周期表 歴史

周期表

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歴史

ベギエ・ド・シャンクルトワの「地のらせん」概略図

先駆的な周期律の考察

18世紀後半から19世紀前半にかけて化学の発展に伴い元素が数多く発見され、1789年にアントワーヌ・ラヴォアジエが作成したリストでは33個の元素が記載された。1830年までにその数は55種まで増え、それとともに化学者の中には漠然とした不安が持ち上がっていた。元素は一体何種類あるのか、そしてこの増えるばかりの元素には何かしらの法則性が隠されていないのだろうかという疑念である[14]。1829年、ドイツのヨハン・デーベライナーは1826年に発見された臭素の色や反応における性質、そして原子量が塩素およびヨウ素の中間にあることに気づいた。彼は他にも同様の組み合わせが無いか研究したところ、カルシウム-ストロンチウム-バリウム硫黄-セレン-テルルにも同じような性質の近似性があることを見つけた。デーベライナーはこの組み合わせを三つ組元素と名付けた[14][15]。しかし、当時知られた元素のうちこれに当てはまるものは16に過ぎず、多くの化学者は単なる偶然と片付けた。当時、原子量と分子量、そして化学当量は明確に区別されておらず、混同も多かった[14]

1862年にフランスの鉱物学者ベギエ・ド・シャンクルトワが「地のらせん」という説を発表し、円筒状の紙に元素を螺旋型に並べると垂直方向に性質が近似した元素が並ぶと唱えた[16]。しかし彼は数学における錬金術的な「数秘学」という方法でこれを説明し、的確な図を添付しなかったために他の科学者には理解されなかった。1864年、イギリスジョン・ニューランズが当時知られていた元素を並べると、最初(水素)と8番目(フッ素)の性質が似ており、以下2番目(リチウム)と9番目(ナトリウム)も同じ傾向があり、これは7番目(酸素)と14番目(硫黄)まで同様に見られることを、音楽の音階になぞらえて「オクターブの法則」と名付けて発表した[16][17][18]。ただしこれはさらに大きな元素には当てはまらなかったために賛同を得られず[15]かえって「では元素記号のアルファベット順に並べたらどうなる」と嘲笑の的になった[19]。1864年、ドイツのロータル・マイヤーは既知49種類の元素を原子容(原子体積)に着目し[16]16列にわけた周期表を考案した。これは価電子数が同じ元素が近似した性質を持つことを表していた[20][21]

メンデレーエフの周期表

メンデレーエフが1869年に、最初に作成した周期表

ドイツのアウグスト・ケクレは、原子量や分子量などの概念がまだしっかりとしていないことを問題視して、1860年にカールスルーエで「元素の質量測定」をテーマとした史上初の国際化学者会議を開催した[14]。この会議に出席したロシアの教師であり化学者であったドミトリ・メンデレーエフはそこでイタリアスタニズラオ・カニッツァーロが唱えた原子量を重視すべきであるという主張[14]に影響を受けた[22]

メンデレーエフはロシアに帰国した後にサンクトペテルブルク大学の教授となり、1869年に化学の教科書を執筆していた際に[22]、発見済みの数が63個にまで増えていた元素を説明する方法に悩んでいた。彼は自分の好きなカードゲームから発案して、元素名を書き込んだカードを原子量順に並べ替えることを何度も繰り返すうちにひとつの表を作り上げた。それは原子価を重視し、かつ適切に当てはめられる元素が表中に無い場所には、サンスクリットで「1」の意味の「エカ[23]を用いた「エカホウ素」「エカアルミニウム」「エカケイ素」など、仮の名をつけて元素を割り当てずに空けておくという工夫を施したものだった[16]。この表は1870年にドイツの科学雑誌に発表された[24]

メンデレーエフの第二周期表。1871年。表の上部には水素化物と酸化物があるように、彼は化合物を重視してこの表を作成した[25]

