クモ 系統と分類

クモ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/26 15:00 UTC 版)

系統と分類

クモガタ綱(クモ綱)に含まれるクモ目以外のグループは、ダニ目、サソリ目、カニムシ目、ザトウムシ目などがある。クモガタ類の中での系統関係は、必ずしも統一した見解がない。ザトウムシは、別名をアシナガグモ、メクラグモといい、クモと比較的外見が似ているが、近縁ではない。クモ目に近いとされるクモガタ類は、ウデムシ目、サソリモドキ目などがあり、まとめて四肺類を構成する。

キメララクネの復元図

クモ類は尾節という尾のような部分をもたないが、近縁とされる群の1つであるサソリモドキ類と絶滅したUraraneida類は、鞭状の尾節を持つ。琥珀に閉じ込められた約1憶年前の化石からは、クモ類の形質(精子の運搬に適した雄の触肢器官、糸疣、腹柄など)をもつと同時にこのような尾節をも備えたキメララクネChimerarachne)が発見されており、これはクモ類の共通祖先の姿を示唆する重要な手がかりになると考えられている[12][13]

ウミグモ類は、名前にクモの字が付くが、クモガタ綱とは別系統であり、自らウミグモ綱を構成する。

下位分類

メキシカンレッドニータランチュラ(トタテグモ下目オオツチグモ科

クモ目そのものの存在自体は、その単系統性という形で強く認められている。目全体で共有される特徴としては以下のようなものがある[14]

  • 鋏角に毒腺を有すること。
  • 雄の触肢が精子を運搬する構造(触肢器官)になっていること。
  • 腹部付属肢の一部が糸疣となり、糸を生産すること。

クモ目の中での系統関係についても、各部に諸説があり、必ずしも確定してはいない。しかし次の三点は古くから認められている。

  • クモ目の中では、キムラグモ類が最も原始的で、ハラフシグモ類として他のすべてのクモ類から分離される。クモ類では唯一、腹部に体節が残り、出糸突起は大きくて腹面中央にある。書肺は2対。糸を出す能力が低く、巣穴の裏打ちをしない。触肢は歩脚状。
  • それ以外のクモの中ではトタテグモ類・ジグモ類・オオヅチグモ類・ジョウゴグモ類のものが原始的特徴を有する。いずれも2対の書肺をもつ。トタテグモ類とオオヅチグモ類は触肢が歩脚状であるが、ジグモ類やジョウゴグモ類では普通のクモ類のように小さくなっている。
  • 残る一般的なクモ類に、クモ類の大多数が所属し、多くの科に分かれている。書肺は1対。

これらをかつては古蛛亜目、原蛛亜目、新蛛亜目としたが[15]、現在では古蛛亜目をハラフシグモ亜目(中疣亜目)として分け、残るものをまとめたクモ亜目(後疣亜目)にトタテグモ下目(原蛛下目)とクモ下目(新蛛下目)をたて、それらに当てる[16]

普通のクモ類(クモ下目)の中の分類では、上位分類のための形質として、さらに以下のような特徴が重視される。

  • 出糸突起の前に篩板を持つものを篩板類として大きくまとめるのが従来の分類法であった。現在の日本で出版されている図鑑等はこれに基づいているものが多い。ただし、この特徴に基づく分類は後に誤りではないかとされ、現在分類体系の見直しが行われている。
  • もう一つの上位の分類として、単性域類と完性域類の区分がある。これは外性器の構造に関するもので、前者ではそれが単純であるのに対し、後者でははるかに複雑になっている。これは現在でも重要な区分と考えられる。
    • さらに、完性域類の中では歩脚の爪が2つの二爪類と3つの三爪類が大きな系統をなすとされる。この内の前者は徘徊性、後者は主として造網性の系統である。

以下に古典的な分類体系として八木沼(1986)の体系を示す[15]

  • 古蛛亜目 Liphistiomorphae(ハラフシグモ類)
    • キムラグモ上科(キムラグモ科)
  • 原蛛亜目 Mygalomorphae(トタテグモ類)
    • トタテグモ上科(トタテグモ科、カネコトタテグモ科)
    • ジョウゴグモ上科(ジグモ科、ジョウゴグモ科)
  • 新蛛亜目 Araneomorphae(クモ類、フツウクモ類)
    • 篩板類 Cribellatae
      • ウズグモ上科(ウズグモ科、ガケジグモ科、ハグモ科、チリグモ科)
      • スオウグモ上科(スオウグモ科)
      • カヤシマグモ上科(カヤシマグモ科)
    • 無篩板類 Ecribellatae
      • 単性域類 Haplogynae
        • イノシシグモ上科(エンマグモ科、イノシシグモ科、タマゴグモ科)
        • ヤマシログモ上科(マシラグモ科、イトグモ科、ユウレイグモ科他)
      • 完性域類 Entelegynae
        • 三爪類 Trionycha
          • コガネグモ上科(ヒメグモ科、サラグモ科、コガネグモ科、アシナガグモ科他)
          • ナガイボグモ上科(ヒラタグモ科、ナガイボグモ科、ホウシグモ科)
        • 二爪類 Dinonycha
          • フクログモ上科(フクログモ科、シボグモ科、アシダカグモ科他)
          • ワシグモ上科(ワシグモ科、イヨグモ科、ヒトエグモ科)
          • カニグモ上科(カニグモ科、エビグモ科)
          • ハエトリグモ上科(ハエトリグモ科)

