ちょうアクチノイド‐げんそ〔テウ‐〕【超アクチノイド元素】
超アクチノイド元素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/21 23:12 UTC 版)
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超アクチノイド元素(ちょうアクチノイドげんそ)は、次の二つの意味で用いられる。
- (transactinide) アクチノイドの最後に当たるローレンシウム(原子番号103)より原子番号の大きい元素の総称である。超重元素ともいう。これまでに104番から118番が発見され、IUPACで承認されている。
- (superactinide) 周期表(拡張周期表)で、アクチノイドの下に配置される元素群の名称。原子番号121のウンビウニウムから153のウンペントトリウムまでが相当する。未だ一つも発見されていない。
区別のため、本記事中では 1.の意味には「超重元素」を用い、単に「超アクチノイド」といったときは 2.を意味するものとする。このような使い分けは一般的に為されているわけではなく、あくまで本記事における便宜的なものである。
超重元素の合成法と特徴
超重元素はすべて天然には存在しないため、2種類の方法で合成される。1つは、金属原子に別の金属原子をイオンビームにして衝突させるもので、「冷たい核融合反応」と呼ばれる。もう一つは、アクチノイド元素に、イオンビームにした軽元素原子を衝突させるもので、「熱い核融合反応」と呼ばれる。ここで言う「熱い」「冷たい」とは、衝突によって生じる新元素の励起エネルギーの量を表すものである。共に、まず二つの原子が衝突して励起された複合核を生じ、これがすぐに中性子(n)を放出して超重核種ができる。
たとえば、原子番号(Z)104番のラザホージウム(Rf)を合成するには、カリホルニウム(98Cf)に原子番号6の炭素(6C)をイオンビームにして衝突させる。この核反応は、
- 249Cf+12C→(261Rf*)→257Rf+4n
または簡略化して
- 249Cf(12C,4n)257Rf
と表される。ここでは、261Rf*が複合核であり、257Rfが4個の中性子を放出してできた超重核種である。
超重元素は全て放射性元素であり、半減期が数マイクロ秒から数秒程度の非常に短命な核種が多い。そのため、同定・確認に時間がかかり、詳しい化学的性質はあまりわかっていない。ただしドブニウム268のように数時間程度の半減期を持つ核種も一部あり、また原子番号114付近には安定の島と呼ばれる長寿命の核種の存在が予想されている。
なお、超重元素では中心にある原子核の正電荷に比例して周りの電子との相互作用が非常に強くなる。それに従い、内殻電子の速度は光速に近づき、相対論効果で質量が重くなるためにその軌道半径は収縮する(直接的な相対論効果)。一方、外殻電子の軌道半径は、内殻軌道の収縮により原子核の正電荷が遮蔽されるため逆に大きくなる(間接的な相対論効果)。これらの現象は原子番号に比例して大きくなるため、化学結合に関与する原子価電子が大きく変化し、超重元素は周期表上の同属元素とは異なった化学的性質を持つ事が予想されている。
単一原子化学による分析
上記の理由のため、いくら核反応を続けても超重元素の生成率は1分から1日の間にやっと数原子が得られるだけである。したがって、研究者たちが一度に取り扱えるのは事実上わずか1原子であり、これをすばやく運搬・分離分析して化学的性質を決定しなければならない。このような研究を「単一原子化学」といい、多数実験を行うことによって統計的に分配係数を決定するため、クロマトグラフィーが用いられている。単一原子化学では、マクロ量で扱われる熱力学的平衡論(質量作用の法則)が適用できないため、単一粒子を仮定した熱力学的関数を導入することにより質量作用の法則と等価の解釈を行う。
ウンビウノイド(アクチノイドの下)
第8周期においてランタノイド、アクチノイドに相当する位置には、原子番号121ウンビウニウムから153ウンペントトリウムまでの33元素が入る。これらをウンビウノイド(superactinide)と呼ぶ。全てのウンビウノイドは超重元素でもある。2024年現在、全てのウンビウノイドは未発見である。
原子番号121のウンビウニウムから138ウントリオクチウムまでの18元素は周期表に初めて登場するGブロック元素であり、5g軌道に電子が充填されていくと考えられる。また、原子番号139ウントリエンニウムから153ウンペントトリウムまでの15元素はランタノイド、アクチノイドの同族に当たるFブロック元素であり、6f軌道に電子が充填されていくと考えられる。5g軌道、6f軌道とも内殻に当たるため、ウンビウノイドの化学的性質は似通っていると予想される。
エカアクチノイド(eka-actinide)と呼ばれることもあるが、Fブロックの部分のみを指して使われることもあり、曖昧さのある用語である。未発見の元素群であることもあり、用語や日本語訳はあまり固まっていない。
