百日咳毒素とは? わかりやすく解説

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インスリン分泌活性化タンパク質

同義/類義語:百日咳毒素
英訳・(英)同義/類義語:IAP, islet-activating protein

宇井らによって百日咳菌から単離され毒素で、三量体Gタンパク質のアルファサブユニットをADPリボシル化して不活化し、最終的にインスリン分泌応答促進する

百日咳毒素

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/13 22:50 UTC 版)

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百日咳毒素の結晶構造

百日咳毒素(ひゃくにちぜきどくそ、: pertussis toxin、略称: PT)とは、百日咳の原因である百日咳菌(Bordetella pertussis)によって産生される毒素であり、百日咳菌の気管上皮への付着等に働いているとされる。作用機序としては3量体Gタンパク質のαiサブユニットに対するADPリボース転位酵素活性を持っている。

構造

百日咳毒素はS1、S2、S3、S4(2分子)、S5の5種類合計6分子のサブユニットから構成されている[1]。S1サブユニットにはこの毒素の本質であるADPリボース転位酵素活性が存在し、残りのサブユニットは標的細胞への結合を担う。これらの作用と関連して百日咳毒素の構造を言うときには、S1サブユニットは"Active"の頭文字をとってAプロトマー、残りのサブユニットの複合体は"Binding"の頭文字をとってBオリゴマーと呼ぶ。S1サブユニットは同じADPリボース転位酵素活性を持つコレラ毒素Aサブユニットや大腸菌易熱性毒素Aサブユニットと共通のアミノ酸配列構造を持ち、結晶構造上でも類似がみられるが[2]、塩基配列レベルでは百日咳毒素と他の毒素との間に相同性は認められない。

作用機構

百日咳毒素によるシステイン残基のADPリボース化の化学反応式

百日咳毒素はBオリゴマーを介して標的細胞に結合した後、エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれ、逆行小胞体輸送によりゴルジ装置から小胞体にまで到達する。その後、小胞体でATPと結合することによりAプロトマーとBオリゴマーが分離するとともに、Aプロトマー内のジスルフィド結合が解離して、最終的に活性化した毒素が細胞質内に侵入する。そして、3量体のGタンパク質のαiサブユニット(Giα)のC末端側から4番目のシステインをADPリボース化する[3]。ADPリボース化されたGiαは本来の役割である膜受容体(GPCR)との共役関係を失い、細胞内情報伝達が遮断される。なお、C末端側から4番目のアミノ酸残基がシステインでないGsαGqαなどは百日咳毒素に対する感受性はない。 この他の作用として百日咳毒素はT細胞の増殖を引き起こすことが知られているが、これはBオリゴマーのみの投与でも生じることがわかっている。この作用はTLR4がBオリゴマーを認識して生じるものと考えられている[4]

生理活性

百日咳毒素の生理活性としては、リンパ球の増加や、低血糖、ヒスタミン感受性亢進、百日咳菌の気管上皮への付着などがある。百日咳毒素はもともとインスリンの分泌を促進する物質として発見されたが[5]、現在はα2アドレナリン受容体を介する作用であることがわかっている。百日咳菌にとっては重要な毒性分子であり、この毒素のトキソイドがワクチン(DPTワクチン)に利用されている。

毒性

百日咳毒素のマウスにおけるLD50半数致死量)は腹腔内注射では15~21 μg/kgであり、100 ℃で30分間加熱すれば毒素を不活性化できる[6]

脚注

  1. ^ M. Tamura et al. (1982). “Subunit of islet-activating protein, pertussis toxin, in confarmity with the A-B model”. Biochemistry 21 (22): 5516-5522. PMID 6293544. 
  2. ^ P.E. Stein (1994). “The crystal structure of pertussis toxin”. Structure 2 (1): 45-57. PMID 8075982. 
  3. ^ Supachoke Mangmool and Hitoshi Kurose (2011). “Gi/o Protein-Dependent and -Independent Actions of Pertussis Toxin (PTX)”. Toxins 3 (7): 884-899. doi:10.3390/toxins3070884. PMID 22069745. 
  4. ^ Wang ZY et al. (2006). “Induction of dendritic cell maturation by pertussis toxin and its B subunit differentially initiate Toll-like receptor 4-dependent signal transduction pathways.”. Experimental hematology 34 (8): 1115-1124. PMID 16863919. 
  5. ^ Katada T and Ui M (1979). “Effect of in vivo pretreatment of rats with a new protein purified from Bordetella pertussis on in vitro secretion of insulin: role of calcium.”. Endocrinology 104 (6): 1822-1827. doi:10.1210/endo-104-6-1822. PMID 376293. 
  6. ^ 百日咳毒素―バイオアカデミア

参考文献

  • 櫻井純、本田武司、小熊惠二『細菌毒素ハンドブック』 ISBN 4-916164-54-7

百日咳毒素

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/19 16:08 UTC 版)

AB5毒素」の記事における「百日咳毒素」の解説

詳細は「百日咳毒素」を参照 このファミリーPtxとしても知られ百日咳引き起こす毒素含まれる。百日咳毒素はグラム陰性菌である百日咳菌英語版)Bordetella pertussisによって分泌される百日咳は非常に感染性高くアメリカ合衆国では予防接種が行われているにもかかわらず徐々に拡大している。症状としてはwhoopingと呼ばれる発作性の咳があり、嘔吐する場合もある。百日咳菌1900年フランスでジュール・ボルデとオクターブ・ジャング(英語版)によって百日咳原因として同定され単離された。この毒素機構コレラ毒素共通している。 サルモネラSalmonella entericaのArtAB毒素2つ異なファミリー毒素類似した構成要素からなるArtAサブユニット(Q404H4)は百日咳毒素Aサブユニット相同であり、ArtBサブユニット(Q404H3)は、他のサルモネラと同様スブチラーゼ毒素Bサブユニット(subB)と相同である。Aサブユニットによって分類するという規則のため、この毒素Ptxファミリー属する。

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「百日咳毒素」を含む「AB5毒素」の記事については、「AB5毒素」の概要を参照ください。

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