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西遊記の成立史

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』 (2023/08/16 14:00 UTC 版)

西遊記の成立史（さいゆうきのせいりつし）では、中国明代に成立した長編白話小説で四大奇書の一つである『西遊記』の成立過程について概説する。『西遊記』は唐代初期を舞台とし、三蔵法師がサルの孫悟空、ブタの猪八戒、水怪の沙悟浄らを供に、幾多の苦難を乗り越え、経典を求めて天竺（インド）を目指して旅するという神怪小説である。実在の僧侶玄奘が、仏典を求めるため国禁を犯し、16年の歳月をかけてインドとの間を往復した史実を踏まえてはいるが、各地に伝わった三蔵伝説や猿にまつわる逸話などを吸収し、南宋代の都市で語られた講談や元の雑劇で発展した。元末期頃（14世紀）に大枠の話が成立した後、いくらかの改編を経て、明代中期の16世紀に、長篇小説として完成する。現存する最古のテキストは、1592年初版の『新刻出像官板大字西遊記』（世徳堂本）であり^[1]、その後清代にかけて様々な刊本が発刊された。

脚注

注釈

^ この旅行記は同行した弟子の李志常が記録したもので、現在では区別のため『長春真人西遊記』と呼ばれる。
^ 詳細は三国志演義の成立史・水滸伝の成立史を参照
^ サンスクリット語のtripiṭaka（三つの函）に由来する。
^ 『般若心経』を玄奘が漢訳したという事実についても、これを疑問視する説がある。詳細は般若心経#漢訳を参照。
^ ただし『大唐西域記』は12巻のうち10巻がインド滞在中の記録に当てられており、いわゆる西域往復の旅程は首巻と最終巻に記すのみである。
^ 玄奘は実際には太宗時代の人物であるが、玄宗時代の人とする訛伝が広く伝わっていた。日本の『今昔物語』巻7にも玄奘が玄宗代の人と記されている^[32]。
^ 深沙神は前世2度も三蔵法師を食らってしまったが、今回は前非を悔いて砂漠に橋を架けて一行を通す。
^ 中国では腕の長いテナガザルを「猿」、腕の短いマカク属のサルを「猴」と区別する^[35]。
^ 「幾生三蔵往西天幾たびも生まれて三蔵西天に往く」「苦海波中猴往復苦海の波中に猴（さる）は往復す」「沈毛江上馬駄前毛の沈む江上に馬は駄（の）せてすすむ」などの記述がある^[41]。
^ ただし、この像については三蔵取経図ではなく、孝子図であるとする説もある^[44]。
^ 文言小説とは、宋代以後の中国小説史の上で、大きな比重を占めてはいなかったために、形態名が与えられていなかったこの分野に対し、前野直彬が仮に付けた呼称である^[45]。
^ 瞿佑『剪灯新話』巻の三の三に載せる。日本語訳は飯塚朗訳『申陽の洞窟』がある^[47]。
^ 洪楩『清平山堂話本』第12話に載せる。日本語訳は入矢義高訳『梅嶺にて陳巡檢が妻を失いしこと』がある^[49]。
^ なお現存の楊劇西遊記刊本は、刊行が1614年であり、世徳堂本（1592年）よりも後であることには注意を要する。
^ なお史実では、尉遅敬徳の子の窺基が、玄奘の弟子となって仏典漢訳に従事。のち法相宗を起こし、「慈恩大師」と称されている。
^ 最も早い時期の通俗小説『三国志演義』も明刊本では分則本が多く、16世紀後半まで章回に分かれていない。最初に章回を分けた通俗小説は、嘉靖前期（1520～1530年代）に成立した『水滸伝』百回本とみられる（現存していないが、高儒『百川書志』（1540年成立）に「一百巻」と記す刊本の存在が確認できる）。
^ 同様に唐光禄が入手した小説を陳元之が校訂し、世徳堂から出版した例に『新刊出像補訂参采史鑑南宋志伝通俗演義題評』（内閣文庫蔵）がある。
