文化 文化の概要

文化

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/23 14:22 UTC 版)

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  1. ハイカルチャーのように洗練された生活様式
  2. ポップカルチャーのような大衆的な生活様式
  3. 伝統的な行為

なお、日本語の「文化」という語は坪内逍遥によるものとされている[1]

文化の定義

概説

古典的・日常的な文化

ラテン語 colere(耕す)から派生したドイツ語Kultur英語culture は、本来「耕す」、「培養する」、「洗練したものにする」、「教化する」といった意味合いを持つ。18世紀後半に、産業化をひたさま技術革新、生産性の向上、社会の官僚化といった人間の外部に相当するものとしての文明と対比される、人間の精神面での向上を示す言葉として位置づけるものとしての文化という意味で議論を展開したのがマシュー・アーノルドである[2]。この定義では文化は教養と言い換えることもできる。英語やフランス語は、日本語・中国語・ドイツ語とは異なり、「文化」と区別される「教養」という語を持っていないので、その間の区分が明示的でない。

人類学的文化

人類学においては、人間と自然動物の差異を説明するための概念が文化である[3]

こうした定義の最初のものはイギリス人類学者エドワード・バーネット・タイラー (1871) の、

広く民族学で使われる文化、あるいは文明の定義とは、知識、信仰、芸術、道徳、法律、慣行、その他、人が社会の成員として獲得した能力や習慣を含むところの複合された総体のことである — エドワード・バーネット・タイラー、Primitive culture[4]

である。この文に続く進化主義的な議論は批判されているが、タイラーの定義は今でも基本的には正当性が認められている[5]

この定義は動物に社会が存在しないことが自明とされていた時代の定義であり、後に野生動物も社会を形成することが認められるようになると、新たな制約が加えられた。動物が使うことがない言語によって特徴づけるようになったのである。この場合、動物の音声コミュニケーションとは異なる特徴である再帰性象徴性が強調された。レヴィ=ストロースによれば、言語は文化の条件であるという[6]。つまり文化は、それが非言語的なものであっても言語的な性質を備えている象徴的な事象と定義するもので、構造主義文化人類学者によく使われる[注 1][7]

社会学的文化

出発点が近代社会とは異なる世界を記述するための概念であった人類学的文化は、やがて近代社会を理解するための学問である社会学にも取り込まれるようになった。社会学における文化の定義は人類学から大きく影響を受けているが、例えばパーソンズは「ひとつの社会システムは、二つかそれ以上の諸社会の社会構造や成員や文化、あるいはそうした諸社会の構造、成員、文化のそのいずれかとかかわりあうことができる」として、一つの社会における多文化的な状況を記述可能にするために、社会システムと並立して正統性を担保するものとしての文化システムを定義づけた[8]。シンボリック相互作用論者、なかでもタモツ・シブタニは、ある特定の集団ないしは社会的世界において、人々に共有されているパースペクティブ(認識枠組)を指すものとして文化を扱い、同じく、一つの社会における多文化的な状況(文化の多元的共在)の説明に有用な概念として捉えている[9]ハーバーマスは文化 (Kultur) を「文化とは知のストックのことであり、コミュニケーションの参加者達は世界におけるあるものについての了解しあうさいに、この知のストックから解釈を手に入れる」としている[10]。このように行為、あるいはコミュニケーションに利用されるストックというアイデアは、ルーマンのゼマンティーク (Semantik)、フーコーのアーシーブ(Archive) などとも関連性が深い[11]

文化人類学者のクリフォード・ギアツもパーソンズ由来の文化を採用しているので、現在では社会学的文化と人類学的文化の境目はあまり重要ではない。

考古学的文化

文化を担う集団

文化の概念は、通常、人間集団内で伝播されるものに対してのみ用いられるので、個人がただ発明しただけの状態では適用されることはない[12]。また、地域集団時代によって文化様式は大きく異なることがある。アメリカの文化人類学者ルース・ベネディクトは、個々の文化はそれぞれの固有様式で統合されており、他の文化からの基準では本当の意味で理解することは困難であり、相対化と再帰的な検討が必要であるという文化相対主義を展開した。

文化は人間集団によって作られるが、同時に個々の人間も環境という形で、不断に文化に適応学習させられていると考えられる。

日本文化や東京の下町文化、室町文化など地理的、歴史的なまとまりによって文化を定義するもの、おたく文化のように集団を構成する人を基準に文化を定義するもの、出版文化や食文化のように人の活動の種類によって定義するものなど、個々の文化は様々な形で定義、概念化される。