しかし近年これを否定する考えが大きな支持を受け、分子系統学の発展もあって、分類体系に大きな変更の動きが続いている[16]。特に、篩板を持つ群の扱いが大きく変化した。それによると、クモ類の主な部分を占める系統はかつて篩疣を持っていたのだが、そのうちのいくつかの系統で篩疣が消失し、しかも篩疣を失った系統が大発展を遂げたため、篩疣を持つものが比較的まとまって見えるだけで、実際には側系統群なのだという。このような新たな考え方に基づく分類体系は、科の配置を始めとして従来の分類体系と大きく異なり、中にはそれまで篩板類と無篩板類に分かれていたものが同一の科に含まれるようになるものすらある。これは一部では分子系統学にも支持されているが、すべてがこの考えに合致しているわけでもない。また、篩板の有無はやはりそれなりに重視されるべきとの考えもあり、統一見解はない。今後の研究の進展が待たれる。

近年の分類体系

小野(2009)は上記のように篩板の有無が系統を反映するとの判断を元にした分類体系を示した。小野・緒方(2018)ではさらにこれを改めて世界標準の分類体系を採用している。以下にこれを示す。

なお、下記のうち日本から記録のあるクモの科は64であり、これは全部のクモの科の数(117)の半分ほどでしかない。

  • Order Araneae クモ目
    • Suborder Mesothelae ハラフシグモ亜目
    • Suborder Opistothelae クモ亜目
      • Infraorder Mygalomorphae トタテグモ下目
        • Atypoidea ジグモ上科
          • Atypidae ジグモ科
          • Antrodiartidae カネコトタテグモ科
        • Avicularioidea オオツチグモ上科
          • Dipluridae ホンジョウゴグモ科
          • Hexathelidae ミナミジョウゴグモ科
          • Porrhothelidae ニュージーランドジョウゴグモ科
          • Actinopodidae ヤノテグモ科
          • Euctenizidae シントタテグモ科
          • Cyrtaucheniidae モサトタテグモ科
          • Barychelidae ヒラアゴツチグモ科
          • Theraphosidae オオツチグモ科
          • Nemesiidae イボブトグモ科
          • Migidae アゴマルトタテグモ科
          • Paratropididae ヘリタカジグモ科
          • Ctenizidae モノトタテグモ科
          • Halonoproctidae トタテグモ科
          • Idiopidae カワリトタテグモ科
          • Mecicobothriidae イボナガジョウゴグモ科
          • Microstigmatidae ビキモンジョウゴグモ科
      • Infraorder Araneomorpha クモ下目
        • Haplogynae 単性域類
          • Hypochilidae エボシグモ科
          • Filistatidae カヤシマグモ科
          • Trogloraptoridae ホラアナカリウドグモ科
          • Caponiidae カガチグモ科
          • Dysderoidea イノシシグモ上科
            • Segestriidae エンマグモ科
            • Oonopidae タマゴグモ科
            • Orsolobidae フタヅメイノシシグモ科
            • Dysderidae イノシシグモ科
          • Scytodoidea ヤマシログモ上科
            • Sicariidae イトグモ科
            • Drymusidae アヤグモ科
            • Periegopidae トゲヌキエンマグモ科
            • Ochyroceratidae エンコウグモ科
            • Telemidae ヤギヌマグモ科
            • Scytodidae ヤマシログモ科
          • Tetrablemmatidea ジャバラグモ上科
            • Tetrablemmatidae ジャバラグモ科
            • Plectreuridae クチコグモ科
            • Diguetidae コトグモ科
            • Pavuliidae パクラグモ科
            • Pholcidae ユウレイグモ科
          • (群名不詳)
            • Gradungulidae ハガクレグモ科
            • Cithaeronidae イダテングモ科
            • Leptonetidae マシラグモ科
            • Austrochilidae ムカシボロアミグモ科
        • Entelegynae 完性域類
          • Plpimanoidea エグチグモ上科
            • Mecysmaucheniidae パタゴニアアゴダチグモ科
            • Huttoniidae ハットングモ科
            • Stenochilidae カレイトグモ科
            • Archaeidae アゴダチグモ科
          • Nicodamoidea アカクログモ上科
            • Nicodamidae アカクログモ科
            • Megadictynidae オオハグモ科
          • (無篩盤・3爪・空間造網性)
          • (有篩盤~無篩盤・造網性~狩猟性・3~2爪)
            • (群名不詳)
            • Oecobioidea チリグモ上科
            • (群名不詳)
            • Titanoecoidea ヤマトガケジグモ上科
              • Titanoecidae ヤマトガケジグモ科
              • Phyxelididae トゲガケジグモ科
            • Zodarioidea ホウシグモ上科
              • Penestomidae アフリカイワガネグモ科
              • Zodariidae ホウシグモ科
            • (群名不詳)
              • Amaurobiidae ガケジグモ科
              • Agelenidae タナグモ科
              • Cybaeidae ナミハグモ科
              • Hahniidae ハタケグモ科
              • Toxopidae カニグモモドキ科
              • Dictynidae ハグモ科
              • Cycloctenidae マルシボグモ科
              • Stiphidiidae ナキタナアミグモ科
              • Desidae ウシオグモ科
              • Sparassidae アシダカグモ科
              • Homalonychidae トモツメグモ科
              • Udubidae ツヤシボグモ科
              • Zoropsidae スオウグモ科
              • Ctenidae シボグモ科
              • Senoculidae ホシダカグモ科
              • Oxyopidae ササグモ科
              • Pisauridae キシダグモ科
              • Trechaleidae サシアシグモ科
              • Lycosidae コモリグモ科
              • Psechridae ボロアミグモ科
              • Thomisidae カニグモ科
          • (無篩盤・狩猟性・2爪)
            • Dionycha A 2爪類A群
              • Prodidomidae イヨグモ科
              • Liocranidae ウエムラグモ科
              • Clubionidae フクログモ科
              • Anyphaenidae イヅツグモ科
              • Gallieniellidae アイアイグモ科
              • Trachelidae ネコグモ科
              • Phruolithidae ウラシマグモ科
              • Gnaphosidae ワシグモ科
              • Lamponidae オジロワシグモ科
              • Ammoxenidae ハシエグモ科
              • Trochanteriidae ヒトエグモ科
            • Dionycha B 2爪類B群
              • Xenoctenidae ヨソモノシボグモ科
              • Corinnidae ハチグモ科
              • Viridasiidae マダガスカルシボグモ科
              • Selenopidae アワセグモ科
              • Miturgidae ツチフクログモ科
              • Cheiracathiidae コマチグモ科
              • Philodromidae エビグモ科
              • Salticidae ハエトリグモ科

