地球内部物理学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/22 02:32 UTC 版)
地球内部物理学(ちきゅうないぶぶつりがく)は地球内部を研究対象とする自然科学である。地球物理学の一分野に属する。
地球内部を直接掘削して調査することは困難を伴い、これまで地下10km内外を掘削したに過ぎず、内部を探求する方法は主に地球内部を透過する地震波の研究に依るところが大きい。
地球の慣性モーメント
密度が完全に均一な半径 a、質量 M の球の慣性モーメント C は以下の式で表される。
- C = 0.4 Ma2
一方で、地球の形は回転楕円体で近似され、さらに月や人工衛星の軌道の解析、および地球の歳差運動周期から三軸不等としてそれぞれ以下の慣性モーメントが求められている。これらは約 0.33 Ma2 と、密度が均一と仮定した場合より小さいことから中心に向かうにつれ密度が増大していることが判る。また均質な物質であっても地球内部では深度、圧力の増大に伴い圧縮され、密度は徐々に増大し均一とはならない。ここで C軸がほぼ地球の自転軸となる。
- C = 0.330701 ± 0.000002 Ma2
- A = 0.329615 ± 0.000002 Ma2
- B = 0.329622 ± 0.000002 Ma2
地震波の伝播速度
地震波の走時曲線からマントルの地震波速度分布を計算するために、震央距離
地球内部を伝わる地震波である実体波の到達時刻と震央距離との関係である、走時曲線を描くことにより、地球内部の層状構造がわかる。地球内部を構成する物質の剛性率および非圧縮率は深度、圧力の上昇に伴い連続的に増大しその進路はカーブを描き、物質の構成が不連続的に変化する深度で地震波は屈折する。
1909年にアンドリア・モホロビチッチは地下数kmから数十kmのところで P波の伝播速度が不連続的に増大する面を発見し、これは地殻とマントルの境界であるモホロビチッチ不連続面と呼ばれるようになった。
1906年にOldhamが震央距離100°を超える距離で P波が急激に減衰するのを見出し、地球内部の地震波伝播速度の遅い領域が地震波を屈折させ影を形成していると唱えた。この震央距離103°- 143°の領域はシャドウゾーンと呼ばれている。1926年にベノー・グーテンベルグは深さ約2900kmのところで、P波の伝播速度が不連続的に減少し、S波が伝播しなくなる面を発見し、これはマントルと核の境界であるグーテンベルク不連続面と呼ばれるようになった。S波が伝播しないことは核(外核)の剛性率が0、すなわち流体であることを意味する。
1936年にインゲ・レーマンはシャドウゾーンに到達する回折波の存在から核の中に速度が7 - 9%程速くなる領域を見出し、剛性を持った固体からなると考えられ、外核と内核の境界であるレーマン不連続面と呼ばれるようになった[3]。
地球内部を伝わる実体波は地表面で反射し、P波が1回反射すると PPあるいは PSとなり、後者はモード変換が含まれる。2回反射した波は PPPと表記される。また外核の表面で反射した地震波は PcPあるいは ScSと表記し、核および地表で反射を繰り返した PcPPcPあるいは ScSScS (ScS2)などの地震波も存在する。
また、外核を伝播する P波は Kと表記され、外核を通過し再びマントルに出た地震波は PKPと表記される。モード変換により、PKS、SKSおよび SKPというフェーズも存在する。内核を通過する地震波は PKIKPなどと表記され、内核表面で反射し外核を通過する地震波は PKiKPなどと表記される[4]。
モンテカルロ法による速度分布
でたらめに選んだ多数のモデルで P波および S波の走時、地球の質量、慣性モーメントが説明できるか否かのテストを繰り返し、深さの関数としての P波および S波の速度分布、および密度分布の範囲が求められた。
このような手法をモンテカルロ法と呼び、その範囲は古典的方法により求められた速度分布および密度分布に一致する[5]。
インバージョン
P波および S波の走時曲線、表面波の分散、地球震動スペクトルなどの観測結果から、剛性率および密度分布などの地球モデルのパラメーターを直接求める方法をインバージョンと呼ぶ。
m 個の物理量の観測データ Oj (j = 1, 2, … m) と n 個の地球モデルパラメーター Pi (i = 1, 2, … n) の場合、Pi を与えると、
- Cj = Fi(Pi) , j = 1, 2, … m
によりこのモデルに期待される物理量 Cj が計算される。この計算値と観測値との差 Oj - Cj が極小と成るようなデータセットを選ぶことにより最適化されたパラメーターを求める。モンテカルロ法もインバージョンの一種である[5]。
観測値の数 n、モデルパラメーターの数 m である正方行列では連立方程式の数と未知数の数は等しく m = n のとき、行列 G に対する逆行列 G-1 が存在すると仮定すれば、
- G-1 d = m
の式により m について解くことができる。
地球内部のパラメーター
過去には和達ら[6]、ハロルド・ジェフリーズ[7][8][9]およびベノー・グーテンベルグ[10]により P波および S波の深度に対する速度分布が求められた。Bullen(1936)は地殻をA層、マントルをB層, C層, D層、外核をE層, F層、内核をG層に分け、速度分布、密度分布を求めている[11]。Jordan and Anderson(1974)も速度分布および密度分布を求めている[12]。これらは何れも古典的方法によるものであった。
地球内部の密度、剛性率、圧力、地震波の伝播速度などの物性の分布を深さの関数として表現した地球モデルの一つにPREM (Preliminary Reference Earth Model)がある[13][14]。
PREM作成には膨大な数の実体波の走時、自由震動の固有周波数、表面波の減衰などの結果が用いられた。このPREMは海洋と大陸のリソスフェアについて個別のモデルが求められているが、球対称から外れる不均質な分布を三次元的に表現するには至っていない。
密度分布
地球の平均密度は、キャベンディッシュの実験により得られる万有引力定数から地球質量を算出し、体積を用いてその平均密度ρ = 5.5 × 103 kg m-3 が求められている。しかし、地球内部の密度は均一ではなく、慣性モーメントおよび、地球表面を造る岩石の密度ρ = 2.6-3.0 × 103 kg m-3 から深部はより高密度な物質であることが窺われる。
地球内部のマントルなどは固体からなるが、地球サイズでみれば全体を液体と見做すことが可能で静水圧平衡が成立していると仮定される。
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