む‐さべつ【無差別】
む‐しゃべつ【無▽差別】
差別
(無差別 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/21 14:11 UTC 版)
![]() |
この記事には複数の問題があります。
|
差別(さべつ、英:discrimination)とは、特定の集団に所属する個人や、性別など特定の属性を有する個人・集団に対して、その所属や属性を理由にして不当に異なる扱いをする行為である[1][2][3][4]。国際連合は、「差別には複数の形態が存在するが、その全ては何らかの除外行為や拒否行為である」としている[5]。
例えば性差別や人種差別などがある[6][7][8]。正当な理由(合理性)無き区別、不当な差別は違憲や違法である[2][4][9][10][11]。
研究
20世紀以来、差別に関する研究は社会学や心理学の分野で行われている。社会学で行われた差別の研究には、コックスのマルクス主義的社会構造論や、パークやJ.H.ヴァン・デン・ベルクが行った人種差別を優位集団と劣位集団の競争・葛藤関係として分析した研究がある。心理学では差別は偏見の表現行動とされ、偏見が発生する仕組みを解明することで差別を説明する[12]。偏見説の例としてオールポートの研究がある。これらの古典的な差別に関する研究は、差別の一側面を他の分野の理論を応用する形で行われており、差別そのものを包括的に分析したものではなく、説明しきれない現象や予測と異なる現象も多い[12]。
マートンの準拠集団モデルでは、差別は集団間の敵対関係ではなく、同一集団内の特殊なカテゴリー化に内在する問題であるという[12]。また、ミュルダールの『アメリカのジレンマ』仮説と、仮説に対する追研究によって、差別は規範のずれとその対応の問題であること、被差別者は差別を行う人々との一定の関係性によってのみ同定可能であることが示唆されている[12]。
「差別」の証明の難しさ
特定の事柄について差別の存在を証明するのは簡単ではない[12]。なぜなら、その事柄が正当か不当かについての判断は、それを告発する者の伝達能力・表現力と、告発を受け取る者の感性によるところが大きいからである。差別は普遍的な実体として存在するものの、その定義付けは困難であり、定義不能とする研究者も少なくない[12]。また、微妙な差別は明白な差別よりもはるかに有害であるとする研究もある[13]。
性差別や年齢差別、障害者差別において、合理性などの正当な理由無く不当である場合は、違憲や違法である[2][3][4][9][10][11]。
差別の種類
差別は大きく「偏頗的・統計的差別」と「制度的差別」の2つに分類できる。 現代の文脈では、差別行為に関する主な問題は、偏頗的かつ統計的な差別を中心に展開している。 日常的な偏頗的差別の些細な事例であっても、重大な結果をもたらす可能性があるとされる[14]。
偏頗的・統計的差別
個人の好みや偏見によって引き起こされる差別行為を指す。これには、人種、性別、年齢、宗教、外見などの要因に基づいて個人を異なるように扱うことが含まれる。一見軽微な偏頗的差別の事例であっても、個人の幸福や帰属意識に重大な影響を与える可能性がある[14]。研究によると、偏頗的差別は、標的となった人々のストレスの増加、精神的健康問題、自尊心の低下につながる可能性がある。専門家らは、共生社会を育むためには、偏頗的差別に対処し、根絶することが重要だと主張している。
統計的差別は、特定のグループに関連付けられた一般化または固定観念に依存する別の形式の差別である。これは、個人が統計的傾向やグループの特性に基づいて意思決定をしたり、他の人に異なる扱いをしたりするときに発生する。この種の差別は、雇用、教育、住宅、刑事司法などのさまざまな状況で現れる可能性がある。批評家は、統計的差別が偏見を永続させ、疎外されたグループの機会を制限することで不平等を永続させると主張している。組織と政策立案者には、統計的差別を最小限に抑え、すべての個人に対する公平な扱いを促進する措置を講じる責任がある。
人種・民族・宗教・文化に関する差別
- 人種差別・民族差別
