妊娠 妊娠トラブルでの対応

妊娠

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/11 09:25 UTC 版)

妊娠トラブルでの対応

切迫流早産

妊娠22週未満に子宮収縮または子宮収縮による下腹部痛を認められるが、子宮口の拡大といった頸管の熟化が認められない場合は切迫流産の可能性がある。医療機関の受診を行い、超音波検査によって胎嚢や胎児心拍の確認を行い妊娠継続が可能かを評価したのち、安静にて対応することが多い。また、進行流産への進展を防止する目的で子宮収縮抑制薬や止血薬が処方されることが多いほか、血腫の形成などが認められた場合などは入院管理となることも多い。

  • 妊娠12週未満の場合
薬によって胎児奇形を招きやすい時期であるため、子宮収縮抑制薬ではなく、鎮痙薬を用いるのが一般的である。ダクチル50mg(3T3×食後)の処方となることが多い。出血を伴う場合は止血薬であるアドナ30mg(3T3×食後)、トランサミン250mg(3C3×食後)の処方が追加される。
  • 妊娠16週未満の場合
妊娠12週以後ではズファジランの安全性が確立しており、ズファジラン10mg(3T3×食後)といった処方はよく用いられる。妊娠16週以後ではウテメリンを用いることが多いが、動悸の出現などウテメリンの副作用が気になる場合、16週以降でもズファジランを用いることもある。出血を伴う場合、止血薬であるアドナ30mg(3T3×食後)、トランサミン250mg(3C3×食後)の処方が追加される。
  • 妊娠16週以降の場合
妊娠16週以降の切迫流産および切迫早産の場合、ウテメリン5mg(3T3×食後)の投与を行う場合が多い。この時期になると感染による切迫流早産が多く、特に絨毛膜羊膜炎の可能性が非常に高くなってくるため、腟分泌物の精査が必要である。ウテメリン内服にてコントロールがつかない場合はウテロンの点滴やマグネシウム製剤の使用が検討され、入院加療が必要となってくる。感染兆候が認められた場合、胎児への影響が少ないセフェム系の抗菌薬、セフゾンなどが処方される場合が多い。なお、22週以降の生理的子宮収縮は10回/day程度であり、30週未満ならば3回/hour,30週以降ならば5回/hourの頻度の子宮収縮が認められた場合、病的な可能性が高い。収縮数のほか頸管の熟化も重要な所見であり、疑わしいと考えられたら医療機関での相談が望ましい。

つわり・妊娠悪阻

つわりは一般的には妊娠12週から16週ころには軽快することが多く、食生活の指導などで対応する場合が多い。栄養障害を起こし、妊娠悪阻に至った場合は外来にて点滴を行う。ビタメジンなどウェルニッケ脳症予防のためのビタミンB1を含む製剤や解毒剤であるタチオンを用いる場合が多い。悪心に対してはプリンペランを用いる場合も多いが、妊娠中の安全性は確立していないため少量、短時間の投与のみとするべきである。症状があまりに強い場合は比較的安全といわれている漢方薬を用いる。

妊娠中の高血圧

妊娠高血圧症候群、本態性高血圧の可能性がある。妊娠中はACEIやARBの投与が禁忌となる。妊娠中は可能な限り薬物の使用は避けたいため軽症の高血圧では安静・食事療法が基本となる。降圧薬を使用する場合はヒドララジン系降圧薬であるアプレゾリンやメチルドパ系降圧薬であるアルドメットが好まれる。これらの薬物でコントロールができない場合はαβ遮断薬としてトランデートなどを用いることもある。これでもコントロールができなければカルシウム拮抗薬であるアダラートLなども使用する。入院中で速やかな降圧が必要な場合はペルジピンも用いる。

妊娠中のかぜ症候群

第一選択はアセトアミノフェンによる解熱鎮痛となる。NSAIDsは胎児の動脈管収縮、閉鎖やその他の原因による死亡例が報告されており原則禁忌である。抗ヒスタミン薬に催奇形性があるという報告もあるため妊娠12週未満ではPLといった総合感冒薬も投与を見合わせた方が良い。NSAIDs外用剤は短期なら使用可能である。

妊娠中の胃炎

PPIやH2ブロッカーの安全性は確立していないため、セルベックスなど防御因子に作用する薬物を用いる。鎮痙薬のブスコパンも投与可能である。

妊娠中の便秘

妊娠中は大腸への胎児の圧迫により便秘になりやすい傾向がある。また胎児の造血に鉄分が消費されるため貧血になりやすく、鉄剤を処方されるが、この鉄剤によって便秘になりやすくなる。 大腸刺激性の下剤の使用は子宮収縮を招き流産に陥る場合があるため可能な限りさけるのが望ましい。バルコーゼや酸化マグネシウムを用いるのが一般的である。

妊娠中の下痢

妊娠中は下痢によって子宮収縮がおこり流産となることもあるため、重度の下痢に関しては止瀉薬の投与を行う。ロペミンなどがよく用いられる。なお輸液、電解質補正を行うのは非妊娠時と同様である。細菌性下痢が強く疑われる場合はウイントマイロン、胆嚢炎や膵炎による下痢を疑う場合はセファメジンαなどを用いるが、これらは有益性投与であり専門医との協力体制のもとで行うのが望ましい。

妊娠中の性行為

胎児の安全を第一に考えなければならないため、腹部を圧迫するような体位や激しい性行為は避けるべきである。一般的には、母体が子宮の張りを訴えなければ差支えないとされている。 また、精液に含まれるプロスタグランジンは子宮収縮作用があることと、母体に対する細菌感染防止のため男性はコンドームを使用すべきである。

分娩後の子宮収縮不良

分娩後の子宮収縮が不良となると弛緩出血や子宮復古不全となることがある。この場合はパルタンM0.125mg(3T3×食後)といった子宮収縮薬を用いることがある。なお、産後1 - 2か月で出血が認められた場合は機能性子宮出血である場合が多く、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの合剤であるノアルテン-Dを用いることもある。止血薬や抗菌薬も併用することは多い。内服薬でコントロールができない場合は子宮内容除去といった外科的な手技が必要となる場合もある。

乳汁分泌の調節

産褥期になり乳汁分泌が開始されるとそれらのトラブル対応が必要となる場合がある。

  • 乳汁分泌の促進

早期授乳マッサージ、睡眠と安静、栄養補給が基本であるがこれらを用いても乳汁分泌が不十分な場合はドパミン拮抗薬を用いてプロラクチンの分泌を促進する。ドグマチール50mg(2T2× 食間 5日間)といった薬物療法などを行うこともある。

  • 乳汁分泌の停止

死産や新生児死亡にて乳汁分泌を完全に停止したい場合はドパミン作動薬を用いてプロラクチンの分泌を抑制する。最も良く用いられる処方としてはカバサール1.0mg(1T1× 1回のみ)という処方である。カバサールは胎児娩出後4時間以内の投与は避け、バイタルサインが安定してから投与する。分娩後2日以内で投与することが望ましいとされている。その他の処方としてはパーロデル2.5mg(2T2× 食後 14日)やテルロン0.5mg(2T2× 食後 14日)などが知られている。パーロデルは乳汁鬱滞で乳房が緊満しマッサージ不可能となった場合、1錠だけ内服させ緊満を解除するという目的でも用いられることがある。


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