長周期地震動に対応する設計
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/05 14:12 UTC 版)
「長周期地震動」の記事における「長周期地震動に対応する設計」の解説
長周期地震動に共振して揺れが大きくなる建築物・構造物は、剛構造による耐震に加え、柔構造による免震、制振という考え方で対策することが一般的である。これは高さが50 m程度を超えるような高層建築物だけではなく、同じ規模の橋梁やタンクなどの構造物にも当てはまる。これらについて、それぞれ設計指針が設定されている。 日本では建築基準法およびその関連法規により、特定の用途に供する建物、一定以上の階数・面積を有する建物、中層以上で主要構造部が石造・レンガ造・コンクリートブロック造・無筋コンクリート造などの建物では構造計算により地震動などに対する強度を定めている。規定の特定建築物で義務付けられている二次設計で用いる保有水平耐力計算は、設計地震動に対する応答を考慮した方式である。構造計算法として認められている他の限界耐力計算、エネルギー法も同様に設計地震動に対する応答を考慮している。限界耐力計算、エネルギー法は高度で多大な時間・労力を要する後述の「時刻歴応答解析」を簡略化し静的計算により導出可能とした手法である。また高さ60 mを超える建築物では、動的計算にあたる「時刻歴応答解析」を行うべきことが定められている。また橋梁においては道路橋示方書により、地震時に応答が複雑なものについては時刻歴応答解析を行うことが定められている。時刻歴応答解析は、過去の大地震の地震波を数値化した設計地震動を設計モデルに与えた時の構造部の挙動を解析するもので、高度な技術を要する。この設計地震動の基準として、S波速度400 m/s以上の「解放工学的基盤」における減衰定数5 %での加速度応答スペクトルの大きさ(告示スペクトル)を満たす地震波という基準があり、多用される波形として以下のようなものがある。 エルセントロ波 - 1940年5月18日に発生したM7.1のエル・セントロ地震(英語)におけるエル・セントロの波形。南北方向の加速度が最大342ガルと大きいことや、ランダム性(卓越周期の散乱)がよいことから広く採用される。直下型地震における震源近傍の、地盤の固いところでの地震波。 タフト波 - 1952年7月21日に発生したM7.3のカーン・カントリー地震(英語)におけるタフト(英語)の波形。地盤の固いところでの地震波。 八戸波 - 1968年5月16日に発生した十勝沖地震における八戸市での波形。長周期成分が比較的多い。 仙台波 - 1978年6月12日に発生した宮城県沖地震における仙台市での波形。 神戸波 - 1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震における神戸市(神戸海洋気象台)での波形。直下型地震における震源近傍の、地盤の比較的固いところでの地震波。 また1990年代以降は、地域特性をより反映するために、建設地近辺における小地震の波形をもとに作製された「模擬地震動波形」を使用する場合も増えてきている。 ただし現行の建築基準法における長周期地震動への対策考慮はまだ不十分のままである。設計地震力構造計算には「地震地域係数 Z」を設定しているが、これは旧態の知見にもとづくものであり実態と合わなくなっている。1970年代後半に発生のおそれが特に大きいとされた東海地震への対応として静岡県では独自に政令(最高値Z = 1.0)を超えるZ = 1.2を条例で定めたが、2016年の熊本地震は、大地震が起こりにくいとされ地域係数Z = 0.8が設定された地域で発生し、長周期地震動も観測されている。
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