石橋 (能)とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > 石橋 (能)の意味・解説 

石橋 (能)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/23 09:01 UTC 版)

石橋
作者(年代)
十郎元雅説が有力だが不詳
形式
現在能
能柄<上演時の分類>
五番目物
現行上演流派
観世・宝生・金春・金剛・喜多
異称
獅子
シテ<主人公>
前=尉又は童子 後=獅子
(文殊菩薩の使いである霊獣)
その他おもな登場人物
寂昭法師
季節
春 または 初夏
場所
唐の国、清涼山の麓
本説<典拠となる作品>
『十訓抄』ともいわれるが不明
このテンプレートの使い方はこちら

石橋』(しゃっきょう)はの作品の一つ。獅子口(獅子の顔をした能面)をつけた後ジテの豪壮なが見物、囃子方の緊迫感と迫力を兼ね備えた秘曲が聞き物である。なお後段の獅子の舞については古くは唐楽に由来し、世阿弥の時代には、猿楽田楽に取り入れられていた。

概要

仏跡を訪ね歩いた寂昭法師(ワキ)は、中国の清涼山の麓へと辿り着いた。まさに仙境である。更に、ここから山の中へは細く長い石橋がかかっており、その先は文殊菩薩浄土であるという。法師は意を決し橋を渡ろうとするが、そこに現われた樵(前シテ)は、尋常な修行では渡る事は無理だから止めておくように諭し、暫く橋のたもとで待つがよいと言い残して消える。ここまでが前段である。

中入に後見によって、舞台正面に一畳台と牡丹が据えられ、後段がはじまる。「乱序」という緊迫感溢れる特殊な囃子を打ち破るように獅子(後シテ)が躍り出、法師の目の前で舞台狭しと勇壮な舞を披露するのだ。これこそ文殊菩薩の霊験である。

小書(特殊演出)によっては、獅子が二体になることもある。この場合、頭の白い獅子と赤い獅子が現われ、前者は荘重に、後者は活発に動くのがならいである。前段を省略した半能として演じられることが多い。まことに目出度い、代表的な切能である。

全文 観世流の場合

名乗 ワキ「これハ大江の定基と云はれし、寂昭法師にて候。我入唐渡天し。はじめて彼方此方を、拝み廻り。只今清涼山に、参りて候。これに見えたるが石橋にて、ありげに候。暫く人を待ち、委しく尋ね。この橋を渡らばやと、存じ候

【一声】一セイ シテ「松風の。花を薪に吹き添へて。雪をも運ぶ。山路かな

サシ「山路に日暮れぬしょうか(漢字)牧笛の聲。人間萬事様々の。世を渡り行く身の有様。物毎に遮る眼の前。光乃蔭をや送るらん

下歌「餘りに山を遠く来て雲また跡を立ち隔て

上歌「入りつる方も白波の。入りつる方も白波の。谷の川音雨とのみ聞えて松の風もなし。げにやあやま(漢字)って半日の客たりしも。今身の上に知られたり今身の上に知られたり

ワキ「いかにこれなる山人に尋ぬべき、事の候

シテ「何事を、御尋ね候ぞ

ワキ「これなるハ承り及びたる、石橋にて候か

シテ「さん候これこそ、石橋にて候へ。向ひハ文殊の浄土、清涼山よくよく、御拝み候へ

ワキ「さてハ、石橋にて候ひけるぞや。さあらば身命を、佛力に委せて。この橋を渡らばやと、思い候

シテ「暫く候。そのかみ名を得給ひし、高僧達も。難行苦行、捨身の行にて。此処にて月日を、送りてこそ。橋をば、渡り給ひしに。

カカル シテ「獅子ハ小虫を食はんとても。まづ勢ひをなすとこそ聞け。我が法力のあればとて。行くこと難き石乃橋を。たやすく思い渡らんとや。あら危うしの御事や

ワキ「謂はれを聞けばありがたや。ただ世の常乃行人ハ。左右なう渡らぬ橋よなう

シテ「御覧候へ、この瀧波乃。雲より落ちて、数千丈。瀧壺までハ、霧深うして。身の毛もよだつ、谷深み

カカル ワキ「巌峨々たる岩石に

シテ「僅かに懸る石の橋 

ワキ「苔ハ滑りて足もたまらず

シテ「わたれば目も眩れ

ワキ「心もはや

上歌 地「上の空なる石の橋。上の空なる石の橋。まづ御覧ぜよ橋もとに。歩み臨めばこの橋の。面は尺にも足らずして。下は泥梨も白波の。虚空を渡る如くなり。危しや目も眩れ心も。消え消えとなりにけり。おぼろけの行人ハ。思いも寄らぬ御事

ワキ「尚々橋の謂はれ、御物語候へ

【打掛】クリ 地「それ天地開闢乃このかた。雨露を降して國土を渡る。これ即ち天の浮橋ともに云へり

サシ シテ「その外國土世界に於いて。橋の名所さまざまにして

地「水波の難を遁れ。萬民富める世を渡るも。即ち橋の徳とかや

クセ 地「然るにこの。石橋と申すハ人間の。渡せる橋にあらず。自れと出現して。続ける石の橋なれば石橋と名を名付けたり。その面僅かに。尺よりハ狭うして。苔はなはだ滑かなり。その長さ三丈餘。谷のそくばく深き事。千丈餘に及べり。上にハ瀧の糸。雲より懸りて。下ハ泥梨も白波の。音ハ嵐に響き合いて。山河震動し。雨土塊を動かせり。橋の気色を見渡せば。雲に聳ゆるよそほひの。たとへば(漢字)夕日の雨乃後に虹をなせる姿また弓を引ける形なり

シテ「遥かに望んで谷を見れば

地「足すさましく肝消え。進んで渡る人もなし。神變佛力にあらずハ誰かこの橋を渡るべき。向ひハ文殊の浄土にて常に笙歌の花降りて。笙笛琴箜篌夕日の雲に聞え来目前の奇特あらたなり。暫く待たせ給えや。影向の時節も今幾程によも過ぎし

                               【中入】

【乱序】後シテ  獅子

地「獅子團乱旋の舞楽の砌。獅子團乱旋の舞楽の砌。牡丹の英匂い充ち満ち。大筋力乃獅子頭。打てや囃せや牡丹房。牡丹房。黄金の蘂現れて。花に戯れ枝に伏し轉び。げにも上なき獅子王の勢ひ。靡かぬ草木もなき時なれや。萬歳千秋と舞ひ納め。萬歳千秋と舞ひ納めて。獅子の座にこそ。直りけれ


表現の揺れや不自然な漢字等があるが、謡本通りに記した

石橋物

石橋は歌舞伎にも取入れられ、石橋物と呼ばれる作品群を形成するに至っている。演目としては、『石橋』(初期の作品でごく短いもの)、『相生獅子』(遊女がのちに獅子の舞を見せる華やかなもの)、『連獅子』(獅子の組合わせを親子に設定し物語性を持たせたもの)など多数。いずれも牡丹の前で獅子の舞を見せるが、連獅子では間狂言を挟むなど大作となっている。

参考文献・外部リンク


「石橋 (能)」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「石橋 (能)」の関連用語



3
獅子物 デジタル大辞泉
38% |||||

4
38% |||||

5
38% |||||

6
32% |||||

7
連獅子 デジタル大辞泉
30% |||||


9
獅子舞 デジタル大辞泉
18% |||||


石橋 (能)のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



石橋 (能)のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの石橋 (能) (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS