ちょうしゅうき‐じしんどう〔チヤウシウキヂシンドウ〕【長周期地震動】
長周期地震動
地震の影響についての一般的な理解は「震源から遠ければ遠いほど、伝わるエネルギーは小さくなり、被害も軽微で済む」ということでしょう。ところが震源から数百キロメートルも離れたところで高層ビルや石油タンクが大きな被害を受けることが最近わかってきました。それを引き起こすのが「長周期地震動」です。
通常の震動とは異なり、数十秒という長い周期で揺れることからそう呼ばれます。地震は初期微動(P波=primary)に続いて揺れの大きな主要動(S波=secondary)が伝わりますが、長周期地震動はS波の後に伝わる、ゆったりとした揺れのことをいいます。地表面に沿って揺れが伝わるため「表面波」とも呼ばれます。
2003年に発生した北海道十勝沖地震では、震源から約200キロメートル離れた大型石油タンク内の油が長周期地震動に共振して大きく揺れ、浮屋根を破損させました。この現象をスロッシング(液面揺動)といいます。浮屋根は最大3メートル上昇したことが分かっています。石油タンクの設備とぶつかった衝撃で火花がおこり、火災が発生しました。2004年の新潟県中越地震では、震源から約200キロメートル離れた東京都の超高層ビルでエレベーター6基が損傷を受けています。
建物は大きくなればなるほど、建物固有の揺れの周期は長くなります。これに長周期地震動が加わると、長い周期の揺れが重なり合い、共振という現象が起こりやすくなります。高層ビルや石油タンクが長周期地震動の影響を受けやすいのは、そうした理由によります。
2008年7月、岩手県沿岸北部を震源とする最大震度6強の地震が起こりました。震度の割に建物への被害が軽微で済んだのは震源が100キロメートル超と深かったため、揺れに含まれる長周期地震動の成分が少なかったことも理由の一つといわれます。なぜ、震源が深いと長周期地震動の成分が少なくなるかは科学的に究明されていません。
この長周期地震動に対し、産業界は精力的に対策を進めています。2007年以降、三菱電機、日立製作所、鹿島建設などが長周期地震に対応した「エレベーター地震時管制運転システム」を相次いで発売しました。大成建設は既存の超高層ビル向けの「長周期・長時間地震動対策構法」を開発、このほど都内の超高層ビルから受注、年内に着工の予定です。文部科学省は2007年度から5カ年の研究プロジェクト「首都直下地震防災・減災プロジェクト」をスタート、この中で「長周期地震動による被害軽減対策の研究開発」に取り組んでいますが、同研究開発には大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設、竹中工務店が協力しています。
防災対策の面から忘れてならないのは、震度の小さい地震だからといって油断しないことです。震度は長周期地震動の大きさを測る尺度として適当ではないからです。震度が大きければ長周期地震動が大きくなるかといえば必ずしもそうではありません。震度が小さくても長周期地震動が大きくなる場合もあるため、注意が必要です。
(掲載日:2008/08/21)
長周期地震動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/19 08:54 UTC 版)
長周期地震動(ちょうしゅうきじしんどう、英語: long-period ground motion、LPGM)とは、地震で発生する約2 - 20秒の長い周期で揺れる地震動のことである。周期が長い、すなわち低周波領域で発生するため低周波地震動とも。地震計の発展とともにその存在と性質が研究されるようになり、特に高層建築物が増えた近年は、防災の観点からも対策が重要となっている。
註釈
出典
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長周期地震動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/09 06:44 UTC 版)
鹿児島県薩摩で長周期地震動階級2を観測し、佐賀県南部と熊本県球磨で階級1を観測した。
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長周期地震動
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「千葉県北西部地震 (2021年)」の記事における「長周期地震動」の解説
各地で観測された長周期地震動は以下の通り。 長周期地震動階級都道府県地域階級2千葉県 北西部 東京都 23区 階級1茨城県 南部 群馬県 南部 埼玉県 北部、南部 千葉県 北東部、南部 神奈川県 東部
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長周期地震動