^ 『古今書刻』に挙げられている「西遊記」は『長春真人西遊記』だとする説もある^[81]。
^ 最古の刊本はオックスフォード大学ボードリアン図書館が所蔵している。
^ 北平図書館（現在の中国国家図書館）が、日本の村口書店から購入した。
^ 則と章回の違いは「則の方が本文が短いこと」「則名は段落の内容を要約した単純な短文なのに対し、章回名は対句表現が用いられた2行の文の場合が多いこと」「章回は回数表示があるが、則にはないこと（第○則という表現は後から便宜上つけられたもの）」などが挙げられる。なお、楊本・朱本ともに回数表示はない^[84]。
^ ここで言う「呉承恩本」は、完成された小説としての『西遊記』原本を指し、世徳堂本よりも古い版本の存在を想定している。
^ 太田辰夫は1970年頃の研究で虞集序を信憑性の高いものと評価し、西遊記物語が長春真人によって作成された可能性が高いとしていた。しかし磯部彰は元代の虞集関係文献や道教史との比較により、虞集序は後世の偽作である可能性が高く、彼の名を借用して作られたものと結論づけている^[89]。
^ なお京劇には「十八羅漢闘悟空」という演目があり、大鬧天宮の際に孫悟空が如来の18人の弟子と戦う内容となっているが、当然この羅漢の中には玄奘三蔵は含まれていない。
^ 開元寺には現在、正殿後ろの石柱にヒンドゥー教の神シヴァ・ガネーシャなどとともにハヌマーンのレリーフも存在する。すなわち同寺にはハヌマーン（正殿）と猴行者（西塔）の浮彫が別々に存在していることになる。
^ 朱と猪は元々（上古音）は異音であり、現在でも南方の福建省の厦門語では朱tsuと猪ti、福州語では朱tsu、猪tyなど子音・母音ともに異なる。どちらもzhūと同音になるのは元代以降、北方方言で起きた現象である^[118]。
^ 戒と界は古くは通用字であり、『字彙補』には「戒与界同」とある。他に「猪八界」に作る文書としては、楊慎の『洞天玄記』序がある^[119]。
^ 「捲簾将軍」の語は唐末の『益都金石記』巻2に収める唐東岳廟尊勝経幢（天祐12年=915年）に「南門捲簾将軍」とみえる。楊劇の段階で、沙和尚の前身に設定されている。
^ 唐の憲宗の時代に、まだ仏教が伝わっていなかった金沙灘に布教する手段として、観音が美しい乙女の姿で現れたとする伝説。
^ 鬼子母は『詩話』第9章に見えるが、紅孩児や愛奴児の名はない。
^ 梁の武帝は「皇帝菩薩」と呼ばれるほど仏教への崇敬篤く、上記開元寺のレリーフでは経典を捧げる玄奘三蔵の像と対になっており、三蔵とセットとして捉えられる傾向があった。
^ 門神とは、太宗の功臣秦叔宝と尉遅敬徳を指す。
^ 金代の全真教の道士孫不二は斬龍を実践して女仙になったという。
^ 第98回に如来から三蔵へ渡された経典は35部15144巻とする。これは法・論・経の三蔵を合わせた数（実際の「三蔵」は経・律・論）という設定で、それぞれの蔵は15144÷3＝5048巻となる。
^ 現在、通天河は長江の最上流部のことを指すが、『西遊記』に出てくる通天河は、実在する河を呼んだものではなく、天竺までの中間点にある「天に通ずる河」と想定した概念的な存在である。現在長江上流部を通天河と呼ぶのは、むしろ『西遊記』普及の影響によるものと考えられる^[170]。
^ 後の刊本では、この部分を省略して第9・10回を短縮し、空いた分に江流和尚の話を挿入している。
^ 実際にはその2年前に「西遊記勧化抄」という抄訳が刊行されていたらしく『京都書林行事上組済帳標目』の宝暦6年版に載っている。これは全訳本を出す前に市場の反応を見るために出したパイロット版と思われる^[182]。