親族 親族の名称

親族

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/23 23:12 UTC 版)

親族の名称

異なる文化における親族の呼称

米国文化人類学者、ルイス・ヘンリー・モーガンアメリカ先住民を中心とした様々な文化における親族の呼称について調査したのち、大まかに6種類のタイプがあるという結論を出した[17]

父親及び両親の兄弟は「父親」、母親及び両親の姉妹は「母親」と呼ぶ。従って、自分の兄弟と「父親」「母親」の息子は全員「兄弟」、自分の姉妹と「父親」「母親」の娘は全員「姉妹」と呼ぶ。
実親の「父親」「母親」と実の兄弟姉妹の「兄弟」「姉妹」のほかに、父親の兄弟は「父方のおじ」、父親の姉妹は「父方のおば」、母親の兄弟は「母方のおじ」、母親の姉妹は「母方のおば」に当たる名前と別々の呼称で呼ぶ。また、父親の兄弟姉妹の子は「父方のいとこ」、母親の兄弟姉妹の子は「母方のいとこ」と区別して呼ぶ。
実親の「父親」「母親」と実の兄弟姉妹の「兄弟」「姉妹」のほかに、両親の兄弟は「おじ」、両親の姉妹は「おば」と呼ぶ。両親の兄弟姉妹の子は区別なく「いとこ」と呼ぶ。
父親と父親の兄弟は「父親」、母親と母親の姉妹は「母親」、母親の兄弟は「おじ」、父親の姉妹は「おば」と呼ぶ。従って、自分の兄弟と「父親」「母親」の息子は全員「兄弟」、自分の姉妹と「父親」「母親」の娘は全員「姉妹」、「おじ」「おば」の子は「いとこ」と呼ぶ。
イロコイ型に似ているが、父親と父親の兄弟と父親の姉妹の息子は「父親」、母親と母親の姉妹は「母親」、母親の兄弟は「おじ」、父親の姉妹と父親の姉妹の娘は「おば」と呼ぶ。従って、自分の兄弟と「父親」「母親」の息子は全員「兄弟」、自分の姉妹と「父親」「母親」の娘は全員「姉妹」、「おば」の息子は「父親」、「おば」の娘は「おば」、「おじ」の子のみは「いとこ」と呼ぶ。
イロコイ型に似ているが、父親と父親の兄弟は「父親」、母親と母親の姉妹と母親の兄弟の娘は「母親」、母親の兄弟と母親の兄弟の息子は「おじ」、父親の姉妹は「おば」と呼ぶ。従って、自分の兄弟と「父親」「母親」の息子は全員「兄弟」、自分の姉妹と「父親」「母親」の娘は全員「姉妹」、「おじ」の息子は「おじ」、「おじ」の娘は「母親」、「おば」の子のみは「いとこ」と呼ぶ。

のち、Floyd Lounsburyはこの6つのほかに7つ目のタイプが存在すると提唱した[18]

基本的にはイロコイ型と同じであるが、とても複雑なシステムを取っている。
  • 「父親」:父親、父親の兄弟、父方の祖父の兄弟の息子、母方の祖母の兄弟の息子、父方の祖母の姉妹の息子、母方の祖父の姉妹の息子
  • 「母親」:母親、母親の姉妹、父方の祖父の姉妹の娘、母方の祖母の姉妹の娘、父方の祖母の兄弟の娘、母方の祖父の姉妹の娘
  • 「おじ」:母親の兄弟、父方の祖父の姉妹の息子、母方の祖母の姉妹の息子、父方の祖母の兄弟の息子、母方の祖父の兄弟の息子
  • 「おば」:父親の姉妹、父方の祖父の兄弟の娘、母方の祖母の兄弟の娘、父方の祖母の姉妹の娘、母方の祖父の姉妹の娘

従って、自分の兄弟と「父親」「母親」の息子は全員「兄弟」、自分の姉妹と「父親」「母親」の娘は全員「姉妹」、「おじ」「おば」の子は「いとこ」と呼ぶ。

これらの区分は主に近親結婚を避けるためであると言われる。多くの文化では兄弟姉妹同士の結婚は禁止されるが、いとこ同士の結婚は可能である。なお、日本語の「いとこ」に相当する親族であっても、親同士が同性であるか異性であるかを婚姻制度などにおいて重要視する文化が存在し、文化人類学では特に親同士が同性のいとこを平行いとこ、親同士が異性のいとこを交叉いとこと呼び区別することがある。

なお、一部の言語では親等を親族の呼称に使われる習慣がある。例えば、朝鮮語ではいとこを「4寸」、はとこを「6寸」、みいとこを「8寸」と呼ぶ[19]

また、きょうだいの名称に関しては松本克己によって以下の類型が挙げられている[20]

