継子への恋
『あいごの若』(説経)3~4段目 二条蔵人清平の後妻・雲居の前が、継子・愛護の若を恋慕して、繰り返し艶書を送る。愛護の若がこれを拒絶すると、雲居の前は怒り、「若が家宝を盗み出して売った」と讒言する。父清平は立腹し、愛護の若を縄で縛って、桜の古木に吊り下げる→〔母の霊〕3。
『黄金のろば』(アプレイウス)巻10 女が、継子にあたる若者に恋情を抱いて密会を迫るが、継子は口実をもうけて逃げる。女は怒り、医者から劇薬を手に入れて、継子を毒殺しようとたくらむ。ところが、女の実子である少年が誤ってその薬を飲み、死んでしまう。女は「継子が私の子を毒殺した」と訴え出る〔*実は、少年は仮死状態になっているだけであり(*→〔仮死〕1)、法廷に現れた医者が、女の悪だくみを暴いた〕。
『王書』(フェルドウスィー)第2部第5章「王子スィヤーウシュ」 カーウース王の妃スーダーベが、継子スィヤーウシュを恋慕する。スィヤーウシュが彼女の求愛を拒否すると、スーダーベは、「スィヤーウシュが私を抱こうとした」と王に訴える。王は2人の身体のにおいをかぐ。スーダーベの身体からは、酒・麝香・バラ水の香りがする。一方、スィヤーウシュの身体には、そのような香りはまったくなかった。王は、スーダーベの言葉が嘘であることを知る。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第1章 テセウスの後妻パイドラは、継子のヒッポリュトスを恋し情交を迫るが、ヒッポリュトスはこれをしりぞける。パイドラはこのことをテセウスに知られるのを恐れ、自ら衣を引き裂いてヒッポリュトスに暴行された、と訴える〔*『ヒッポリュトス』(エウリピデス)・『フェードル』(ラシーヌ)は、ともにこの伝説にもとづいた戯曲〕。
『今昔物語集』巻4-4 阿育王の后が継子のクナラ太子に愛欲の心をおこし、ひそかに太子を抱こうとする。太子が逃げ去ったため后は恨み、「太子が我に思いを寄せているゆえ、罰せよ」と王に訴える→〔涙〕1・〔盲目〕1。
『楡の木陰の欲望』(オニール) 75歳の農場主イフレイムが、35歳のアビーを後妻として連れ帰る。財産目当てで結婚したアビーは、イフレイムの3男、彼女にとっては継子に当たる25歳のエビンを誘惑して、身ごもる。老イフレイムは、生まれた子を自分の胤と信じて、農場の相続人にする。
『本朝二十不孝』巻4-3「木陰の袖口」 親不孝の万太郎が、継母から日頃の悪行を注意されたことを逆恨みし、継母に難くせをつけて追い出そうとたくらむ。万太郎は父親に、「継母から言い寄られた」と訴える。次いで継母に「背中に虫が入って痛いので、取って下さい」と頼み、継母が万太郎の袖口から手を入れて探るありさまを、離れた所にいる父親に見せる。父親は「万太郎の言うのは本当だった」と思う〔*→〔見間違い〕4aの『今昔物語集』巻9-20では逆に、継母が継子をおとしいれる〕。
*継母が、継子にいつわりの恋をしかける→〔子殺し〕3の『摂州合邦辻』「合邦内」。
*継母が、継子への恋なしに迫害する物語もある→〔呪い〕3の『しんとく丸』(説経)。
*継母と継子の性関係→〔父と息子〕1の『源氏物語』・〔百足〕4の『夢の浮橋』(谷崎潤一郎)。
★3.権力者の妻が、夫の部下など年少の男に恋する物語が、古代の文献にいくつか見られる。これらが、継母の邪恋の物語の古形であろう。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第3章 プロイトスの后ステネボイアがベレロポンテースに恋心を抱き、逢引しようともちかけて拒絶される。ステネボイアは「ベレロポンテースに誘惑された」と夫プロイトスに告げる〔*『イリアス』第6歌の類話では、プロイトスの后の名はアンテイア〕。
『創世記』第39章 ヨセフは、エジプト人ポティファル(ポテパル)の家に召し使われる。ポティファルの妻が「私と一緒に寝なさい」とヨセフを誘うが、彼は逃げる。妻はポティファルに「奴隷のヨセフが私にいたずらをしようとした」と訴え、ポティファルはヨセフを監獄に入れる。
『ドイツ伝説集』(グリム)479「無実の騎士」 オットー3世の帝妃が、ある騎士に懸想するが拒絶される。妃は「騎士に辱められそうになった」と帝に訴え、騎士は首を刎ねられる(同・480「寡婦と孤児の訴えを裁くオットー帝」も類話)。
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