禿げ頭
★1a.禿げ頭の男。
『今昔物語集』巻28-6 清原元輔が賀茂祭の使を勤めた時、落馬して冠を落とした。元輔は老齢で頭が禿げていたため、夕日を反射して頭がキラキラ輝き、一条大路の見物人たちは大笑いした。これに対して元輔は、笑うべきではない理由を長々と論じ、論じ終わってからようやく冠をかぶったので、見物人たちはまた笑った〔*『宇治拾遺物語』巻13-2に類話〕。
『百喩経』「禿げを治す喩」 禿げに悩む男が、医師に「禿げを治してほしい」と請う。ところが医師も禿げ頭であり、帽子をぬいで見せて「治せるものなら、まっ先に自分の禿げを治すよ」と言った。
*「禿げ」という言葉を嫌う男→〔言忌み〕1aの『阿Q正伝』(魯迅)。
*「禿げ頭」と嘲られた預言者→〔呪い〕10bの『列王記』下・第2章。
*2人の妻によって、禿げ頭にされてしまう夫→〔二人妻〕3bの『三国伝記』巻1-25。
*アイスキュロスの禿げ頭→〔落下〕3の『吾輩は猫である』(夏目漱石)8。
★1b.禿げ頭を隠すかつら。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)375「禿げ頭の騎手」 禿げ頭の男が、かつらをつけて馬に乗っていたが、風でかつらが飛ばされた。人々が笑うと、男は「私のものでない髪が私から逃げたとて、何の不思議があるものか」と言った。
『風博士』(坂口安吾) 風博士は論敵の蛸博士によって、妻を奪われる。風博士は、「蛸博士が禿げ頭であることを妻に教えておくべきだった」と後悔し、夜、蛸博士の寝室に忍び入って、彼のかつらを盗む。「明朝、蛸の禿げが明らかになるだろう」と、風博士は期待する。しかし用意周到な蛸博士は、別のかつらを用意していた。
*自毛でなくかつらなので、呪いが効かない→〔髪〕5の『悪を呪おう』(星新一『ようこそ地球さん』)。
★1c.禿げ頭を隠す月桂冠。
『ローマ皇帝伝』(スエトニウス)第1巻「カエサル」 カエサルは、自分の禿げ頭を苦に病んでいた。それゆえ彼は、元老院や民会から贈られた名誉のうちで、月桂冠を終身かぶれるという権利を、もっとも喜んで受け取り、活用した。
★2.禿げ頭の女。
『好色一代女』巻3「金紙匕髻結」 髪が少なく「地髪は十筋右衛門」ともいうべき奥方が、かもじを入れて殿の目をごまかしていたが、ある時猫にとびつかれ簪が落ちて、髪のないことを知られ離縁された。
『枕草子』第172段(新潮日本古典集成版) 男が、明け方に女のもとを出るふりをして立ち帰り、女の様子をうかがい見る。すると、女のつけていた鬘がズレて光る頭が露わになったので、男は驚いてそっと帰って行った(萩谷朴説)。
★3.蛇に呑まれて禿げ頭になった人と、蛇を食べて禿げ頭になった人。
『近世畸人伝』(伴蒿蹊)巻之1「樵者七兵衛妻」 木こり七兵衛が、うわばみに呑まれる。七兵衛の妻が鎌を持ってうわばみに立ち向かうが、これも呑まれる。妻は鎌で、うわばみの腹を切り裂き、七兵衛ともども命拾いする。しかし七兵衛はそれ以来禿げになり、まったく発毛しなかったので、「やかん七兵衛」と呼ばれた。
『西鶴諸国ばなし』(井原西鶴)巻2-2「十二人の俄坊主」 紀州の浦に、長さ10丈余りの大蛇があらわれ、12人乗りの早舟を呑みこんだ。まもなく舟は大蛇の尻へ抜けて汀に漂着したが、12人は皆気を失い、頭髪は1本もなく、にわか坊主になっていた。
『吾輩は猫である』(夏目漱石)6 ある年の冬。迷亭が越後と会津の境で、峠の一軒家に宿を請うた。家には爺さん婆さんと美しい娘がおり、迷亭は蛇飯を御馳走になって、たいへん美味だった。ところが翌朝、娘が高島田の鬘を取ると、やかん頭だったので、迷亭はたいへん驚いた〔*「蛇飯の食い過ぎで、のぼせて禿げたに相違ない」と、後に迷亭は苦沙弥たちに語る。迷亭は幸い禿げなかったが、その時以来近眼になった〕。
★4.禿げ頭の目印。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版・第43巻30ページ 特急列車の中。食堂車から戻ったカップルが、「僕たちの席は?」と迷う。その時、波平がトイレから帰って来て席につく。波平の禿げ頭を見たカップルは、「お! あそこだ」と言う。人は知らずに何かの役に立っていることがある。
★5a.禿げ頭と薬罐(やかん)。
