落書き
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/13 04:41 UTC 版)
現代の落書き問題
現代社会で文化財のような公共財産を含む他者の財産への落書きによる汚損や破壊・落書きを放置すると治安悪化と落書き増加を招くこと・消す費用のが圧倒的に高いこと、その費用を被害者が負うこと、問われる罪が軽過ぎることが問題になっている[11][12][13][14][15][16]。落書きをする人々は、犯罪でしか自己顕示欲や承認欲求を満たせない「つまらない人間」であり、犯罪者として法的責任を負わせる必要がある[11]。一つ許すと模倣犯も増殖する。彼らは「アート」と主張するが、自己の財産以外への落書きは犯罪行為であり、器物損壊罪等にあたり、3年以下の懲役または30万円以下の罰金に課せられる。現場を直撃された落書き犯はかつ「自分は書きたい場所に書いているだけ。人の家だろうが、公共だろうが、国のなんちゃらだろうが。」「みんなそういうの思い思いに書いたりするのがアートなんで。それで成り立っている世界なんで。」と主張している。落書きされた財産の持ち主らからの依頼で落書消し業者の男性は、 書くのは簡単だろうが「消すのは大変」と指摘している[12]。
公共施設や他人の家屋・店舗などに勝手にペイント書きをする行為は、各国の法律において器物損壊、犯罪行為であり、落書きという様式の暴力(ヴァンダリズム)である。
特に他人を誹謗・中傷する意図で攻撃的な文言を書き残した場合は、脅迫の範疇によって扱われる。これは刑法にいうところの器物損壊としてれっきとした犯罪行為であるとともに道徳的に見ても公共良俗を損なう行為である。
建造物・天然記念物への落書き
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歴史的建造物に来訪者が落書きを残すケースは多く、1980年代 - 1990年代には日本人観光客らが訪れた国の文化財とされる歴史的建造物を汚損したとして逮捕される事例も度々出て問題視された。万里の長城では、観光客らによる落書き(彫り込んだもの)などにより、風化が進むことが懸念されている。日本の奈良の大仏殿など一般公開されている神社仏閣の汚損も酷く、大阪城でもハングルの落書きが問題視されている。後述のドイツ・ハイデルベルクの学生牢やハイデルベルク城でも本来の落書きのほか、観光客がドイツ語のほか、英語・日本語・中国語・韓国語など様々な言語による落書きを行っている。2003年に日本人の青年がイースター島のモアイにサインを彫りこんで国立遺産法違反で逮捕されている[17]。2016年に神奈川大学の学生2名がケルン大聖堂に落書きし、それをツイッターで公開、神奈川大学はケルン大聖堂に謝罪している[18]。
また天然記念物や自然の景観を汚損する落書きをするケースでは、それら傷付けられた動植物の生命を脅かす事態まで発生しているとされる。1989年に、スクープを目論んだ朝日新聞社カメラマンによってサンゴが傷付けられ(朝日新聞珊瑚記事捏造事件)、大きな社会問題とされたが、同時にサンゴ落書き問題が方々で発生していることもクローズアップされた。
便所の落書き
学校を含む公共の場としての便所には、落書きが書かれている場合が多い。そこには愚にもつかない駄文から、個人情報とおぼしき文字列までさまざまな情報が書かれているが、稀に秀逸なジョークや、非常に興味深い警句もみられる。馬上、枕上、厠上の3つを文章を練りやすい場所という意味で「三上」というように、便所を使用している最中は、様々な思索が交錯しやすい。それの発露が便所の落書きといえる。多種多様な人間の利用する駅や高速道路サービスエリアの公衆便所では、多様な落書きが見出される。
特に日本では1990年代以降、携帯電話番号の落書きが増える傾向が顕著だが、これは本人の番号ではなく、他人の番号を書き散らして個人攻撃を実現する目的と推測される。公園に併設された衛生状態の芳しくない公衆便所では、暴走族の叫びにも似た自己主張的なマーキング、同性愛者向けの交流に向けたメッセージも見られる。
いずれにしても、第三者にとっては無価値な情報であるものが多く、有益な情報が残されていることは稀である。またそれら雑情報に埋もれる格好で、他の情報までその価値を失うという現象も見られる。ノイズの項を参照。
以下に国によって地域性の見られる落書き事例とその対応について述べる。
アメリカ
