漢字 漢字の概要

漢字

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/10 08:55 UTC 版)

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漢字
ISO 15924 コード: Hani
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現代では中国語日本語韓国語(朝鮮語)広西東興市にいるジン族が使用のベトナム語の記述に使われる。現在、韓国語(朝鮮語)ではほとんど使用されなくなっている。20世紀に入り、漢字文化圏内でも中国語と日本語以外は漢字表記をほとんど廃止したが、なお約15億人が使用し、約50億人が使うラテン文字についで、世界で2番目に使用者数が多い[3]

概要

      伝統的な字体を用いる地域( 台湾 香港 マカオ
      簡体字を用いるが、伝統的な字体も用いられる地域( シンガポール マレーシア
      簡体字を用いる地域( 中国大陸
      漢字とその他の文字が同一言語内で混用される地域( 日本 韓国
      かつて公用語で漢字が用いられていた地域( モンゴル 北朝鮮 ベトナム

漢字の特徴

ラテン文字に代表されるアルファベットが1つの音価を表記する音素文字であるのに対し、漢字は一般に、それぞれが個別の意味を持ち音節に対応している形態素である[4]。しかし現代中国語の単語は、大部分が2つ以上の漢字を組み合わせたものになっている[5]

本来、1字が一義を表すことだけを重視して表意文字としてきたのだが、これは古代中国語の1音節が1つの意味を表す孤立語的な言語構造に由来するのであって、正確には音と意味両者を表記する表語文字である。つまり、1字が1語を表しているのである。このような漢字の特徴から伝統的な文字学では漢字を形・音・義の3要素によって分析してきた。

しかし、1つの音の持つ語が派生義を生んで、1字が複数の(まったく正反対の、あるいは無関係で一方の字義からは想像することはできないような)字義を持っていたり、読みが変わって、複数の字音を持っていたりする場合もある。また、外来語を表記する場合など、単純に音を表すために作られた漢字もあり、字義を持たない場合もある。字義の有無を問わず、1音節を表す文字という点において音節文字である日本語の仮名とは近い関係にある。

漢字を輸入した国と、現在の使用状況

漢字文化圏における主な言語で「漢字文化圏」という概念の言い方と書き方

中国朝貢をしていた朝鮮琉球王国ベトナムでは、古代中国から漢字を輸入して使用した。日本もまた中国の勢力下に入ったことはなかったが、漢字を輸入し使用している。また、シンガポールマレーシアのように、中国から移住した人たちが多く住み、漢字を使用している地域がある。これらの漢字を使用する周辺諸国を包括して漢字文化圏と呼ぶ。

日本では漢委奴国王印古墳時代稲荷台1号墳に埋蔵されていた鉄剣の銘文記載が、日本における初期の漢字事例とされており[6][7][8]、また近年の研究で、朝鮮半島を経由して伝来した文字・使用方法が存在する可能性が指摘されている[9][10][7]

現在、漢字は、中国・台湾・日本・韓国・シンガポールなどで、文字表記のための手段として用いられている。しかし、近年の各国政府の政策で漢字を簡略化したり使用の制限などを行ったりしたため、現在では、これらの国で完全に文字体系を共有しているわけではない。日本では仮名、韓国ではハングルなど漢字以外の文字との併用も見られる。ただし韓国では、現在は漢字はほとんど用いられなくなっている。

また、北朝鮮ベトナムのように、漢字使用を公式にやめた国もある。しかし、漢字は使わなくなっても漢字とともに流入した語彙が各言語の語種として大きな割合を占めている。また漢字音は地域・時代によって変化し、地域により発音が違う。しかしながら、淵源となる中古音から各地域の音韻変化に従って規則的に変化しているため、類推可能な共通性を持っている。また地域により発音が違う場合でも同じ字で表すことができるため、国境を越えて漢字を使った筆談でコミュニケーションを取ることもある。字形の複雑さから、手書きする場合には、書き間違いや省略などによって字体は場所と時代によって少なからず変化してきた。そうして変化した字体のうち、ある程度の範囲に定着した俗字が各国において正字に選ばれ、字形にわずかな差異が見られる場合がある。また地域音や地域特有の字義を表すための国字方言字異体字も多く作られてきた。日本の「国字」(和製漢字)もその一種である。

