百-日咳とは? わかりやすく解説

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ひゃくにち‐ぜき【百日×咳】

読み方:ひゃくにちぜき

百日咳菌によって起こる小児呼吸器系感染症学校感染症の一。感染症予防法の5類感染症の一。発症の1〜2週間感冒似た咳をし、夜間多くなる。続く2〜6週間痙攣(けいれん)性の激しい咳の発作繰り返し起こるが、発作のないときは健康時と変わらない。さらに2〜3週間、軽い発作みられるが、しだいに消失する予防接種が有効。


百日咳

【仮名】ひゃくにちぜき
原文pertussis

肺および呼吸管の重篤細菌感染で、伝染しやすい。初めはかぜに似ているが、次第に咳がひどくなり、あえぐような呼吸になる。咳の長い発作のために、嘔吐したり、目や皮膚の血管破れたりすることがある。「whooping cough(百日咳)」とも呼ばれる

百日咳

【仮名】ひゃくにちぜき
原文whooping cough

肺および呼吸管の重篤細菌感染で、伝染しやすい。初めはかぜに似ているが、次第に咳がひどくなり、あえぐような呼吸になる。咳の長い発作のために、嘔吐したり、目や皮膚の血管破れたりすることがある。「pertussis(百日咳)」とも呼ばれる

百日咳

百日咳(pertussis, whooping cough )は、特有のけいれん性の咳発作(痙咳発作)を特徴とする急性気道感染症である。母親からの免疫(経胎盤移行抗体)が期待できないため、乳児期早期から罹患し1歳以下の乳児、ことに生後6 カ月以下では死に至る危険性も高い。百日咳ワクチンを含むDPT 三種混合ワクチン接種ジフテリア・百日咳・破傷風)は我が国含めて世界各国実施されており、その普及とともに各国で百日咳の発生数激減している。しかし、ワクチン接種行っていない人での発病わが国でも見られており、世界各国でいまだ多く流行発生している。1990 年ロシアから始まったジフテリア流行同様、ワクチン接種が滞れば再び流行可能性のある感染症である。

疫 学
百日咳は世界的に見られる疾患で、いずれの年齢でもかかるが、小児中心となるまた、重症化しやすく、死亡者大半占めるのは1 歳未満乳児、ことに生後6カ月未満乳児である。WHO の発表によれば世界の百日咳患者数年間2,000 ~4,000 万人で、その約90%は発展途上国小児であり、死亡数は約2040 万人とされている。
わが国における百日咳患者届け出数(伝染病予防法では届出伝染病として全例報告されることになっていた)は、ワクチン開始前には10万例以上あり、その約10%死亡していた。百日咳(P)ワクチン1950年から予防接種法によるワクチン定められ単味ワクチンによって接種開始された。1958年法改正からはジフテリア(D )と混合DP 二種混合ワクチン使われ、さらに1968昭和43)年からは、破傷風(T)を含めたDPT 三種混合ワクチン定期接種として広く使われるようになった。これらのワクチン普及とともに患者報告数は減少し1971年には206例、1972 年には269 例と、この時期に、日本世界で最も罹患率の低い国のひとつとなった。しかし、1970年代から、DPT ワクチン、ことに百日咳ワクチン(全菌体ワクチン)によるとされる脳症などの重篤副反応発生問題となり、1975年2月百日咳ワクチンを含む予防接種一時中止となった
同年4月に、接種開始年齢引き上げるなどして再開されたが、接種率低下著しく、あるいはDPT でなくDT接種を行う地区多く見られた。その結果1979年には年間届け出数が約13,000 例、死亡者数は約2030例に増えた
その後わが国において百日咳ワクチン改良研究急いで進められそれまでの全菌体ワクチンwhole cell vaccine)から無細胞ワクチン(acellular vaccine)が開発された。1981年秋からこの無細胞精製、とも表現する百日咳ワクチンaP)を含むDPT 三種混合ワクチンDTaP)が導入されその結果、再びDPT接種率向上したまた、1981 年7 月から「百日せき疾患」として、定点医療機関(以下、定点)からの報告による感染症発生動向調査開始され伝染病予防法に基づく届出数の約20 倍の患者数報告されるようになった1982年には全定点からの報告数が23,675(定点当たり12.59)で、その後は約4 年毎に増加するパターン示しながら減少した
1994年10月からはDPT ワクチン接種開始年齢それまで2歳から3カ月引き下げられた。
1997年には報告数が2,708(同1.12)、1998年には2,313(同0.97)に減少した1999年4月施行感染症法の元では「百日咳」として定点把握疾患分類され全国約3,000小児科定点から報告されており、2000年3,787例(同1.29)、2001 年1,800例(同0.60)、2002年1,488 例(同0.49)である。また、この報告数を元に算出した年間罹患数推計値2000年2.8万人2001年1.5万人
ある(厚生科学研究費補助金新興再興感染症研究事業)「効果的な感染症発生動向調査のための国及び県の発生動向調査の方法論の開発に関する研究主任研究者岡部信彦分担研究者永井正規)。

