仮死状態
か‐し【仮死】
仮死
★1.毒殺されそうな人物を救うために、仮死状態になる薬を飲ませる。
『黄金のろば』(アプレイウス)巻10 劇薬の調合を依頼された医者が、犯罪のにおいを感じ、代わりに仮死状態になるだけのマンドラゴラを与える。それを飲んだ少年が倒れ、無実の若者が殺人の濡れ衣を着せられて、死を宣告される(*→〔継子への恋〕1)。医者は法廷に行き、「少年は生きている」と皆に教える。
『モンテ・クリスト伯』(デュマ)101・117 検事総長ヴィルフォールの妻は、息子に財産を相続させるために、継娘ヴァランティーヌに少しずつ毒を飲ませて、殺そうとはかる。モンテ・クリスト伯爵が、毒薬を仮死薬とすりかえて、ヴァランティーヌに飲ませる。ヴァランティーヌは呼吸も心臓も止まり、死んだと見なされて埋葬される。彼女の恋人マクシミリアンは絶望して自殺しようとする。モンテ・クリスト伯爵がヴァランティーヌを蘇生させ、マクシミリアンと引き合わせる。
★2.女がいったん仮死状態になり、その後、男と駆け落ちする。
『閲微草堂筆記』 茉莉花(まつりか)の根を磨(す)り、酒に混ぜて飲むと、仮死する。根の長さが1寸ならば、仮死すること1日にして蘇生する。6~7寸ならば、数日後に蘇生する。根の長さ7寸以上を用いれば、本当に死んでしまう。1人の娘が、婚約者がありながら、他の男と情を通じた。娘は男と相談の上で茉莉花を服し、死んだと見なされて葬られる。男は棺をあばいて娘を連れ出し、隣県へ駆け落ちした。
『無双伝』(唐代伝奇) 戦乱のため、王仙客とその許婚無双は、離れ離れになった。後に仙客は、無双が天子の後宮に入れられたことを知る。仙客は無双との再会を願い、義侠の人・古押衙(こおうが)に援助を請う。古は、「飲めばたちまち死に、3日後に生きかえる」という秘薬を無双に飲ませ、無双は死骸として外へ運び出される。古は無双を仙客のもとに送り届け、無双と仙客は他郷へ逃げて、末長く添い遂げた。
★3.女が仮死状態になり、男と駆け落ちしようとして失敗する。
『ロミオとジュリエット』(シェイクスピア)第3~4幕 ロミオとジュリエットは出会ってすぐ相愛の仲になるが、ジュリエットにはすでに婚約者(パリス伯爵)が定められていた。ジュリエットは、パリス伯爵との結婚前夜に、42時間の仮死をもたらす薬を飲む。結婚式は中止になって、ジュリエットの身体は霊廟に安置される。ジュリエットが目覚める頃にロミオが来て、2人は駆け落ちする手はずだった。しかしロミオはジュリエットが本当に死んだと思い(*→〔死の知らせ〕3)、絶望して毒薬を飲む。
★4.実際に死んでしまい、その後に薬で蘇生させるものもある。
『聊斎志異』巻5-177「封三娘」 范家の十一娘は孟安仁との結婚を望むが、父親が某役人の息子との縁組を承諾してしまう。十一娘は嘆き、婚礼の前夜に縊死して葬られる。狐の化身が薬を飲ませて十一娘を蘇生させ、孟安仁と夫婦にさせる。
★5.喉につまった食べ物が取れて、仮死の女が息をふきかえす。
『白雪姫』(グリム)KHM53 白雪姫が毒りんごを食べて死ぬ。小人たちが、四方八方から白雪姫の姿が見えるように、ガラスの柩(ひつぎ)に納める。森に迷い込んだ王子が、美しい姫の姿を見て、「柩を譲って欲しい」と請う。小人たちが柩を運ぼうとすると柩がゆさぶられ、姫の喉から毒りんごのかけらがとび出して、彼女は目を開く〔*ディズニー版アニメでは、王子の接吻によって白雪姫は目を開く。*初版グリム童話は→〔死体〕12〕。
『誉田屋』(落語) 京都のちりめん問屋・誉田屋の1人娘、18歳のお花が重病になり、最後の望みで新粉餅(しんこ)を食べて死んだ。両親は、お花の遺体に、あの世の閻魔様へ差し上げる3百両を添えて、土葬にする。誉田屋の手代が3百両欲しさに墓をあばくと、お花の喉につかえていた新粉餅が取れて、お花は息を吹き返す。お花と手代はそのまま駆け落ちし、3百両を元手に、江戸で呉服屋を開く〔*後、お花の両親は江戸へ巡礼の旅に出て、娘と再会する〕。
『モンテ・クリスト伯』(デュマ)44・67 検事(後に検事総長)ヴィルフォールが愛人との間にもうけた私生児(男児)は、生まれた時、息もせず泣きもしなかった。ヴィルフォールは、赤ん坊は死んだものと思い、手提げ金庫に入れて庭に埋めた。それを目撃した男が、金が入っていると思って金庫を掘り出し、赤ん坊を発見する。赤ん坊は息を吹き返して成長し、殺人犯ベネデットとなった。ヴィルフォールは、そのことをまったく知らなかった→〔裁判〕3。
死
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