有期労働契約
(期間の定めのある労働契約 から転送)
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雇用形態 | 万人 |
---|---|
役員 | 335 |
期間の定めのない労働契約 | 3,728 |
1年以上の有期契約 | 451 |
1か月~1年未満の有期契約(臨時雇) | 763 |
1か月未満の有期契約(日雇い) | 15 |
期間がわからない | 239 |
有期労働契約(ゆうきろうどうけいやく、Fixed-term contract)とは、契約期間の満了日が設定された雇用契約であり、期間の定めのある労働契約(きかんのさだめのあるろうどうけいやく)とも呼ばれる[3]。一時雇用のひとつ[2]。これと対比される概念は期間の定めのない労働契約である[3]。
この契約を締結する場合は、契約期間の満了後における当該契約に係る更新の有無を明示しなければならない[4]。
各国においては雇用保護規制の対象となっており、契約更新の最大回数もしくは累積月数を規制する国もある[2]。正規労働者の解雇規制が強い国では、一時雇用者の雇入規制も高いという傾向がみられる[2]。
国際労働条約
国際労働機関(ILO)の雇用終了条約(第158号)においては、有期労働契約が雇用保護規制の回避を目的として用いられないよう措置を求めている。
- 第二条3
- 特定の期間の定めのある雇用契約であつて、この条約に基づく保護を回避することを目的とするものが利用されることを防ぐための適当な保障を規定する。
— 1982年の雇用終了条約(第158号)
- 第四条
- 労働者の雇用は、当該労働者の能力若しくは行為に関連する妥当な理由又は企業、事業所若しくは施設の運営上の必要に基づく妥当な理由がない限り、終了させてはならない。
ヨーロッパ
EU諸国においてこの形態の労働契約を結ぶケースは、英国で4.3%、スペインで22.3%、ドイツで11.0%、イタリアで13.4%、フランスでは14.4%であった[5]。
欧州連合
欧州連合の有期労働指令においては、第4項1において同一労働同一賃金の義務が定められている。
Clause.4.1. In respect of employment conditions, fixed-term workers shall not be treated in a less favourable manner than comparable permanent workers solely because they have a fixed-term contract or relation unless different treatment is justified on objective grounds.
雇用条件に関して、有期労働者は、客観的な理由により異なる待遇が正当化されない限り、有期契約または関係を持っているという理由だけで、同等の正規労働者より不利な待遇を受けてはならない。
— Fixed-term Work Directive 99/70/EC
イギリス
イギリスの有期労働契約は、期限満了日になると自動的に終了し、雇用主はそれを通知する必要はない[6]。しかし期間が2年を超える場合、雇用主は雇止めを行う理由が存在することを示す義務がある[6]。また早期に中途解約する場合、1週間の事前通知期間を置く必要がある[6]。
また期間が4年を超える場合、事業主が合理的な理由を示さない限り、自動的に期間の定めのない労働契約に転換となる[6]。
日本
日本では労働契約法第4章で定められている。
労働基準法 第14条 (契約期間等)
- 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、5年)を超える期間について締結してはならない。
「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」とは、ダムや大型のビルの建設現場など、工事が完了すればその事業が明らかに消滅する場合[7]。
契約の更新と終了
契約期間が終了後、更新について異議を述べないときは、契約は同一条件で自動更新されたと推定される。
契約更新の判断基準の明示
有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準[4] (契約締結時の明示事項等)
第1条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)の締結に際し、労働者に対して、当該契約の期間の満了後における当該契約に係る更新の有無を明示しなければならない。
2 前項の場合において、使用者が当該契約を更新する場合がある旨明示したときは、使用者は、労働者に対して当該契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準を明示しなければならない。
3 使用者は、有期労働契約の締結後に前二項に規定する事項に関して変更する場合には、当該契約を締結した労働者に対して、速やかにその内容を明示しなければならない。
労働条件通知書においては、期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準が絶対的明示事項となっている(労働基準法施行規則第5条1項)。モデル通知書では以下のフォーマットとなっている。
- 更新の有無 - 自動的に更新する / 更新する場合があり得る / 契約の更新はしない
- 契約更新の判断基準 - 契約期間満了時の業務量により判断する / 労働者の勤務成績、態度により判断する / 労働者の能力により判断する / 会社の経営状況により判断する / 従事している業務の進捗状況により判断する
満了による雇用終了
使用者の側から有期労働契約を更新しない場合(雇い止め)、有期労働契約が3回以上更新されているか、1年を超えて継続して雇用されている労働者については、30日前までに雇用終了予告が必要である[4]。