病原体
グラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis )の感染によるが、一部パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis )も原因となる。感染経路は、鼻咽頭気道からの分泌物による飛沫感染、および接触感染である。
百日咳の発症機序未だ解明されていないが、百日咳菌有する種々の生物活性物質一部が、病原因子として発症関与する考えられている。病原因子考えられるものとしては、線維血球凝集素(FHA )、パータクチン(69KD 外膜蛋白)、凝集素(アグルチノーゲン2、3)などの定着因子と、百日咳毒素PT)、気管上皮細胞毒素アデニル酸シクラーゼ、易熱性皮膚壊死毒素などの毒素がある。

臨床症状
臨床経過3期分けられる
1)カタル期(約2週間持続):通常7~10日程度潜伏期経て、普通のかぜ症状始まり次第に咳の回数増えて程度激しくなる
2)痙咳期(約2~3週間持続):次第特徴ある発作性けいれん性の咳(痙咳)となる。これは短い咳が連続的に起こりスタッカート)、続いて、息を吸う時に笛の音のようなヒューという音が出る(笛声:whoop)。この様咳嗽発作くり返すことをレプリーゼと呼ぶ。しばしば嘔吐を伴う。
発熱はないか、あっても微熱程度である。息を詰めて咳をするため、顔面静脈圧が上昇し顔面浮腫点状出血眼球結膜出血鼻出血などが見られることもある。非発作時は無症状であるが、何らかの刺激が加わると発作誘発されるまた、夜間の発作が多い。年令小さいほど症状非定型的であり、乳児期早期では特徴的な咳がなく、単に息を止めているような無呼吸発作からチアノーゼけいれん呼吸停止進展することがある合併症としては肺炎の他、発症機序不明であるが脳症重要な問題で、特に乳児注意が必要である。19921994年米国での調査によると、致命率全年齢児で0.2%、6カ月未満児で0.6%とされている。
3)回復期2, 3 週~):激し発作次第減衰し、2~3週間認められなくなるが、その後時折忘れた頃に発作性の咳が出る。全経過約2~3カ月回復する
成人の百日咳では咳が長期わたって持続するが、典型的な発作性咳嗽を示すことはなく、やがて回復に向かう。軽症診断が見のがされやすいが、排出があるため、ワクチン接種新生児・乳児対す感染源として注意が必要である。これらの点から、成人における百日咳の免疫状況今後注意していく必要がある
また、アデノウイルスマイコプラズマクラミジアなどの呼吸器感染症でも同様の発作性咳嗽を示すことがあり、鑑別診断注意が必要である。
臨床検査では、小児の場合には白血球数数万/mm 3増加することもあり、分画ではリンパ球の異常増多がみられる。しかし、赤沈CRP正常範囲軽度上昇程度である。