自分の兄妹姉妹を一つの名称のみで表す。命名体系の移行する特殊な状況で生じる。
本人から見て年上の兄姉と年下の弟妹を区別する。
兄と姉は区別するが、年下の弟妹は区別しない。親族名称においては、年少者よりも年長者に関して性別の関与が加わる傾向があり、3項型の命名体系の内もっともよくみられる。
兄、姉、弟、妹の四つを区別する安定な体系である。
兄弟姉妹を性別によって二つに区別する。多くが印欧語族に属し、言語圏内部での変異がきわめて少ないとされる。をもつ言語はほぼすべてE型に属する。
同性か異性かを区別する。英語を土台としたトクピシンやのビスラマ語といったクレオール言語もこの体系である。
  • 性差・性別3項型(F3a型、F3b型) - パプア諸語、オトマンゲ語族
男女を同性側に区別するのがF3a型で、異性側に区別するのがF3b型である。
同性と異性の双方で男女を区別する。
同性側では年長、年少を区別するが、異性に関しては区別しない。
  • 性差・年齢・性別4項型(G4型) - タヒチ語、テンボ語
同性の年上、同性の年下、男性から見た姉・妹、女性から見た兄・弟の四つの名称がある。
  • 多項型(Gm型)
項数が5以上のものを一括して多項型とする。これには様々な体型が含まれるが概ね二つに分けることができる。
  • 複合多項型(Gm-a型)
複数の型が抱き合わさって組み合わさった体系であり、C型とF/G型の混が多い。ギリヤーク語アルゴンキン語ナバホ語などでそれぞれ異なる体型がある。
  • 組込多項型(Gm-b型)
単一の型の中に多数の項が組み込まれた体系。もっとも項数の多い8項のものはセリ語ダコタ語の、男性話者と女性話者でそれぞれ4つずつ用いる体系である。6項のものは、ノス語、カヤビ語の、同性のみ性別によりことなるものや、グリーンランド語の体系がある。
このほかの多項型のものはC型/D型の変種と考えられる。ビルマ語ユピック語、ムン語、朝鮮語などがそれぞれ異なる多項型の体系を持つ。

注釈

  1. ^ a b 1日でも早く出生していれば年長者に該当する。

出典

  1. ^ a b c 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、5頁
  2. ^ a b c d e 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、91頁
  3. ^ 前田陽一・本山敦・浦野由紀子著 『民法Ⅵ 親族・相続』 有斐閣〈LEGAL QUEST〉、2010年10月
  4. ^ a b 久貴・右近・浦本・中川・山崎・阿部・泉(1977)46頁
  5. ^ a b c d 久貴・右近・浦本・中川・山崎・阿部・泉(1977)47頁
  6. ^ a b c 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、103頁
  7. ^ a b c d 遠藤・原島・広中・川井・山本・水本(2004)40頁
  8. ^ a b 久貴・右近・浦本・中川・山崎・阿部・泉(1977)49頁
  9. ^ a b c d 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、7頁
  10. ^ a b c d e f 遠藤・原島・広中・川井・山本・水本(2004)41頁
  11. ^ a b c d e f g h 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、106頁
  12. ^ a b c 久貴・右近・浦本・中川・山崎・阿部・泉(1977)50頁
  13. ^ 遠藤・原島・広中・川井・山本・水本(2004)40-41頁
  14. ^ a b c 千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、5頁
  15. ^ 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、84頁
  16. ^ 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、107頁
  17. ^ Schwimmer, Brian. “Systematic Kinship Terminologies”. 2016年12月24日閲覧。
  18. ^ Lounsbury, Floyd G. (1964), “A Formal Account of the Crow- and Omaha-Type Kinship Terminologies”, in Ward H. Goodenough (ed.), Explorations in Cultural Anthropology: Essays in Honor of George Peter Murdock, New York: McGraw-Hill, pp. 351–393 
  19. ^ 金泰虎 (2008). “日韓社会の人間関係における「兄」について ─ 呼称と名称を中心とした特徴の比較─”. 言語と文化 (甲南大学国際言語文化センター) 12: 123-150. https://doi.org/10.14990/00000469. 
  20. ^ 世界諸言語のキョウダイ名 —その多様性と普遍性—”. 2024年1月27日閲覧。
  21. ^ a b 千葉洋三・床谷文雄・田中通裕・辻朗著 『プリメール民法5-家族法 第2版』 法律文化社、2005年11月、7頁
  22. ^ a b 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、96頁
  23. ^ 遠藤・原島・広中・川井・山本・水本(2004)37頁
  24. ^ a b 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、39頁
  25. ^ 遠藤・原島・広中・川井・山本・水本(2004)42頁
  26. ^ a b 遠藤・原島・広中・川井・山本・水本(2004)44頁
  27. ^ a b c 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、8頁
  28. ^ 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、85頁
  29. ^ 我妻榮編著 『判例コンメンタール〈Ⅶ〉親族法』 コンメンタール刊行会、1970年、45頁
  30. ^ 我妻榮・有泉亨・川井健『民法3 親族法・相続法 第2版』勁草書房、2005年10月、32頁
  31. ^ a b 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、40頁
  32. ^ 二宮周平著 『家族法 第2版』 新世社〈新法学ライブラリ〉、2005年1月
  33. ^ 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、43頁
  34. ^ a b 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、92頁
  35. ^ 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、93頁
  36. ^ 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、43-44頁
  37. ^ 谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族 1』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、95頁
  38. ^ a b c 泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学双書〉、1997年5月、44頁
  39. ^ 谷口知平編『新版 注釈民法〈21〉親族1』有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉1989年12月、99頁以下






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