アメリカ同時多発テロ事件 テロの実行者

アメリカ同時多発テロ事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/19 00:52 UTC 版)

テロの実行者

ウサーマ・ビン・ラーディン

オサマ・ビン・ラーディン(1997年撮影)

アメリカ同時多発テロ事件の首謀者は、イスラーム過激派テロ組織「アルカーイダ」の指導者ウサーマ・ビン・ラーディンとされている[93][94][95]。当初、ビン・ラーディンは事件への関与を否定していたが[96]、2004年には一転して同時多発テロ事件への関与を公に認めた[97][98]

2001年9月16日、アルジャジーラ上でビン・ラーディンによるビデオ声明が放送された[96]。声明の中でビン・ラーディンは、「私は攻撃を実行していないと強調する。攻撃は別の個人によって、彼自身の動機に基づいて実行されたように見える」と述べた[96]。2001年11月、アメリカ軍はアフガニスタン東部のジャラーラーバードで1本のビデオテープを回収した。このテープにはビン・ラーディンと他のアルカイダ構成員との会話が記録されており、その中でビン・ラーディンは同時多発テロを事前に知っていたことを認めていた[99]

2004年のアメリカ大統領選挙の直前、ビン・ラーディンは新たなビデオ声明を発表し、アルカイダが同時多発テロ事件に関与したことを公式に認め、自らが実行犯にテロ攻撃を指示したことを認めた[100][101]。 2006年9月にアルジャジーラが入手したビデオテープには、ビン・ラーディンとラムジ・ビン・アル=シブ英語版が、2人のハイジャック犯(ハムザ・アル=ガームディー英語版およびワイル・アル=シェフリ英語版)と共に同時多発テロの準備をしている模様が記録されていた[102]。ビン・ラーディンは、同時多発テロ事件に関してアメリカ政府当局から正式に起訴されたことはなかったが、ケニアの首都ナイロビタンザニアの首都ダルエスサラームにおけるアメリカ大使館爆破事件に関する容疑でFBI10大最重要指名手配者に指定されていた[103][104]

2011年5月2日、10年間の追跡の末に、アメリカ軍特殊部隊はパキスタンのアボッターバードに潜伏していたビン・ラーディンを急襲の上で殺害した[105][106]。なお、この時の映像は当時のオバマ大統領ら閣僚に生中継された。

動機

ウサーマ・ビン・ラーディンが1996年に発表した対アメリカ宣戦布告と、1998年に発表したアメリカ国民の無差別な殺害を呼びかける布告は、ビン・ラーディンの動機を示す証拠として扱われている[107][108]。ビン・ラーディンは、非イスラム教徒がアラビア半島に常駐することは預言者ムハンマドによって禁じられていると解釈しており[109]湾岸戦争が勃発した1990年8月以降アメリカ軍がサウジアラビアに駐留していることに強い怒りを抱いていた[110]

1996年8月、ビン・ラーディンは最初の「ファトワー(布告)」を発し、「2つの聖なるモスクの地(サウジアラビア)の占領者」であるアメリカに対するジハード(聖戦)を宣言すると共に、異教徒であるアメリカ人をアラビア半島から駆逐するよう全世界のムスリムに呼びかけた[110]。1998年2月、ビン・ラーディンは第2の「ファトワー」を発し、アメリカ軍によるサウジアラビア駐留へ再度抗議すると共に、アメリカの親イスラエル的な外交政策を批判した[107]。1998年の「ファトワー」はさらに、世界各地でアメリカおよびその同盟国の国民を軍人・民間人の区別なく殺害することが、「占領されているアル=アクサー・モスクメッカ聖なるモスクを解放」するために、「全ムスリムに課せられた義務である」と宣言していた[107][111]

ビン・ラーディンは自らの直接的関与を認めた2004年の声明の中で、テロ攻撃を行った動機について以下のように述べた[112]

