生活保護の水準にも満たない収入しか得られない就労者の社会層」[4]と解釈される事が多い。ワーキングプアのうち官公庁あるいはそれに準ずる機関に雇用されている者を官製ワーキングプアと呼ぶことがある。

概念

米国において、ワーキングプアに関する議論が初めて社会に知られるようになったのは、進歩主義時代(1890年 - 1920年)の頃である。進歩主義時代の思想家、Robert Hunterジェーン・アダムズW・E・B・デュボイスらは貧困・ワーキングプアの根底にあるのは社会的機会の不平等構造であるとしたが、しかしその一方で、貧困と労働者個人のモラルにも関連するとした。W・E・B・デュボイスはフィラディルフィアにおけるアフリカ系アメリカ人人口研究において、貧困から抜け出せない貧困層の実態を記しており、その理由はひとつは人種差別、もうひとつは彼らの怠惰・忍耐力欠如などのモラル欠如であるとしている[5]。その後、ワーキングプアに関する議論はより二極化していき、自由主義思想家らは構造的な理由を、保守主義思想家はモラル的な理由を論じるようになった。

このようにワーキングプアは、その最も基本的な定義(貧困線を満たす収入を得られていない労働者)では思想家らが見解を同じくしているが、用語の意味や定義については未だに論争のあるテーマである。

統計

一般に、ワーキングプアの定義は「労働力人口のうち貧困線以下の者」とされている。途上国の例では、国際労働機関が「労働力人口のうち一日の可処分所得が1US$以下の者」としている[6]

アメリカ合衆国連邦労働省労働統計局は、ワーキングプアを「16歳以上で1年間のうち少なくとも27週間以上(約6ヶ月強)職に就いているか、職を探すかしているにもかかわらず、公的な貧困線を下回る所得しか得られない者」[7][8]と定義し、1987年から調査を行っている[9]。2020年7月の報告書では、2018年のアメリカの貧困率は11.8%(3,814.6万人)で、このうち696.4万人がワーキングプアであると述べている。また、性別では男性よりも女性が、人種では黒人とヒスパニック系が、学歴では低い方が、ワーキングプアになりやすい傾向がある。更に、産業別では特にサービス業が他の産業よりもワーキングプア層の比率が高い[10]

韓国では1997年経済危機をきっかけに非正規化が一気に進み、韓国の非正規社員率は55%で、当時の日本の過去最高である34%を超えている[11]。後述の台湾と同じく、中国に工場が進出していったことによる産業空洞化も発生、ワーキングプアが大量に生み出されている。2010年代を迎えた今の韓国の若者たちは「三放世代」と呼ばれ、恋愛、結婚、出産を諦めている人が多い状況である。2019年のデータによれば、最低賃金(時間当たり8,350ウォン[2019年時点])未満で働く者は約338.6万人に上り、全労働者の約16.5%を占めている。特に25歳未満の年齢層では、学生アルバイトによる時間制雇用により、最低賃金未満比率が高くなり、同年齢層で占める割合が、20歳未満で約55.0%、20代前半で約30.5%を占める[12]

台湾では、2007年時点で人口の約1%にあたる22万人がワーキングプアとなっており、その数は増加傾向にあるという[13]。増加の要因は、派遣労働の増加にある[13]。更に、2010年代以降は中華人民共和国への経済的依存が強まり、主要な工場が中国へ進出したことにより産業空洞化現象が発生、大量の若者がまともな就職先にありつけず、ワーキングプアとなっている。このことへの不満が、2014年の台湾学生による立法院占拠のひとつの原因になった[14]

イスラエルでも急速にワーキングプアが増加していることが労働党党首シェリー・ヤヒモビッチにより指摘されており[15]、また、2011年には貧富の格差是正、最低賃金引き上げなどを求めて数十万人規模の抗議デモが行われた。イスラエルはベンヤミン・ネタニヤフ首相の新自由主義政策により貧富の差が激しい国である。

