強制性交等罪 法改正の経緯

強制性交等罪

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/24 21:11 UTC 版)

法改正の経緯

平成16年改正まで

政府・与党のプロジェクトチームは2003年9月25日に会合を開き、

  1. 強姦罪の法定刑を「2年以上の懲役」から「3年以上の懲役」に引き上げる(2年と3年の差は、執行猶予との関係で意味を持つことを期待してのものであり、3年を超過すれば執行猶予がなくなる[23]点で大きな差が生まれる。刑法25条参照。)
  2. 集団強姦罪を新設し、4年以上の懲役とする

などを盛り込んだ、刑法改正案の検討に着手した。これは、自民党の元総務庁長官太田誠一が、与党3党の女性議員らに呼びかけて立ち上げたもの。

同9月30日の参議院本会議において、当時の内閣総理大臣小泉純一郎は、強姦罪の罰則強化と集団強姦罪の創設について理解を示しながらも、具体的方策については触れなかった。

その後、2004年(平成16年)12月の刑法改正で法定刑が引き上げられ、集団強姦等(第178条の2)の規定が設けられた(平成29年法改正で条文廃止)。

夫婦間、DVとの関連

夫婦間における強姦について「婚姻が破綻して夫婦たる実質を失い、名ばかりの夫婦にすぎない場合にはもとより、夫婦間に所論の関係はなく、夫が暴行又は脅迫をもって妻を姦淫したときは強姦罪が成立する」と認定した1986年昭和61年)の鳥取地方裁判所判決がある。

平成29年改正前規定の問題点

平成29年改正前の強姦罪に関する確定した判例実務では、男性器が女性器に挿入されたことをもって強姦罪の既遂とする。そのため当初から肛門に男性器を挿入することを意図した場合や、被害者が男性の場合には強姦罪は適用されず、一般により犯情が軽いとされる強制わいせつ罪にとどまる(前段につき、東京地判平成4年2月17日参照)。

関連事件
2003年(平成15年)7月29日、多摩地区を中心に15件の婦女暴行を繰り返した36歳(当時)の男性が、警視庁捜査一課により逮捕された。女性の肛門に男性器を挿入する手口で犯行に及んだため、強制わいせつ致傷の罪に問われたものの、強姦罪は適用出来なかった。加害者は強姦罪になるのを免れるため、肛門を狙ったと警察官に供述している[24]

国際的観点からの問題点

日本は、国際連合自由権規約委員会の2008年11月の総括所見[25]最終見解[26]のパラグラフ14で、刑法第177条の強姦罪の定義に、男性に対する強姦も含めることを求められるとともに、強姦罪を重大な犯罪として被害者側の立証責任を軽減するよう求められた。

そもそも男子に対する強姦のみが認められない場合は、日本国憲法第14条に反し、男女の本質的な扱いの不平等となり、違憲である可能性があった。

強姦率の実態では、日本は統計上は発生率が少ない国になっている[27]。国際的に、日本は強姦に対しての刑事罰が非常に軽い国である、という批判も受けていた。

平成27年法制審議会への諮問

法制審議会第175回会議(2015年(平成27年)10月9日開催)に対し、「性犯罪の罰則に関する検討会」取りまとめ報告書を受ける形で、強姦罪を含む性犯罪の罰則の改正について諮問がされた[28]

第一 強姦の罪(刑法第百七十七条)の改正
暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の者を相手方として性交等(相手方の膣内、肛門内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ、又は自己若しくは第三者の膣内、肛門内若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為をいう。以下同じ。)をした者は、五年以上の有期懲役に処するものとすること。
十三歳未満の者を相手方として性交等をした者も、同様とすること。
第二 準強姦の罪(刑法第百七十八条第二項)の改正
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、第一の例によるものとすること。
第三 監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設
一 十八歳未満の者に対し、当該十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用してわいせつな行為をした者は、刑法第百七十六条の例によるものとすること。
二 十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用して当該十八歳未満の者を相手方として性交等をした者は、第一の例によるものとすること。
三 一及び二の未遂は、罰するものとすること。
第四 強姦の罪等の非親告罪化
一 刑法第百八十条を削除するものとすること。
二 刑法第二百二十九条を次のように改めるものとすること。
第二百二十四条の罪及びこの罪を幇助する目的で犯した第二百二十七条第一項の罪並びにこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
第五 集団強姦等の罪及び同罪に係る強姦等致死傷の罪(刑法第百七十八条の二及び第百八十一条第三項)の廃止
刑法第百七十八条の二及び第百八十一条第三項を削るものとすること。
第六 強制わいせつ等致死傷及び強姦等致死傷の各罪(刑法第百八十一条第一項及び第二項)の改正
一 刑法第百七十六条若しくは第百七十八条第一項若しくは第三の一の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯しいせつな行為をした者は、刑法第百七十六条の例によるものとすること。
よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処するものとすること。
二 第一、第二若しくは第三の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処するものとすること。
第七 強盗強姦及び同致死の罪(刑法第二百四十一条)並びに強盗強姦未遂罪(刑法第二百四十三条)の改正
一 次の1に掲げる罪又は次の2に掲げる罪の一方を犯した際に他の一方をも犯した者は、無期又は七年以上の懲役に処するものとすること。ただし、いずれの罪も未遂罪であるときは、その刑を減軽することができるものとすること。
  1. 第一若しくは第二の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は第六の二の罪(第三の二の罪に係るものを除き、人を負傷させた場合に限る。)
  2. 刑法第二百三十六条、第二百三十八条若しくは第二百三十九条の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は同法第二百四十条の罪(人を負傷させた場合に限る。)
二 一ただし書の場合において、自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは、その刑を減軽し又は免除するものとすること。
三 一の1に掲げる罪又は一の2に掲げる罪の一方を犯した際に他の一方をも犯し、いずれかの罪に当たる行為により人を死亡させた者は、死刑又は無期懲役に処するものとすること。

