メタン 温室効果ガス

メタン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/04 00:20 UTC 版)

温室効果ガス

メタンは強力な温室効果ガスでもあり、同量の二酸化炭素の21〜72倍の温室効果をもたらすとされている[14][15]。2021年開催の第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)ではメタン排出削減を目指す国際枠組みが発足し[16]、翌2022年11月17日には第27回気候変動枠組条約締約国会議(COP27)でアメリカとEUがメタン排出の2030年までの30%削減を目指す世界協定について150カ国以上が調印したことが発表された[17]。天然ガス・石油施設や炭鉱といった大きなメタン排出源は人工衛星からの観測で特定できるようになっている[18]

産業革命以来、人工的な温暖化ガスの排出量が急激に増加しており、地球温暖化が加速度的に進行していることが国際的な社会問題となっている。気象庁の温室効果ガス世界資料センターによると、地球の大気における平均メタン濃度は2020年に1889ppbで、産業革命前の2.6倍に増えた[16]

火山ガスであるメタンは、世界最大の火山帯である日本列島および近海から常に大量に放出され続けていることに加え、気温が上昇すれば海底や永久凍土中のメタンハイドレートが放出されることも懸念されるため、日本は積極的にメタンやメタンハイドレートを開発し、燃焼させるべきだとする意見もある。

ロシアなどでは古くから天然ガスとして盛んにガス田の開発が行われてきた。ガスはガス田から消費地に向けてパイプライン輸送されるが、施設の老朽化によりガスが大量に大気中に漏出しているものとみられている。ロシアは漏出量を2019年時点で年間400万トンとしているが、国際エネルギー機関では2020年に1400万トン近くが漏出したと推計している。2021年にはタタールスタン共和国において、1時間当たり400トンに及ぶメタンガスがパイプラインから漏出していることが人工衛星のデータにより確認されている[19]

国連環境計画(UNEP)が2021年5月に公表した『世界メタン評価』によれば、人類による排出で最も多いのは農畜産分野(40%)で、化石燃料分野(35%)、ゴミ・排水処理など廃棄物分野(20%)が続き、排出削減の必要性を訴えている[16]など、草食動物げっぷにはメタンが含まれ、そのからもメタンが発生するため、牛が増えるとメタンガスも増えて温室効果を助長するという説が広まり、大量の牛肉を使用・廃棄しているハンバーガー販売企業がバッシングされる事態も発生した。人口の10倍以上の家畜を抱える酪農国のニュージーランドでは、や牛のげっぷを抑制するという温暖化対策を進めようとしたが、農民の反対を受けている[20]。畜産はメタンガスの21%(げっぷ16%・糞尿5%)を排出していると言われている[21]。日本の農研機構は牛の胃から、牛のエネルギー源となるプロピオン酸を多く産生してメタン発生量を抑える細菌を発見し、この菌を増やす飼料サプリメント化を研究している[22]。家畜排せつ物から発生するメタンは大気中に放出されれば温室効果ガスであるが、一方で発生したメタンを回収し、燃料や発電として利用すればカーボンニュートラルなバイオガスエネルギー、バイオマス資源となる[23][24][25]

酸素が乏しい湛水状態の水田では、気温の高い日が続くと土壌の還元が進みメタン生成菌が活性化し有機物を分解することにメタンガスが発生する。この現象は「わき」と呼ばれる。発生した土中のメタンは稲の根から吸い上げられて稲の茎を通して大気中に排出される。また、この現象は水稲の根の成長を妨げるため、「わき」を抑制するために古くから水田の水を抜き、土中に酸素を供給する中干しとい作業が行われる。この中干しは慣行では茎数が有効茎数の 8~9 割に到達した時点で1週間~10日程度行われるが、その期間を1週間程度前倒しし、中干しの期間を長くすることでメタンの発生を抑えられる。実験では1週間程度延長した場合メタンの発生を30%削減できた。しかし、中干しを長くすると収穫量が3%程度減少した、一方で登熟歩合(全籾数に対する登熟した籾数の割合[26])は向上し、米の品質は向上した[27][16]

メタンは大気中の寿命が約12年(時定数)で排出量の63.2%は分解され、分解量を超過する分が濃度上昇に反映される。このため、排出削減をすれば大気濃度がすぐに減少する[28]


