み‐まちがい〔‐まちがひ〕【見間違い】
見間違い
見間違い
『サイラス・マーナー』(エリオット)第12章 サイラスは、蓄えた金貨を盗まれたのをあきらめられず、「いつか金が戻って来るのではないか」と期待する。大晦日の夜、小屋に入りこんで眠る少女の金髪を、視力の衰えたサイラスは金と見間違え、手で触れてようやく金貨でないことを知る。
『福富草子』(御伽草子) 福富の織部は放屁の芸で長者になった。隣人の乏少の藤太が真似をして殿様の前で芸をするが、失敗して粗相する。笞杖で打たれ藤太が血だらけで帰って来るのを見た妻は、赤い小袖を褒美にもらってきたと思い、「今まで着ていた古着はもういらぬ」と言って焼き捨てる〔*これをきわめて悲惨な形にしたのが、「赤い帯」だと思ったら「腸」だったという→〔原水爆〕1の『現代民話考』(松谷みよ子)6「銃後ほか」第6章の3〕。
*禿げ頭を薬罐(やかん)と見間違う→〔禿げ頭〕5aの『鹿の子餅』「盗人」。
*禿げ頭を瓢箪(ひょうたん)と見間違う→〔禿げ頭〕5bの『清兵衛と瓢箪』(志賀直哉)。
★2.複合体(動物+器物、複数の動物)を、一体の化け物と見誤る。
『今昔物語集』巻28-29 博士の紀長谷雄が学生(がくしょう)たちと作文(さくもん)の会をしていた時、塗籠(ぬりごめ)から、背丈2尺ほどの怪物が現れた。頭は黒くて角が1つあり、胴体は白くて足が4本という異様な姿だったので、皆恐れた。しかしそれは、白犬が半插(はんぞう)に頭を入れて、抜けずにいたのであった。
『武道伝来記』(井原西鶴)巻5-4「火燵もありく四足の庭」 深夜、炬燵の櫓が庭を走るので「化け物だ」と皆が騒ぐ。1人が槍で仕留め蒲団をめくると、犬が中にもぐっていたのだった。その場は大笑いですんだが、後に「犬を突いて手柄にした」と世間で噂されたため、武士の面目をかけて大勢が斬り合った。
『ブレーメンの音楽隊』(グリム)KHM27 ブレーメンの町への旅の途中で日が暮れて、宿と食事を求めるろば・犬・猫・鶏が、泥棒の家を見つける。動物たちは「泥棒どもを追い払おう」と相談し、ろばが窓枠に前足をかけ、その上に犬・猫・鶏が次々に乗って一斉に鳴く。泥棒たちは「化け物が来た」と思って逃げ去る。ろば・犬・猫・鶏は、泥棒の残したご馳走を平らげて、ぐっすり眠る。
*2つの身体が連結したシャム双生児を、巨大な蟹のような化け物と見誤る→〔蟹〕9の『シャム双生児の秘密』(クイーン)。
『寝園』(横光利一) 奈奈江は幼なじみの梶を思慕し、夫仁羽を嫌悪していた。赤城の猪狩りの最中、猪に襲われた夫を助けようとして、奈奈江は夫を撃ってしまう。誤って夫を撃ったのか、それとも故意に撃ったのか、奈奈江にもわからなくなる(*夫は命をとりとめ回復する)。
*猟師となった早野勘平は、猪と思って斧定九郎を鉄砲で撃ち殺す→〔仇討ち〕8の『仮名手本忠臣蔵』5段目。
『南総里見八犬伝』第7輯巻之3第67回~巻之4第68回 甲斐の山道を行く犬塚信乃を、鹿と間違えて泡雪奈四郎が鉄砲で撃つ。弾丸は当たらず信乃は無事であったが、これがきっかけで信乃は浜路姫と出会う。
『眉かくしの霊』(泉鏡花) 柳橋の芸者お艶(蓑吉)が、愛人を助けるため木曽の山村を訪れる。土地には「桔梗ケ池の奥様」と呼ばれ恐れられる美しい魔性のものが住み、お艶はその奥様と美を競うかのごとく、眉を落とした姿で夜道を行く。猟師が魔性と思いお艶を鉄砲で撃ち殺す→〔自己視〕1a。
*猟師が人を獣と誤認して、弓で射る→〔足〕2の『バーガヴァタ・プラーナ』。
*虎と思って石を射る→〔石〕9cの『捜神記』巻11-1(通巻263話)。
*鹿と思って石を撃つ→〔鹿〕4bの『遠野物語』(柳田国男)61。
★3b.親孝行な息子が、獲物と間違われて殺される。あるいは、殺されそうになる。