関連項目
外部リンク
超アクチノイド元素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/03 14:25 UTC 版)
ロシアの化学者ネフェドフ(ロシア語版)らによると、超アクチノイド元素は121番元素から157番元素までと考えられており、第8周期の5g、6f元素と一部の7d元素に分類される。超アクチノイド系列では、7d3/2、8p1/2、6f5/2、5g7/2の各電子殻が同時に満たされると予想される。これは非常に複雑な状態となるため、完全で正確なCCSD計算は121番元素と122番元素に対してのみ適用される。最初の超アクチノイド元素であるウンビウニウム(121番元素)は、ランタンやアクチニウムと似ていると考えられる。主な酸化状態は+3であるが、価電子殻のエネルギー準位が近いため、119番元素や120番元素のように、より高い酸化数を取る可能性がある。8p電子殻が相対論的に安定しているので、121番元素の基底状態における価電子配置は8s28p1となり、ランタンやアクチニウムのds2配置とは対照的である。しかし、この異常な配置は計算上の化学的性質に影響を与えないようで、性質はアクチニウムと似ていると考えられる。第一イオン化エネルギーは429.4 kJ/molと予想され、アルカリ金属のカリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムを除くすべての既知の元素よりも低く、この値は第8周期のアルカリ金属であるウンウンエンニウム(463.1 kJ/mol)よりもさらに低い。同様に、次の超アクチノイド元素であるウンビビウム(122番元素)は、セリウムやトリウムと似ており、主な酸化数は+4と予想される。基底状態では7d18s28p1か8s28p2の価電子配置を持ち、トリウムの6d27s2配置とは異なると考えられる。したがって、第一イオン化エネルギーはトリウムよりも小さくなる(Th: 6.3 eV; Ubb: 5.6 eV)。これは、ウンビビウムの8p1/2電子がトリウムの6d電子よりもイオン化しやすいことによる。5g軌道の軌道崩壊(原子番号が大きくなる際、他の電子軌道よりもエネルギー準位が小さくなること)は125番元素あたりまで遅れる。電子数が119のときの等電子的な電子配置は、119番元素から122番元素では[Og]8s1、123番元素と124番元素では[Og]6f1、125番元素以降では[Og]5g1になると予想されている。 原子番号の小さい超アクチノイド元素では電子の結合エネルギーが十分に小さく、すべての価電子を電離することができると予測されている。例えば、ウンビヘキシウム(126番元素)は、容易に+8の酸化数を取ることができ、次のいくつかの元素ではさらに高い酸化数が可能であると考えられる。ウンビヘキシウムは、他のさまざまな酸化数を示すことも予測されている。最近の計算では、ウンビヘキシウムの5g軌道とフッ素の2p軌道の間の結合相互作用によって、安定な一フッ化物UbhFができる可能性が示唆されている。 その他の予測される酸化数には+2、+4、+6などがあり、+4はウンビヘキシウムにおける最も普通の酸化数であると予想されている。ウンビセプチウム(125番元素)からウンビエンニウム(129番元素)までの超アクチノイド元素は+6の酸化数を示し六フッ化物を形成すると予測されているが、UbpF6とUbhF6は比較的弱い結合になると予測されている。 結合解離エネルギーは127番元素で大きく増加し、129番元素ではさらに増加すると予測されている。このことは、125番元素フッ化物の強いイオン性から、129番元素フッ化物における8p軌道を含んだ共有結合性への移行を示唆している。これら超アクチノイド元素六フッ化物における結合のほとんどは、六フッ化ウランのようにウランが5fと6dの軌道を使って結合するのではなく、超アクチノイド元素で最もエネルギー準位の高い8p電子殻とフッ素の2p電子殻の間で行われる。 初期の超アクチノイド元素は高い酸化数に達することができるにもかかわらず、5g電子は最もイオン化しにくいと計算されている、Ubp6+とUbh7+イオンは5g1配置になると予想されており、これはNp6+イオンの5f1配置に似ている。 似たような挙動は化学的活性の低いランタノイドの4f電子でも見られるが、これは5g軌道が小さく、電子雲に深く埋もれていることに起因する。 現在知られている元素の基底状態の電子配置には存在しないg軌道の電子が存在することで、未知の混成軌道が形成され、超アクチノイド元素の化学的性質に新たな影響を与えると考えられる。だが既知の元素にg軌道電子が存在しないため、超アクチノイド元素の化学的性質を予測することは困難である。 