全文 観世流の場合
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「道成寺 (能)」の記事における「全文 観世流の場合」の解説
名宜 ワキ:『これハ紀州道成寺乃住僧にて候。さても当寺に於いてさる、子細あって。久しく撞鐘退転、仕りて候を。この程再興し鐘を、鋳させて候。今日、吉日にて候程に。鐘乃供養を致さばやと、存じ候。 ワキ :『(、)いかに能力 狂言 :『御前にて候 ワキ :『はや鐘をば鐘楼へ、上げてあるか 狂言 :『さん候はや鐘楼へ上げて候御覧候へ ワキ :『今日鐘乃供養を致さう(そう)ずるにてあるぞ。又さる、子細ある間。女人、禁制にてあるぞ。構へて一人も、入れ候な。その分心得候へ 狂言 :『畏って候 次第 シテ:『作りし罪も消えぬべし。つくりし罪も消えぬべし。鐘の供養に参らん サシ シテ:『これハこの国乃傍に住む白拍子にて候。さても道成寺と申す、御寺に。鐘の供養乃御入り候由 道行 シテ:『月ハ程なく入汐の。月ハ程なく入汐の。煙満ち来る小松原。急ぐ心かまだ暮れぬ。日高の寺に着きにけり日高の寺に着きにけり シテ :『急ぎ候程に。日高乃寺に着きて候。軈て供養を、拝まう(もう)ずるにて候 狂言 :『セリフあり シテ :『これハこの国乃傍に住む、白拍子にて候。鐘の供養にそと舞を、舞ひ候べし。供養を拝ませて、賜はり候へ 狂言 :『セリフあり シテ :『あら嬉しや。涯分舞を、舞い候べし シテ :『物着 (ここで前折烏帽子を付ける) シテ :『嬉しやさらば、舞わんとて。あれにまします、宮人乃。烏帽子を暫し、假に著て。 カカル シテ:『既に拍子を進めけり 次第 シテ:『花の外にハ松ばかり。花乃外にハ松ばかり暮れ初めて鐘や響くらん ~~乱拍子~~ ワカ シテ:『道成の卿。うけたまはり。初めて伽藍。たちばなの。道成興行乃寺なればとて。道。 ノル シテ:『成寺とハ名づけたりや 地謡 :『山寺のや ~~急之舞~~ ワカ シテ:『春乃夕暮。来て見れば ノル 地謡:『入相の鐘に花ぞ散りける。花ぞ散りける花ぞ散りける シテ :『さる程にさる程に。寺々の鐘 地謡 :『月落ち鳥啼いて霜雪天に。満汐程なく日高の寺乃。江村の漁火。愁いに対して人々眠れば好き隙ぞと。立ち舞ふ様にて狙ひ寄りて。撞かんとせしが。思へばこの鐘恨めしやとて。龍頭に手を掛け飛ぶとぞ見えし。引きかづきてぞ失せにける 中入 狂言 :『セリフあり ワキ :『言語道断。かやうの儀を、存じてこそ。固く女人禁制の由申して候に、曲事にてあるぞ。 狂言 :『ワキとの問答あり ワキ :『なうなう皆々かう(こう)、渡り候へ。この鐘に就いて女人禁制と申しつる謂はれの候を、御存じ候か ワキツレ :『いや何とも、存ぜず候 ワキ :『さらばその謂はれを語って、聞かせ申し候べし ワキツレ :『懇に、御物語候へ 語 ワキ :『昔、この所に。真砂の荘司と、云ふ者あり。かの一人の息女をもつ。又その頃、奥より熊野へ年詣でする、山伏乃ありしが。荘司が許を、宿坊と定め。いつも、かの所に来りぬ。荘司娘を、寵愛の餘りに。あの、客僧こそ。汝がつまよ 夫よなんどと、戯れしを幼心に眞と思ひ、年月を送る。また幾時か客僧荘司が許に、来りしに。かの女夜更け、人静まって後え。客僧の、閨に行。何時までわらはをばかくて、置き給ふぞ。急ぎ迎え給へと、申ししかば。客僧大きに騒ぎ。(、)ざあらぬ由にもてなし。夜に紛れ忍び出で、この寺に来り。ひらに頼む由、申ししかば。隠すべき、所なければ。撞鐘を下しその内にこの客僧を隠し置く。さてかの女ハ、山伏を。逃すまじとて、追っかくる。