病原診断
確定診断のためには、鼻咽頭からの百日咳菌分離同定が必要である。培養には、ボルデ
ジャング(Bordet ‐Gengou)培地CSMcyclodextrin solid medium )などの特殊培地要するカタル後半検出され、痙咳期に入ると検出されにくくなるため、実際に分離同定困難なことが多い。血清診断では百日咳菌凝集素価の測定が行われることが多く東浜および山口用いペア血清2 週間上の間隔)で4 倍以上の抗体価上昇があるか、シングル血清40 倍以上であれば診断価値は高い。ただし、凝集素を含むタイプワクチン接種者では、シングル血清での判断注意要する。また最近では、ELISA 法による抗PT 抗体、抗FHA 抗体測定時に行われる研究室レベルでは染色体DNA 解析PCR 法などによる病原体遺伝子検出行われる

治療・予防
百日咳菌対す治療として、エリスロマイシンクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬用いられる。これらは特にカタル期では有効である。通常患者からの排出は咳の開始から約3週間持続するが、エリスロマイシンなどによる適切な治療により、服用開始から5日後には分離はほぼ陰性となる。しかし、再排菌などを考慮すると、抗生剤投与期間として2週間は必要であると思われる。痙咳に対して鎮咳去痰剤場合により気管支拡張剤などが使われる全身的な水分補給必要なこともあり、また、重症例では抗PT 抗体期待してガンマグロブリン大量投与行われる
予防では、世界各国EPIExpanded Program on Immunization拡大予防接種事業ワクチン一つとしてDPT ワクチン普及強力に進めている。わが国で現在使われている無細胞百日咳ワクチンを含むDPT 三種混合ワクチンは、第1期初回として生後3 ~90カ月標準的には生後3~12カ月)に3回、及びその1218カ月後に追加接種行い第2期として1112 歳に、百日咳を除いたDT 二種混合ワクチンによる接種が行われている。わが国無細胞百日咳ワクチン有効成分PTFHA が主であるが、その量比率メーカーにより異なっている。さらに、それら主成分以外に凝集原、パータクチンを含むものもある。接種後の全身および局所副反応については、従来の全菌体ワクチン比較して格段に少なくなっている。
また、年齢予防接種歴に関わらず家族濃厚接触者にはエリスロマイシンクラリスロマイシンなどを1014日間予防投与する

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
百日咳は5類感染症定点把握疾患定められており、全国約3,000カ所の小児科定点から毎週報告なされている。報告のための基準以下の通りになっている
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下の2 つ基準全て満たすもの
1. 2 週間以上持続する咳嗽
2. 以下のいずれか要件のうち少なくも一つ満たすもの
 ・スタッカートやレプリーゼを伴う咳嗽発作
 ・新生児乳児で、他に明らかな原因がない咳嗽後の嘔吐または無呼吸発作
上記基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、病原体診断血清学診断によって当該疾患診断されたもの

学校保健法での取り扱い
第二種伝染病定められており、登校基準以下のとおりである。
特有の咳が消失するまで出席停止となる。ただし、病状により伝染のおそれがないと認められたときはこの限りではない

国立感染症研究所感染症情報センター 多田有希岡部信彦


百日咳

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/21 01:42 UTC 版)

百日咳
感染した男児
概要
診療科 感染症
分類および外部参照情報
ICD-10 A37
ICD-9-CM 033
DiseasesDB 1523
MedlinePlus 001561
eMedicine emerg/394 ped/1778
Patient UK 百日咳
MeSH D014917
Orphanet 1489

百日咳(ひゃくにちぜき / ひゃくにちせき、英語: whooping cough、Pertussis)は、主にグラム陰性桿菌百日咳菌英語版(Bordetella pertussis)による呼吸器感染症の一種[1]。特有の痙攣性の咳発作を特徴とする急性気道感染症である[2]

百日咳ワクチンで予防可能な小児疾患であるにも係わらず、発病率が上昇している唯一の疾患である[2]。1歳以下の乳児は重症化しやすく、6カ月以下では死亡の危険性が高い[3]。1990年代以降、先進国での感染者数は増加傾向で、発症者の30%は成人である[2]