- 人種差別や民族差別は古くから存在する。古代ギリシア人のバルバロイや中華思想などに見られるように、しばしば自民族中心主義の裏となって表れる。19世紀の西欧諸国では植民地交易を正当化するために人種差別が科学と結びつけられ、社会進化論や優生学を援用した疑似科学に根拠を置くイデオロギーとなった。このような人種主義や植民地主義に基づき先住民族の迫害や、アフリカの黒人を対象とした奴隷貿易・奴隷制が実施された。近代以降は戦争や民族主義の台頭、独立運動への抑圧などによって様々な迫害や差別が表面化した。1930年代のドイツに登場したナチスはユダヤ人、ロマなどの差別・迫害を正当化する極端な人種差別政策を実施した(ナチズム、ホロコースト)。アメリカ合衆国や南アフリカに見られた有色人種への差別政策は徐々に解消されていったが、近年は民族紛争、テロ、難民・移民の増加を背景とした特定の民族・宗教への排斥を正当化しようとする極右思想や排外主義が見られる。
- 先住民族
- 少数民族
- 宗教
- 文化差別
言語・地域に関する差別
性に関する差別
能力に関する差別
ほか、低所得層への差別や学歴差別・学力差別、老人差別、病人差別なども能力による差別と重なる面がある。
病人に関する差別
階級と職業に関する差別
その他
- 村落差別(村八分)
- 年齢差別(雇用や選挙権など各種法律における差別(制限)。ただし、これらの規定は合憲と見なされている[2][17]。
- 他には俗流若者論など)
- 思想差別(特別高等警察、思想警察、赤狩りなど
- 血液型差別 血液型性格分類を参照
- 容姿差別(ルッキズム)
- 被爆者に対する差別(被爆者差別)
- 種差別(ヒト以外の生物に対する差別)
制度的差別
身分に関する差別
前近代社会においては身分制を敷いた社会がある。近代化の過程で社会契約論などによって身分制は再編成され、階級制へと移行した。法学者ヘンリー・サムナー・メインは「身分から契約へ」という言葉を残している。
逆差別
「差別を受けている」とする人々や団体に対して雇用や教育に関する優遇政策(ポジティブ・アクションなど)が、逆差別であると批判がある。アメリカでは、特に入試における人種間の逆差別へのアジア系や白人系から不満の声が高まっている[18][19][20]。ハーバード大学はアジア系の学生を差別してきた証拠も提出されている[18]。白人系とアジア系からは、人種間の入試における逆差別への批判が強いため、訴訟も提起された。特に勉強に熱心で成績の良い人種なために不利益を受けているアジア系から批判の声が強まっている[19][20]。
日本
戦後の日本国憲法において、「正当な理由無き差別」は禁止されている。日本国の多くの法律に年齢条項があり、年齢理由の制限や差別的な取扱いがされている。これらは「年齢差別」との意見があるものの、後述のように正当な理由があるために合憲だとして年齢条項は存続している。他にも、男性は妊娠と出産ができないという正当な理由があるために女性労働者だけに産前・産後休暇が認められている[2]。未成年者へ「年齢で差を設ける」ことを年齢差別と意見があるものの[2]、昭和60年10月23日の判例で「(未成年者は)心身の未熟さや発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していない」から許容されると結論づけられている[17]。
日本近・現代史の研究で著名なアメリカの歴史学者のジョン・ダワーは、日本における差別の特徴として、日本社会の古くからある身内を清浄、よそ者を不浄に結びつける心理的態度を紹介している[21]。 精神科医の土居健郎は、1971年の著書『「甘え」の構造』の中で、日本人の人間関係の種類として、内と外、を挙げ、“身内にべたべた甘える者に限って、他人に対しては傍若無人・冷酷無比の態度に出ることが多い”[22] 点や、日本人が身内と、身内以外の人に対して、“自分の行動の規範が異ることは、なんら内的葛藤の材料とはならない”[23] 点を、日本人の特徴として挙げている。
ガヴァン・マコーマックによると国連人権委員会の特別報告者は調査のため2005年(平成17年)に来日し、日本は差別が「根深く深刻な」国であり、「精神も思考も閉鎖的」な社会だと報告している[24]。
2017年に最高裁は、遺族補償年金の規定で男女差があることを「性差別(男女差別)」で憲法違反だと主張する男性の訴えに対して、「男女間の労働力人口の割合の違い、平均賃金の格差や雇用形態の違い」から、規定の男女差は合理性があるとして合憲と判断した[3]。
法律の対応
現代においては、各国で憲法などにより人権の保障と法の下の平等が謳われ、また市民的及び政治的権利に関する国際規約が締約国に対し、「人間としての平等、生命に対する権利、信教の自由、表現の自由、集会の自由、参政権、適正手続及び公正な裁判を受ける権利など、個人の市民的・政治的権利を尊重し、確保する即時的義務」を定めている。