折節日高川乃水以っての外に、増りしかば。川の上下を彼方此方へ、走り廻りしが。一念の、毒蛇となって。川を易々と泳ぎ越し、この寺に来り。此処 彼処を、尋ねしが。鐘の下りたるを怪しめ。龍頭を銜へ七まとひ纏ひ。焔を出し、尾を以って叩けば。鐘は即ち、湯となって。終に山伏を、取り畢んぬ。なんぼう恐ろしき、物語にて候ぞ ワキツレ :『言語道断。かかる恐ろしき、御物語こそ候はね ワキ :『その時の女乃執心残って。又この鐘に障礙をなすと、存じ候。我人の、行劫も。かやうの為にてこそ候へ。涯分祈って。この鐘を二度鐘楼へ上げう(ぎょう)ずるにて候 ワキツレ :『尤も、然るべう(びょう)候 カカル ワキ:『水かへって日高川原の。真砂の数ハ盡くるとも。行者の法力盡くべきかと ワキツレ :『皆一同に聲を上げ ワキ :『東方に降三世明王 ワキツレ :『南方に軍荼利夜叉明王 ワキ :『西方に大威徳明王 ワキツレ :『北方に金剛夜叉明王 ワキ :『中央に大日大聖 不動 ワキ ワキツレ:『動くか動かぬか索乃。(曩)莫三曼多縛曰羅赦。戰拏摩訶路灑拏。娑破吨也吽怛羅吨悍(牟含)聴我説者得大智慧。知我心者即身成彿と。 ワキ :『何の恨みか有明の。撞鐘こそ 地謡 :『すはすは動くぞ祈れただ。すはすは動くぞ祈れただ。引けや手ん手に千手の陀羅尼。不動乃慈救の偈。明王乃火焔の。黒煙を立ててぞ祈りける。祈り祈られ撞かねどこの鐘響き出で。引かねどこの鐘躍るとぞ見えし。程なく鐘楼に引き上げたり。あれ見よ蛇体ハ。現れたり 「祈」 キリ 地謡:『謹請東方青龍清浄謹請西方白帝白龍謹請中央黄帝黄龍一大三千大子世界の恒沙乃龍王哀愍納受。哀愍じきんの砌なれば。何処に大蛇のあるべきぞと。祈り祈られかっばと転ぶが又起き上って忽ちに。鐘に向って吐く息ハ。猛火となってその身を焼く。日高乃川波深渕に飛んでぞ入りにける。望み足りぬと験者達はハ和が本坊にぞ帰りける 我が本坊にぞ帰りける 不適切な仮名遣いや送り仮名等があるが、謡本の通りに記した。
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全文 観世流の場合
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名乗 ワキ「これハ大江の定基と云はれし、寂昭法師にて候。我入唐渡天し。はじめて彼方此方を、拝み廻り。只今清涼山に、参りて候。これに見えたるが石橋にて、ありげに候。暫く人を待ち、委しく尋ね。この橋を渡らばやと、存じ候 【一声】一セイ シテ「松風の。花を薪に吹き添へて。雪をも運ぶ。山路かな サシ「山路に日暮れぬしょうか(漢字)牧笛の聲。人間萬事様々の。世を渡り行く身の有様。物毎に遮る眼の前。光乃蔭をや送るらん 下歌「餘りに山を遠く来て雲また跡を立ち隔て 上歌「入りつる方も白波の。入りつる方も白波の。谷の川音雨とのみ聞えて松の風もなし。げにやあやま(漢字)って半日の客たりしも。今身の上に知られたり今身の上に知られたり ワキ「いかにこれなる山人に尋ぬべき、事の候 シテ「何事を、御尋ね候ぞ ワキ「これなるハ承り及びたる、石橋にて候か シテ「さん候これこそ、石橋にて候へ。向ひハ文殊の浄土、清涼山よくよく、御拝み候へ ワキ「さてハ、石橋にて候ひけるぞや。さあらば身命を、佛力に委せて。この橋を渡らばやと、思い候 シテ「暫く候。そのかみ名を得給ひし、高僧達も。難行苦行、捨身の行にて。此処にて月日を、送りてこそ。橋をば、渡り給ひしに。 カカル シテ「獅子ハ小虫を食はんとても。まづ勢ひをなすとこそ聞け。我が法力のあればとて。