アメリカでは、1970年代より都市部の落書きが、犯罪や失業の増加とあいまって深刻な社会問題と化した。一方これらはエアロゾール(グラフィティ)と呼ばれるヒップホップ文化の重要な要素であり、多くのグラフィティや出身の画家やイラストレーターを輩出した(ストリートアートを参照、またニューヨークのグラフィティ・シーンを追った2002年の映画『ボム・ザ・システム』もこの文化に関して詳しい)。しかし、その他ギャングの縄張りを示す走り書き(タギング)のような悪質なものも相当見られた。1990年代以降各都市の施策により頻繁に消去されるようになった。
ニューヨークのクィーンズ区にあった建物「ファイブ・ポインツ(5 Pointz)」は、不動産所有者が落書きアートの表現場所としてグラフィティ・アーティストたちに20年間に渡り提供してきており、国際的にも名所として有名であったが、2013年に再開発計画に伴い落書きを塗りつぶし、2014年には建物そのものを取り壊したとしたことに対し、破壊前に作品保存の機会を与えるべきであったとして、21人のアーティストたちが「視覚芸術家権利法(VARA)」違反として損害賠償請求の訴訟をおこし、2018年にニューヨークの連邦地裁は喪失した45の落書き各作品に対し、法定損害賠償上限となる15万ドル(約1,600万円)計7億円を超える賠償額を認める判決を出している[19]。
なお米国にはキルロイ参上(“Kilroy was here”:「キルロイは此処に来た」とも)と呼ばれる伝統的落書きの様式があり、第二次世界大戦当時にはアメリカのあちこちに存在し、一説に拠れば朝鮮戦争からイラク戦争に至るまで、米軍が軍事活動した地域には、しばしばこういった落書きが残されたという[20]。
イギリス
イギリス・ロンドンには縦横無尽に地下鉄が走っているが、その窓への落書きがみられ問題とされている。これらはダイヤモンドの指輪などによって付けられたもので、ガラス面を直接傷つけるために強度低下が心配され、地下鉄の管理側は罰金を課して取り締まってはいるが、完全には防ぎきれていない。なおこういった傷は、ガラス切りでガラスを切削するのと同様であり、クラッカープレートと同じ原理により最終的には割れる可能性を含んでいて、大変危険な行為である。
イタリア
多くの歴史的事件の舞台となり、文化財も多く残っている世界的な観光地であるイタリアだが、歴史的建造物への落書きは多い。落書きの大半はイタリア人によるもの[21]であり、言語別ではイタリア語や英語、スペイン語が大部分を占める[22]。
イタリア人は落書きに対して寛容であり、上述のとおりイタリア語の落書きは多い。2008年6月にサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂への京都産業大学や岐阜市立女子短期大学の学生、教育者であるべき常磐大学高等学校野球部監督による落書きが新聞やニュースで相次いで取り上げられ、関係者が停学等の処分を受けたことについては、「いきすぎた処分であり、イタリアではあり得ない」と地元紙が報道した[21]。
もっとも立場が変われば意見は変わるもので、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の技術責任者・ビアンキーニが「日本の出来事は、落書きが合法と思っているイタリア人にはいい教訓だ」と述べたように、イタリア人の意識に釘を刺す意見もある[21]。
シンガポール
観光産業に力を入れるシンガポールでは、落書きは都市の景観を汚損する重大な犯罪と見なされている。鉛筆やクレヨン等による消すことが比較的簡単なものは初犯に限り注意に留められるが、ペンキや油性ペン等による落とし難いもので落書きした場合は鞭打ち刑が科せられる。1993年にアメリカ人の18歳男性が他人の自動車にスプレーペンキで落書きをして逮捕された。シンガポール政府は当時の合衆国大統領ビル・クリントンによる嘆願書を退け、「鞭打ち4回」の刑罰を執行して国際的にも大きく取り上げられた。
2010年にスイス人の32歳男性が夜中に一人のイギリス人とともにチャンギ車両基地に忍び込み、2台の車両にスプレー落書きをした。一週間後、スイス人は逮捕されて5か月の懲役と「鞭打ち3回」判決された。他のイギリス人の共犯はまだ逮捕されず香港にいると考えられている[23]。
ドイツ
ドイツ鉄道では落書き被害が深刻なため、落書き消し技術の開発を行っている[13]。
日本
