いっ‐きょく【一曲】
一曲
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/05/10 09:12 UTC 版)
一曲(いっきょく)は、雅楽の舞楽曲の一つ。一鼓とともに「雑楽」などと呼ばれる特殊な曲で、寺院の行事などの行列の道行において、左右各1人の舞人が特殊な鼓を打ち鳴らしながら舞うものとされる[1]。現在も厳島神社の舞楽曲目として伝承され、桃花祭・菊花祭などで奉奏されている[2][3]。
概要
一曲は、雅楽の舞楽曲の中でも、通常の唐楽・高麗楽の左方・右方分類だけでは説明しにくい特殊な曲である。辞典類では、「雑楽」と呼ばれる曲とされ、寺院行事などの行列の道行で舞われたものと説明される[1]。
舞人は、左方装束の者と右方装束の者の2人である。左方装束の舞人は胸に奚婁鼓を吊り、左手に振鼓を持つ。右方装束の舞人は胸に一鼓を着ける。両者はいずれも右手に桴を持つが、舞の動作は主に左方装束の舞人が担い、右方装束の舞人は一鼓を打つ役割を担うとされる[1]。
このように一曲は、管絃曲としての雅楽ではなく、舞人の所作、打楽器、法会・行道の場面が結びついた舞楽曲である。舞人自身が楽器を身につけ、打つ所作を舞の動作として取り込む点に特色がある。
分類
一曲は、一鼓とともに「雑楽」とされる[1]。ここでいう雑楽は、唐楽・高麗楽の通常の分類や、左方・右方の舞楽体系だけでは整理しにくい特殊な曲を指す分類である。
一曲と一鼓はいずれも、舞人が鼓を身につけて打ちながら舞う点で共通する。ただし、一鼓では、一人が一鼓、もう一人が二鼓を首にかけ、裹頭楽を伴奏として舞うとされるのに対し、一曲では、左方装束の舞人が奚婁鼓と振鼓を用い、右方装束の舞人が一鼓を用いる[4][1]。
奏演
一曲では、現在、前奏として盤渉調の調子および音取が奏され、当曲として「鳥向楽」が用いられる[1]。鳥向楽は、雅楽の唐楽・盤渉調の曲とされるが、現在の雅楽曲の中には含まれていないとも説明される[5]。
一曲の舞では、舞人が桴を振り上げて鼓を打つ。その鼓を打つ手が、そのまま舞の手にもなるとされる[1]。このため、一曲では、楽器を奏する動作と舞踊的な所作とが分かれず、両者が一体となって舞の構成を形づくっている。
舞人と装束
一曲の舞人は、左方装束の者と右方装束の者の2人である。左方装束の舞人は胸に奚婁鼓を吊り、左手に振鼓を持ち、右手に桴を持つ。右方装束の舞人は胸に一鼓を着け、同じく右手に桴を持つ[1]。
ただし、舞そのものを行うのは主に左方装束の舞人であり、右方装束の舞人は一鼓を打つ役割を担うとされる[1]。この点で一曲は、左右の舞人が対称的に舞う一般的な二人舞とは異なる性格を持つ。
楽器
奚婁鼓
一曲で重要な役割を持つ楽器が奚婁鼓である。奚婁鼓は、中国唐代の西域楽で用いられ、日本にも伝えられた膜鳴楽器で、「鶏婁鼓」とも書かれる。中央がふくらんだ胴の両側に皮を当てた楽器で、古くは左腋にはさんで右手の桴で打ったが、のちには首から吊るして用いられるようになったと説明される[6]。
奚婁鼓は、左手に持つ振鼓と組み合わせて用いられるのが普通で、舞楽「一曲」の左方舞人が舞具として用いるとされる[6]。奈良県三郷町に伝わる重要文化財の奚婁鼓について、日本遺産ポータルサイトは、舞楽「一曲」を奏する際に舞人が用いた楽器であり、両側の鼓胴に結んだ紐を首にかけ、左手に振鼓を持ち、右手に撥を持って皮を張った上面を打つものと説明している[7]。
振鼓
振鼓は、一曲において左方装束の舞人が左手に持つ楽器である[1]。一曲では、奚婁鼓を胸に吊り、左手に振鼓を持ち、右手の桴で奚婁鼓を打つ構成をとるため、振鼓は奚婁鼓と組み合わせて用いられる舞具として位置づけられる。
一鼓
一鼓は、雅楽で用いられる鼓の一種で、細腰鼓の最小のものとされる[4]。一曲では、右方装束の舞人が胸に一鼓を着け、右手の桴で打つ[1]。
一鼓は、同名の舞楽曲「一鼓」でも用いられる。曲名としての一鼓は、特殊な性格を持つ雑楽とされ、2人の舞人が一鼓・二鼓を胸に吊り、唐楽の裹頭楽を伴奏に舞う曲である[4]。このため、一曲と一鼓は、楽器名・曲名・雑楽としての分類が互いに関係する曲群として整理できる。
鳥向楽との関係
一曲の当曲として用いられるのが「鳥向楽」である[1]。鳥向楽は、雅楽の唐楽・盤渉調の曲とされるが、現在の雅楽曲の中には含まれていないとも説明される[5]。
このため、一曲を理解する際には、舞楽曲としての一曲、伴奏曲としての鳥向楽、前奏としての盤渉調調子・音取を区別して整理する必要がある。一曲は舞の名称であり、鳥向楽はその当曲として位置づけられる。
法会舞楽における位置づけ
一曲は、法会舞楽において、行道に続けて両楽頭が舞うものとされる[1]。この点から、一曲は舞台上で鑑賞される舞楽曲としてだけでなく、寺院儀礼・法会における行列や道行と結びついた曲として理解される。