『鹿の子餅』「盗人」 盗人を警戒して、親父が蔵の中に寝る。夜中、2人組の盗人が、蔵の壁に穴を開けて入って来る。1人が品物を取り出し、もう1人が蔵の外で受け取る手筈である。親父が目を覚まして壁の穴を不審に思い、穴から頭をさし出す。外の盗人が「むむ。まず薬罐からか」。
『やかんなめ』(落語) 某家の奥方が花見に出かけ、持病の癪(しゃく)を起こす。普段は、やかんをなめると治るのだが、手近にやかんがない。通りかかった禿げ頭の武家に頼んで頭をなめさせてもらい、奥方の癪は治る。武家は頭が痛み出したので下男が見ると、頭に奥方の歯型がついている。武家「頭に傷ができたか」。下男「大丈夫。漏るほどの傷ではありません」。
『清兵衛と瓢箪』(志賀直哉) 瓢箪好きの子供清兵衛は、浜通りを歩いている時、屋台店から出てきた爺さんの禿げ頭を、瓢箪と思った。清兵衛は「立派な瓢じゃ」と感心して、しばらく見間違いに気づかずにいた。
『百物語』(杉浦日向子)其ノ77 会津の話。大雨の夜半、魚の化け物が町を徘徊することがある。ずるずると音がして、掌ほどの大きさの鱗が、泥の中に落ちている。戸の節穴などを通して化け物の姿をのぞき見ると、その人は必ず節穴から髪の毛を吸い取られ、円形の禿げができる。
*→〔のぞき見〕1cの『英雄伝』(プルタルコス)「アレクサンドロス」3のように、のぞいた片目がつぶれた、というのが原型だったかもしれない。
★7.禿げ頭の老兵たち。
『現代民話考』(松谷みよ子)2「軍隊ほか」第7章 昭和20年(1945)頃の内地。兵営の裏の川で、兵隊たちが洗濯をしていたが、ほとんど皆、頭髪の薄い者や禿げた者だった。部隊副官がこれを見て驚き、「防諜上悪い」と言って、軍帽をかぶるよう命令した。頭の禿げた老兵ばかりでは、戦力の低下がわかってしまうからである(岡山県)。
ハゲ
(禿げ頭 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/30 13:54 UTC 版)
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ハゲ(はげ、禿、禿げ)とは、加齢、疾病および投薬の副作用、火傷、遺伝的要因などにより髪の毛が薄い、もしくは全くない頭部などを指す。
ハゲた場合頭皮に艶が出やすい。頭部がつるつるに禿げている様を指し、つるっぱげ(つるっ禿げ)もしくはツルハゲ(つる禿げ)[1]、さらに略され婉曲的に単にツルと表現されることもある。
ハゲに関する語は頻繁に動詞化するが、その際は漢字表記「禿」が充てられることはあまりない。漢字を用いる場合は語尾に「頭」を付けて禿げ頭もしくは禿頭(はげあたま)とも。後者はとくとうという読みも存在する。
原因

毛が抜けることを総じて脱毛症という。
大きく原因を3つに別けると「自己免疫疾患」「アトピー要因」「遺伝的要因」に分けられるとも言われるが、様々な要因が挙げられている。
加齢
加齢により頭髪の生える面積が狭くなる男性型脱毛症を指してハゲと呼ぶケースが一般的であるでは 30代後半から 40代頃から進行することが多いが、まれに20代頃から禿げ始める人もいて、このような人は「若ハゲ」と呼ばれている。
男性の頭髪の生える面積が減少するパターンは大きく二つあり、ひとつは生え際から額が広くなるように禿げる。これを禿げ上がるという。特に両こめかみ上から進行する場合が多く、その生え際の形がアルファベットのMに似ていることから俗に「M字ハゲ」と呼ばれ、
もう一つはつむじから次第に髪の密度が少なくなるように禿げ、その結果、頭頂部に地肌が出るが、後頭部と側頭部の髪は残る。この様子が河童に似ていることから俗に「カッパ禿げ」とも呼ばれる。この周囲の残っている髪を伸ばして、禿げている所の上を覆うように、本来毛が生えている方向とは反対側に寝かせてジェルで固定した髪型を、毛がまばらになった隙間から肌が見えるのをバーコードに見立ててバーコード頭と言う。
なお、生え際と頭頂部のハゲが同時に進む場合もあるが、最終的には後頭部に髪が残るか、すべて無くなることもある。