有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準[4] (雇止めの予告)
第2条 使用者は、有期労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第二項において同じ。) を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。
契約の中途解約
有期労働契約の中途解約は、民法上はやむを得ない事由があれば可能であるが、「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合は解雇することができないことを特別法である労働契約法によって明らかにしている。
民法上は契約期間が5年を超える場合は上述の限りではないが、特別法である労働基準法により一般の労働契約では原則として3年を超える有期雇用契約は締結できない。
民法第626条(期間の定めのある雇用の解除)
- 雇用の期間が5年を超え、又はその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、5年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。
- 前項の規定により契約の解除をしようとする者は、それが使用者であるときは3月前、労働者であるときは2週間前に、その予告をしなければならない。
労働基準法第14条(契約期間等)
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、5年)を超える期間について締結してはならない。
- 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一項第一号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
- 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
なお労働者側からの解約は、原則として契約から1年を経過していればいつでも可能である。
労働基準法第137条 期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第104号)附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
中途解雇の予告
使用者側から中途解雇を行う際には、期間の定めのない労働契約の場合と同様に、予告期間を30日以上置くか、または日数分の解雇予告手当を労働者に支払う必要がある。しかし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合(単なる経営破綻では「やむを得ない事由」には該当しない)もしくは懲戒解雇である場合は事前予告・解雇予告手当は不要である。さらに2か月以内の労働契約(日雇い)や試用期間である場合等、事前予告・解雇予告手当を不要とする者が定められている。
労働基準法第21条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第1号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第2号若しくは第3号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第4号に該当する者が14日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
- 日日雇い入れられる者
- 2箇月以内の期間を定めて使用される者
- 季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者
- 試の使用期間中の者
無期転換
労働契約法改正により、有期労働契約が5年を超える場合、これを期間の定めのない労働契約に転換できる権利を得ることとなった(無期転換申込権)[8]。
なお、以下の労働者は特例規定が制定されている。
- 高収入、かつ高度な専門的知識・技術・経験を持つ有期雇用労働者で、厚生労働大臣から認定を受けた事業主。期間の上限は10年間である(専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法)。
- 定年後に、同一の事業主または「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」における特殊関係事業主(いわゆるグループ会社)に引き続き雇用される有期雇用労働者。
- 科学技術に関する研究者又は技術者・研究開発等に係る運営管理に係る業務(専門的な知識及び能力を必要とするものに限る)に従事する者であって研究開発法人又は大学等を設置する者との間で有期労働契約を締結したもの科学技術に関する研究者又は技術者・研究開発等に係る運営管理に係る業務(専門的な知識及び能力を必要とするものに限る)に従事する者であって研究開発法人又は大学等を設置する者との間で有期労働契約を締結したもの。
同一労働同一賃金の推進
働き方改革関連法成立により、事業主は正規雇用者との間において不合理な待遇相違を設けてはならず、相違があるときはその理由を説明する義務が課せられた。
(不合理な待遇の禁止)
第8条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。第14条2 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。
— 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
3 事業主は、短時間・有期雇用労働者が前項の求めをしたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない
脚注
- ^ 労働力調査(基本集計) 全国 年次 2019年 (Report). 総務省統計局. (2019-01-31). 基本集計 第II-10表 .