漢字の数

中国語音節の数は、現代普通話の場合、声調の組み合わせを考えても1,600種未満であり、音節文字であれば、これだけの文字種があれば足りる計算になる。しかし、同音異義の語を、部首をつけるなどの手法を用いて区別する漢字は、5,000種前後が同時代的に使用されてきた。これに、時代の変遷による字体の変化、同じ字音、字義を表す異体字、地域変種などを加えて整理すると、簡単に1万を越す漢字が集まることになり、歴代の字書は時代が下るにつれて多くの漢字を集め、1994年の『中華字海』に至っては8万5,568字を収録している。ただし、ほとんどの文字は歴史的な文書の中でしか見られない使用頻度の低いものである。研究によると、中国で機能的非識字状態にならないようにするには、3,000から4,000の漢字を知っていれば充分という[11]

近代以降、異体字を整理したり使用頻度の少ない漢字の利用を制限しようとする動きは何度もあったが、現在でもその数は増え続けている[注釈 1]。常に新しい字が創作されるため、過去から現在に至る過程で、どれだけの数の漢字が作られたかは明確ではない。たとえば、既存の中で考慮される漢字がない何かしらの意図を表現するために、新しい種類が作られてきた。漢字の理論とは万人に開かれたもので、適当と思われれば新たな漢字をつくる事が誰にでもできる。しかしながら、このように発明された漢字は、公的に認められた一覧からはしばしば除かれて行く[12]。以下に、主要な歴史的中国語辞典(字書)が採録した漢字数を表す。

中国語辞典に記された漢字の数[13][14]
辞書名 漢字数
100 説文解字 9,353
543(?) 玉篇 12,158
601 切韻 16,917
997 龍龕手鑑 26,430
1011 広韻 26,194
1039 集韻 53,525
1208 五音篇海 54,595
1615 字彙 33,179
1675 正字通 33,440
1716 康熙字典 47,035
1916 中華大字典英語版 48,000
1989 漢語大字典(第一版) 54,678
1994 中華字海 85,568
2001 異體字字典(正式一版) 105,982
2010 漢語大字典(第二版) 60,370
2014 汉字海 102,447
2017 異體字字典(正式六版) 106,330

コンピュータで処理するための文字集合では、Unicode 13.0が9万2,856字以上を[注釈 2]、日本の『今昔文字鏡』がおよそ16万字(漢字だけではなく)を[16]収録するなど、さらに多くの漢字を集めているものもある。一方、中華民国台湾)行政院教育部の『異體字字典(正式六版)』によれば、漢字の正字数(異体字を含まない)は2万9,921字[17]であるが、こちらは国字を含んでいない(「付録」としてだけ収録している[18])。

歴史

伝承によると、中国における文字の発祥は、黄帝の代に倉頡が砂浜を歩いた鳥の足跡を見て、足跡から鳥の種類が分かるように概念も同じようにして表現できることに気づいて作った文字とされる。また『易経』には聖人が漢字を作ったと記されている。考古学的に現存する最古の漢字は、において占いの一種である卜(ぼく)の結果を書き込むために使用された文字である。これを現在甲骨文字(亀甲獣骨文)と呼ぶ。甲骨文以前にも文字らしきものは存在していたが、これは漢字と系統を同じくするものがあるか定かではない。当時の卜はの甲羅やの肩胛骨などの裏側に小さな窪みを穿ち、火に炙って熱した金属棒(青銅製と言われる)を差し込む。しばらく差し込んだままにすると熱せられた表側に亀裂が生じる。この亀裂の形で吉凶を見るのであるが、その卜をした甲骨に、卜の内容・結果を彫り込んだのである。