一般的にハゲとは毛が生えていない状況を指すものと思われがちだが、毛根がいきなり死滅するのではなく、ひとつの毛根から生える頭髪の数が減るケースが多く(2 - 3本生えているものが1本になるなど)、また毛が十分育たないまま成長が止まったり、成長する前に抜け落ちてまた生え変わるといったサイクルが早くなったり、毛髪の太さが細くなるなどの原因により、髪の毛の本数自体は一般的な人の毛髪量と大差がないのに、髪の毛が細くなったことにより髪の密度が減少している状態も「ハゲ」と呼ばれることが多く、毛根の数自体が減少しているためであると誤解されるケースが多い。
また、毛根が死滅していても産毛が生えてくるケースがあるが、密度的には薄いため、このようなケースもハゲと呼ばれることがある。
さらに、ジヒドロテストステロンは髪の毛の元となる毛母細胞の働きを低下させて髪の毛の成長期を短くさせるため、ハゲ・薄毛という目に見える変化が起きることがある[2]。
女性の場合、禿げ上がることはあまりないが、加齢と共に髪の密度が低くなるのは男性と同様でで、この場合頭頂部付近から全般に薄くなることが多い。
ハーバード大学医学部によると、白髪になったり、ハゲたりするのは宿命で、いろいろな治療法があるが、基本的には効果がないと言う[3]。
精神的理由
ストレスで髪が抜ける場合もある。円形脱毛症は代表的な例である。
病気
円形脱毛症にはアレルギーなどが原因の場合もある。他にケルズス禿瘡など。
薬
薬剤の副作用として頭髪が抜ける例もある。抗ガン剤はその点で有名。
放射線
ある程度の放射線に被爆した場合に起こる急性放射線症の症状のひとつとして脱毛が起こる場合がある。毛根細胞が被爆により障害を受け毛髪が細くなり切れやすくなることから起こる[4]。
外傷
頭髪の出る部分の皮膚に怪我をすると再生した皮膚から頭髪が出ない。小さいものなら自他共に気付くことは無いが、ある程度の範囲があると、小さなハゲとして認識される。やけどの場合、広い範囲となる可能性がある。
自分で抜く

以上は毛が抜けたり生えなくなることでハゲになるものだが、中には自分自身の加工でハゲになるものもある。ファッションとしてのスキンヘッドや、職業による坊主頭(聖職者の剃髪やトンスラなど)の例がある。その他、精神的なストレスのために自分で毛を抜いてしまう、という例もあり、抜毛症という。
単に「ハゲ」と表現する場合、狭義には、不可抗力で自然に脱毛したものを呼ぶのが一般的であるが、いわゆる「坊主刈り」も、毛髪の極めて少ない状態をハゲになぞらえてハゲと呼ばれる場合がある。
種類
ハゲの種類を分類すると大きく3つに分けられる。
M字ハゲ
額(おでこ)の左右両サイドの髪の毛が後退し、前頭部の生え際がアルファベットのMに似た形になる状態を「M字ハゲ」と言う。AGA(男性型脱毛症)の分類に使われる「ハミルトン・ノーウッド分類」では、M字ハゲはⅢ度に分類。基準は、「生え際の薄毛がくっきりとM字になっている状態。髪全体のボリュームも少なくなってくる」とされている[5]。
O字ハゲ
O字はげは頭頂部がアルファベットのO(オー)の形に禿げ上がることから、その名前が付けられている。つむじまわりの髪の毛が抜けたり細くなったりすることで、徐々に薄毛が進行するため、つむじはげと呼ばれるケースもある [6]。
U字ハゲ
M字ハゲとO字ハゲがつながり、おでこから頭頂部にかけて広範囲にかけて地毛が後退している状態を「U字ハゲ」と言う。残された髪の毛が側頭部や後頭部のみのため、上から見るとU字の形をしている[7]。
文化
ハゲは恥ずかしく感じられることが多い。それを目立たなくするために髪型などを工夫すると「ハゲ隠し」と笑われることがある。しかし、いよいよ禿げてしまえば開き直るより仕方ないと考え、ハゲを自慢する方向に転じる場合もある。禿頭コンクールが開催されたこともある。中には禿頭に卵白でパックして艶を出す人もいるらしい。ツル多はげます会(青森県鶴田町)や光頭会(秋田県横手市雄物川町)、禿頭会といった団体もあり、「全国ひかりサミット」という団体交流の場も開かれている。国会においても、第46回衆議院議員総選挙で初当選を果たした衆議院議員の中から、頭髪の薄い者が集まり「日本を明るくする会」が結成された[8]。あとは流行で、スキンヘッドや丸刈りにしてる方に対しても悪口で、ハゲと言う人もいる。昔は俗に台湾坊主とも言った。