1982年、アメリカはイスラエルレバノンを侵略することを許可し、侵略を助けるためアメリカ第6艦隊を派遣した……レバノンの破壊されたタワーを目にした私の心に、我々も迫害者たちを同じやり方で罰するべきだという考えが浮かんだ。我々はアメリカのタワーを破壊して、我々が体験したものの一端を迫害者たちにも体験させるべきであり、そうすることで彼らが我々の女や子供を殺すのを思いとどまるようにすべきだと考えた[98]

ハリド・シェイク・モハメド

テロの発案者とされるハリド・シェイク・モハメド(画像)は、2003年に逮捕された

アルジャジーラ記者ヨスリ・フォウダ英語版の報告によれば、アルカイダ幹部のハリド・シェイク・モハメドは2002年4月に、自らが同時多発テロを計画したことを認めた[113]。モハメドは逮捕された後の2007年にも犯行を自供した[114][115]。アメリカ議会調査委員会による同時多発テロ事件の最終報告書は、モハメドを911テロの主たる企画者として紹介しており、彼のアメリカに対する敵意は「イスラエルに好意的なアメリカの外交政策との著しい意見の不一致」に起因すると結論づけた[116]。モハメドは1993年の世界貿易センター爆破事件にも関与しており、主犯ラムジ・ユセフの叔父でもあった[117][118]。モハメドは2003年3月1日にパキスタンラーワルピンディーで逮捕された。逮捕後、モハメドは複数のCIA秘密軍事施設グアンタナモ湾収容キャンプに拘留され、尋問中にウォーターボーディングを含む拷問を受けた[119][120][121]。2007年3月にグアンタナモ湾で行われた聴聞会において、モハメドは自らには「9月11日の作戦について初めから終わりまで全ての責任があった」と証言した上で、この証言は強要の下でなされたものではないと述べた[115][122]

その他のアルカイダ構成員

バージニア州東部地区連邦地方裁判所英語版ザカリアス・ムサウイの裁判中に使用した資料であるSubstitution for the Testimony of Khalid Sheikh Mohammedは、同時多発テロ計画の全貌を事前に把握していたアルカイダ構成員として、ビン・ラーディン、モハメド、ビン・アル=シブ、ムハンマド・アーティフアブ・トゥラ・アル=ウルドゥニ英語版の5名を挙げている[123]

同時多発テロ事件において重要な役割を担ったテロリストの多くは、ドイツハンブルクに拠点を置くイスラーム過激派集団(通称ハンブルク・セル英語版)に所属していた[124]。事件当日にハイジャック機のパイロット役を務めたモハメド・アタマルワン・アル=シェヒ英語版およびズィアド・ジャッラーフ英語版に、調整役のラムジ・ビン・アル=シブ英語版を加えた4人が「ハンブルク・セル」の中心的メンバーであり、彼らはアフガニスタン訪問時にアルカイダ指導部によってテロの実行者に任命されていた[125]

同時多発テロの計画と実行犯の準備

モハメド・アタら「ハンブルク・セル」が1998年から2001年まで使用していたハンブルクのアパート

同時多発テロ計画の考案者はハリド・シェイク・モハメドであり、モハメドは1996年に初めて計画をウサーマ・ビン・ラーディンに提示した[126]。当時、ビン・ラーディンとアルカイダはスーダンからアフガニスタンに拠点を移したばかりであり、一種の過渡期にあった[127]1998年にビン・ラーディンが発した、「アメリカ人の殺害はムスリムの義務である」とする自称「ファトワー」とされたものと、同じく1998年に発生したアメリカ大使館爆破事件は、ビン・ラーディンが攻撃の焦点をアメリカに定めたことを示す1つの転換点となった[128]

