車輪 車輪の概要

車輪

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/31 09:08 UTC 版)

プリミティブな(原型的、素朴な)車輪
古い馬車の車輪。
鉄道車両の車輪(輪軸
自動車の車輪

概要

小さな力で車、乗り物類を移動させるために用いられる。

車輪は最古の最重要な発明とされており、重量物を乗せて運ぶと、その下に敷くころから発展したと考えられている。やがて橇の下にころが固定され、さらに車軸と回転部が分離して現在の形となった[3]

車輪が無いと、1. 物を持ち上げつつ移動させるか、2. あるいは物を地面・床面に接触した状態で押したり引いたりしなければならない。1の場合、持ち上げる(持ち上げ続ける)のに大きな力を要する。2.の場合、すべり摩擦よりも大きな力で押したり引いたりしなければならなくなる。

一方、車輪にはたらく摩擦は「転がり摩擦」で、これはすべり摩擦よりも遥かに小さく、遥かに小さな力で押す(引く)だけで移動させることができる。

たとえば、普通自動車(おおむね1トン超)でも、車輪が付いていてブレーキさえ解除していれば、男性が1人で押しても動き出すほどに転がり抵抗は小さい。もしも車輪がついていなかったら、男性1人では1トンのものは持ち上げることができず移動させられない。また通常の地面に車輪無しの1トンの鉄の箱が接触した状態では、1人の男性の力では押したり引いたりして移動させることは不可能である。

また、円盤状の板材の車輪に車軸を通して回転可能にした構造は、人類発明の中でも偉大なものの一つであるといわれる。

一般的に言う「車輪」「ホイール」「ウィール」は接地しているタイヤ(ゴムや軟質の鉄などで出来ている)やチューブまで回転部分全てを指すが、分野や状況によっては区分される場合がある。自動車の分野では硬質の部分だけでも「wheel ホイール」と言う一方で、車輪の空転を示す用語として「ホイールスピン」は、接地しているタイヤを含みロードホイール全体を含む用語である。また逆に、ロードホイール全体を「タイヤ」という場合もある(テンパータイヤ、小説空飛ぶタイヤなど)。

Wheelのカタカナ表記は業界によって異なる、自動車やオートバイなどでは「ホイール」と呼ばれ、スケートボードやローラースケートでは「ウィール」と記述される。アメリカのミニカーのHotWheels(ミニカーの商標)は日本での代理店により揺らぎが有り、『ホットホイール』や『ホットウィール』と呼ばれている。

なおピラミッド石材は、丸い材木(ころ。軸の無い丸い木材)を下に敷いて運搬したとされているが、ころのほうの起源は新石器時代に遡ると考えられている[4]

歴史

起源と伝播

車輪の起源は、古代メソポタミアシュメール人にあり[5]、時期としては(一説では)紀元前3500年ころとされる[5]。シュメールの車輪は、木製の円板を挿したものだった[5]。発明の時期に関しては、メソポタミア・ウバイド期の遺跡から轆轤から発展した車輪が出土していたり[6]、紀元前3100年頃のスロベニア遺跡でも車輪が出土しているなど、いくつかの説が存在する[6]

Bronocice potの図。ポーランドで出土、クラクフ考古学博物館

なおポーランドの、個人のウェブページでは『「車輪のある乗り物」(ここでは四輪で軸が2つあるもの)と「思われる」最古の絵[要検証]は、ポーランド南部で出土した紀元前3500年ごろのものと「思われる」 Bronocice pot に描かれたものだ』と主張された[7]

Gwynne Dyerの著書「War」の新版(2004年)によると、車輪は紀元前4千年紀にはヨーロッパ西南アジアに広まり、紀元前3千年紀にはインダス文明にまで到達した、といい、中国では紀元前1200年ごろには車輪を使った戦車が存在していたことがわかっている、という[8]。一方、Barbieri-Low (2000) によれば、紀元前2000年ごろには中国に車輪つきの乗り物があったという。

ヌビアの古代遺跡では轆轤や水車が使われていた[9][10]。ヌビアの水車は水汲み水車であり、牛を使って回していたと見られている[11]。またヌビアではエジプトから馬に引かせる戦車も輸入していたことがわかっている[12]

車輪の歴史

オルメカや他の西半球文化では、インカ文明まで含めて車輪を発明しなかったが、紀元前1500年ごろの子供用の玩具と思われる岩石製の車輪状の物体が出土しており、車輪の発明に近づいていたと見られている[13]。これはマヤ文明においても同じで、車輪付きの動物土偶が出土したように車輪そのものは知られていたが、それが実用化されることはなかった[14]。新大陸において車輪が実用化されなかったのは輓獣となる家畜の不在が原因のひとつであると考えられている[15]

車輪付きの乗り物は家畜に引かせて初めて威力を発揮する。メソポタミアにおける荷車の出現はロバ家畜化とほぼ同時期である[16]。やがて紀元前24世紀に入ると、ドン川ヴォルガ川流域でロバに代わりに荷車を引かせはじめるようになった[17]