行くこと難き石乃橋を。たやすく思い渡らんとや。あら危うしの御事や ワキ「謂はれを聞けばありがたや。ただ世の常乃行人ハ。左右なう渡らぬ橋よなう シテ「御覧候へ、この瀧波乃。雲より落ちて、数千丈。瀧壺までハ、霧深うして。身の毛もよだつ、谷深み カカル ワキ「巌峨々たる岩石に シテ「僅かに懸る石の橋 ワキ「苔ハ滑りて足もたまらず シテ「わたれば目も眩れ ワキ「心もはや 上歌 地「上の空なる石の橋。上の空なる石の橋。まづ御覧ぜよ橋もとに。歩み臨めばこの橋の。面は尺にも足らずして。下は泥梨も白波の。虚空を渡る如くなり。危しや目も眩れ心も。消え消えとなりにけり。おぼろけの行人ハ。思いも寄らぬ御事 ワキ「尚々橋の謂はれ、御物語候へ 【打掛】クリ 地「それ天地開闢乃このかた。雨露を降して國土を渡る。これ即ち天の浮橋ともに云へり サシ シテ「その外國土世界に於いて。橋の名所さまざまにして 地「水波の難を遁れ。萬民富める世を渡るも。即ち橋の徳とかや クセ 地「然るにこの。石橋と申すハ人間の。渡せる橋にあらず。自れと出現して。続ける石の橋なれば石橋と名を名付けたり。その面僅かに。尺よりハ狭うして。苔はなはだ滑かなり。その長さ三丈餘。谷のそくばく深き事。千丈餘に及べり。上にハ瀧の糸。雲より懸りて。下ハ泥梨も白波の。音ハ嵐に響き合いて。山河震動し。雨土塊を動かせり。橋の気色を見渡せば。雲に聳ゆるよそほひの。たとへば(漢字)夕日の雨乃後に虹をなせる姿また弓を引ける形なり シテ「遥かに望んで谷を見れば 地「足すさましく肝消え。進んで渡る人もなし。神變佛力にあらずハ誰かこの橋を渡るべき。向ひハ文殊の浄土にて常に笙歌の花降りて。笙笛琴箜篌夕日の雲に聞え来目前の奇特あらたなり。暫く待たせ給えや。影向の時節も今幾程によも過ぎし 【中入】 【乱序】後シテ 獅子 地「獅子團乱旋の舞楽の砌。獅子團乱旋の舞楽の砌。牡丹の英匂い充ち満ち。大筋力乃獅子頭。打てや囃せや牡丹房。牡丹房。黄金の蘂現れて。花に戯れ枝に伏し轉び。げにも上なき獅子王の勢ひ。靡かぬ草木もなき時なれや。萬歳千秋と舞ひ納め。萬歳千秋と舞ひ納めて。獅子の座にこそ。直りけれ 表現の揺れや不自然な漢字等があるが、謡本通りに記した
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全文 観世流の場合
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ワキ ワキツレ:【真ノ次第(五段次第)(翁附の場合は禮脇又は五段次第)】 ワキ ワキツレ 次第「今を始め乃旅衣。今を始め乃旅衣日も行く末ぞ久しき ワキ 名ノリ「そもそもこれハ九州、肥後乃國。阿蘇乃宮の神主友成とハ、我が事なり。我いまだ、都を見ず候程に。この度思ひ舘都に、上り候。又よき、序なれ ば、播州高砂乃浦をも一見せばやと、存じ候 ワキ ワキツレ 道行「旅衣。末遥々の都路を。末遥々乃都路を。今日思ひ立つ浦乃波。船路のどけき春風乃幾日来ぬらん後末も。いさ白雲の遥々と。さしも思ひし播摩潟高砂乃浦に。着きにけり高砂の浦に着きにけり 前シテ(以下シテ) ツレ:【真ノ一声】 シテ ツレ 一セイ「高砂の。松乃春風吹き暮れて。尾上乃鐘も。響くなり ツレ 二ノ句「波ハ霞乃磯がくれ。 シテ ツレ「音こそ汐の。満干なれ【アユミ(アシラヒ)】 シテ サシ「誰をかも知る人にせん高砂乃。松も昔の友ならで。 シテ ツレ サシ続「過ぎ来し世々ハ白雪乃。積り積りて老の鶴乃。時に残る有明の。春乃霜夜の起居にも松風を乃み聞き馴れて。心を友と。菅筵の。