- ^ a b c d OECD Employment Outlook 2020, OECD, (2020-07), Chapt.3, doi:10.1787/19991266, ISBN 9789264459793
- ^ a b 労働契約法 第四章
- ^ a b c d 『有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準』(プレスリリース)厚生労働省、2003年10月22日。平成15 厚生労働省告示第三百五十七号 。
- ^ “Eurostat - Tables, Graphs and Maps Interface (TGM) table”. Eurostat. 2020年8月14日閲覧。
- ^ a b c d “Fixed-term employment contracts”. www.gov.uk. 2022年2月閲覧。
- ^ 文部科学委員会. 第185回国会. 7. 29 November 2013.
- ^ 会社にもよるが、有期労働契約(有期契約社員)から無期労働契約(無期契約社員で正社員と異なる場合がある)に転換しても、賃金や待遇等が有期労働契約と同じで法律上も問題がないので注意が必要である
関連項目
外部リンク
期間の定めのある労働契約
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「労働契約法」の記事における「期間の定めのある労働契約」の解説
期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の反復更新により、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、雇い止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は有期労働契約が更新されたものとみなされる。 使用者は有期労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない(第17条1項)。有期契約労働者の実態をみると、契約期間中の雇用保障を期待している者が多くみられるところである。この契約期間中の雇用保障に関しては、民法第628条において、「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」ことが規定されているが、「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合の取扱いについては、同条の規定からは明らかでない。このため、第17条1項において、「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合は解雇することができないことを明らかにしたものである(平成24年8月10日基発0810第2号)。 「やむを得ない事由」があるか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものであるが、契約期間は労働者及び使用者が合意により決定したものであり、遵守されるべきものであることから、「やむを得ない事由」があると認められる場合は、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」以外の場合よりも狭いと解されるものである。契約期間中であっても一定の事由により解雇することができる旨を労働者及び使用者が合意していた場合であっても、当該事由に該当することをもって「やむを得ない事由」があると認められるものではなく、実際に行われた解雇について「やむを得ない事由」があるか否かが個別具体的な事案に応じて判断される。第17条1項は、「解雇することができない」旨を規定したものであることから、使用者が有期労働契約の契約期間中に労働者を解雇しようとする場合の根拠規定になるものではなく、使用者が当該解雇をしようとする場合には、従来どおり、民法第628条が根拠規定となるものであり、「やむを得ない事由」があるという評価を基礎付ける事実についての主張立証責任は、使用者側が負うものである(平成24年8月10日基発0810第2号)。 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない(第17条2項)。有期労働契約については、短期間の契約が反復更新された後に雇止めされることによる紛争がみられるところであるが、短期間の有期労働契約を反復更新するのではなく、当初からその有期契約労働者を使用しようとする期間を契約期間とする等により全体として契約期間が長期化することは、雇止めに関する紛争の端緒となる契約更新の回数そのものを減少させ、紛争の防止に資するものである。「その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間」に該当するか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものであり、第17条2項は、契約期間を特定の長さ以上の期間とすることまでを求めているものではない(平成24年8月10日基発0810第2号)。 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす(第19条)。最高裁判所判決で確立している、いわゆる雇止め法理(1.については東芝柳町工場事件(最判昭和49年7月22日)、2.については日立メディコ事件(最判昭和61年12月4日))の内容や適用範囲を変更することなく規定したものである。 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。これらの要件に該当するか否かは、これまでの裁判例と同様、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断される。2.の「満了時」における合理的期待の有無は、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案される。したがって、いったん、労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず、当該有期労働契約の契約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに2.の該当性が否定されることにはならない(平成24年8月10日基発0810第2号)。 「更新の申込み」及び「締結の申込み」は、要式行為ではなく、使用者による雇止めの意思表示に対して、労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもよい。また、雇止めの効力について紛争となった場合における「更新の申込み」又は「締結の申込み」をしたことの主張・立証については、労働者が雇止めに異議があることが、例えば、訴訟の提起、紛争調整機関への申立て、団体交渉等によって使用者に直接又は間接に伝えられたことを概括的に主張立証すればよい(平成24年8月10日基発0810第2号)。 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない(第20条)。有期契約労働者については、無期契約労働者と比較して、雇止めの不安があることによって合理的な労働条件の決定が行われにくいことや、処遇に対する不満が多く指摘されていることを踏まえ、有期労働契約の労働条件を設定する際のルールを法律上明確化したものである。なお令和2年4月の改正法施行により、パートタイム労働法に有期労働契約労働者の均等待遇規定が組み込まれたことから第20条は削除されたが、経過措置として令和3年3月31日までは一定規模以下の中小事業主には第20条が適用される。 