疫学

感染力が強く、患者との濃厚接触者の80%ほどに感染する[2]WHOの発表では、世界の患者数は年間1,600 万人で[3]。約70%は5歳未満の幼児で[2]、特に6カ月未満が 38%。1歳未満の小児の死亡率は約1 - 2%で、生後1カ月間が最も高い[2]。世界的に存在している感染症で予防接種を受けていない人々と免疫が減衰した人の間で[3]、地域的な流行が2 - 4年毎に起きる[2]。一年を通じて発生が見られるが、春が多い[4]

予防はワクチンによるが、獲得した免疫は約4 - 12年間[5]で減衰し感染を防ぐことが出来ない状態まで低下する[3]。世界的に成人の感染者数が増加しているが、これは親のワクチン忌避により免疫を獲得せずに成長する子どもが増えていることも一因である[2]。さらに、免疫を持たない青年・成人層・不顕性感染者が病原巣(感染源)になっていると指摘されている[6]。このように、ワクチン不接種者およびワクチンによる免疫獲得者の成人層で免疫が減衰した集団が病原巣になる現象は、水痘・帯状疱疹ウイルス風疹ウイルス[7]などの感染症でも報告されている[8][9]。痙咳期の3週目以降の患者は感染源とならない[2]

百日咳による人口10万あたり障害調整生命年(2004年)
  No data
  Less than 50
  50–100
  100–150
  150–200
  200–250
  250–300
  300–350
  350–400
  400–450
  450–500
  500–550
  More than 550

歴史

  • 1578年 - Guillaume de Baillou英語版らがパリでの流行を最初の報告[10][11]
  • 1670年 - 初めて激しい咳を表すラテン語の「pertussis」が使用された[10]
  • (日本)文政年間、百日咳と呼ばれる[10][12]
  • 1906年 - ジュール・ボルデOctave Gengou英語版らが百日咳菌を初めて分離[13]

アメリカ合衆国

日本

  • 日本での年間罹患数の推計値は、2000年28,000人、2001年15,000人[15]
  • 2006年から2007年[16]は「高知大学医学部[17]、「香川大学[5]、「青森県の消防署」、「愛媛県宇和島市」、「長野県北部」[18]などで散発的な流行が発生。長野県須坂市を中心とした地域での流行では、55カ所の小児科定点施設からの報告数が、2006年には24例、2007年には72例の報告で、感染者の過半数が20歳以上の成人であり[19]、大人が感染源となり、小児への感染を広めている[18]
    各流行事例では遺伝的に異なる菌株により蔓延しており[20]、細菌の性質変化ではなく市中に潜在する原因菌が各々の地域で流行したと考えられる[21]
  • 2008年は百日咳の流行が拡大中。第15週(4月7日 - 13日)の定点当たり報告数は0.04人と、過去10年の同時期と比べても高水準。特に成人の感染者が増えており、香川大医学部では2007年の75名の集団感染事例の経験から、抗菌薬の予防投与を行う対策を進めている。
  • 2018年、集団感染や成人感染者数の把握が困難であったことから、5類感染症小児科定点把握対象疾患から5類感染症全数把握疾患に変更され[22]、患者の年齢構成が明らかになった[23]国立感染症研究所の報告によれば[24]、5歳から15歳の感染者が半数以上で、9歳の感染者が最も多かった。その次に感染者が多かったのは、発症児童の親世代である 30歳〜49歳である。9歳を中心とした学童患者は、三種混合ワクチンを4回接種済みであった事から、親世代へのワクチン追加接種の必要性が指摘されている[24]

百日咳発生データベース

日本では、全国3,000カ所の指定医療機関の小児科のみから報告される「定点把握システム」のため、成人の百日咳患者はほとんど把握されていなかったことから、国立感染症研究所は2008年5月に百日咳発生データベースを立ち上げ[25]、指定医療機関以外からの自主報告を受付た結果、08年度は6,500人を越える感染者が報告され、患者の約60%が成人であった。