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「熊本地震 (2016年)」の記事における「長周期地震動」の解説
4月14日21時26分の発震からの一連の地震では、階級1以上の長周期地震動を2018年8月までに計13回公表している。特に、最初の発震(4月14日21時26分、M6.5)では階級3、その40分後の地震(4月14日22時7分、M5.8)では階級2を記録、さらに翌15日深夜の地震(4月15日0時3分、M6.4)と、翌16日深夜に最大規模となった地震(4月16日1時25分、M7.3)では気象庁が2013年3月に「長周期地震動に関する観測情報」の公開を開始以来初めてとなる階級4を共に記録している。 4月16日01時25分の地震(M=7.3)での長周期地震動階級階級地方地域階級4 九州 熊本県阿蘇・熊本 階級3 九州 福岡県筑後、大分県中部・西部 階級2 関東 千葉県北西部 近畿 大阪府南部 中国・四国 鳥取県西部、徳島県北部、高知県東部・西部、山口県東部 九州 佐賀県南部、長崎県北部・島原半島、熊本県球磨・天草芦北、大分県北部・南部、宮崎県北部平野部・北部山沿い・南部平野部・南部山沿い、鹿児島県薩摩 階級1 関東 茨城県南部、群馬県南部、埼玉県北部・南部、千葉県北東部・南部、東京都23区、神奈川県東部 中部 新潟県下越、富山県東部・西部、石川県加賀、福井県嶺北・嶺南、長野県中部・南部、静岡県西部、愛知県西部、三重県北部・中部 近畿 滋賀県南部、京都府北部、大阪府北部、兵庫県北部・南東部・南西部・淡路島、和歌山県北部・南部 中国・四国 鳥取県東部・中部、島根県東部、西部、岡山県北部・南部、広島県北部・南東部・南西部、徳島県南部、香川県西部、愛媛県東予・中予・南予、高知県中部、山口県北部・西部・中部 九州 福岡県福岡・北九州・筑豊、佐賀県北部、長崎県南西部・壱岐、鹿児島県大隅 出典: ただし気象庁の事後的なデータ分析によって、2013年2月以前においても、2004年の新潟県中越地震や2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)でも階級4相当の長周期地震動が発生していたことが判明している。
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長周期地震動
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「小笠原諸島西方沖地震 (2015年)」の記事における「長周期地震動」の解説
この地震で長周期地震動を観測した。 階級地域階級2 埼玉県北部 千葉県北西部 東京都23区 八丈島 小笠原 神奈川県東部 長野県中部 階級1 宮城県北部 秋田県内陸南部 山形県庄内 山形県村山 福島県中通り 茨城県南部 栃木県南部 群馬県北部 群馬県南部 埼玉県南部 埼玉県秩父 千葉県北東部 千葉県南部 東京都多摩東部 神津島 新島 神奈川県西部 新潟県中越 新潟県下越 福井県嶺北 山梨県東部・富士五湖 長野県北部 静岡県伊豆 静岡県東部 大阪府北部 大阪府南部 佐賀県南部
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長周期地震動
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「福島県沖地震 (2022年)」の記事における「長周期地震動」の解説
宮城県北部では、長周期地震動階級4を観測した。 長周期地震動階級都道府県地域階級4宮城県 北部 階級3宮城県 南部、中部 山形県 村山 福島県 中通り、浜通り、会津 階級2青森県 津軽北部 岩手県 沿岸北部、内陸北部、内陸南部 秋田県 沿岸南部、内陸南部 山形県 庄内、最上、置賜 茨城県 北部、南部 栃木県 南部 千葉県 北東部、北西部 東京都 23区 新潟県 中越、下越 山梨県 東部・富士五湖 長野県 中部 静岡県 東部 階級1北海道 石狩地方南部、渡島地方東部、後志地方東部、空知地方中部、胆振地方中東部、十勝地方中部、根室地方中部 青森県 津軽南部、三八上北、下北 岩手県 沿岸南部 秋田県 沿岸北部 栃木県 北部 群馬県 北部、南部 埼玉県 北部、南部、秩父 千葉県 南部 東京都 多摩東部 神奈川県 東部、西部 新潟県 上越 長野県 北部、南部 静岡県 中部、西部 愛知県 西部
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長周期地震動
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この地震で島根県では長周期地震動階級2を、鳥取県では階級1を記録している。
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