妊娠
『南総里見八犬伝』第2輯巻之1第12回 伏姫が八房とともに富山に入って1年が過ぎる。ある秋の日、伏姫は山道で、牛に乗る12~13歳の少年に出会う。少年は伏姫に「御身(おんみ)はすでに懐妊して5~6ヵ月」と告げる。伏姫が「私には夫はいない」と言うと、少年は「八房と御身と心が通い合い、交わることなくして身ごもったのだ」と教える。
『ルカによる福音書』第1~2章 天使ガブリエルが処女マリアを訪れ、「あなたは身ごもって男の子を産む。その子をイエスと名づけなさい」と告げた。マリアが「わたしは男の人を知りませんのに」と言うと、天使は「精霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。生まれる子は聖なる者・神の子と呼ばれる」と教えて去った。やがてマリアはイエスを産んだ。
『今昔物語集』巻12-32 源信僧都の母は女子を多く持っていたが、男子がいなかったので、高尾寺に詣でて男子誕生を祈った。彼女は、「僧から1つの玉をもらう」との夢を見て懐妊し、源信を産んだ〔*源信は『往生要集』などの書を著し、76歳で極楽往生した〕。
『神道集』巻2-7「二所権現の事」 斯羅奈国の大臣・源中将尹統夫妻が、観音に申し子をし、水精の玉を賜って左の袂に入れる夢を見る。まもなく北の方は常在御前を産む。
『神道集』巻6-33「三島大明神の事」 伊予の国の長者・橘朝臣清政夫婦が、長谷寺の観音に申し子をする。観音は、水晶の玉を清政に授ける。清正は玉を受け取って奥方に与え、奥方はそれを口に入れる、と見て夢がさめた。奥方は妊娠し、若君(玉王)を産んだ。
『梵天国』(御伽草子) 右大臣高藤夫婦には子がなかった。夫婦は清水寺に参籠して子を願い、7日目の暁に「高僧が玉を大臣の左袖に入れる」との夢を見た。まもなく北の方は懐妊し、若君が生まれた。「玉若」と名づけられた若君は成長後、梵天国王の姫君と結婚した。
★3.玉を得そこなうが、妊娠・出産する。
『南総里見八犬伝』第2輯巻之3第16回 犬塚番作の妻手束は子授けを願い、3年間毎朝、滝の川の弁才天へ参詣する。紫雲の中に、黒白斑毛の老犬に腰掛けた山媛(=伏姫神霊)が現れ、1つの珠を手束に投げ与える。珠は手束のそばにいた子犬の近くに落ち、捜しても見つからない。手束は子犬を抱いて帰る。まもなく手束は身重になり、翌年、犬塚信乃を産む〔*珠は子犬が呑み込んでいた〕。
★4.男が妊娠する。
『黄金伝説』84「使徒聖ペテロ」 皇帝ネロが「男である私を妊娠させよ」と医師たちに命ずる。医師たちは、蛙を飲み物に混ぜてネロに飲ませ、医術を用いて蛙をネロの体内で成長させる。ネロは腹が膨らみ「陣痛で苦しい」と訴え、医師たちはネロに吐き薬を処方する。ネロは、血と反吐にまみれた蛙を口から吐き出し、それを本当に自分が産み落としたものと思った。
*『失われた時を求めて』(プルースト)第4篇「ソドムとゴモラ」の、シャルリュス男爵と仕立屋ジュピアンの同性愛の場面(*→〔同性愛〕1)に、「ここでは子供ができる心配はない。『黄金伝説』のありそうもない例はともかくとして」と、ネロの妊娠の物語をふまえた表現が見られる。
『西遊記』百回本第53回 三蔵法師の一行が、西梁女人国までやって来る。三蔵法師と猪八戒は喉がかわいたので、子母河の水を飲む。まもなく2人は腹痛に苦しみ、腹がふくれる。土地の女が「この国は女ばかりで男がおらず、子母河の水を飲んで子を産むのだ」と教え、三蔵と八戒は妊娠したことがわかる。孫悟空が、3千里離れた落胎泉までキン斗雲で飛び、泉の水を汲んで来て2人に飲ませ、腹中のものを堕す。