原因

百日咳菌

グラム陰性桿菌の

  • 百日咳菌(Bordetella pertussis)
  • パラ百日咳菌(B. parapertussis)
  • ボルデテラ・ホルメシイ(B. holmesii)

による飛沫感染[26]1906年ジュール・ボルデがオクターヴ・ジャング (Octave Gengou) と共に発見し、後にボルデにちなんだ学名が付いた(1952年)。Bordet-Gengou bacillus; bacillus of Bordet and Gengouとも呼ばれる。

百日咳菌の特性

菌の大きさは 0.2〜0.5 × 0.5〜1.0 μm のグラム陰性短桿菌で、偏性好気性で鞭毛はなく非運動性である。線維状血球凝集素(FHA)、パータクチン(69KD 外膜蛋白)、凝集素(アグルチノーゲン2.3)などの定着因子と百日咳毒素(PT)、気管上皮細胞毒素、アデニル酸シクラーゼ、易熱性皮膚壊死毒素などの物質が病原性に関与している。このうち、百日咳毒素はGタンパク質αサブユニットのうちGiをADPリボシル化することで、細胞毒性を発揮する。

症状

小児は重症化しやすい。一方、成人では咳が長期間続くが、特徴的な咳(whoop)がほとんど症状が出ない感染者もいる[3][2]。パラ百日咳は臨床的に百日咳と区別できないが、比較的軽症で致死率は低い[2]

小児の場合

この病気は回復までに約3ヶ月を要し、通常7-10日間程度の潜伏期間を経て発症する[3]

  1. カタル期 : 約2週間持続、初期は軽く風邪症候群のような症状。
  2. 痙咳期 : 約2-3週間持続、次第に特徴的な発作性痙攣性の咳(痙咳)となる。
    短い咳の連続的に、続いて、息を吸う時に笛の音のようなヒューという音が出る。この様な咳嗽発作がくり返す。嘔吐を伴う。乳児期早期では特徴的な咳は無い。単に息を止めているような無呼吸発作からチアノーゼ痙攣、呼吸停止と進展する。
  3. 回復期 : 約2 - 3週間以上持続、激しい発作は次第に減衰。

咳発作は夜間が起こりやすく、24時間で平均15回程度。発作時には嘔吐、チアノーゼ、無呼吸、顔面紅潮・眼瞼浮腫(百日咳顔貌)、咳による呼吸困難からの低酸素症により脳、眼、皮膚、粘膜への出血症状が見られ、尿失禁、肋骨骨折、臍ヘルニア、直腸脱、失神も見られる[3][2]。発作による体力消耗は激しく、不眠や脱水、栄養不良等が著しい場合は入院治療が必要。

合併症は、脳炎[3]気管支肺炎[3]中耳炎[2]

成人の場合

咳症状の回復までに約3ヶ月を要する。主要な経過は小児と同等であるが、ほとんどが軽症であるため見逃され易い

診断

パラ百日咳は培養または蛍光抗体法により鑑別する。

百日咳の病原体検査には菌培養、血清学的検査、遺伝子検査があり[6]、確定診断には「鼻咽頭ぬぐい液」「喀痰」からの原因菌の分離同定、あるいは LAMP法もしくは PCR法による遺伝子検索が必要である[27]

カタル期および痙咳期早期症例の80-90%が百日咳菌陽性となる[2]が、実際には菌の分離同定は困難なことも多い[6]。4週間以内では培養と核酸増幅法を、4週間以降は確定血清診断で百日咳菌凝集素価の測定を行う。培養には、ボルデ・ジャング(Bordet-Gengou)培地やCSMなどの培地を用いる。菌はカタル期後半に検出されるが、痙咳期に入ると検出されにくくなる[6]

特異度の高い検査法として百日咳菌LAMP法(loop-mediated isothermal amplification)[28]を用いる[23]