注釈

出典

  1. ^ D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal, The NBS tables of chemical thermodynamics properties, J. Phys. Chem. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982).
  2. ^ 中井 多喜雄 『知っているようで知らない燃料雑学ノート』(燃焼社 2018年5月25日発行 ISBN 978-4-88978-127-4)pp.67 - 70
  3. ^ 中井 多喜雄 『知っているようで知らない燃料雑学ノート』(燃焼社 2018年5月25日発行 ISBN 978-4-88978-127-4)p.67
  4. ^ 宇宙輸送はメタンエンジンにおまかせ! (PDF) IHI(2018年3月22日閲覧)
  5. ^ a b 早稲田周、岩野裕継「ガス炭素同位体組成による貯留層評価」『石油技術協会誌』Vol.72 (2007) No.6 P.585-593, doi:10.3720/japt.72.585
  6. ^ 亀井玄人「茂原ガス田の地下水に含まれるヨウ素の起源と挙動」『資源地質』Vol.51 (2001) No.2 P.145-151, doi:10.11456/shigenchishitsu1992.51.145
  7. ^ 北逸郎, 長谷川英尚, 神谷千紗子 ほか「CH4の炭素同位体比とN2/Ar比の分布に基づく天然ガスの生成プロセス」『石油技術協会誌』Vol.66(2001年)No.3 pp.292-302, doi:10.3720/japt.66.292
  8. ^ 新潟県上越市沖の海底にメタンハイドレートの気泡を発見 東京大学、海洋研究開発機構東京家政学院大学独立総合研究所産業技術総合研究所
  9. ^ 兼松株式会社 (2007年10月12日). “バイオガス供給事業の開始について”. 2009年9月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年11月23日閲覧。
  10. ^ 腸内微生物との共生関係の不思議
  11. ^ 柴田善朗; 木村謙仁「カーボンニュートラルメタンの将来ポテンシャル-PtG とCCU の活用:都市ガスの低炭素化に向けて-」『IEEJ』、日本エネルギー経済研究所、1-40頁、2018年https://eneken.ieej.or.jp/data/7769.pdf 
  12. ^ ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術”. 経済産業省資源エネルギー庁 (2021年11月26日). 2022年4月9日閲覧。
  13. ^ 新エネルギー・産業技術総合開発機構平成26年度~平成29年度成果報告書 水素利用等先導研究開発事業 エネルギーキャリアシステム調査・研究 高効率メタン化触媒を用いた水素・メタン変換』(レポート)2018年10月20日https://www.nedo.go.jp/library/seika/shosai_201810/20180000000754.html 
  14. ^ 温室効果ガスの種類 気象庁
  15. ^ 温室効果ガス排出量の算定方法について[リンク切れ]横浜市 メダンの地球温暖化係数は21
  16. ^ a b c d 「メタン削減 高い壁」毎日新聞』朝刊2021年12月29日くらしナビ面(同日閲覧)
  17. ^ COP27、米欧主導のメタン削減協定に150カ国超が調印」『Reuters』、2022年11月18日。2022年12月31日閲覧。
  18. ^ メタン削減 宇宙の「目」がサポート/人工衛星の監視技術 COP26でも紹介/排出源くっきり 国・企業に圧力朝日新聞』朝刊2021年11月16日(科学面)2022年1月5日閲覧
  19. ^ ロシアでメタン大量漏出 地下ガス管、米紙報道”. 産経新聞 (2021年10月20日). 2021年10月20日閲覧。
  20. ^ 弘前大学農学生命科学部畜産学研究室 (2003年9月2日). “羊などの家畜に「げっぷ税」NZ、温暖化対策研究費に”. 2009年11月23日閲覧。 asahi.com2003年9月2日より引用。
  21. ^ “地球温暖化:メタンガスと畜産”. 畜産動物のためのサイト:動物はあなたのごはんじゃない. (2005年11月13日). http://www.hopeforanimals.org/environment/213/ 2018年8月11日閲覧。 
  22. ^ 「農研機構 乳牛の第1胃から細菌発見 げっぷ由来のメタン削減へ 温暖化抑制、栄養浪費防ぐ/餌・サプリ開発に期待」『日本農業新聞』2021年12月8日9面
  23. ^ 農林水産省生産局畜産振興課畜産環境をめぐる情勢』(レポート)2021年3月https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/pdf/210325kmegji.pdf 
  24. ^ 浅井真康『家畜排せつ物のメタン発酵によるバイオガスエネルギー利用』(レポート)農林水産省、2020年9月https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/pdf/2020_sympo_asai.pdf 
  25. ^ 農林水産省バイオマスの利活用の推進』(レポート)2004年11月https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/bukai/24/pdf/h161117_24_01_siryo.pdf 
  26. ^ 農業技術事典 収量構成要素”. 農研機構. 2022年4月10日閲覧。
  27. ^ 農業環境技術研究所【地球温暖化対策】水田メタン発生抑制のための新たな水管理技術マニュアル』(レポート)2012年8月https://www.mlit.go.jp/.... 
  28. ^ 温暖化の科学 Q10 二酸化炭素以外の温室効果ガス削減の効果 - ココが知りたい地球温暖化”. 地球環境研究センター. 2018年8月11日閲覧。


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