さらに小規模な集団にも企業の「社風」、学校の「校風」、ある家系の「家風」などがあり、これらも文化と呼ばれる。

動物の文化

現在、文化の定義は人間のという限定を用いなくても、動物が持たないものになるように定義づけられつつあるため、結果として動物は文化を持たないこととなっている。[要出典]しかし野生動物の長期野外調査の蓄積によって、同種個体でも地域差が見られたりすることや道具を使用することは知られている。たとえば、ニュージーランド沖の島に住むセアカホオダレムクドリの鳥のさえずりは、遺伝的に親から子へ伝わるのではなく、人間の言語と同様に、模倣という手段によって伝達され、異なるグループでは方言のように異なるさえずりが観察できる[13]

文化の発祥と伝播・変容

ある特定地域の文化も、人々がそれを用いることが有益と判断すれば他の地域でも用いられるようになり、また伝播先の文化と融合して新たな文化を創造することもある。このような作用によって様々な文化が交じり合い、より高度な文化が創られてきたともいえるが、一方で自文化の変容に対しては反発もあり、各種の紛争の要因ともなっている。

例えば仏教は、インドで発祥し、宗派の分裂や各地の文化の影響もありつつ、中央アジア諸国や東アジア諸国など周辺地域へと伝播していく(上座部仏教大乗仏教も参照)。その後日本にも伝えられるが、当初はその受容につき激しく争われた(崇仏論争、仏教公伝も参照)。受容後は中国などからの影響も受けつつも、日本独自の宗派も発達し、神道との融合なども行われた(神仏習合)。

交通・通信手段の改善や経済交流の増大によって各文化圏の交流が密接になるに伴い、文化の伝播・交流はますます密度を増しつつある。特に1990年代以降、グローバリゼーションの爆発的な進展に伴い、各国では他国文化の流入が起きて多様性が増大し、さらに在来の文化と異文化との融合によって新たな文化が生まれた。その一方で、流入する異文化とはだいたいにおいて有力な文化、特にアメリカを中心とした文化であり、アメリカナイゼーションをはじめとする文化の画一化による文化差異の減少も顕著となっている[14]。食文化においては、世界各地で気候風土や現地文化に即した独自性の高い文化が世界各地で育まれていたが、1990年代以降流通や情報技術の発達によって食品系企業の世界展開が起きて急速に標準化が進みつつあり、全体として差異は縮小する傾向にある[15]。ファストフード・チェーンなどの多国籍企業による効率的・画一的な消費文化が全世界に広がることで起こる文化の均質化も指摘されているが[16]、そうして広まった均質な文化の中でまた差異が追求されることも珍しくない[17]




注釈

  1. ^ しかし大型類人猿が言語を学習できるということが知られるようになると、文化獲得における重要なイベントである学習を細分化して人間の学習(意図模倣)と動物の学習(単純模倣)をわけ、さらには教示の有無を問題にするという発想もでている。つまり動物が社会化のなかで獲得するふるまいは、単純模倣によってだけ獲得される伝統traditionであり、人間が言語や意図模倣、教示を通した社会化のなかで身につける文化という差異を創出して定義づけ、人間以外の動物には文化を身につけることは困難であるとするのである。