「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」は、労働者が従事している業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度を、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」は、今後の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等(配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含む。)の有無や範囲を指すものであること。「その他の事情」は、合理的な労使の慣行などの諸事情が想定されるものである。例えば、定年後に有期労働契約で継続雇用された労働者の労働条件が定年前の他の無期契約労働者の労働条件と相違することについては、定年の前後で職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が変更されることが一般的であることを考慮すれば、特段の事情がない限り不合理と認められないと解されるものである(平成24年8月10日基発0810第2号)。 不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるものであること。とりわけ、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して特段の理由がない限り合理的とは認められないと解されるものである(平成24年8月10日基発0810第2号)。 第20条は民事的効力のある規定であり、第20条により不合理とされた労働条件の定めは無効となり、故意・過失による権利侵害、すなわち不法行為として損害賠償が認められ得ると解される。また、第20条により、無効とされた労働条件については、基本的には、無期契約労働者と同じ労働条件が認められる(平成24年8月10日基発0810第2号)。 第20条は、有期労働契約者の労働条件が期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下、「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。同条は、有期契約労働者については、無期労働契約者と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく、両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定である。第20条が「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることや、その趣旨が有期契約労働者の公正な処遇を図ることにあること等に照らせば、同条の規定は私法上の効力を有するものと解するのが相当であり、有期契約労働者のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効である。もっとも、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、第20条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較対象とする無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるわけではないと解するのが相当である。第20条でいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当であり、「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。そのうえで、正社員は、出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるほか、等級役職制度が設けられており、職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて、将来、中核人材として登用される可能性があるが、契約社員は、就業場所の変更や出向は予定されておらず、将来、中核人材として登用されることも予定されていない。これを前提に各手当の不合理性の要件を検証し、皆勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当について正社員と契約社員との間で差異を設けることは「職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではない」として「不合理である」と判断、住宅手当について正社員と契約社員との間で差異を設けることは「正社員は転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となる」ことから「不合理にあたらない」と判断した(ハマキョウレックス事件、最判平成30年6月1日)。 定年後嘱託社員と正社員は、本件ではその業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に違いはなく、業務の都合により配置転換等を命じられることがある点でも違いはない。有期契約契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなる事情は、労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではない。定年制は、使用者が、その雇用する労働者の長期雇用や年功的処遇を前提としながら、人事の刷新等により組織運営の適正化を図るとともに、賃金コストを一定限度に抑制するための制度ということができる。定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は、当該労働者を定年退職するまで長期間雇用することを前提に定められたものであることが少なくないと解される。これに対し、使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合、当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また、定年退職後に再雇用される有期契約労働者は、定年退職するまでの間、無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている。そして、このような事情は、定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって、その基礎になるものであるということができる。有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると認められるものであるか否かの判断において、第20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情にあたると解するのが相当である。有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。これを前提に各手当の不合理性の要件を検証し、精勤手当については「不合理である」と判断、超勤手当についても「嘱託社員に精勤手当を支給しないことは不合理と評価することができるものに当たり、正社員の超勤手当の計算の基礎に精勤手当が含まれているにもかかわらず、嘱託社員の時間外手当の計算の基礎に精勤手当が含まれていないという労働条件の相違は、不合理と評価することができる」と判断したが(本審は超勤手当の再計算をさせるために原審に差し戻し)、能率給・職務給、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与について差異を設けることは「不合理にあたらない」と判断した(長澤運輸事件、最判平成30年6月1日)。
※この「期間の定めのある労働契約」の解説は、「労働契約法」の解説の一部です。
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