車輪が広く使われるようになるには、平坦な道路が必要だった[18]。でこぼこ道では、人間が荷物を背負って運ぶほうがたやすい。そのため、平坦な道路がない未開発地域では、20世紀に入るまで車輪を輸送手段に使うことはなかった。日本では平安時代牛車が使用されていたが、平安京のような平地の都市部のみの普及だった。地方では牛馬の背に荷物を載せて運搬する駄賃馬稼が一般的であったが、江戸時代に入ると人力による大八車ベカ車も使用されるようになった[19]馬車人力車の普及は道路網が整備された明治以降だった。

シュメール時代のオナガーに引かせた戦車の絵(紀元前2500年ごろ)

車輪の発展

初期の車輪は木製の円盤であり、中心に車軸を通すための穴があった。木材の性質上、木の幹を水平に輪切りにしたものは強度がなく、縦方向に切り出した板を丸くしたものが必要だった。もし車輪を作れるだけの材が一本の木からとれなかった場合、三枚の半月形の板を作り、それを組み合わせて一枚の車輪とした[20]

地面からの衝撃を和らげるスポークのある車輪の発明に関しては、現在知られている最古の例はアンドロノヴォ文化のもので、紀元前2000年ごろである[21]。そのすぐ後に、カフカース地方の騎馬民族が3世紀に渡ってスポークを使った車輪のチャリオットを馬に引かせるようになった。彼らはギリシア半島にも進出し、地中海の民族と交流した。ケルト人は紀元前1千年紀に戦車の車輪の外側にを巻きつけることを始めた。

19世紀に入ると車輪に変化が訪れた。蒸気機関車の発明とともにその重さを支えるための鉄の車輪が発明され、鉄道などに用いられるようになった。

1870年ごろには、空気入りのタイヤと針金スポークの車輪が発明された[22]。これは最初、そのころ発展しはじめた自転車に使用されたのち、19世紀末より普及し始めた自動車に使用されるようになり、これにより車輪の性能は大幅に向上した。

車輪の発明は輸送手段以外のテクノロジー一般にとっても重要だった。例えば、水車歯車アンティキティラ島の機械参照)、糸車アストロラーベトルクエタムなどが車輪と関係が深い。さらに最近では、プロペラジェットエンジンフライホイールジャイロスコープ)、タービンなどが車輪を基本要素として発展していった。


  1. ^ 大辞泉【車輪】
  2. ^ Lexico, definition of wheel
  3. ^ 「図説 人類の歴史 別巻 古代の科学と技術 世界を創った70の大発明」p134-135 ブライアン・M・フェイガン編 西秋良宏監訳 朝倉書店 2012年5月30日初版第1刷
  4. ^ ホイールの誕生、 そして進化と発展の歩み
  5. ^ a b c 3500 BC, Invention of the wheel
  6. ^ a b 「ものがつなぐ世界史」(MINERVA世界史叢書5)p25 桃木至朗責任編集 中島秀人編集協力 ミネルヴァ書房 2021年3月30日初版第1刷発行
  7. ^ Waza z Bronocic (in Polish)
  8. ^ Dyer, Gwynne, "War: the new edition", p. 159: Vintage Canada Edition, Randomhouse of Canada, Toronto, ON
  9. ^ CRAFTS; Uncovering Treasures of Ancient Nubia; New York Times
  10. ^ Ancient Sudan: (aka Kush & Nubia) City of Meroe (4th B.C. to 325 A.D.)
  11. ^ What the Nubians Ate
  12. ^ The Cambridge History of Africa
  13. ^ Ekholm, Gordon F (1945). “Wheeled Toys in Mexico”. American Antiquity 11. 
  14. ^ 「マヤ文明を知る事典」p46 青山和夫 東京堂出版 2015年11月10日初版発行
  15. ^ 「図説 人類の歴史 別巻 古代の科学と技術 世界を創った70の大発明」p137 ブライアン・M・フェイガン編 西秋良宏監訳 朝倉書店 2012年5月30日初版第1刷
  16. ^ 「都市の起源 古代の先進地域西アジアを掘る」p158 小泉龍人 講談社 2016年3月10日第1刷発行
  17. ^ 「ものがつなぐ世界史」(MINERVA世界史叢書5)p26-27 桃木至朗責任編集 中島秀人編集協力 ミネルヴァ書房 2021年3月30日初版第1刷発行
  18. ^ How The Wheel Developed
  19. ^ 「物流ビジネスと輸送技術【改訂版】」(交通論おもしろゼミナール6)p25-26 澤喜司郎 成山堂書店 平成29年2月28日改訂初版発行
  20. ^ 「図説 人類の歴史 別巻 古代の科学と技術 世界を創った70の大発明」p135 ブライアン・M・フェイガン編 西秋良宏監訳 朝倉書店 2012年5月30日初版第1刷
  21. ^ 「ものがつなぐ世界史」(MINERVA世界史叢書5)p27-29 桃木至朗責任編集 中島秀人編集協力 ミネルヴァ書房 2021年3月30日初版第1刷発行
  22. ^ bookrags.com - Wheel and axle
  23. ^ a b c d e 意匠分類定義カード(G2) 特許庁
  24. ^ ウィズチューブホイール - トピー工業(更新日不明)2018年1月26日閲覧
  25. ^ 取扱商品 - 中丸ゴム工業(更新日不明)2018年1月26日閲覧






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