出典

  1. ^ 毎日新聞社編『話のネタ』p.55、PHP文庫、1998年。
  2. ^ 太田好信『民族誌的近代への介入—文化を語る権利は誰にあるのか〔増補版〕』人文書院、2009年。
  3. ^ 祖父江孝男『文化人類学入門』中央公論社〈中公新書; 560〉、1979年。
  4. ^ E.B.Taylor (2007) [1871]. Primitive culture: researches into the development of mythology, philosophy, religion, art, and custom.. Kessinger Pub Co. pp. 1. ISBN 142863830X 
    翻訳: E.B.タイラー『原始文化』比屋根安定訳、誠信書房、1962年。
  5. ^ 村武慶「文化の変動」『文化人類学』村武精一・佐々木宏幹、有斐閣、1991年。
  6. ^ クロード・レヴィ=ストロース「言語学と人類学」『構造人類学』佐々木明訳、みすず書房、1972年(原著1958年)。
  7. ^ 『心ところばの起源を探る: 文化と認知』大堀壽夫・中澤恒子・西村義樹・本田啓訳、勁草書房、2006年。
  8. ^ パーソンズ・T.(タルコット)『文化システム論』ミネルヴァ書房、1991年。
  9. ^ Cf. タモツ・シブタニ著、2013年、木原綾香ほか訳「パースペクティブとしての準拠集団Discussion Papers In Economics and Sociology, No.1301.
  10. ^ Habermas, Jürgen 河上倫逸ほか訳 (1985-1987) [1981]. コミュニケーション的行為の理論. 木鐸社 
  11. ^ 高橋徹『意味の歴史社会学―ルーマンの近代ゼマンティック論』世界思想社、2002年。
  12. ^ 文化 (動物)の芋洗いの項目を参照
  13. ^ Rikoteki na idenshi.. Dawkins, Richard, 1941-, Hidaka, Toshitaka, 1930-2009., Kishi, Yuji, 1947-, Haneda, Setsuko, 1940-, 日高, 敏隆, 1930-2009, 岸, 由二, 1947-. Kinokuniyashoten. (2018.2). ISBN 9784314011532. OCLC 1030169575. https://www.worldcat.org/oclc/1030169575 
  14. ^ 「現代人の社会学・入門 グローバル化時代の生活世界」p9 西原和久・油井清光編 有斐閣 2010年12月20日初版第1刷発行
  15. ^ 「食文化の多様性と標準化」p79-80 岩間信之(「グローバリゼーション 縮小する世界」所収 矢ヶ﨑典隆山下清海加賀美雅弘編 朝倉書店 2018年3月5日初版第1刷)
  16. ^ 「現代人の社会学・入門 グローバル化時代の生活世界」p130-131 西原和久・油井清光編 有斐閣 2010年12月20日初版第1刷発行
  17. ^ 「現代人の社会学・入門 グローバル化時代の生活世界」p21 西原和久・油井清光編 有斐閣 2010年12月20日初版第1刷発行
  18. ^ 『アフリカを知る事典』、平凡社、ISBN 4-582-12623-5 1989年2月6日 初版第1刷 p.466
  19. ^ 「博覧会の政治学」p192-194 吉見俊哉 中公新書 1992年9月25日初版
  20. ^ マーヴィン・ハリス『ヒトはなぜヒトを食べたか—生態人類学から見た文化の起源』鈴木洋一訳、早川書房〈ハヤカワ文庫—ハヤカワ・ノンフィクション文庫〉、1997年。
  21. ^ Keesing, R (1989). “Creating the Past”. The contemporary Pacific 1 (2): 19-42. 
  22. ^ Trask, H-K (1991). “Native and Anthropologist”. The contemporary Pacific 3 (1): 159-167. 
  23. ^ マーガレット・ミード『サモアの思春期』畑中幸子・山本真鳥訳、蒼樹書房、1976年(原著1928年)。
  24. ^ デレク・フリーマン『マーガレット・ミードとサモア』木村洋二訳、1995(原著1983年)。
  25. ^ 池田光穂「第5章 民族誌のメイキングとリメイキング―ミードがサモアで見いだしたものの行方」『メイキング文化人類学』太田好信・浜本満、2005年。
  26. ^ 太田好信『民族誌的近代への介入』、2001年、298頁。
  27. ^ The Predicament of Culture: Twentieth-Century Ethnography, Literature and Art, Cambridge, MA, (1988), pp. 17 
  28. ^ The Predicament of Culture: Twentieth-Century Ethnography, Literature and Art, Cambridge, MA, (1988), pp. 246 
  29. ^ 太田好信『トランスポジションの思想 文化人類学の再想像』世界思想社、1998年。
    クリフォードの分類については太田 (1998) の訳p.270を採用した。
  30. ^ 山下晋司「『劇場国家』から『旅行者の楽園へ』」『国立民族学博物館研究報告』第17巻第1号、1992年、 1-33頁。
  31. ^ 荒俣宏『大東亞科學綺譚』筑摩書房〈ちくま文庫〉、1996年。
  32. ^ 山中速人『イメージの楽園』筑摩書房、東京、1992年。
  33. ^ リチャード・ブロディ『ミーム―心を操るウイルス』講談社、1998年。
  34. ^ https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/culture/kyoryoku/unesco/isan/index.html 「文化遺産」日本国外務省 平成28年2月1日 2021年5月23日閲覧


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