『なぜ神々は人間をつくったのか』(シッパー)第7章「最初に女がいなかった場合」 創世の時代。2人の男が交わり、その結果、一方が妊娠した。しかし彼は出産できず、分娩中に死んだ(ブラジル、シェレンテ族)。*男たちは女を求めた→〔水鏡〕2b。
『笑ゥせぇるすまん』(藤子不二雄A)「主夫道」 32歳のサラリーマン梶大介は、共働きの妻から家事を分担するよう要求され、困っていた。喪黒福造がカルチュアスクールを紹介し、梶大介は炊事・洗濯・掃除を学んで、自らの家事の才能に目覚める。彼は、楽しい家事に専念したいと思い、会社を辞めてしまう。喪黒福造は「こうなったら、徹底的に主夫道を追求して下さい」と言って、「ドーン!」と引導を渡す。それからまもなく、梶大介は妻の子を身ごもった。
『カズイスチカ』(森鴎外) 花房医学士は、開業医である父の代診をすることがあった。若い女が、腸満(=腹腔内に水がたまる病気)か、あるいは癌かもしれないというので、医者を2~3軒まわった後に、花房の医院へ来た。花房は「生理的腫瘍だ」と診断した。女は妊娠していたのである。子がなくて夫と別れ、裁縫をして1人で暮らしている女なので、他の医者は妊娠に気づかなかった。相手は、出入りの小学教員だった。
*これとは逆の設定で、若返ったと思ったら病気だった、という物語がある→〔若返り〕5の『だまされた女』(マン)。
『クリスマスの夜』(モーパッサン) 肥満漢のアンリは、でっぷりふとった女が大好きだった。クリスマスの前夜、彼は街に出て、ふとった美人を見つけ、自分のアパートへ連れ込む。食事を終え、床入りの時になって、女は苦しみ出す。それは陣痛で、女は産気づいたのだ。出産後、女はすっかり痩せてしまった。女はアンリに惚れ込んだが、痩せた女はアンリの好みではないのだ。
『昨日・今日・明日』(デ・シーカ)第1話 失業中の夫を養うため、妻アデリーナは闇市で外国煙草を売り、逮捕されそうになる。しかし、「妊娠中および産後半年以内の女性は逮捕できない」との法律があるので、彼女は「ずっと妊娠中なら刑務所へ行かずにすむ」と考え、元気に7人の子供を産む。一方、夫は体力を消耗して、アデリーナを妊娠させることができなくなる。その結果、彼女は刑務所へ送られるが、仲間たちやマスコミの支援で特赦になる。
『なぜ神々は人間をつくったのか』(シッパー)第8章「強さ、弱さ、盗まれた秘密」 時代の黎明期には、女たちが鉄拳で男たちを支配し、狩りも耕作も料理も子供の世話も、何もかも男たちにやらせていた。男たちは、「あまりに不公平だ」と考え、策略をめぐらせて、女たちを同時に妊娠させた。妊娠・出産の期間、女たちの力が弱まるのに乗じて、男たちは新しい世界秩序を作り、以来、社会は公正で平和になった(ケニア、キクーユ族)。
『トリストラム・シャンディ』(スターン)第1巻第1~3章 夫婦が合体して、いよいよこれからという時、妻が「あなた、時計のネジをまくのをお忘れになったのじゃなくて?」と聞いた。そのため夫の精子の勢いがくじかれ、息子トリストラムは、さいさきの悪い人生のスタートを切ることとなった。
『マハーバーラタ』第1巻「序章の巻」 ヴィチトラヴィーリヤ王が世継ぎを残さず死去したので、2人の妃アンビカーとアンバーリカーは、王の異母兄である聖仙ヴィヤーサから子を得ようとする。しかしヴィヤーサは苦行ゆえに異様な姿形をしており、彼に抱かれた時、アンビカーは恐ろしさのあまり目を閉じた。そのため盲目の息子ドリタラーシュトラを産んだ。アンバーリカーは真っ青になったので、青白い息子パーンドゥを産んだ。