『二十四孝』(御伽草子)「ゼン子」 親孝行な息子ゼン子の両親が、老いて眼病をわずらう。鹿の乳が眼の薬になるので、ゼン子は乳を得るために鹿の皮を着て、鹿の群れの中にまぎれ入る。猟師がゼン子を鹿だと思い、弓で射ようとする。ゼン子は「私は人間だ」と言い、危うい命を助かる。
『ラーマーヤナ』第2巻「アヨーディヤーの巻」 ダシャラタ王は若い時森で象狩りをし、盲目の隠者夫婦を養う孝行息子を、誤って射殺す。息子を失った隠者は悲しみ怒り、「汝もまた、子ゆえの悲しみで死ぬであろう」と王を呪って死ぬ。後年、王は、王子ラーマを追放したことを悔やみつつ死ぬ〔*前半部は→〔開眼〕4の『三宝絵詞』上-13と同様の展開〕。
『日光山縁起』下 有宇中将は前世で猟師であり、鹿を射るため山へ行った。彼の母もまた山へ入り、子を養うために、薪にする小枝や木の実を拾った。母は防寒用に鹿の皮を着ていたので、猟師は鹿だと思って母を射た。母は「汝に親殺しの罪を犯させたのがいたわしい」と言って、死んだ。
*猟師となった早野勘平は、義父を鉄砲で撃ち殺したと思いこむ→〔誤解による自死〕1の『仮名手本忠臣蔵』5~6段目。
★3d.息子が、熊を母親の化身と知らず、殺そうとするが未遂に終わる。
『変身物語』(オヴィディウス)巻2 カリストはユピテル(ゼウス)によって身ごもり、息子アルカスを産む。ユピテルの后ユノー(ヘラ)が怒り、カリストを熊に変える。息子アルカスは15歳になる頃、森で母カリストの化身の熊と出くわし、槍で突き殺そうと身構える。ユピテルがこれを制止し、彼ら母子を天に上げて、星(大熊座と小熊座)にする。
『宇治拾遺物語』巻1-7 龍門の聖が鹿皮を着て夜の野に伏し、自らの身を犠牲にして、親しい男の殺生癖をとどめようとする。男は鹿を射ようとして、よく見ると龍門の聖であるので驚く。男は聖の心を知って改心し、その場で出家する。
『今昔物語集』巻9-20 継子伯奇をおとしいれるべく、継母が懐に蜂を入れておき、「蜂にさされた」と言って倒れる。そして伯奇に蜂を取らせ、そのさまを父に遠望させる。父は、倒れた継母の懐に伯奇が手を入れるのを見て、「伯奇が継母を犯している」と思い込む。伯奇は父親から疑われたので、家を出て河に投身する〔*逆に、継子が継母をおとしいれる形にしたのが→〔継子への恋〕2の『本朝二十不孝』巻4-3「木陰の袖口」〕。
『サセックスの吸血鬼』(ドイル) ファーグスンの夫人が、自分の産んだ赤ん坊の首に噛みつき、血を吸った。ファーグスンは、夫人の血だらけの唇を見て、「吸血鬼である夫人が赤ん坊を襲った」と考える。実は、夫人にとって継子にあたる、背骨に障害を持つ少年が、健康な赤ん坊に嫉妬して、毒矢を赤ん坊の首に刺したため、その毒を夫人は吸い取っていたのだった〔*→〔誤解による殺害〕1の『パンチャタントラ』第5巻第2話の変型〕。
『高瀬舟』(森鴎外) 夕方、喜助が仕事から帰って来ると、病気の弟が自殺しようとして死にきれず、剃刀を喉へ深く差し込んだまま苦しんでいた。弟が、「剃刀をうまく抜いてくれたら、おれは死ねるだろうと思う。どうぞ手を貸して抜いてくれ」と請うので、喜助は剃刀の柄をしっかり握って引く。その時、近所の婆さんが入って来て、「あっ」と言って駆け去った。役人が来て、喜助を役場へ連れて行った→〔安楽死〕1。
『呂氏春秋』巻17「審分覧・任数」 孔子が遠くから見ていると、弟子の顔回が米を炊きながら一口つまみ食いをした。孔子は見て見ぬふりをした。これは実は煤が鍋に入ったのを、食物を捨てるのは良くないのでつまんで食べたのだった。それを知った孔子は、「信頼すべき目も信じられぬか」と嘆息した。
★4b.自殺しようとする人を見るが、遠方からなので、そのことがわからない。
『大菩薩峠』(中里介山)第36巻「新月の巻」 剣客の仏頂寺弥助と書生の丸山勇仙は、中有に迷う亡者のように諸国を放浪する。秋の晴れた日、飛騨の小鳥峠で松茸の土瓶蒸しを食べ酒を飲むうち、2人は死にたくなって、仏頂寺は切腹し丸山は硫酸を飲む。宇津木兵馬と芸妓福松が遠方から一部始終を見るが、仏頂寺と丸山が飲めや唄えのあげく良い気分で寝てしまった、としか見えない。しばらくして兵馬は様子を見に行き、2人が自殺したことを知る。