日本では、日本国憲法第14条第1項において、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定し、正当な理由無き差別(不当な差別的取扱い)を禁止している[2]。日本国の方針や法律においても、「不当な差別的取扱い」は禁止されているが、「合理的配慮」や「客観的に見て正当な目的の下に行われたもの」、「その目的に照らしてやむを得ない場合」は認められている。障害者差別解消法において、「不当な差別」が規定されており、健常者と異なる扱いに正当な理由があるものは合法とされている[9][4][10][11]。公職選挙法の被選挙権など各種法令における「年齢差別(年齢制限)」や遺族年金制度などにおける「男女差別(性差別)」など「合理性のある区別」として、合憲や合法とされている[2][3]。
脚注
注釈
- ^ 福島第一原子力発電所事故による福島県民への差別、新型コロナウイルスのパンデミックによる武漢市はじめ感染拡大地域出身者への差別など。
出典
- ^ 日本国語大辞典、広辞苑、大辞泉、大辞林
- ^ a b c d e f g h “〔研究者コラム〕ー「法律と年齢(最終回)」年齢で差を設けることは差別になる?ー - 「法律と年齢」法学部・桧垣伸次准教授”. 福岡大学. 2023年5月12日閲覧。
- ^ a b c d “遺族補償年金の“男女差”は合憲 最高裁が初判断”. テレ朝news. 2023年5月12日閲覧。
- ^ a b c d “第2 不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方:文部科学省”. www.mext.go.jp. 2023年5月12日閲覧。
- ^ “United Nations CyberSchoolBus: What is discrimination? 差別とは何ですか?]”. 2021年4月7日閲覧。(国際連合)
- ^ “日本国内にある差別とは?SDGsと紐づけて見てみよう”. 2023年12月25日閲覧。
- ^ “Discrimination: What it is, and how to cope”. アメリカ心理学会 (2019年10月31日). 2020年10月13日閲覧。 “Discrimination is the unfair or prejudicial treatment of people and groups based on characteristics such as race, gender, age or sexual orientation.”
- ^ “What is discrimination?” (英語). アムネスティ・インターナショナル. 2025年7月21日閲覧。
- ^ a b c “全般 合理的配慮等具体例データ集(合理的配慮サーチ):障害者制度改革担当室 - 内閣府”. 内閣府ホームページ. 2023年5月12日閲覧。
- ^ a b c “1-3.不当な差別的取扱いとは”. www.jasso.go.jp. 2023年5月12日閲覧。
- ^ a b c “不当な差別的取扱いの詳細と具体例”. 東京都福祉保健局. 2023年5月12日閲覧。
- ^ a b c d e f 坂本佳鶴恵『アイデンティティの権力』 新曜社 2007年(平成19年) 第2刷、ISBN 4788509377 pp.2 - 19.
- ^ Walker, Sarah S.; Corrington, Abby; Hebl, Mikki; King, Eden B. (2022-04). “Subtle Discrimination Overtakes Cognitive Resources and Undermines Performance” (英語). Journal of Business and Psychology 37 (2): 311–324. doi:10.1007/s10869-021-09747-2. ISSN 0889-3268 .
- ^ a b Small, Mario L.; Pager, Devah (2020-05-01). “Sociological Perspectives on Racial Discrimination” (英語). Journal of Economic Perspectives 34 (2): 49–67. doi:10.1257/jep.34.2.49. ISSN 0895-3309 .