注釈

  1. ^ ただし、このアカシアはアリ植物であり、芽というのもアリの餌として供給する特殊なものである。

出典

  1. ^ 小野展嗣「2.鋏角亜門」『節足動物の多様性と系統』石川良輔、岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、2008年、122-167頁。ISBN 9784785358297
  2. ^ a b c d e f A., Dunlop, Jason; C., Lamsdell, James. “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3). ISSN 1467-8039. https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata. 
  3. ^ a b 小さなクモに大きすぎる脳”. ナショナルジオグラフィック日本版サイト. 2019年6月6日閲覧。
  4. ^ “クモが鳥を食った 糸満”. 沖縄タイムス. (2011年8月30日). オリジナルの2012年5月8日時点におけるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20120508063857/http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-08-30_22749/ 
  5. ^ “草食のクモを初めて確認”. ナショナルジオグラフィック協会. (2009年10月13日). オリジナルの2014年10月27日時点におけるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20141027053610/http://www.nationalgeographic.co.jp:80/news/news_article.php?file_id=50990647 2009年10月14日閲覧。 
  6. ^ クモの糸の驚異と、100万匹が作った「黄金の織物」 « WIRED.jp Archives” (日本語). WIRED.jp. 2011年10月29日閲覧。
  7. ^ 人工「クモの糸」繊維、大量生産 山形ベンチャーが世界初”. 産経Biz (2013年5月25日). 2013年6月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年6月6日閲覧。
  8. ^ “鉄のように硬い「人工クモ糸」、理研が合成 石油製品を代替へ”. ITmedia NEWS. (2017年1月23日). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1701/23/news075.html 
  9. ^ 虫を食べる話・第19回”. 公益社団法人 農林水産・食品産業技術振興協会. 2018年3月31日閲覧。
  10. ^ “ポル・ポト時代の食糧難の名残、田舎で珍重される食用クモ - カンボジア”. AFPBB News. (2006年8月23日). オリジナルの2013年5月14日時点におけるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20130514000235/http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2102038/819209 
  11. ^ 虫を食べるはなし 第19回 (クモを食べる習俗)”. 公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会. 2019年6月6日閲覧。
  12. ^ “Cretaceous arachnid Chimerarachne yingi gen. et sp. nov. illuminates spider origins”. Nature Ecology & Evolution 2: 614-622. (2018). https://www.nature.com/articles/s41559-017-0449-3?WT.mc_id=COM_NEcoEvo_1802_Wang. 
  13. ^ 「クモに尾見つけた 1億年前の琥珀」『読売新聞』朝刊2018年2月19日(社会面)
  14. ^ Coddingston 2005, p. 21.
  15. ^ a b 八木沼健夫「クモの分類学上の位置」「クモ目分類体系」『原色日本クモ類図鑑』保育社、1986年、v-vii,xviii-xix頁。
  16. ^ a b 鶴崎展巨「第1章 系統と分類」宮下直編『クモの生物学』東京大学出版会、2000年、3-27頁。






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