ハゲの問題は、古くから人々を悩ませてきており、例えば『旧約聖書』に登場するエリシャには、子供たちにハゲ頭をからかわれた時、その子供たちを呪い、結果として42人の子供たちが熊に襲われたという逸話が載っている。親鸞は自分は僧の姿をしていても愚人であるという意味で「愚禿」(ぐとく)と名乗った[9]。
筋トレとの関係
筋トレをすると男性ホルモンが増えるため、ハゲにつながるという解釈が広まっている。しかし、「筋トレをするとハゲる」に医学的根拠はない。筋トレをすると血中のテストステロン値が上昇するものの、ハゲを進行させるジヒドロテストステロンを増やす原因とはならない[10]。
頭髪以外での用例
ハゲ(剥げ)とは、継時劣化(天候、気温、湿度、紫外線、酸素)の影響などによってテープや塗料などが剥がれてしまっている部分、またその状況をいう。意図して剥がした場合には言わないことが多い。接着剤で接合したものがはがれかかっている場合にも、言うことがある。この状態を表現する語としては「ハゲチョロ」も多用される。
その他では、木が乏しい山をハゲになぞらえてはげ山と呼ぶ。
社会人類学的考察
江戸時代、多くの身分の男の髪型は月代を剃った髷のスタイルである。この習俗は平安時代の後期からあったと見られている。武士の男性は元服とともに前髪を落とした。公的な場では必ず月代を剃り、髪型を整えた。このように髷のスタイルは成人であるための公的な証明であり、出仕している武士であることの証明でもあった。そのため、髪が抜けすぎて髷が結えなくなると隠居するという慣習があり[11]、禿げていても出仕する必要がある武士はかつらの使用を願い出ることもあった。
このような頭髪の一部をそりあげる習俗は世界各地にあり、後に清を建国する満州族にも頭頂部以外を剃り、残った髪の毛を長く編んだ辮髪の風習があった。清が中国大陸を支配すると、辮髪は全ての男性に義務付けられた。これは清の支配を受け入れたという証であり、髪を剃らない者は反逆者として扱われた。頭髪を剃ることが所属を表す形であったと見られている。
脚注
- ^ 新村出 編『広辞苑』(第6)岩波書店、2008年、1893頁。ISBN 978-4-00-080121-8。
- ^ “テストステロンがハゲの原因に?男性ホルモンと薄毛の関係を医師が解説 | クリニックTEN 渋谷”. クリニックTEN 渋谷 | 渋谷のかかりつけクリニック (2021年6月2日). 2021年11月19日閲覧。
- ^ Solan, Matthew (2021年9月1日). “You don't say? Hair today, gone tomorrow” (英語). Harvard Health. 2022年6月1日閲覧。
- ^ “急性放射線症”. 財団法人放射線影響研究所. 2021年2月12日閲覧。
- ^ “M字ハゲってどういう状態?前髪が薄くなる原因や対処法”. 2023年3月30日閲覧。
- ^ “O字はげの特徴と基準とは?カバーできる髪型も併せて詳しくご紹介”. 2023年3月30日閲覧。
- ^ “U字ハゲは薄毛が進行している証拠?特徴や原因・対処法を解説”. 2023年3月30日閲覧。
- ^ “【松本浩史の政界走り書き】(番外編) 頭髪が気になり出した議員親ぼく会って? 日本を明るくするらしいけど…”. msn産経ニュース (2013年11月23日). 2014年1月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月27日閲覧。
- ^ 親鸞聖人が自らを「愚禿親鸞」と名のられたのはなぜですか? | 仏事FAQ | 心のともしび 鹿児島教区懇談会
- ^ “「筋トレすると薄毛になる」に医学的根拠はなし|むしろ薄毛対策になる3つの理由|男性ホルモン研究所”. 男性ホルモン研究所. 2022年4月21日閲覧。
- ^ 山本博文『武士は禿げると隠居する』双葉社〈江戸の雑学 ; サムライ篇〉。 ISBN 4-575-15311-7、ISBN 978-4-575-15311-8。
関連項目
「禿げ頭」の例文・使い方・用例・文例
- 禿げ頭
- 禿げ頭が光る
- 禿げ頭の紳士
禿げ頭と同じ種類の言葉
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