『エレファント・マン』(リンチ) 妊娠4ヵ月の女性が、アフリカ象に襲われた。その時の恐怖のために、女性は異形の男児を産んだ。「ジョン」と名づけられた男児は、頭蓋骨が巨大化し、顔がゆがみ、背骨は湾曲して、象のような皮膚が身体の大部分をおおっていた。彼はエレファント・マン(象人間)と呼ばれ、見世物小屋に出された→〔象〕4b。
*妊娠中に火を見たため、子供の身体に赤痣が現れる→〔痣(あざ)〕3の『悪魔の手毬唄』(横溝正史)。
『鴛鴦』(三島由紀夫) 久一と五百子は、多くの類似点を持っていた。とりわけ2人とも小説が嫌いで、1度も読んだことがなかった。2人の恋愛は理想的に進行し、「私」は2人の結婚式に参列した。その折、皮肉家のAが「私」に教えた。「久一も五百子も、母親が小説家に騙されて産んだ子なんだ。それで母親たちは、芸術家を呪って胎教を施した。その結果、あんな見事な子供が生まれたのさ。幸福なことに、2人は出生の秘密を知らない」。
★8.避妊。
『さようならコロンバス』(ロス) 図書館員の「ぼく(ニール)」は、名門女子大の学生で高級住宅街に住むブレンダと知り合い、性関係を持つようになる。互いの家柄の違いなどから、「ぼく」は結婚を申し込む自信がなく、彼女に「避妊具のペッサリーをつけてほしい」と要求する。しかしブレンダが部屋の引き出しに隠しておいたペッサリーを、母親が見つけてしまう。母親はブレンダを激しく非難し、「ぼく」は彼女と別れることになる。
『ヴォルスンガ・サガ』2 レリル王の后は、身ごもって6年を経ても子を生み落とすことができず、やむなく切開して子(ヴォルスング)を取り出した。
『かるかや』(説経)「高野の巻」 三国一の醜女であるあこう御前が、日輪に申し子して産んだ男児(後の空海)は、33ヵ月胎内にいた後に誕生した。
『義経記』巻3「熊野の別当乱行の事」~「弁慶生まるる事」 弁慶は、母(二位大納言の姫君)の胎内に18ヵ月いて生まれた。父(熊野の別当弁せう)は、「将来、親の仇となるだろうから、殺してしまえ」と言った。弁せうの妹が、「西天竺の黄石公の子は、懐妊後200年して生まれた。武内大臣(=武内宿禰。*→〔長寿〕1aの『因幡国風土記』逸文)は、母胎に80年いて白髪で生まれ、280歳の長寿を保ち、現人神(あらひとがみ)と崇(あが)められた」と例をあげ、弁慶をもらい受けて養育した〔*『橋弁慶』(御伽草子)では33ヵ月、『じぞり弁慶』『弁慶物語』では3年3ヵ月、胎内にいた〕。
『南総里見八犬伝』第6輯巻之3第55回 武蔵国赤塚城主千葉介自胤の家老粟飯原(あいはら)胤度は、馬加大記によって謀殺された。粟飯原の妾調布(たつくり)は、身ごもって3年を経ても出産せぬまま追放され、相模国足柄郡の犬坂という山里で男児(後の犬坂毛野)を産んだ。
★10.赤ん坊の身体に入るべき魂が、いつまでも霊界にとどまっているために、妊娠してもなかなか生まれない。
『剪燈新話』巻3「愛卿伝」 夫の不在中、操(みさお)を守って自死した愛卿に(*→〔帰還〕2)、冥府の役人が「貞女ゆえ、さっそく遠方の宋家の男児になって生まれるがよい」と言う。しかし愛卿は「その前に1度、夫に逢いたい」と願って、霊界にとどまる。やがて夫が帰還し、愛卿は夫と一夜をともにすることができたので、「明日、宋家へ行って生まれます」と教えて姿を消す。夫がはるばる宋家を訪ねると、男児が生まれていたが、その子は母親のお腹に20ヵ月もいたのだという。
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名詞およびサ変動詞(出産) | 妊娠 懐妊 出産 娩出 分娩 |
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