リスク要因

個人がワーキングプアに転落するリスク要因には、主要なものに以下の五つがあるとされている。それは「産業セクター」「人口統計」「経済」「労働市場の制度」「福祉の配分状況」である。ワーキングプアは幅広い人々に関連する現象であるが、とくに雇用要因・人口グループ・政治的要因・経済的要因がとりわけ重要な要因であるとされる。産業的・人口的な要因は、何故ある国の人々は他の国よりもワーキングプアになりやすいか論じる助けとなる。政治的・経済的要因は、なぜ国ごとにワーキングプアの割合が異なるのか論じる助けとなる。


経済的要素

労働市場制度

労働市場は効率性・平等性などの点で中間に位置する。Brady, Fullerton, and Cross (2010) によると「効率のよい労働市場は、柔軟であり、失業率が低く、経済成長が高く、労働者が迅速に雇用および解雇できるものである。皆に望まれる労働市場とは、堅固な労働市場制度をもち、高賃金、高セキュリティなものである(p562)」とされている。


福祉の配分状況




  1. ^ 「フルキャスト再び事業停止――厚労省方針 処分中に派遣」朝日新聞(2008年9月29日付夕刊、第3版、第14面)
  2. ^ US Bureau of Labor Statistics. “A Profile of the Working Poor, 2009”. US Department of Labor. 2011年10月20日閲覧。
  3. ^ DeNavas-Walt, Carla; Bernadette D. Proctor, Jessica C. Smith. “Income, Poverty, and Health Insurance Coverage in the United States: 2009”. US Census Bureau. 2011年12月14日閲覧。
  4. ^ 「改正最低賃金法が成立 ワーキングプア解消狙う」 朝日新聞(2007年11月28日)
  5. ^ DuBois, W.E.B (1899). The Philadelphia Negro. Philadelphia, Pennsylvania: University of Pennsylvania Press. ISBN 0-8122-1573-7. http://books.google.com/books?id=lfEtAAAAIAAJ&dq=the+philadelphia+negro&source=gbs_navlinks_s 
  6. ^ Nomaan Majid. “The size of the working poor population in developing countries, EMPLOYMENT PAPER, 2001/16”. 2009年4月26日閲覧。
  7. ^ A Profile of the Working Poor, 2000 (U.S. Department of Labor, Bureau of Labor Statistics, March 2002)
  8. ^ 井樋三枝子「アメリカの貧困対策の現状」『外国の立法』第235号、国立国会図書館調査及び立法考査局、2008年3月、 186-196頁、 NAID 40015908998
  9. ^ A profile of the working poor(MONTHLY LABOR REVIEW ONLINE, October 1989, Vol. 112, No. 10)
  10. ^ A profile of the working poor, 2018”. アメリカ合衆国労働省 (2020年7月). 2020年8月10日閲覧。
  11. ^ a b 『NHKスペシャル』「ワーキングプアIII 解決への道」(2007年12月15日放映)
  12. ^ 최저임금위원회(韓国最低賃金委員会) (2020-06) (PDF). 2021년최저임금심의를위한임금실태등분석><표 17> 최저임금 미만 근로자 분포(경제활동인구부가조사)(2021年の最低賃金審議のための賃金の実態などの分析>表17 経済活動人口付加調査による最低賃金未満の労働者分布(20ページ、PDF31ページ) (Report). https://www.minimumwage.go.kr/board/boardView.jsp?bbsType=BB 2020年8月10日閲覧。. 
  13. ^ a b “「貧困層が22万人を越える、ワーキングプア増加が主因―台湾」”. Record China. (2008年2月26日). http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=16046 
  14. ^ NHK 海外ネットワーク 2014年11月23日放送分
  15. ^ Report: Standard of living rises, poor remain impoverishedイェディオト・アハロノト電子版 2008年2月14日
  16. ^ 「母子家庭「使えぬ」就業支援」 (朝日新聞 2007年10月22日)
  17. ^ 論文の中で「ワーキングプア Working Poor」