1998年末もしくは1999年の初め頃、ビン・ラーディンはモハメドが同時多発テロ計画の準備に着手することを承認した[129]。1999年春には、モハメドとビン・ラーディン、およびビン・ラーディンの代理人ムハンマド・アーティフが参加する会合が立て続けに開かれた[130]。アーティフは、ターゲットの選定やハイジャック犯のための渡航の手配など、テロ計画の作戦面での支援を提供した[127]。モハメドの提案は一部ビン・ラーディンによって却下され、ロサンゼルスライブラリータワーのようないくつかのターゲット候補は、「攻撃の準備をするのに必要な時間が不足している」ことを理由に拒否された[131][132]

ビン・ラーディンはテロ計画の統率と資金援助を担当し、計画を実行するテロリストの選抜にも関与した[133]。当初、ビン・ラーディンはナワフ・アル=ハズミ英語版ハリド・アル=ミフダール英語版というボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で戦った2人の熟練戦闘員をハイジャック機のパイロット役に任命していた。2000年1月中旬、アル=ハズミとアル=ミフダールはアメリカに到着し、2000年春にはサンディエゴで飛行訓練を受けたが、2人はほとんど英語を話せず、また訓練の成績も悪かったため、最終的にはパイロット役以外のハイジャック犯(武力による制圧要員)としてテロに参加することとなった[134][135]

1999年後半、モハメド・アタマルワン・アル=シェヒ英語版ズィアド・ジャッラーフ英語版ラムジ・ビン・アル=シブ英語版らドイツ・ハンブルク在住のイスラーム過激派の一団が、アフガニスタンのアルカーイダ訓練キャンプを訪問した[136]。ビン・ラーディンは、彼らが高い教育を受けており、また英語が堪能で欧米での生活に慣れていることを評価し[137]、テロ計画の中核となる実行メンバーに抜擢した[125]。その後、2000年にはアガニスタンの訓練キャンプにハニ・ハンジュール英語版という新兵が加入した[138]。ハンジュールは1999年にアメリカで職業操縦士免許を取得しており、その事実を知ったアルカーイダは彼をテロ計画に参加させた[138]

ハンブルク在住のテロリストの内、アル=シェヒは2000年5月末に、アタは2000年6月3日に、ジャッラーフは2000年6月27日に、それぞれアメリカに到着した[138]:6。ビン・アル=シブは渡米のためアメリカのビザを何度も申請したが、イエメン国籍であったため、有効期限を過ぎて不法滞在することへの懸念からビザが発給されなかった[138]:4, 14。ビン・アル=シブは渡米を諦めざるを得ず、ハンブルクに留まってアタとハリド・シェイク・モハメドの間の調整役を務めることとなった[138]。アメリカに渡った3人の「ハンブルク・セル」メンバーはフロリダ州南部の航空学校で飛行訓練を受けた[138]:6。一方、ハニ・ハンジュールは2000年12月8日にサンディエゴに到着し、アル=ハズミと合流した[138]:6–7。2人はその後すぐにアリゾナ州に向かい、ハンジュールはそこで操縦の再訓練を受けた[138]:7

2001年春には、パイロット役以外のハイジャック犯もアメリカに到着し始めた[139]。2001年7月、アタはスペインでビン・アル=シブと会い、攻撃目標の最終的な選択等、テロ計画の調整を行った。その際、ビン・アル=シブはアタに、ビン・ラーディンができるだけ早いテロ攻撃の実行を望んでいることを伝えた[140]9月7日には在日アメリカ大使館が「日本国内に滞在するアメリカ人に対してテロ攻撃の可能性がある」ことを発表していた[141]が、アメリカ国内のテロ攻撃の警報は出されないままであった。

