液状化現象
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/10 08:52 UTC 版)
側方流動
側方流動(そくほうりゅうどう、英: lateral flow、lateral spreading)は、地盤流動現象の1つで、傾斜や段差のある地形で液状化現象が起きた際に、いわゆる泥水状になった地盤が水平方向に移動する現象をいう。
側方流動には大きく分けて2つのタイプがある。1つは、地表面が1 - 2%程度のゆるい勾配になっており、地中部には液状化層が存在するものである。この場合、地盤が傾斜に沿って移動することとなる。もう1つは護岸などに見られるタイプで、地震の揺れおよび地盤の液状化で護岸などが移動することで、後背の地盤が側方流動を引き起こすものである。
このような側方流動が発生した場合、地中構造物に多大な影響を与える。例えば杭基礎であれば、側方流動が発生することにより、杭は地盤から水平方向に剪断や曲げの力を受けることとなる。この地盤からの力が杭の耐力を超過し、杭の剪断破壊等を起こす。このため杭基礎は上部構造物を支える事ができなくなり、場合によっては構造物の転倒などを引き起こすことにつながっていく。
発生例
日本
- 1858年4月9日(安政5年2月26日)飛越地震
- 富山市にて「井戸から水とともに白砂が吹き出す」「屋敷の地面が割れて水が吹き出す」等の記録が残る[4]。
- 1927年(昭和2年)3月7日 北丹後地震
- 震源(京都府丹後半島北部)からやや離れた大阪市鶴町で、地震の揺れにより地割れや陥没から海水(出典ママ)が噴出。水道管の破損も加わり、一面が泥田のようになった[5]。
- 1964年6月16日 新潟地震
- 信濃川河畔や新潟空港などで発生した。
- 1995年1月17日 兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)
- 神戸市のポートアイランド・六甲アイランドで大規模な液状化現象の発生が確認されている。
- 2004年10月23日 新潟県中越地震
- 小千谷市や長岡市、与板町、柏崎市など、水田や湖沼を埋め立てた箇所等で液状化の発生が見られた。
- 2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)
- 関東地方では1都6県96市町村で液状化被害が確認されている[6]。世界最大の被害になった[7]。
- 2016年4月16日 熊本地震
- 阿蘇カルデラ内の黒川沿いにおいて、大規模な地盤の移動に伴って液状化や噴砂、側方流動が発生した[8]。
- 2018年9月6日 北海道胆振東部地震
- 札幌市清田区里塚[9]・北広島市大曲並木地区[10]などで発生した。また、札幌市東区東15丁目屯田通の一部(札幌市営地下鉄東豊線・栄町 - 環状通東間およびその北側道路)約4km間でも地下鉄路線上を含めた箇所の道路陥没が発生し、液状化現象が発生したと考えられている[11][12]。
- 2019年6月18日 山形県沖地震
- 山形県鶴岡市の鶴岡駅付近で発生した[13]。駅前駐車場にて1メートル程の範囲で茶色い水が見られたほか、その敷地内では車の一部が埋没し動けなくなった事例もあった。
- 2024年1月1日 令和6年能登半島地震
- 新潟市西区[14]や高岡市[15]など、広い範囲で液状化が発生した。郵便局の駐車場では一部の車両が水没したほか、破裂した水道管からは水が溢れ出していた[14]。
日本国外
- 1906年 サンフランシスコ地震
- まだ液状化という用語は用いられていなかったが、それが原因と見られる地盤変状は多く記録され、文書にまとめられている。サンフランシスコ市エンバカデロ沿いのフィッシャーマンズ・ワーフ近くの地域、サンフランシスコ湾に沿ったオークランド市を含めた埋め立て地、モンテレー湾に沿ったサンタクルーズ市とワトソンビル市と国勢調査指定地域のモスランディングなど、1989年のロマ・プリータ地震と液状化発生地域の大部分が一致している[16]。その一方で、サンフランシスコ湾南部のアラメダ・クリークとコヨーテ・クリークに沿った地域などのようにサンフランシスコ地震では大規模な液状化が発生したが、ロマ・プリータ地震では液状化が発生しなかった地域もあった[17]。全体の液状化の程度としては地域の一部が液状化しただけの83年後の地震のそれとは比較にならないほどの大規模なものになった[18]。
- 1964年 アラスカ地震
- 1985年 メキシコ地震
- メキシコシティで発生。
- 1989年 ロマ・プリータ地震