思ひを延ぶるばかりなり シテ ツレ 下歌「訪れは松に言問ふ浦風の。落葉衣の袖添へて木陰の塵を掻かうよ木陰乃塵を掻かうよ シテ ツレ 上歌「所ハ高砂の。 ツレ「所ハ高砂の。 シテ ツレ「尾上の松も年ふりて。老の波も寄り来るや。木の下蔭の落葉かくなるまで命ながらえて。なほ何時までか生の松。それも久しき。名所かなそれも久しき名所かな ワキ「里人を、相待つ處に。老人、夫婦来れり。いかにこれなる老人に尋ぬべき、事乃候 シテ「此方の事にて候か、何事にて候ぞ ワキ「高砂の松とハ何れの木と、申し候ぞ シテ「只今木蔭を清め候こそ、高砂の松にて候へ ワキ「高砂住吉の松に、相生乃名あり。當所と住吉とハ國を、隔てたるに。何とて相生乃松とハ、申し候ぞ シテ「仰せの如く、古今乃序に。高砂、住吉乃松も。相生のやうに覚えとあり、さりながら。この尉は津の國、住吉の者。これなる姥こそ、當所の人なれ。知る事あらば、申さ給へ ワキ「不思議や見れば老人の。夫婦一所にありながら。遠き住吉高砂の。浦山國を隔てて住むと。云ふハ如何なる事やらん ツレ「うたて乃仰せ候や。山川萬里を隔つれども。互に通ふ心遣ひ乃。妹背の道ハ遠からず シテ「まづ案じても、御覧ぜよ。 シテ ツレ「高砂住吉の。松ハ非情乃物だにも。相生乃名ハあるぞかし。ましてや生ある人として。年久しくも住吉より。通ひ馴れたる尉と姥ハ。松もろともに。この年まで。相生乃夫婦となるものを ワキ「謂はれを聞けば面白や。さてさて前に聞えつる。相生乃松の物語を。所に言い置く云われハなきか シテ「昔乃人の、申ししハ。これハめでたき、世乃例なり ツレ「高砂と云ふハ上代乃。萬葉集の古の義 シテ「住吉と申すハ。今この御代に住み給ふ、延喜乃御事 ツレ「松とハつ(漢字)きぬ言乃葉の シテ「栄えハ古今、相同じと。 シテ ツレ「御代を崇むる喩へなり ワキ「よくよく聞けばありがたや。今こそ不審春乃日の シテ「光和らぐ西乃海乃 ワキ「彼處ハ住吉 シテ「此處ハ高砂 ワキ「松も色添ひ シテ「春も ワキ「長閑に 地 「四海波静かにて。國も治まる時つ風。枝を鳴らさぬ御代なれや。あひに相生乃。松こそめでたかりけれ。げにや仰ぎても。事も疎かやかかる代に。住める民とて豊かなる。君の恵みぞ。ありがたき君の恵みぞありがたき ワキ「なほなほ高砂乃松のめでたき謂はれ委しく、御物語候へ 地 クリ「それ草木心なしとハ申せども果実の時を違へず。陽春乃徳を具へて南枝花始めて開く シテ サシ「然れどもこ乃松ハその気色とこしなへにして花葉時を分かず 地 「四つ乃時至りても。一子年乃色雪の中に深く。またハ松花乃色十廻りとも言へり シテ「かかるたよりを松が枝の 地 「事の葉草の露乃玉。心を磨く種となりて シテ「生きとし生ける。も乃ごとに 地 「敷島乃かげによるとかや 地 クセ「然るに。長能が詞にも。有情非情乃そ乃聲みな歌に洩るる事なし。草木土砂。風聲水音まで萬物の籠る心あり。春乃林乃。東風に動き秋乃虫の。北露に鳴くも皆和歌乃姿ならずや。中にもこ乃松ハ。萬木に勝れて。十八公乃よそほひ。子秋乃緑をなして。古今の色を見ず。始皇乃御爵に。預かる程乃木なりとて異國も。本朝にも萬民これを賞翫す シテ「高砂乃。尾上の鐘の音すなり 地 「暁かけて。霜ハ置けども松が枝乃。葉色ハ同じ深緑立ち寄る蔭の朝夕に。掻けども落葉乃つ(漢字)きせぬハ。真なり松の葉乃散り失せずして色ハなほ真折乃葛ながき世の。喩へなりける常磐木の中にも名ハ高砂乃。末代の例にも相生乃松ぞめでたき 地 ロンギ「げに名を得たる松が枝乃。げに名を得たる松が枝の。老木の昔顕して。そ乃名を名のり給えや。 シテ ツレ「今ハ何をか褁むべき。