当初はこの彼の表の価値を認める学者はほとんどいなかった[24]。しかし、マイヤーはこれに注目し、原子容の考え方を加えた論文を発表した。彼は原子量順の原子容を調べたところ、リチウム・ナトリウム・カリウムと並ぶアルカリ金属族に該当する元素は原子容が前後と飛びぬけて高いことを示した[25]。メンデレーエフはマイヤーの論文も参照し、改良を加えた周期表(第二周期表)を作成した。これにはローマ数字IからVIIIで縦の分類が施され、うちI–VIIが基本的に1–2族および13–17族に対応し、VIIIには遷移元素群を入れ、また貴ガスは反映されていなかった。それぞれには2種類の亜族を設け、表の左右に振り分けて区分した[25]

認められた周期表

メンデレーエフの周期表はすぐに認められたわけではなかった。しかし1875年にフランスポール・ボアボードランが新元素ガリウムを発見し、これが周期表中の「エカアルミニウム」と一致した性質を持つことが判明すると周期表が注目を浴びるようになった[26]。その後も1879年に発見されたスカンジウム(「エカホウ素」)、1886年に発見されたゲルマニウム(「エカケイ素」)がメンデレーエフの表の空白の位置を埋めるものだということが判明し、彼の周期表による予想の正しさが証明された[24][26]。これに伴って「オクターブの法則」のジョン・ニューランズも再評価され、1887年にイギリス化学学会から賞を授与された[27]

しかし周期表による予言では収められないケースもあった。1794年にスウェーデンの小村イッテルビーで発見された鉱物群からは多くの新元素が見つかっていたが、1907年までにその数は14にもなった。これらはいずれもよく似た性質を持っており希土類元素と呼ばれたが、メンデレーエフの周期表に当てはめようとしても、いずれの族にも納まらないものであった[28]。この問題は常に意識されていたが、1920年以降にこれらの元素はランタノイドという概念の下にまとめられて決着を見た[29]

貴ガスを反映

メンデレーエフは化合物のでき方、すなわち原子価を重視して周期表を作成した。ここに、1894年にジョン・ウィリアム・ストラット(レイリー卿)とウィリアム・ラムゼーが発見した新元素アルゴンが立ちはだかった。「怠け者」を意味する化合物を作らないアルゴンをどのように周期表の中に組み込むべきかが悩まれた。しかし1898年までに同様な性質を持つヘリウム・ネオン・クリプトン・キセノンが相次いで発見され、これらも周期表の族の一種だと考えられるようになった[30]

これら元素は貴ガスと呼ばれたが、原子価を示すとゼロとなる。原子量で考えるとアルゴンはカリウムとカルシウムの間に入るべきだが、原子価で見るとイオウ−塩素−カリウム−カルシウムが2−1−1−2となる点を重視して塩素とカリウムの間に入れると2−1−0−1−2となったため、貴ガスは周期表の右端に置かれるようになった[28]

原子モデル構築

周期表で示される元素の性質を作り出す構造は、1913年にニールス・ボーアが提唱したボーアの原子模型で理論説明が成された[10]。彼の理論によって、元素は電子配置によって性質が左右し、その軌道が周期表の周期と対応していることが説明された[10]


   
18
 
1
1
H
2   13 14 15 16 17 2
He
 
2
3
Li
4
Be
  5
B
6
C
7
N
8
O
9
F
10
Ne
 
3
11
Na
12
Mg
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
Al
14
Si
15
P
16
S
17
Cl
18
Ar
 
4
19
K
20
Ca
21
Sc
22
Ti
23
V
24
Cr
25
Mn
26
Fe
27
Co
28
Ni
29
Cu
30
Zn
31
Ga
32
Ge
33
As
34
Se
35
Br
36
Kr
 
5
37
Rb
38
Sr
39
Y
40
Zr
41
Nb
42
Mo
43
Tc
44
Ru
45
Rh
46
Pd
47
Ag
48
Cd
49
In
50
Sn
51
Sb
52
Te
53
I
54
Xe
 
6
55
Cs
56
Ba
*1 72
Hf
73
Ta
74
W
75
Re
76
Os
77
Ir
78
Pt
79
Au
80
Hg
81
Tl
82
Pb
83
Bi
84
Po
85
At
86
Rn
 