現代日本では、戦後初期の学生運動や新左翼的な政治運動の過激化により、政治的メッセージの落書き(ゲバ字が使われた)やアジ電車が増殖した。全学共闘会議(全共闘)および新左翼の学生が東京大学本郷キャンパス安田講堂を占拠した東大安田講堂事件では大量の落書きが行われたことが記録されている。1970年代~1980年代は校内暴力の時代となり不良や暴走族による難読漢字の羅列が多く見られ、 バブル崩壊後はシャッター通りや破綻した観光施設などが増加し、これら管理放棄された建物が狙われやすい。市民有志による除去活動も見られる。日本の法令では文化財保護法違反、建造物損壊罪、器物損壊罪、軽犯罪法違反、落書防止条例違反などに問われる。また、別途、所有者や管理者から修復費などを含む賠償金を請求される。2018年に茨城県取手市で器物損壊容疑で摘発された者の例では、示談のために457万円を同市に支払った[24]。
- ^ a b フジテレビ系(FNN). “コロナ禍「原宿」は落書き増加 渋谷区「描かれたらすぐ消す!」(フジテレビ系(FNN))”. Yahoo!ニュース. 2021年5月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月12日閲覧。
- ^ “文化財なら罰則アップ、悪質なら5年以下の懲役刑も!-落書き:トラブル脱出の知恵”. PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2010年5月4日). 2024年4月13日閲覧。
- ^ a b FNNプライムオンライン. “「落書き消します」渋谷区がコロナ禍で増える落書きに専用窓口を設置…安心安全な街をアピール”. www.msn.com. 2021年5月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月12日閲覧。
- ^ a b “子どもの落書きが止まらない!対処法をご紹介!|ベネッセ 教育情報サイト”. ベネッセ 教育情報サイト. 2021年5月12日閲覧。
- ^ 参考文献: NHKスペシャル ローマ帝国 2 ポンペイの落書き、ポンペイ・グラフィティ―落書きに刻むローマ人の素顔 / 中公新書
- ^ ヘルプ!広島市立袋町小学校被爆校舎(西校舎)アーカイブ
- ^ 袋町小学校平和資料館
- ^ 三上喜孝『落書きに歴史をよむ』吉川弘文館、2014年。p4
- ^ 1996年 - 97年頃の発言。スキゾ・エヴァンゲリオン、パラノ・エヴァンゲリオンなどを参照。
- ^ News23多事争論(1999年7月15日のインターネットアーカイブキャッシュ)
- ^ a b “玉川徹氏、「落書き」動画投稿者に憤慨「犯罪でしか自己顕示欲を満たせない…なんてつまらない人間」”. スポーツ報知 (2024年3月12日). 2024年4月13日閲覧。
- ^ a b “謎の「エビチリ」渋谷・下北沢で迷惑落書き急増 犯行の瞬間を直撃すると「書きたい場所に書いているだけ アートなんで」(めざましmedia)”. Yahoo!ニュース. 2024年4月13日閲覧。
- ^ a b 「バンクシー」消した地下鉄、判断は適切だった? 欧州の鉄道、「落書き」の被害は深刻な問題 | 海外 | 東洋経済オンライン
- ^ “いたずらでは済まない!落書きは犯罪です!|熊取町”. www.town.kumatori.lg.jp. 2024年4月13日閲覧。
- ^ “落書きは犯罪です | 落書き対策 | 渋谷区ポータル”. www.city.shibuya.tokyo.jp. 2024年4月13日閲覧。
- ^ a b 藤沢市. “まちから落書きをなくしましょう!”. 藤沢市. 2024年4月13日閲覧。
- ^ 海外邦人事件簿|Vol.06外務省
- ^ 神奈川大生、ケルン大聖堂に落書き ツイッターで発覚朝日新聞
- ^ “落書きアート消した開発業者に賠償命令7億円超、米NY”. AFP BB NEWS. フランス通信社 (2018年2月14日). 2018年2月19日閲覧。
- ^ The Legends of "Kilroy Was Here"
- ^ a b c 「<落書き>伊紙「あり得ない」 日本の厳罰処分に」『毎日新聞』2008年7月1日
- ^ 「ハートマークに相合い傘 落書きだらけのイタリア大聖堂」『中國新聞』2008年6月29日付配信
- ^ スプレー落書きを受けた列車の動画
- ^ “公共物に落書きの男性が賠償金450万円支払う”. 毎日新聞 (2019年6月4日). 2019年6月18日閲覧。
- ^ どうしても落書きしたい?アプリでどうぞ 伊フィレンツェAFPBB 2016年5月3日閲覧
- ^ ビルの外壁に落書き、豪州国籍の2人を逮捕「渋谷はいいと思った」、ライブドアニュース、2018年2月7日。
- ^ 落書きNO! 「渋谷はOK」外国人ら誤解?、日本経済新聞、2016年10月12日。
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