これハ高砂住吉乃。相生乃松の精。夫婦と現じ来たりたり 地 「不思議やさてハ名所の。松の奇特を顕して シテ ツレ「草木心なけれども 地 「畏き世とて シテ ツレ「土も木も 地 「我が大君の國なれば。何時までも君が代に。住吉に先ず行きてあれにて。待ち申さんと。夕波乃汀なる海女乃小舟にうち乗りて追風に任せつつ沖乃方に出でにけりや沖の方に出でにけり 【中入 狂言間語アリ】 ワキ ワキツレ「高砂や。こ乃浦舟に帆をあげて。こ乃浦舟に帆をあげて。月もろともに出汐の。波乃淡路乃島影や。遠く鳴尾の沖過ぎてはや住吉に。つきにけりはや住吉に着きにけり 後シテ(以下シテ):【出端】 シテ「我見ても久しくなりぬ住吉乃。岸乃姫松幾代経ぬらん。睦ましと君ハ知らずや瑞牆の。久しき代々乃神かぐら。夜の鼓乃拍子を揃えて。すずしめ給へ。宮つ子たち 地 「西の海。檍が原乃波間より シテ「現れ出でし。神松の。春なれや。残ん乃雪の浅香潟 地 「玉藻刈るなる岸陰乃 シテ「松根によ(漢字)って腰を摩るれば 地 「子年の翠。手に満てり シテ「梅花を折って頭に挿せば 地 「二月の雪衣に落つ【神舞】 地 ロンギ「ありがた乃影向や。ありがた乃影向や。月住。吉の神遊。御影を拝むあらたさよ シテ「げにさまざまの舞姫乃。聲も澄むなり住吉乃。松影も映るなる青海波とハこれやらん 地 「神と君との道すぐに。都の春にいくべくハ シテ「それぞ還城楽乃舞 地 「さて萬歳の シテ「小忌衣 地 「さす腕にハ。悪魔を拂ひ。をさむる手にハ。壽福を抱き。子秋楽ハ民を撫で。萬歳楽にハ命を延ぶ。相生乃松風諷々乃聲ぞ楽しむ諷々乃聲ぞ楽しむ
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全文 観世流の場合
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ワキ ワキツレ:【一声】 ワキ ワキツレ「風早乃。三保の浦曲を漕ぐ舟乃。浦人騒ぐ。波路かな サシ ワキ「これは三保の松原に。白龍と申す漁夫にて候。 ワキ ワキツレ「万里乃好山に雲忽ちに起り。一樓の名月に雨初めて晴れり。げに長閑なる時しもや。春の景色松原の。波立ち続く朝霞。月も残り乃天の原。及びなき身の眺めにも。心そらなる景色かな 下歌 ワキ ワキツレ「忘れめや山路を分けて清見潟。遥かに三保の松原に。立ち連れいざや。通はん立ち連れいざや通はん 上歌 ワキ ワキツレ「風向かふ。雲乃浮波立つと見て。雲乃浮波立つと見て。釣せで人や帰るらん。待て暫し春ならば吹くものどけき朝風乃。松ハ常磐の聲ぞかし。波は音なき朝凪に。釣人多き。小舟かな釣人多き小舟かな ワキ「我三保の、松原に上り。浦の景色を、眺むる処に。虚空に花降り、音楽聞え。霊香、四方に薫ず。これ常事と、思はぬ處に。これなる松に美しき、衣懸かれり。寄りて見れば色香妙にして常の、衣にあらず。いかさま取りて帰り古き、人にも見せ家の宝となさばやと、存じ候 呼掛 シテ「なうそ乃衣ハ、此方乃にて候。何しに、召され候ぞ ワキ「これハ拾ひたる衣にて候程に取りて、帰り候よ シテ「それハ天人の、羽衣とて。たやすく人間に興ふべき、物にあらず。もと乃如くに、置き給へ ワキ「そもこ乃衣の、御主とハ。さてハ天人にて、ましますかや。さもあらば末瀬の奇特に、留め置き。国の宝と、なすべきなり。衣を返す、事あるまじ シテ「悲しやな羽衣なくてハ飛行乃、道も絶え。天上に帰らん事も、叶ふなじ。さりとてハ返し、賜び給へ カカル ワキ「こ乃御言葉を聞くよりも。いよいよ白龍力を得。 ワキ「もとよりこ乃身ハ、心なき。天乃羽衣、とり隠し。