ADPリボース化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/08 07:00 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動ADPリボース化(ADP-ribosylation)はタンパク質の翻訳後修飾の一つで、1つまたはそれ以上のアデノシン二リン酸(ADP)リボースを付加する反応である[1][2]。この反応は細胞間の情報伝達やDNA修復、アポトーシスなど多くの細胞機能に関わっている[3][4]。
酵素
ADPリボース化反応はADPリボシルトランスフェラーゼという酵素によって触媒され、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)からアルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸などの残基にADPリボースを転移させる。ヒトではNADからアルギニンにADPリボースを移す1種類の酵素のみが見つかっていて、ヒストンなどのタンパク質を修飾している[5]。この反応は可逆で、例えばADPリボシルアルギニンのADPリボースは、ADPリボシルアルギニンヒドロラーゼによって除去することができる[6]。
ADPリボースはまた、ポリADPリボース化作用と呼ばれる反応によって、長い側鎖を持ったタンパク質に転移することもできる[7]。この修飾反応は、原核生物と酵母を除くほとんど全ての真核生物に見られるポリADPリボースポリメラーゼによって触媒される[7][8]。ポリADPリボース化は、DNA修復やテロメアの維持において重要な役割を果たしている[8]。
細菌毒
ADPリボース化はコレラや百日咳などの細菌の毒性の発現にとっても重要である。これらの毒性タンパク質はADPリボシルトランスフェラーゼで、ヒト細胞中の標的タンパク質を修飾する。例えばコレラ毒素はヒトのGタンパク質のαサブユニット(Gsα)のアルギニン残基をADPリボース化して小腸から大量の液体を分泌させ、致死的な下痢を引き起こす[9]。この他、百日咳毒素も同じく異なる種類のGタンパク質のαサブユニット(Giα)のシステイン残基をADPリボース化して毒性を発揮する[10]。
出典
- ^ Belenky P, Bogan KL, Brenner C (2007). “NAD+ metabolism in health and disease”. Trends Biochem. Sci. 32 (1): 12-9. PMID 17161604 .
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- ^ Corda D, Di Girolamo M (2003). “Functional aspects of protein mono-ADP-ribosylation”. EMBO J. 22 (9): 1953–8. PMID 12727863 .
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- ^ De Haan L, Hirst TR (2004). “Cholera toxin: a paradigm for multi-functional engagement of cellular mechanisms (Review)”. Mol. Membr. Biol. 21 (2): 77-92. PMID 15204437.
- ^ Supachoke Mangmool and Hitoshi Kurose (2011). “Gi/o Protein-Dependent and -Independent Actions of Pertussis Toxin (PTX)”. Toxins 3 (7): 884-899. doi:10.3390/toxins3070884. PMID 22069745.
ADPリボース化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/04 04:35 UTC 版)
ウェルシュ菌イオタ毒素やボツリヌス菌C2毒素等毒素はADPリボース部分をG‐アクチンの表面アルギニン残基177に結合させる。これにより、G-アクチン集合体がF-アクチンの形成を防止され、細胞骨格が破壊され、細胞死が生じる。ADPリボース転移酵素ファミリーには殺虫毒素もあり、リシニバチルス・スフェリカス(Lysinibacillus sphaericus)のMtx1毒素 およびバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)のVip1/Vip2毒素、フォトラブダス属(Photorhabdus)種やゼノラブダス属(Xenorhabdus)種などグラム陰性細菌の毒素複合体(Tc)毒素のいくつかが含まれる。Mtx1タンパク質のベータシートリッチ領域は、糖脂質相互作用に関与可能性のあるレクチン様配列である。
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