百日咳診断(届出)基準

2018年1月1日以降の百日咳診断(届出)基準[28]モダンメディア 2016年9月号より引用、

  1. 1歳未満
    臨床診断例:咳があり(期間は限定なし)、かつ以下の特徴的な咳、あるいは症状を1つ以上呈した症例
    • 発作性の咳嗽
    • 吸気性笛声
    • 咳嗽後の嘔吐
    • 無呼吸発作(チアノーゼの有無は問わない)
    確定例
    • 臨床診断例の定義を満たし、かつ検査診断陽性
    • 臨床診断例の定義を満たし、かつ検査確定例と接触があった例
  2. 1歳以上の患者(成人を含む)
    臨床診断例:1週間以上の咳を有し、かつ以下の特徴的な咳、あるいは症状を1つ以上呈した症例
    • 発作性の咳嗽
    • 吸気性笛声
    • 咳嗽後の嘔吐
    • 無呼吸発作(チアノーゼの有無は問わない)
    確定例
    • 臨床診断例の定義を満たし、かつ検査診断陽性
    • 臨床診断例の定義を満たし、かつ検査確定例と接触があった例
  • 検査での確定・咳発症後からの期間を問わず、百日咳菌の分離あるいはPCRまたはLAMP陽性
    • 咳発症後2週間以上8週間以内の抗PT抗体価:100 EU/mL以上

鑑別診断

アデノウイルスマイコプラズマクラミジアの感染症との鑑別が必要[3][6]

治療

支持療法
対症療法
薬物療法
生後6カ月以上の患者にはエリスロマイシンクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬を投与。

予防

小児期に三種混合ワクチン(DPTワクチン)による予防接種が行われている。日本での乳幼児期の三種混合ワクチン(DPT)の接種回数は4回。1994年10月からはDPTワクチンの接種開始年齢が、2歳から3カ月に引き下げられた。結果、接種率上昇とともに小児における患者数は著明に減少した[29]が、2017年現在急性灰白髄炎を加えた四種混合ワクチン(DPT-IPV)による予防接種が行われている。アメリカ疾病予防管理センターは、成人も10年おきにTdapワクチンの予防接種を受けることを、強く推奨している。ハーバード大学医学部も同様に、高齢者に百日咳の予防接種を推奨している[30]

医療現場でのマスク着用は、感染伝播防止に有効と考えられる[31]

予後

菌の排出が多く周囲を感染させやすい時期は、カタル期の感染後7日から3週間の時点までであるが、カタル期に百日咳を診断することは難しく感染拡大しやすい。通常は感染から3週目以降は感染性がなくなる[2]。 感染者の6割程度は5歳未満で2歳未満の子供の場合は重症化しやすく、6ヶ月未満の小児の死亡率が高い。母親からの経胎盤移行抗体は起きないと考えられている[15]。感染や複数回のワクチン接種で免疫を得られるが、生涯有効な免疫にならない場合もある。

全数把握疾患への変更

従来日本では、百日咳は小児科定点での報告とされていた。しかし、2006年以降の小児科定点(全国3,000カ所の指定医療機関)から報告される小児以外の症例は、ほんの一部と考えられていた。既に成人層の感染者が小児を上回っている中で、小児以外の症例を確実に把握するには、現行の発生動向調査体制では十分ではない[32]。集団感染の早期探知や感染拡大の防止に対し、有効な施策が必要であると指摘されている。

2018年1月1日、小児科定点報告から全数報告対象に変更された[23]