『武蔵野夫人』(大岡昇平)第13章「秋」 人妻の道子と大学生の勉は恋し合う仲だったが、道子は「呼ぶまで家に来てはいけない」と禁じる。晩秋のある日、勉は道子の家の裏手へ行き、ベランダにいる道子を、繁みに隠れて見る。道子がコップに白い粒をたくさん入れ、サイダーを注いだので、勉は「何かの薬だろうか」と思う。実は道子は自殺するために、多量の睡眠剤をサイダーに溶かしていたのだった。
『英雄伝』(プルタルコス)「ファビウス・マークシムス」 ハンニバルのカルタゴ軍とローマ軍の戦闘中、ローマの執政官パウルスが落馬した。左右の者は、彼を助けようと馬から降りた。指揮官らが下馬したのを見たローマ騎兵は、「徒歩で闘え」との命令が出たと勘違いして、皆馬を捨てる。その結果、ローマ軍は大敗北した。
『本膳』(落語) 名主(なぬし)の家に祝事があり、村人たちが招かれる。誰も本膳の食べ方を知らないので、手習いの師匠が上座につき、皆は師匠の真似をする。ところが、師匠がうっかり飯粒を鼻の頭につけたので、村人たちはそれが本膳の作法だと思って、めいめい飯粒を鼻につける。師匠が里芋を箸ではさみそこねて転がすと、またその真似をする。師匠は「よせ」と隣の男をひじで突く。皆次々に隣を突く。
*→〔誤解による殺害〕4の『アーサーの死』(マロリー)第21巻第4章。
『なめとこ山の熊』(宮沢賢治) 淵沢小十郎は熊捕りの名人だ。長年の経験を積んだ彼は、もう熊の言葉だってわかるような気がした。春の宵、母熊と子熊が、向こうの谷をしげしげ見つめていた。「どうしても雪だよ、おっかさん。谷のこっち側だけ白くなっているんだもの」「雪でないよ。おっかさんは、あざみの芽を見に、昨日あすこを通ったばかりです」「雪でなけぁ、霜だねえ。きっとそうだ」。小十郎が谷を見ると、6日の月の光が青白く山の斜面を滑り、銀の鎧のように光っているのだった。
*月の光を、白い封筒に見間違える→〔月〕5の『懶惰の歌留多』(太宰治)。
*月の光を、白い布に見間違える→〔わざくらべ〕1bの石見国布引山(高木敏雄『日本伝説集』第21)。
『蕎麦の花をつくらないわけ』(松谷みよ子『日本の伝説』) 武田信玄に仕える三島一族が、小田原の北条勢に追われて敗走する。甲斐の国を目指して夜の山道を歩き続けたが、前方に、月光を受けて白い波をきらめかせる海がひろがった。落武者たちは、「小田原の海だ。道を間違えて、敵の本陣へ逃げ込んだのだ」と思い、もはやこれまでと、皆その場で切腹した。彼らは、月下に白々とゆれる蕎麦畑の蕎麦の花を、海と見間違えたのだった。村人たちは、あまりの痛ましさに、以後は蕎麦づくりをやめた(神奈川県)。
*月の光を浴びた白狐が、白人女性に見える→〔温泉〕5の『白狐の湯』(谷崎潤一郎)。
★8.丸い月だと思ったら、円(まる)い窓だった。
『秋五話』(稲垣足穂)「詩をつくる李白」 丘の木立ち隠れに昇り出した月が、そこで動かなくなってしまった。不思議に思い、登って見に行くと、それは月ではなく円窓だった。「誰のすみかだろう」と、のぞいてみたら、李白が一生懸命に詩を作っていた。
★9.信じられないものを見た時、それを「目の錯覚」と考える。
『スーフィーの物語』17「粘土の鳥はなぜ空を飛んだか」 幼子イエスが粘土で作った鳥が、空に向かって飛び立って行った(*→〔曜日〕4)。ユダヤ教の長老たちがこれを見て驚き、1人が「この技術を学びたいものだ」と言った。しかし別の長老は、「これは技術などではない。われわれの単なる眼の錯覚だ」と断じた。
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