強姦罪から「強制性交等罪」に変更へ

法制審議会の諮問により、2017年(平成29年)3月7日に「刑法の一部を改正する法律案」として閣議決定され、第193回国会(常会)に提出された[29]

  1. 強制性交等罪および準強制性交等罪:強姦罪の対象(被害者)が性別不問となり、法定刑が3年以上の有期懲役から、5年以上の有期懲役に引きあげられた(第1及び第2)
  2. 監護者わいせつ罪:現に18歳未満の者を監護する者が、その影響力を行使して、当該18歳未満の者にわいせつな行為をすると、強制わいせつと同じ刑になる(第3の1)
  3. 監護者性交等罪:現に18歳未満の者を監護する者が、その影響力を行使して、当該18歳未満の者と性交等(強姦罪の対象となる行為)をすると、強姦と同じ刑になる(第3の2)
  4. 強盗・強制性交等及び同致死:強盗強姦罪などから強盗行為が後か先かによる分類の廃止
  5. 強姦罪等を非親告罪とする(第4)
  6. 強姦罪の法定刑引き上げ及び非親告罪化により、集団強姦罪を廃止する(第5)

強姦罪を定める刑法改正法案は、2017年(平成29年)6月16日国会で成立し、6月23日に公布された。刑法の附則事項に「公布日から起算して20日を経過した日から施行する」と定めており、2017年(平成29年)7月13日から施行された[30]




  1. ^ 改正刑法:性犯罪を厳罰化、成立 「非親告罪」化などが柱”. 毎日新聞. 毎日新聞社 (2017年6月16日). 2017年6月19日閲覧。[リンク切れ]
  2. ^ 以下、2017年(平成29年)7月13日施行の改正刑法を言う。
  3. ^ 性犯罪に関する刑法~110年ぶりの改正と残された課題”. NHK (2018年10月22日). 2020年7月13日閲覧。
  4. ^ 西田典之『刑法各論』第三版81頁
  5. ^ http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/193/0004/19306070004021c.html
  6. ^ “川崎逃走男「金は返すから逮捕は勘弁して」”. 日テレNEWS24. (2014年1月11日). http://news.livedoor.com/article/detail/8422765/ 2014年1月11日閲覧。 
  7. ^ 制定の直接の契機となったのは、2003年(平成15年)に発覚したスーパーフリー事件である。
  8. ^ 以下、前澤貴子. “調査と情報第962号”. 性犯罪規定に係る刑法改正法案の概要. 国立国会図書館. 2017年10月22日閲覧。による。
  9. ^ なお、平成29年改正以前、法定刑の下限は5年であった。
  10. ^ 最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)第2294号 窃盜、強姦致傷 昭和34年7月7日 決定 棄却 集刑130号515頁
  11. ^ 最高裁判所第二小法廷 昭和34年(あ)第1274号 強姦致傷 昭和34年10月28日 決定 棄却 刑集13巻11号3051頁
  12. ^ 最高裁判所第二小法廷 昭和46年(あ)第1051号 強姦致傷 昭和46年9月22日 決定 棄却 刑集25巻6号769頁
  13. ^ 最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)第1260号 強姦致傷 昭和23年7月26日 判決 棄却 集刑第12号831頁
  14. ^ 仙台高等裁判所第二部 昭和32年(う)第366号 強姦致傷被告事件 昭和33年3月13日 判決 高刑11巻4号137頁
  15. ^ 大谷實『新版刑法講義各論[追補版]』成文堂、2002年、127頁
  16. ^ 強姦致死罪には死刑が規定されていないため、単純な殺人よりも、殺意をもって強姦し死亡させた場合の方が法定刑が軽くなってしまう。
  17. ^ 法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会 第1回会議(平成27年11月2日開催)議事録”. 中村幹事による法務省資料1諮問第101号別紙要綱(骨子)第四に関する説明. 法務省. 2017年10月23日閲覧。
  18. ^ 法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会 第1回会議(平成27年11月2日開催)議事録”. 森悦子委員(最高検察庁)、田邊三保子委員(名古屋高等裁判所)発言. 法務省. 2017年10月23日閲覧。
  19. ^ 「強姦罪「告訴なしで起訴可能に」 内閣府専門調査会が提言 」日本経済新聞2012/7/25付
  20. ^ この場合、犯罪の成立の判断は被害者の感情をくみ取って、これが犯罪を成立させるか行為の文脈的な解釈に応じて司法に委ねられることになる。
  21. ^ 「性犯罪の罰則に関する検討会」取りまとめ報告書 p5 平成27年8月6日性犯罪の罰則に関する検討会
  22. ^ 刑法12条、14条
  23. ^ 3年ちょうどで、初犯の場合だと執行猶予5年を言い渡すこともある。
  24. ^ 「尻」ばかり狙った前代未聞「連続暴行魔」
  25. ^ 国際人権(自由権)規約委員会の総括所見
  26. ^ 国連の自由権規約委員会の2008年11月の最終見解
  27. ^ 犯罪率統計-国連調査(2000年)とOECDのデータ他
  28. ^ 法制審議会 第175回会議配布資料 刑1 諮問第101号 - 法務省
  29. ^ 刑法の一部を改正する法律案
  30. ^ “改正刑法施行は7月13日 性犯罪を厳罰化”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2017年6月23日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23H21_T20C17A6CR0000/ 2017年7月5日閲覧。 






英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「強制性交等罪」の関連用語

強制性交等罪のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



強制性交等罪のページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの強制性交等罪 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2021 Weblio RSS