  18. ^ 1918-2008。日本女子大学,中央大学の教授。昭和57年「現代の「低所得層」―「貧困」研究の方法」で学士院賞。東京帝大卒。著作に「山谷―失業の現代的意味」。江口英一 えぐち えいいち
  19. ^ 『戦後史証言プロジェクト 日本人は何をめざしてきたのか 未来への選択(4)』NHK Eテレ 2015年7月25日
  20. ^ 賃金の「締め日」および「支払い日までの日数」は企業によってばらつきがあり、完全に統一されていない。早ければ「毎月月末締め・翌月10日払い」の場合もあるが、長くなると「毎月月末締め・翌月末払い」の場合もある。この場合、なんらかの職に就労できても当日から2ヶ月間は実質無収入と変わらない生活を余儀なくされる。
  21. ^ 労働基準法第25条(非常時払)で「使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。」と規定されているが、「既往の労働に対する賃金」を生活費(家賃、食費、水道光熱費などの固定費)として充てるため前払いするよう請求しても、ほとんど認められない(生活費については「非常の場合の費用」として想定されていない)。
  22. ^ 東京新聞 2018年1月19日 朝刊 1面
  23. ^ 後藤道夫「国内貧困研究情報 興味深い統計と数字の動きを見る 貧困急増の実態とその背景--いくつかの統計資料」『貧困研究』第1巻、明石書店、2008年10月、 120-121頁、 NAID 40017216767
  24. ^ 阿部 彩. “6.ワーキングプアの推計”. 貧困統計ホームページ. 2020年8月10日閲覧。
  25. ^ 戸室健作「都道府県別の貧困率、ワーキングプア率、子どもの貧困率、捕捉率の検討」『山形大学人文学部研究年報』第13巻、山形大学人文学部、山形県山形市、2016年3月1日、 35,41-44、 NAID 1200058444772020年3月1日閲覧。
  26. ^ 星貴子 (2018-07-10). “中高年ワーキングプアの現状と課題─キャリアアップ・就労支援制度に新しい視点を─” (日本語). J R Iレビュー (日本総合研究所) 9 (60): 79,81-82. https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/10560.pdf 2020年1月24日閲覧。. 
  27. ^ 社会・援護局保護課, 厚生労働省 (2020年3月4日). “平成30年度被保護者調査 月次調査 結果概要 結果概要データ (Excel)”. 政府統計の総合窓口(e-Stat). 総務省統計局. 2020年8月10日閲覧。
  28. ^ 非正社員の増加、賃金の低さは読売新聞の特集「【連載】ワーキングプア」(2006年)で取り上げられている。
  29. ^ a b 国税庁『民間給与実態統計調査』
  30. ^ 正社員時代の終焉 (PDF) リクルートワークス研究所
  31. ^ 渋谷のヤング・ハローワークの話として「即戦力を求めがちな企業側はアルバイト経験しかない人材を好まない傾向」があり指導官が「未経験者でも育ててゆく姿勢でもう少し門を広げてほしい」と述べているが、これは法的な強制力を有するものではない(朝日新聞・週末特集be-b〈青色〉 2006年11月4日)。同趣旨の記事は、多く報道されている。単行本では橘木俊詔『格差社会 何が問題なのか』(2006年、岩波新書)や中野麻美『労働ダンピング』(2006年、岩波新書)などを参照されたい。
  32. ^ 総務省『労働力調査』
  33. ^ 第168回国会本会議第5号(衆議院会議録情報)
  34. ^ 平成19年度第3回目安に関する小委員会議事録(厚生労働省、2007年7月31日)
  35. ^ OECD編『OECD対日経済審査報告書 : 日本の経済政策に対する評価と勧告. 2009年版』明石書店、2010年2月23日、pp.38-42。ISBN 978-4-7503-3143-0
  36. ^ OECD雇用アウトルック2009
  37. ^ a b 川村雅則「官製ワーキングプア問題(1)地方自治体で働く非正規公務員の雇用,労働」『開発論集』第92号、北海学園大学開発研究所、2013年9月、 161-212頁、 ISSN 0288-089XNAID 120005346120
  38. ^ 保育士は官製ワーキングプア、公的サービスを提供する労働者が劣悪な労働条件で働かされるということは住民サービスが削られているのと同じ|竹信三恵子和光大学教授 | editor
  39. ^ 2019年12月17日中日新聞朝刊1面
  40. ^ 民間よりヒドい[ワーキングプア公務員の地獄 | 日刊SPA!]『SPA! 2009年6月9日』
  41. ^ 東京新聞:非正規公務員(No.466) 3人に1人 官製ワーキングプア:生活図鑑(TOKYO Web)
  42. ^ ワーキングプアを自治体が作っている | オリジナル | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト


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