現在存在する中での最古の漢字は、殷墟から発掘される甲骨などに刻まれた甲骨文字である[19]。その内容は王朝第22代武丁のころから書かれたものであるため、それ以前には新石器時代遺跡等で発見される記号はあっても、文字として使用できる漢字ができあがったのは紀元前1300年ごろのことだと考えられる[20]。この甲骨文字は物の見たままを描く象形文字であり、当時の甲骨文字はに近い様相を持つものも多かった。その一方で、ある種の事態を表現する動詞形容詞の文字も存在した。たとえば、「立」の原型である人が地面を表す横棒の上に書かれた字(指示文字)、女性が子供をあやす様から「好」や、人が木の袂(たもと)にいる様から「休」などの字(会意文字)も既に含まれていた[21]。さらに、同音の単語をすでにある別の字で表す代用字もあり、たとえば鳥の羽を示す「翼」の原型は、同音で次のことを示す単語に流用され、これがのちに「翌」となった[21]。このように、すでに現在の漢字の書体に似通っている部分が見受けられ、非常に発展したものであり、おそらくはこれ以前から発展の経路を辿ってきたものとみられる。最古の漢字には左右や上下が反転したものや、絵や記号に近い部品がつけられているものなど、現在の常識では考えられない(当然ながら現在では使用されていない)漢字が存在する[22]。その後、青銅器に鋳込まれた金文という文字が登場した。「NHKスペシャル 中国文明の謎第2集 漢字誕生」では、古代メソポタミアの文字が商取引の記録から始まっているのに対して、政治の方針を決めるための占いの用途で、骨(これまでに1万4,000体の殷の生贄の犠牲となった人骨が出土)に刻むために使われ始めた漢字は、文字としてはきわめて特殊なルーツであったとしている。たとえば、白は人間の頭蓋骨の白に由来する象形文字である。このように、鬼神と王を繋ぐための手段として、初期の漢字は始まった[23]

の時代になると、外交や商取引など多くの用途に漢字が使われるようになり、それまでの種類だけでは足りなくなった。そこで多くの新しい漢字が作られた[24]。中国では「清らかで澄んだ」様子を「セイ(tseng)」と呼び、新芽が井戸端に生えた様子から「青」に連なる象形文字を用いた。この「セイ」という発音と文字「青」は形容詞だけでなく「清らかで澄んだ」ものを呼ぶさまざまな名詞にも使われたが、これらにもそれぞれの漢字が割り当てられるようになった。水が「セイ」ならば「清」、日差しが「セイ」ならば「晴」などである。このような漢字の一群を「漢字家族」と言う。侖(liuan-luan、リン-ロン)も短冊を揃えた様子から発し「揃えたもの」を示す象形文字だが、これも車が揃えば「輪」、人間関係が整っておれば「倫」、理論整然としていれば「論」という漢字が作られた。このように、音符に相当する「青」「侖」などと、意味の類別を表す意符が組み合わさった「形声文字」が発達した[25]。紀元100年ごろに後漢許慎が著した『説文解字』は中国初の字書であり、9,353字の漢字について成り立ちを解説しているが、この中の約8割は形声文字である[25]。このような文字形成の背景には、中国では事物を感性的にとらえ、枠にはめ込む習慣が影響しているともいう。このため、音素文字単音文字を作り出す傾向が抑えられたと考えられる[25]

周が混乱の時代を迎えると、漢字は各地で独自の発展をすることになる。その後、意義・形ともに抽象化が進み、春秋戦国時代になると地方ごとに通用する字体が違うという事態が発生した。そして天下を覇した始皇帝が字体統一に着手[26]、そして生まれたのが小篆である。秦は西周の故地を本拠地にしたのであり、その文字は周王朝から受け継がれたものだったため、その系統性が保持されたといえる。

小篆は尊厳に溢れ難解な書式だった。秦、そして後の代になると、下級役人を中心に使いにくい小篆の装飾的な部分を省き、曲線を直線化する変化が起こり、これが隷書となった。毛筆で書かれる木簡竹簡に書き込む漢字から始まった隷書は、書物から石碑に刻まれる字にまで及んだ[27]。この隷書を走り書きしたものは「草隷」と呼ばれたが、やがてこれが草書となった[27]。一方で、隷書をさらに直線的に書いたものが楷書へ発達し、これをさらに崩して行書が生まれた[27]

六朝からの時代には書写が広まり、個人や地域による独特の崩れが発生するようになったが、科挙の制では「正字」という由緒正しい漢字が求められたが、一般庶民では「通字」や「俗字」と呼ばれる漢字が多く使われた[27]の時代には手工業者や商人など文字を仕事で使う層が台頭し、俗字が幅広く用いられた[27]。さらに木版技術の発展により、楷書に印刷書体が生まれ、宋朝体と呼ばれる書体が誕生した。明代から清代にかけて、康熙字典に代表される明朝体が確立した。