超アクチノイド元素の予想される化合物(Xはハロゲン)121122123124125126127128129132142143144145146148153154155156157化合物UbuX3 UbbX4 UbtX5 UbqX6 UbpFUbpF6UbpO2+2 UbhFUbhF6UbhO4 UbsF6 UboF6 UbeFUbeF6 UqbX4UqbX6 UqtF6 UqqX6UqqO2+2UqqF8UqqO4 UqpF6 UqoO6 類似化合物LaX3AcX3 CeX4ThX4 NpO2+2 ThF4 UF6UO2+2PuF8PuO4 UO6 酸化数3 4 5 6 1, 6, 7 1, 2, 4, 6, 8 6 6 1, 6 6 4, 6 6, 8 3, 4, 5, 6, 8 6 8 12 3 0, 2 3, 5 2 3 超アクチノイド元素の後半では、酸化数はが低くなると予想される。132番元素では、最も安定した酸化数は+6のみが主となり、144番元素ではさらに+3と+4へ減少し、超アクチノイド系列の最後では+2(場合によっては0)となると考えられる。これは、その時点で充填される6f電子殻が電子雲の奥深くにあり、8sおよび8p1/2電子が強く結合しているため、化学的に活性とならないためである。5g電子殻が満たされるのは144番元素、6f電子殻が満たされるのは154番元素あたりと予想されるが、この領域の超アクチノイド元素では、8p1/2電子が強く結合して化学的に活性ではなくなり、化学反応に関与できるのは数個の電子だけになる。Frickeらの計算によると、154番元素で6f電子軌道が満たされ、化学的に不活性な8s殻と8p1/2殻の外側には、d軌道または他の電子の波動関数がないと予測されている。これにより、154番元素は貴ガスのような性質を持ち、むしろ不活性である可能性がある。それにもかかわらず、ピューッコの計算では、155番元素は6f電子がイオン化可能であると予想している。Upp3+は6f電子殻が満たされ、第4イオン化ポテンシャルは、+4価のテルビウムとジスプロシウムの間になると考えられる。 ランタノイドやアクチノイドの収縮と同様に、超アクチノイド元素のイオン半径が予想よりも小さい超アクチノイド系列では、超アクチノイドの収縮が起こると思われる。ランタノイドおよびアクチノイドの波動関数は5f軌道に比べ4f軌道でより局在化しているため、アクチノイドよりもランタノイドの方が収縮率が大きい。ランタノイド、アクチノイド、超アクチノイドで外殻電子の波動関数を比較すると、超アクチノイドでは1元素あたり約2pmの収縮が予想される。これはランタノイドとアクチノイドの収縮よりも小さいが、ランタノイドとアクチノイドではそれぞれ4f軌道と5f軌道に14個の電子が満たされるのに対し、超アクチノイドでは深く埋もれている5g軌道と6f軌道に32個の電子が満たされるため、全体の効果は大きくなる。 ペッカ・ピューッコは、超アクチノイドを3つに分類した。5g系列(121~138番元素)、8p1/2系列(139~140番元素)、6f系列(141~155番元素)。これらはエネルギー準位間の重複が多く、初期の超アクチノイド原子やイオンでは6f、7d、8p1/2軌道も占有されている可能性がある。また彼は、これらが「超ランタノイド」に近い挙動を示すと予想している。5g電子はほとんど化学的に不活性であることと、各ランタノイドの1つか2つの4f電子だけが化合物でイオン化されるのに似ているという意味である。彼はまた、超アクチノイド元素の取りうる酸化数は6f系列で非常に高くなり、148番元素では+12のような値になるかもしれないと予想した。 アンドレイ・クルシャは、121番から156番までの36個の元素を「超遷移元素」と呼び、121番から138番までと139番から156番まで、18個ずつ2系列の元素に分けて考えることを提案した。1つ目はランタノイドに類似した元素群で、酸化数は主に+4から+6の範囲、5g電子殻の充填が支配的であり、ウラン、ネプツニウム、プルトニウムのように隣り合う元素は互いに非常によく似ていると考えた。最初(140番台の元素あたり)は、6f電子殻が7d電子殻より優先されるため非常に高い酸化数が予想されるが、その後典型的な酸化数は下がり、150番台以降の元素では8p1/2電子によって化学的に活性ではなくなる。この18元素2系列は5g18電子殻によって分離されているため、互いに類似体であると考えることができる。 後半の超アクチノイド元素の例として、156番元素は主に+2の酸化数を示すと予想されるが、これは安定した[Og]5g186f148s28p21/2電子配置の上に電離しやすい7d2電子があるためである。これはノーベリウムのより重い同族体と考えることができ、安定した[Rn]5f14電子配置の上に電離しやすい7s2電子のペアを持つため、通常は+2価であるのと同様である(+3価のノーべリウムを得るためには強力な酸化剤が必要である)。 その第一イオン化エネルギーは約400kJ/mol、金属半径は約170ピコメートルと予想される。原子量は445u前後で、密度は約26g/cm3と非常に重い金属であると推定される。
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