7
87
Fr
88
Ra
*2 104
Rf
105
Db
106
Sg
107
Bh
108
Hs
109
Mt
110
Ds
111
Rg
112
Cn
113
Nh
114
Fl
115
Mc
116
Lv
117
Ts
118
Og
 
8
119
Uue
120
Ubn
*3 154
Upq
155
Upp
156
Uph
157
Ups
158
Upo
159
Upe
160
Uhn
161
Uhu
162
Uhb
163
Uht
164
Uhq
165
Uhp
166
Uhh
167
Uhs
168
Uho
 
9
169
Uhe
170
Usn
*5
 
 
6
*1 ランタノイド 57
La
58
Ce
59
Pr
60
Nd
61
Pm
62
Sm
63
Eu
64
Gd
65
Tb
66
Dy
67
Ho
68
Er
69
Tm
70
Yb
71
Lu
 
7
*2 アクチノイド 89
Ac
90
Th
91
Pa
92
U
93
Np
94
Pu
95
Am
96
Cm
97
Bk
98
Cf
99
Es
100
Fm
101
Md
102
No
103
Lr
 
8
*4 超アクチノイド 139
Ute
140
Uqn
141
Uqu
142
Uqb
143
Uqt
144
Uqq
145
Uqp
146
Uqh
147
Uqs
148
Uqo
149
Uqe
150
Upn
151
Upu
152
Upb
153
Upt
 
 
8
*3 超アクチノイド 121
Ubu
122
Ubb
123
Ubt
124
Ubq
125
Ubp
126
Ubh
127
Ubs
128
Ubo
129
Ube
130
Utn
131
Utu
132
Utb
133
Utt
134
Utq
135
Utp
136
Uth
137
Uts
138
Uto
*4
 
9
*5 超アクチノイド 171
Usu
172
Usb
173
Ust
[t 1]
1 25°Cで固体   金属元素   アルカリ金属
1 25°Cで液体   半金属元素   アルカリ土類金属
1 25°Cで気体   非金属元素   ハロゲン
1 不明   不明   希ガス
1 50°Cで液体   人工元素   遷移金属
    卑金属元素   ランタノイド
    アクチノイド