関連法規

出典・脚注

  1. ^ Pertussis: guidelines for public health management (Report). イングランド公衆衛生庁 (PHE). 25 August 2012.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 百日咳 MSDマニュアル プロフェッショナル版
  3. ^ a b c d e f g h i j 百日咳とは 感染症の話(国立感染症研究所)
  4. ^ 週別報告定点医療機関あたり百日咳患者数(横浜市、1995-99年) 横浜市
  5. ^ a b 香川大学における百日咳集団感染事例国立感染症研究所
  6. ^ a b c d e IASR 29-3 病原微生物検出情報 百日咳 (IASR Vol. 38 p.23-24: 2017年2月号)
  7. ^ 風疹抗体保有率が風疹エンデミック形成に与えた影響の解析 (PDF) 大同生命厚生事業団
  8. ^ 井上卓、常勤医師に発症した水痘に対する医療関連感染対策 日本環境感染学会誌 2009年 24巻 4号 p.244-249, doi:10.4058/jsei.24.244
  9. ^ 吉田典子、津村直幹、豊増功次 ほか、医療系大学・専門学校学生における麻疹・風疹・ムンプス・水痘の血清抗体価の検討 産業衛生学雑誌 2007年 49巻 1号 p.21-26, doi:10.1539/sangyoeisei.49.21
  10. ^ a b c 岡田賢司、百日咳; これまでの進歩と今後の展開 日本小児呼吸器疾患学会雑誌 2000年 11巻 1号 p.4-16, doi:10.5701/jjpp.11.4
  11. ^ Cone TE Jr.: Whooping cough is first described as a diseases sui generis by Baillou in 1640. Pediatrics 46: 522, 1970.
  12. ^ 松村忠樹: 百日咳現代小児科大系 第8巻B 感染症II 中山書店 東京 1966.
  13. ^ Bordet J and Gengou O: Le microbe de la coqueluche. Ann Inst Pasteur 20: 48-68, 1906.
  14. ^ Bisgard KM, Pascual FB, Ehresmann KR, et al. Infant pertussis: who was the source? Pediatr Infect Dis J 2004;23:985-989.
  15. ^ a b 感染症の話 百日咳 2003年第36週号 国立感染症研究所
  16. ^ 定点当たりの百日咳患者報告数および患者年齢割合の推移MyMed(マイメド)
  17. ^ 高知大学医学部および附属病院における百日咳集団発生事例国立感染症研究所
  18. ^ a b 長野県における百日咳の流行 IARS Vol.29 p.74-75: 2008年3月号 国立感染症研究所
  19. ^ 2007年1年間の百日咳症例の年齢分布
  20. ^ 2007流行株の MLST タイプ 国立感染症研究所
  21. ^ 百日咳流行株の分子疫学、2007年 国立感染症研究所
  22. ^ 全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学(更新情報) -2023年疫学週第1週~第52週-|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト”. id-info.jihs.go.jp. 2025年4月2日閲覧。
  23. ^ a b c 新しい百日咳サーベイランスによる国内の百日咳の疫学(2018年疫学週第1週~16週)|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト”. id-info.jihs.go.jp. 2025年4月2日閲覧。
  24. ^ a b 2018年第1週から第16週に報告された百日咳感染症のまとめ 2018年第16週週報データ集計時点 国立感染症研究所
  25. ^ 百日咳発生データベース 国立感染症研究所
  26. ^ 百日咳菌(ボルデテラ・パーツシス Bordetella pertussis 日本細菌学会
  27. ^ 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について 21 百日咳 厚生労働省
    百日咳 感染症法に基づく医師届出ガイドライン(初版) (PDF) 厚生労働省
  28. ^ a b 岡田賢司、「臨床検査アップデート8 LAMP法による百日咳の診断 (PDF) 」 モダンメディア 2016年9月号(第62巻9号)
  29. ^ 園部友良先生インタビュー - 一般財団法人 阪大微生物病研究会
  30. ^ Godman, Heidi (2022年9月1日). “Fall vaccination roundup” (英語). Harvard Health. 2022年8月18日閲覧。
  31. ^ 高知大学医学部および附属病院における百日咳集団発生事例 国立感染症研究所
  32. ^ 成人持続咳嗽(2週間以上)患者におけるLAMP法による百日咳菌抗原遺伝子陽性率と臨床像 国立感染症研究所

関連項目

外部リンク


百日咳

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 06:08 UTC 版)

マクロライド系抗菌薬」の記事における「百日咳」の解説

急性の百日咳では、マクロライド系抗菌薬用いられる場合が多い。

※この「百日咳」の解説は、「マクロライド系抗菌薬」の解説の一部です。
「百日咳」を含む「マクロライド系抗菌薬」の記事については、「マクロライド系抗菌薬」の概要を参照ください。

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