雅楽・舞楽は、宮廷儀礼だけでなく、寺院の法会、社寺祭礼、行道などの場でも奏演されてきた。一曲は、その中でも、舞人が楽器を持って打ちながら進行する点に特徴があり、儀礼の進行や行列の所作と結びついた舞楽曲であった。
嚴島神社における伝承
一曲は、現在も嚴島神社に伝わる舞楽曲目の一つである。宮島観光協会の解説によれば、嚴島神社の舞楽は、12世紀後期に平清盛が四天王寺から楽所を宮島に移したことにより盛んに奉奏されるようになり、蘭陵王、納曽利、萬歳楽、延喜楽など二十数曲が現在も嚴島神社に伝承されている[2]。
同協会の曲目解説では、一曲は、左方の舞人1人と右方の舞人1人が「鳥向楽」の伴奏で同時に舞う曲とされる。左方の舞人は鶏婁鼓を首から吊り、右手に桴、左手に振鼓を持って高く掲げ、拍子に合わせて打ち鳴らす。右方の舞人は壱鼓を首から懸紐で吊り、右手に持った桴で曲の各拍子ごとに打つ[2]。
嚴島神社の年中行事では、一曲は4月15日の桃花祭および10月15日の菊花祭の曲目に含まれている[3]。このことは、一曲が辞典上の曲名にとどまらず、社寺の舞楽伝承の中で現在も奉奏曲目として位置づけられていることを示している。
伝来資料
一曲そのものの伝承を考えるうえで、奚婁鼓などの伝来楽器は重要な資料である。奈良県三郷町所在の奚婁鼓は、平安時代の工芸品で、国の重要文化財に指定されている[7]。日本遺産ポータルサイトでは、この奚婁鼓について、雅楽や伎楽が大陸から伝播し、龍田古道を通って大和に伝わったことを示す資料の一つとして位置づけている[7]。
このような伝来楽器は、文献上の曲名・楽器名だけでは把握しにくい一曲の奏演形態を考えるうえで重要である。特に奚婁鼓は、舞人が首から吊り、左手の振鼓、右手の撥とともに用いるという、一曲特有の舞と奏楽の関係を具体的に示している。
特色
一曲の特色は、第一に、雑楽とされる特殊な舞楽曲である点にある。第二に、舞人が左右各1人で構成されながら、舞の役割が左右で対等ではなく、左方装束の舞人が主に舞い、右方装束の舞人は一鼓を打つ点にある[1]。第三に、奚婁鼓・振鼓・一鼓という特殊な打楽器が舞の所作と結びついている点にある。
また、一曲は当曲として鳥向楽を用い、前奏として盤渉調の調子および音取を伴う[1]。このため、一曲は、曲名・伴奏曲・調子・舞具・法会舞楽での場面を総合して理解する必要がある舞楽曲である。
関連する曲・楽器
一曲と特に関係が深い曲・楽器には、一鼓、鳥向楽、奚婁鼓、振鼓がある。一鼓は、楽器名であると同時に舞楽曲名でもあり、一曲と同じく雑楽に属する特殊な曲として説明される[4]。鳥向楽は、一曲の当曲として用いられる[1]。奚婁鼓と振鼓は、一曲の左方舞人が用いる舞具・楽器であり、一鼓は右方舞人が用いる楽器である[1][6]。
脚注
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 “一曲”. コトバンク. DIGITALIO. 2026年5月10日閲覧。
- 1 2 3 “嚴島神社の舞楽について”. 一般社団法人宮島観光協会. 2026年5月10日閲覧。
- 1 2 “宮島の桃花祭と菊花祭について”. 一般社団法人宮島観光協会. 2026年5月10日閲覧。
- 1 2 3 4 “一鼓”. コトバンク. DIGITALIO. 2026年5月10日閲覧。
- 1 2 “鳥向楽”. コトバンク. DIGITALIO. 2026年5月10日閲覧。
- 1 2 3 “奚婁鼓”. コトバンク. DIGITALIO. 2026年5月10日閲覧。
- 1 2 3 “奚婁鼓”. 日本遺産ポータルサイト. 文化庁. 2026年5月10日閲覧。
関連項目
一曲
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/02/17 20:08 UTC 版)
「アニソン★カフェ ゆめが丘」の記事における「一曲」の解説
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「一曲」の例文・使い方・用例・文例
- 彼女は僕に微笑みかけながら一曲歌った。
- 彼女はピアノで一曲弾いた。
- 彼はその少女のために自作の曲を一曲弾いた。
- 彼に一曲歌って欲しい。
- 一曲聞くか。
- 一曲歌ってください。
- 一曲歌いたい。
- ソナタを一曲弾いてあげよう。
- 古い曲を一曲歌う.
- ブルースを(一曲)歌う.
- ブルースを一曲歌う.
- 一曲歌ってください.
- 彼はピアノで一曲弾いてくれた.
- この歌は「日本の四季」という彼のアルバムの中の一曲です.
- 一曲を奏す
- 一曲聞かしてくれ給え
- ピアノの一曲を奏す
- たってのご所望なら一曲演じましょう
- いま一曲所望する
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