脚注

  1. ^ 陽子数173では1s軌道の電子の束縛エネルギーが電子-陽電子の対生成に必要なエネルギーに等しくなり、内部で自然発生する可能性がある。その場合、陽子数174以上では現在知られているような電子殻は構成されず、ここに示した電子配置は実在し得ないことになる。
  1. ^ a b c 米沢富美子「第11章 原子核物理学を築いた女性たち、元素周期表」『人物で語る物理入門(下)』(第1刷)岩波新書、2006年、112-116頁。ISBN 4-00-430981-6 
  2. ^ Whittaker, G. Allan; Mount, A. R.; Heal, M. R (2002), 中村 亘男 訳, ed., 物理化学キーノート, シュプリンガー・フェアラーク東京, 2002-12, p. 208, ISBN 4431709568 
  3. ^ Andrews, Julian E.; Brimblecombe, Peter; Jickells, Tim D.; Liss, Peter. S.; Reid, Brian J.; 渡辺 正 訳 (2005), 地球環境化学入門, シュプリンガー・ジャパン, pp. 16, ISBN 9784431711117 
  4. ^ The periodic table of the elements” (英語). IUPAC. 2008年2月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年1月4日閲覧。
  5. ^ 竹内(1996)、pp.78-79
  6. ^ a b c d 大川(2002)、pp.44-48、1.7周期表と電子配置
  7. ^ a b ニュートン別冊(2010)、pp.30-31、周期表は140年もの間、重要な役割をになってきた
  8. ^ 新版元素ビジュアル図鑑(2016)、p.102
  9. ^ ニュートン別冊(2010)、pp.34-35、メンデレーエフの正しさは、原子構造で証明された
  10. ^ a b c d e 竹内(1996)、pp.76-83、5.1周期表
  11. ^ ニュートン別冊(2010)、pp.36-37、メンデレーエフを最後まで悩ませた元素の一群
  12. ^ a b c d 竹内(1996)、pp.83-91、5.2単体の性質の周期性
  13. ^ 大川(2002)、pp.52-55、1.9 イオン
  14. ^ a b c d e アシモフ(1967)、第8章 周期表、pp.155-161、乱雑に並んだ元素
  15. ^ a b ニュートン別冊(2010)、pp.26-27、元素の周期性に気づいた先人たち
  16. ^ a b c d アシモフ(1967)、第8章 周期表、pp.161-170、元素の体系化
  17. ^ 村上雅人 編著; 阿部泰之 ら (2004), 元素を知る事典 : 先端材料への入門, 東京: 海鳴社 (2004-11発行), p. 240, ISBN 487525220X 
  18. ^ Newlands, John A. R. (1865-08-18). “On the Law of Octaves”. Chemical News 12: 83. http://web.lemoyne.edu/~giunta/EA/NEWLANDSann.HTML#newlands4. 
  19. ^ Bryson, Bill (2004). A Short History of Nearly Everything. London: Black Swan. pp. 141–142. ISBN 9780552151740 
  20. ^ Sacks, Oliver W; 斉藤隆央 訳 (2003), タングステンおじさん: 化学と過ごした私の少年時代, 早川書房, ISBN 9784152085177 
  21. ^ Ball, p. 101.
  22. ^ a b ニュートン別冊(2010)、pp.46-47、周期表を生み出したメンデレーエフの生涯
  23. ^ アイザック・アシモフ著; 小山慶太・輪湖博 訳 (1996), アイザック・アシモフの科学と発見の年表, 丸善, p. 261, ISBN 4621045377 
  24. ^ a b c ニュートン別冊(2010)、pp.28-29、カードゲームでひらめいた!周期表の誕生物語
  25. ^ a b c 斉藤(1982)、2章 元素の種類と周期律、pp.35-39、2.1.4.メンデレーエフとマイヤー
  26. ^ a b アシモフ(1967)、第8章 周期表、pp.170-175、空所を埋める
  27. ^ 竹内(1996)、pp.97
  28. ^ a b アシモフ(1967)、第8章 周期表、pp.175-182、新しい元素の群
  29. ^ 斉藤(1982)、2章 元素の種類と周期律、pp.40-41、2.1.5.周期表の完成
  30. ^ 斉藤(1982)、2章 元素の種類と周期律、pp.47-51、2.2.3.アルゴンと貴ガス
  31. ^ Dynamic periodic table” (英語). ptable.com. 2011年1月4日閲覧。
  32. ^ ニュートン別冊(2010)、pp.64-65、元素の基準はなぜ水素から炭素になったのか
  33. ^ a b ニュートン別冊(2010)、pp.42-43、水素の位置で新提案!周期表の並び方が変わる?
  34. ^ 「まんが アトム博士の科学探検」(東洋出版)60ページ・187ページ
  35. ^ a b c ニュートン別冊(2010)、pp.44-45、さまざまなタイプの周期表が考案されている
  36. ^ Problem of the Week” (英語). Chemistry. 2011年1月4日閲覧。
  37. ^ Reriodic Law can be understood in terms of the Tetrahedral Sphere Packing” (英語). perfectperiodictable.com. 2011年1月4日閲覧。
  38. ^ a b 坂根弦太、化学用語としての周期表の今昔物語(講座:化学の大学入試問題を考えるための基本) 化学と教育 Vol.58 (2010) No.4 p.190-193, doi:10.20665/kakyoshi.58.4_190
  39. ^ “周期律表”という言葉について
  40. ^ 三宅正二郎、関根幸男、金鍾得 ほか、ナノ周期積層膜の摩耗特性を活用したナノ加工技術の開発 精密工学会誌 Vol.66 (2000) No.12 P.1958-1962, doi:10.2493/jjspe.66.1958
  41. ^ TVクイズ番組『たけし・逸見の平成教育委員会』エンディングテーマ曲・二番歌詞
  42. ^ テレビアニメ『エレメントハンター』エンディングテーマ曲。






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