実行犯の一覧

便 氏名 年齢 国籍
アメリカン航空11便テロ事件 モハメド・アタ 33  エジプト
アブドゥルアズィーズ・アル=オマリー英語版 22  サウジアラビア
ワイル・アル=シェフリ英語版 28
ワリード・アル=シェフリ英語版 22
サタム・アル=スカミ英語版 25
ユナイテッド航空175便テロ事件 マルワーン・アル=シェッヒー 23  アラブ首長国連邦
ファイヤーズ・バニーハンマード英語版 24
ムハンド・アル=シャフリー英語版 22  サウジアラビア
ハムザ・アル=ガームディー英語版 20
アフマド・アル=ガームディー英語版 22
アメリカン航空77便テロ事件 ハーニー・ハンジュール 29
ハリード・アル=ミンザール英語版 26
マージアド・ムーカド英語版 24
ナワーフ・アル=ハーズミー英語版 25
サリーム・アル=ハーズミー英語版 20
ユナイテッド航空93便テロ事件 ズィアド・ジャッラーフ 26  レバノン
アフマド・アル=ハズナーウィー英語版 20  サウジアラビア
アフマド・アル=ナーミー英語版 24
サイード・アル=ガームディー英語版 21

出典:[142]


注釈

  1. ^ 民放のうち、日本テレビ系列は『火曜サスペンス劇場』、テレビ朝日系列では『ニュースステーション』がそれぞれ放送中だった。TBS系列は『ジャングルTV ~タモリの法則~』(毎日放送制作)、フジテレビ系列ではドラマ・『ウソコイ』(関西テレビ制作)がそれぞれ開始した直後だった。この中でニュース速報が出された。
  2. ^ 現在はフリーアナウンサー。
  3. ^ この時間帯は毎日放送の責任枠であったため、22時53分まではTBSから毎日放送経由で全国へ流された。
  4. ^ ニュース挿入時間中はドラマの送出VTRを一時停止し、ニュース終了のタイミングで送出VTRを再び再生した(放送枠の「こじ開け」措置。これにより、後続番組は5分程度の繰り下げとなった。)。
  5. ^ この時に放映がされていた2001年度の「チャイルドマザー」「チャイルドファザー」は、上記の事件の影響で多量に放映されたため、槍玉に挙がり放送中止に至ったとされる。なお、公共広告機構以外にも上記の事件の影響で差し替えとなったCMもある。
  6. ^ 前日の9月10日付けも台風情報を行うために休止となっており、レギュラー放送としては初めて2日間連続休止となった(この時は「深夜便」のスタジオにはつながず、ニュースセンターのラジオスタジオから断続的に放送した。9月12日付けから再開するが、その週は「NHKジャーナル」を臨時に0:45まで拡大延長したため、一部のコーナーは休止となった)
  7. ^ なお、この事件の10日前に東京都新宿区で発生した歌舞伎町ビル火災の影響から、このような措置を既にとっていた放送局も複数存在する。
  8. ^ 国際政治学・安全保障政策の研究者である宮坂直史は著書(『日本はテロを防げるか』ちくま新書)の中で、テロは複数箇所で同時に行われることが多いことから「アメリカ同時多発テロ」を固有名詞として用いることには違和感を覚える、と指摘している。
  9. ^ 全米に飛行禁止令が出された後も連絡が行き届かず、飛行を続けていた航空機が11機存在したことによる。ユナイテッド93でも描写されている。
  10. ^ 犠牲者1700人の宗教についての調査で、全体の内の約10%がユダヤ教徒であったことが示されている。また犠牲者の姓を調査した結果、約400人 (およそ15%) がユダヤ人である可能性があることが判明した。犠牲となったキャンター・フィッツジェラルド英語版社の従業員658人のうち、公共の慰霊碑に名前があった390人を調査した結果、その中の49人 (およそ13%) がユダヤ人であったことが判明した。2002 American Jewish Year Bookによると、ニューヨーク州の人口のうち9%がユダヤ人であった。またWTCの犠牲者のうち64%がニューヨーク州在住の人物であった。

出典

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  17. ^ NHKスペシャル『一年目の真実~ビンラディン対アメリカ~』による。
  18. ^ 『華氏911』の映画監督であるマイケル・ムーアは、これら大型機を操縦して体当たりする技術が一朝一夕で身に付くわけがなく、犯人は飛行機のフライト経験が豊富な元軍人(仮説としてサウジアラビア空軍のパイロット)ではないかと主張している[要出典]
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