- ^ “[https://web.archive.org/web/20220808135312/https://www.tibethouse.jp/about/information/human_rights/human14.html チベットでの中国の存在と人権の侵害 TCHRD(チベット人権・民主センター)1997年発行]”. ダライ・ラマ法王日本代表部事務所. 2022年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年4月8日閲覧。
- ^ “寄付ナビ - 児童労働の原因は?貧困や社会(伝統・差別)、経済・政治など4つの背景”. 2024年5月20日閲覧。
- ^ a b “〔研究者コラム〕ー「法律と年齢(第1回)」法律と年齢にはどんな関係があるのか?ー - 「法律と年齢」法学部・桧垣伸次准教授”. 福岡大学. 2023年5月12日閲覧。
- ^ a b “ハーバード大がアジア系学生を入試で不利に扱っていたことが明らかに”. GIGAZINE. 2023年5月12日閲覧。
- ^ a b “米最高裁、入学選考の人種考慮を審理 アジア系差別焦点 - 日本経済新聞”. www.nikkei.com. 2023年5月12日閲覧。
- ^ a b “アジア系差別か格差是正か エリート校入試、米で論争 - 日本経済新聞”. www.nikkei.com. 2023年5月12日閲覧。
- ^ ジョン・W・ダワー、「容赦なき戦争」、猿谷要監修、2001年(平成13年)、平凡社ライブラリー、394ページ
- ^ 土居健郎、「甘え」の構造、1971年(昭和46年)、弘文堂、39ページ
- ^ 土居健郎、「甘え」の構造、1971年(昭和46年)、弘文堂、40ページ
- ^ ガバン・マコーマック、[属国 米国の抱擁とアジアでの孤立]、2008年(平成20年)、凱風社、284ページ
関連項目
- 非人間化 ‐ 戦争時の敵国人や加害者、奴隷などに対して、同じ人間とは扱わなくなる心理状態。
無差別
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/05 01:47 UTC 版)
「関税及び貿易に関する一般協定」の記事における「無差別」の解説
「無差別」はGATTの基本的原則とされ、これには最恵国待遇という側面と、内国民待遇という側面とがある。これらはWTOの中核的なルールとしても引き継がれている。 最恵国待遇は、貿易の相手国とその他の国とを差別せずに貿易相手国に対しそれ以外の国々に与える待遇の中で最も有利な待遇を与えるというもので、多国間条約の中でGATTは初めてこの最恵国待遇の原則を定めた(第1条第1項)。他国に最恵国待遇を与えるための条件として、その相手国に対し自国の産品に対し特定の有利な待遇を保証することを要求してはならない。1947年のGATTのとりまとめ交渉の中で、この最恵国待遇を盛り込むにあたってアメリカとイギリスの間で対立があった。1941年以降国務長官コーデル・ハルのもとで国務省を中心に貿易自由化を志し国際的貿易体制の検討を続けてきたアメリカに対し、1932年以来イギリス帝国内の植民地で適用されてきた排他的帝国特恵関税制度の存続を求めたイギリスが反発したのである。最終的に帝国特恵関税制度のような地域的特恵制度が最恵国待遇原則の例外として認められることとなり、また帝国特恵関税制度以外に一定の条件下で地域経済統合のような地域的特恵制度を新たに締結することもこの最恵国待遇に対する例外として認められた(第24条)。 内国民待遇とは他国や他国産品を自国や自国産品と差別することなく待遇することをいい、GATTでは輸入品に対する税金や国内法令について規定した(第3条)。輸入品が輸入国の国内で輸入品と同種の国産品目より不利に扱われれば貿易自由化の妨げになるとされたのである。 最恵国待遇は特定の国の輸入品がそれ以外の国からの同種の輸入品と差別されないことを、内国民待遇は輸入品が国内産の同種の産品と差別されないことを定める原則である。最恵国待遇・内国民待遇いずれの原則においても、同種の品目に該当するかどうかは、産品の用途、産品の性質・属性、消費者の選好、関税分類、という4つの基準に照らし判断される。
※この「無差別」の解説は、「関税及び貿易に関する一般協定」の解説の一部です。
「無差別」を含む「関税及び貿易に関する一般協定」の記事については、「関税及び貿易に関する一般協定」の概要を参照ください。
「無差別」の例文・使い方・用例・文例
- 無差別に
- 無差別爆撃
- アメリカでは、死刑は無差別な方法で適用される。
- 無差別に.
- (身分の)差別なく, 無差別に.
- 無差別殺りく.
- その男は通行人に向かって無差別発砲をした.
- 彼は無差別級で彼にとって初めてのオリンピックのメダルを獲得した.
- 平等無差別
- 善悪無差別の混合
- 死は平等無差別
- 彼は無差別に本を読む
- 無差別殺戮
- 彼女は、無差別に読む
- 無差別に多くの人々を殺す
- 無差別な迫害の犠牲者
- 彼女の読書の習慣において無差別の;彼女の選択は、完全にランダムなようだった
- 無差別に組立てられる
- 米国でどんな短毛で青っぽい灰色の猫に対しても無差別に使用される語
品詞の分類
名詞および形容動詞(程度) | 無謀 無尽蔵 無差別 無制限 無闇矢鱈 |
名詞および形容動詞ナリ活用 | 無分暁 無功 無差別 無意気 無愛 |
- 無差別のページへのリンク