社会的学習理論(モデリング理論)
社会的学習理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/05/03 06:42 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動社会的学習理論(しゃかいてきがくしゅうりろん、Social Learning Theory)とは、学習過程と社会的行動における理論であり、人は他者を観察し模倣することによっても新しい行動を獲得できるのだという理論である[1]。学習とは社会環境で行われる認知過程であり、行動の再現や直接的な強化が起こらないケースにおいても、観察や指示のみで学習が起こりうるとしている[2]。さらに学習は他者の行動を観察するだけではなく、他者が強化された(賞罰を受ける)ことを観察しても起こる。これは代理強化(vicarious reinforcement)として知られるプロセスである。特定の行動に対して常に好子が与えられていれば、その行動はほぼ確実に続けられることになる。逆に特定の行動に絶えず嫌子が与えらえれれば、その行動はほぼ確実に止められることになる[3]。この理論は、行動は強化によってのみ決定されるという伝統的な行動理論を拡張したものであり、学習者における様々な内的過程の役割に重点を置いている[1]。
この理論は、メディアの暴力シーンの及ぼす人々の暴力行動への影響に関する研究に広く適用されてきた。
ボボ人形実験
ボボ人形実験(Bobo doll experiment)とは、アルバート・バンデューラによって1961-1963年に行われた実験の総称であり、子供らにボボ人形に対する大人のモデル行動を積極的に見せたあと、子供の行動を観察するものであった。
攻撃的モデルのシナリオでは、大人たちは、ボボ人形を叩く、パンチする、おもちゃの木槌を使って人形を打つなどした。そうでないシナリオと比較し観察された。すると、大人のボボ人形への攻撃を観察した子供は、そうでない子供と比べて、ボボ人形に対して明らかに攻撃的になった。
理論
社会的学習理論は、現実の世界で起こる広範囲の学習経験を説明することができる包括的なモデルを提供するために、学習の行動理論および認知理論を統合したものである。
最初に1963年にバンデューラとウォルターズによって概説され[2]、後の1977年に詳細が補強された[4]、社会的学習理論の核心部は以下である[5]。
- 学習とは純粋に行動的なものというわけではない。むしろ、社会環境で起こる認知過程の一種である。
- 学習は、行動を観察し、行動の結果を観察することによっても行われる(代用強化)。
- 学習には、観察、観察で得た情報の抽出、行動の結果に関しての決断(観察的学習やモデリング)が含まれまる。そのため、行動者の観察可能な変化なしに学習が起こり得る。
- 強化は学習において役割を果たすが、その学習に対して必須要素ではない。
- 学習者は受動的な情報の受信者ではない。認知、環境、そして行動は全て互いに影響を及ぼし合っている(相互決定論)。
脚注
- ^ a b Albert Bandura (1971年). “Social Learning Theory”. General Learning Corporation. 2013年10月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年12月25日閲覧。
- ^ a b Bandura, Albert (1963). Social learning and personality development. New York: Holt, Rinehart, and Winston.
- ^ Renzetti, Claire; Curran, Daniel; Maier, Shana (2012). Women, Men, and Society. Pearson. pp. 78–79. ISBN 978-0205863693.
- ^ Bandura, Albert (1977). Social Learning Theory. Oxford, England: Prentice-Hall.
- ^ Grusec, Joan (1992). “Social Learning Theory and developmental psychology: The legacies of Robert Sears and Albert Bandura”. Developmental Psychology 28 (5): 776–786. doi:10.1037/0012-1649.28.5.776.
関連項目
社会的学習理論
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「マスメディアに映る暴力の影響研究」の記事における「社会的学習理論」の解説
子供達は他人を観察することから攻撃性を学んでいるのではないか、というバンデューラの示唆から社会的学習理論は始まった。モデリング行動は彼の実施したボボ人形実験で観察された。バンデューラは攻撃的モデルを子供達に提示、その(子供達が見た)モデルは1分間ほど「無害な」組み立て玩具で遊んでいたが、やがてボボ人形に進み、ボボ人形を寝かせて暴力をふるった。具体的には、鼻を殴ったり、木槌で叩いたり、空中へ投げたり、蹴るなどし、加えて関連する口頭コメントも行われた。その後、ボボ人形のある部屋に子供達を入れて、子供達が先ほどビデオで見た行動を真似するのかを確認する実験である。 この実験結果では、子供達がビデオで見た行動をモデルにする傾向があったことが示されている。このことは、子供達がメディアで見た攻撃的行動を真似する可能性があることを示唆するものとして取り上げられることも多い。ただし、バンデューラの実験は幾つかの理由で批判されている。 第一に、攻撃対象のボボ人形(攻撃されることを意図されたもの)から人対人の暴力にまで至るのかを一般化するのが困難なこと。第二に、子供達は攻撃的になったというよりも単に実験者を喜ばせようと動機付けられた可能性がある(換言するなら、より攻撃的になるきっかけというより、子供達がそのビデオを指示だと見なした可能性がある)こと。第三に、バンデューラは後年の研究(1965)でボボ人形を叩いたことで大人のモデルが体罰を受けてしまうという条件を入れてみた(具体的には、ビデオ内の大人が実験者に押さえつけられ、叱られながら新聞紙で叩かれるというもの)。この実際の人対人の暴力は、恐らく代理強化によって、子供の攻撃的行動を実際に減少させた。これらの最終結論としては、幼い子供は攻撃性を自動的に真似してしまうのではなく、幼児ですら攻撃性の後先を考えることが示されている。 子どもがメディアで暴力を目撃するのはごく一般的なことだと一部学識者は推定しているため、メディアに関する懸念は多くの場合この社会的学習理論のアプローチに従っている。
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