現在、書籍コンピューター文書などの印刷に使用されている漢字の書体はの時代に確立された明朝体が中心である。この起源を遡ると、後漢末期に確立された楷書に行き着く。

ただし現代中国ではさらに簡素化を進めた簡体字が多く使われる。「飛」→「飞」のような大胆な省略、「機」→「机」のような同音代替、「車」→「车」のような草書体の借用から、「從(従)」→「从」のような古字の復活まである。基本的に10画以下に抑えるため、民間に流布していた文字のほかに、投書を集め「文字改革委員会」が選択することで決められた[27]




注釈

  1. ^ 例えば近代以降には西洋の事物を表すために漢字が作られた。具体的には日本での「瓩(キログラム)」「粁(キロメートル)」と言った度量衡を表す文字や、中国での元素を表す文字「氧(酸素)」「氫(水素)」「鈽(プルトニウム)」などがその例である。
  2. ^ 92,856字は、Unihan Database[15] の Unihan_IRGSources.txt 中にある互換漢字でない単一コードポイントの数。このため、互換漢字および異体字セレクタ付きの漢字は含まれない。

出典

  1. ^ Chinese Writing Symbols”. Kwintessential. 2010年3月20日閲覧。
  2. ^ History of Chinese Writing Shown in the Museums”. CCTV online. 2010年3月20日閲覧。
  3. ^ Arabic Alphabet”. Encyclopaedia Britannica online. 2015年4月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年5月16日閲覧。
  4. ^ East Asian Languages at pinyin.info
  5. ^ Wood, Clare Patricia; Connelly, Vincent (2009). Contemporary perspectives on reading and spelling. New York: Routledge. p. 203. ISBN 978-0-415-49716-9. http://books.google.com/books?id=QNaj6rkBgKsC 
  6. ^ 日本人の文字生活史序章--漢字の伝来と定着(奈良時代まで),西田直敏,甲南女子大学研究紀要 (35), 77-108,1998年
  7. ^ a b 漢字は中国から入って来たと言われていますが、どういう経路で日本に伝わってきたのですか。,レファレンス共同データベース
  8. ^ 犬飼隆、「漢字が来た道 : 大陸から半島を経由して列島へ」『国立歴史民俗博物館研究報告』 2015年 第194集 p.237-244, doi:10.15024/00002218
  9. ^ 藤井茂利「上代日本文献に見える「魚韻」の漢字 : 朝鮮漢字音との関連について」『語文研究』第37号、九州大学国語国文学会、1974年8月、 7-15頁、 doi:10.15017/12141ISSN 04360982NAID 120000981763
  10. ^ 文字がつなぐ-古代の日本列島と朝鮮半島-,国立歴史民俗博物館,2014年
  11. ^ Norman, Jerry (2008年). “Chinese Writing”. 2009年8月17日閲覧。
  12. ^ Creating New Chinese Characters”. 2013年2月22日閲覧。
  13. ^ Updated from Norman, Jerry. Chinese. New York: Cambridge University Press. 1988, p. 72. ISBN 0-521-29653-6.
  14. ^ Zhou Youguang 周有光. The Historical Evolution of Chinese Languages and Scripts; 中国语文的时代演进, translated by Zhang Liqing 张立青. Ohio State University National East Asian Language Resource Center. 2003, pp.72-73.
  15. ^ Unicode 13.0 - Unihan Database” (2020年3月10日). 2020年3月11日閲覧。
  16. ^ 今昔文字鏡 - 製品紹介”. 株式会社エーアイ・ネット. 2016年6月20日閲覧。
  17. ^ 中華民國教育部異體字字典編輯略例
  18. ^ 中日韓共用漢字表 附表編製原則
  19. ^ 甲骨文字,東京大学総合研究博物館
  20. ^ 藤堂(上)1986、p.3-4 漢字の誕生
  21. ^ a b 藤堂(上)1986、p.4-6 漢字のなりたち
  22. ^ 漢字のシーラカンスより抜粋。
  23. ^ 『NHKスペシャル 中国文明の謎第2集 漢字誕生 王朝交代の秘密』2012年
  24. ^ 『NHKスペシャル 中国文明の謎第2集 漢字誕生 王朝交代の秘密』2012年、43:00
  25. ^ a b c 藤堂(上)1986、p.6-9 漢字の増殖
  26. ^ 藤堂(上)1986、p.12-15 権力と行政
  27. ^ a b c d e f 藤堂(上)1986、p.19-21 権力と行政
  28. ^ 藤堂(下)1986、p.261-262 ばかげた筆順の強制
  29. ^ 藤堂(下)1986、p.263 誤った字形教育







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