叶ふまじとて立ち退けば シテ「今ハさながら天人も。羽なき鳥乃如くにて。上らんとすれば衣なし ワキ「地に又住めば下界なり シテ「とやあらんかくやあらんと悲しめど ワキ「白龍衣を返さねば シテ「力及ばず ワキ「せん方も 地 「涙の露乃玉鬘。挿頭の花もしをしをと。天人乃五衰も目の前に見えて浅ましや シテ「天の原。ふりさけ見えば。霞立つ。雲路まどいて。行方知らずも 下歌 地「住み慣れし空に何時しか行く雲乃羨ましき気色かな 上歌 地「迦陵頻伽乃馴れ馴れし。迦陵頻伽乃馴れ馴れし。聲今更に僅かなる。雁がねの帰り行く。天路を聞けば懐かしや。千鳥鷗乃沖つ波。行くか帰るか春風乃空に吹くまで懐かしや空に吹くまで懐かしや ワキ「いかに申し候。御姿を、見奉れば。餘りに、御傷はしく候程に。衣を、返し申さうずるにて候 シテ「あら嬉しや此方へ、賜はり候へ ワキ「暫く。承り及びたる、天人の舞楽。只今此処にて、奏し給はば、衣を、返し申すべし シテ「嬉しやさてハ天上に、帰らん事を得たり。こ乃喜びに、とてもさらば。人間乃御遊乃、形見の舞。月宮を廻らず、舞曲あり。只今此處にて、奏しつつ。世乃憂き人に傳ふべし、さりながら。衣なくてハ、叶ふまじ。さりとてハ先ず、返し給え ワキ「いやこ乃衣を、返しなば。舞曲をなさで、そのままに。点にや上り給ふべき シテ「いや疑ひハ、人間にあり。天に偽り、なきものを ワキ「あら恥かしやさらばとて。羽衣を返し與ふれば【物著(ここで長絹及び舞衣を附ける)】 シテ「乙女ハ衣を著しつつ。ゲイショウ(漢字)羽衣乃曲をなし ワキ「天乃羽衣風に和し シテ「雨に潤ふ花乃袖 ワキ「一曲を奏で シテ「舞ふとかや 地 次第「東遊乃駿河舞。東遊の駿河舞この時や。始めなるらん 地 クリ「それ久方乃天と云っぱ。二神出世乃古。十方世界を定めしに。空ハ限りもなければとて。久方乃。空とハ名づけたり シテ サシ「然るに月宮殿の有様。玉斧乃修理とこしなへにして 地 「白衣黒衣の天人乃。数を三五に分って。一月夜々乃天少女。奉仕を定め役をなす シテ「我も数ある天少女 地 「月乃桂の身を分けて假に東乃。駿河舞。世に傳へたる。曲とかや 地 クセ「春霞。たなび(漢字)きにけり久方の。月乃桂乃花や咲く。げに花鬘色めくハ春のしるしかや。面白や天ならで。ここも妙なり天つ風。雲の通路吹き閉ぢよ。少女乃姿。暫し留まりて。こ乃松原の。春乃色を三保が崎。月清見潟富士乃雪いづれや春乃曙。類ひ波も松風も長閑なる浦乃有様。その上天地ハ。何を隔てん玉垣乃。内外の神乃御裔にて月も曇らぬ日の本や シテ「君が代ハ天乃羽衣稀に来て 地 「撫づともツ(漢字)きぬ巌ぞと。聞くも妙なり東歌。聲添えて数々乃。笙笛琴箜篌孤雲乃外に充ち満ちて。落日乃くれなゐハ蘇命路乃山をうつして。緑ハ波に浮島が。拂ふ嵐に花降りて。げに雪を廻らす白雲乃袖ぞ妙なる シテ「南無帰命月天子。本地大勢至 地 「東遊乃舞の曲【序之舞】 シテ ワカ「或ハ。天つ御空乃緑の衣 地 「又ハ春立つ霞乃衣 シテ「色香も妙なり少女乃、裳裾 地 「左右左。左右諷々の。花を翳し乃。天の羽袖。靡くも返すも。舞の袖【破之舞】 地 「東遊の数々に。東遊の数々に。その名も月乃。色人ハ。三五夜中の。空に又。満願真如乃影となり。御願圓満國土成就。七寶充満乃寶を降らし。國土にこれを。施し給ふさる程に。時移って。天の羽衣。浦風にたなび(漢字)きたなび(漢字)く。三保乃松原浮島が雲の。愛鷹山や藤野高嶺。かすかになりて。天つ御空の。霞に紛れて失せにけり
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