- サンフランシスコ市のマリーナ地区は地盤の液状化現象が顕著に見られた[19]。地震による被害が特に大きかった建物が集中している地区である[20]。マリーナ地区ではほとんどすべての建物が何らかの被害に見舞われた[21]。この地区の埋め立て地と砂丘砂の地域では地震動の大きさにあまり差はないが、液状化被害の程度は両者で大きく差が開いた[22]。また、同市のマーケット・ストリートの通りに沿った3つの埋め立て地のいずれの地域においても大規模な液状化現象が発生した[23]。比較的新しい埋め立て地であったサンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジのオークランド側取り付け部でも大規模な液状化が発生し、地表面での沈下量は最大40㎝にも及んだ[24]。サンフランシスコ・ベイエリアではこの他にオークランド国際空港(西側部分)、オークランド港、アラメダ海軍航空基地、ベイファーム島、人工島のトレジャー島などで大規模な液状化が発生している[25]。また、震源南側地域ではサンタクルーズ市内、ワトソンビル市近郊のパハロ川流域、モスランディング(河川に沿った地域や太平洋沿岸)などで大規模な液状化が発生している[26]。
- 2011年 カンタベリー地震
- クライストチャーチ市で発生。
- 2018年 スラウェシ島地震
- パル市サウスパルのペトボ地区で発生。
脚注
- ^ 文部省編『学術用語集 地学編』日本学術振興会、1984年、19頁。
- ^ a b 伊佐喬三「9-地球と人間 防災と自然改造」 『原色現代科学大事典2 地球』 株式会社学習研究社、竹内均 責任編集、1967年、P450。
- ^ 植竹富一ほか「1828年越後三条地震の地変等の記事について」(PDF)『歴史地震』第20号、歴史地震研究会、2005年、233-242頁、ISSN 1349-9890、NAID 40007024362。
- ^ 北日本放送株式会社「復刻版越中安政大地震見聞録 立山大鳶崩れの記」地震見聞録 P60,61 2007年
- ^ 海水吹き出し洪水、大阪で液状化現象『大阪毎日新聞』昭和2年3月8日号外(『昭和ニュース事典第1巻 昭和元年-昭和3年』本編p220 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年)
- ^ 国土交通省 関東地方整備局 企画部 広域計画課. “東北地方太平洋沖地震による関東地方の地盤液状化現象の実態調査結果について”. 防災. 国土交通省 関東地方整備局. 2012年2月5日閲覧。
- ^ 大成建設 船原英樹 (2012年3月14日). “1.過去の地震と液状化現象”. 防災. 耐震ネット. 2016年2月21日閲覧。
- ^ “平成28年熊本地震に関する報告書 第1章~第6章” (PDF). 東北大学災害科学国際研究所 (2017年4月). 2017年4月14日閲覧。
- ^ 北海道新聞どうしん電子版「谷に盛り土 液状化誘発 釜井・京大斜面災害研センター長が札幌・里塚調査 緩い地盤、地下で地滑り」 2018年9月20日閲覧。
- ^ 北海道新聞どうしん電子版「北広島でも大きな被害 陥没や傾き 13棟『危険』」 2018年9月20日閲覧。
- ^ 北海道新聞どうしん電子版「液状化、地下鉄建設が影響? 専門家『抜本策必要』」 2018年9月20日閲覧。
- ^ 北海道新聞「札幌『東15丁目屯田通』要の市道 復旧いつに」2018年9月16日記事、2018年9月22日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2019年6月19日). “鶴岡の液状化、埋め立て影響か 専門家「余震で被害拡大も」”. 産経ニュース. 2022年10月20日閲覧。
- ^ a b INC, SANKEI DIGITAL (2024年1月2日). “能登半島地震で新潟市西区は液状化、石塀は倒壊、水道管破裂”. 産経ニュース. 2024年1月2日閲覧。
- ^ “電柱や家傾く・・・高岡市伏木で液状化現象 能登半島地震 (北日本放送)”. Yahoo!ニュース. 2024年1月2日閲覧。
- ^ 建築学会(1991年) pp.142-143
- ^ 建築学会(1991年) p.143
- ^ 磯山(1989年) p.78
- ^ 建築学会(1991年) p.99
- ^ レッドファーン(2013年) p.180
- ^ 大久保(1990年) p.34
- ^ 衣笠(1990年) p.13
- ^ 建築学会(1991年) p.132
- ^ 建築学会(1991年) p.137
- ^ 建築学会(1991年) pp.138-139
- ^ 建築学会(1991年) pp.140-142
液状化現象と同じ種類の言葉
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