捏造説の主な根拠とそれに対する反論
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「アポロ計画陰謀論」の記事における「捏造説の主な根拠とそれに対する反論」の解説
捏造を主張する者の多くは、アポロ計画において撮影された写真において矛盾点が散見されるということ、あるいは当時の科学・技術水準を考慮すると、月面への往復は不可能ではないかという推論を、その根拠にしている。実際はその多くが科学的無知や事実誤認に由来する物であり、これに対してアメリカではNASA当局や民間テレビ局、日本では科学者有志やと学会など、いくらかの機関・協会が反論を上げている。 捏造派の主張それに対する反論写真・映像に関するもの 月面で撮影されたはずの写真なのに、空に星が写っていないのはなぜか。 星が写真に写っていないのは、撮られた時間が月の昼間に当たる時間であり、太陽光が当たって輝いている地表に露出を合わせているからで、写っている方がむしろおかしい(地球上でも天体写真を撮る際には、星に露出を合わせなければ撮れない)。 月面は真空であるはずなのに、写真や映像に写っている星条旗がはためいているのはなぜか。 星条旗を地表へねじ込むときにポールを動かすので、真空中でもその反動で旗は動く(映像では、ポールに触れてしばらくの間しか旗が動いていない)。真空中では空気の抵抗が存在しないため、地球上よりも旗が動きやすいし、一度動き出した旗はなかなか止まらない。宇宙飛行士は格好よく見せようとあえてそれによって生じたしわを伸ばさなかったため、写真では飛行士が触っていない旗もまるではためいているかのように見えている。なお日本ではアポロ着陸前に、ワイヤーが旗に仕込まれているという報道が読売新聞(昭和44年7月5日発行)に掲載されたが、その報道内容は事実と異なり、実際には伸縮式の水平材でナイロンの旗面を上から支える設計になっていた。 アポロ11号でアームストロング船長が月面に最初の一歩を印そうと梯子を降りていく映像が無人のはずの月面から捉えられているのはなぜか。 11号の月着陸船には、まさにその映像を捉えるために昇降梯子の横のMESA装備収納ハッチにテレビカメラが装備されていた。 アポロ11号の最初の足跡の写真も、真空で水のない月面の砂に印されたにしては型崩れもなくハッキリしすぎている。 水も空気も存在しない月面の砂(レゴリス)は、粒が細かい上に侵食を受けていないため丸まっておらず、地球の砂に比べて非常に固まりやすい性質がある。 月着陸船の影に当たる部分も、はっきりと写真に写っているのはなぜか。 月の表面の砂は、光が入ってきたのと同じ方向に強い反射(再帰性反射)をする性質があり、太陽光が砂に反射して、レフ板のようにそれらを照らしているからである。 影の方向が、写真内でバラバラになっていたり、長さが違うのはなぜか。光源が複数あるためではないのか。 写真という二次元上の表現では、遠近法により影が平行であってもそう見えないときがある。また地表の傾きに差があった場合などは、影の長さが変わっても何ら不自然ではない。そもそも光源が複数ある場合、影は方向がばらつくのではなく一つの物体に対して複数発生してしまうが、複数の影が写った写真は存在しない。 月面に着陸船が下りる際、噴射の反動で大きなクレーターができるはずなのに、それが写っていないのはなぜか。 月の表面の土は固く、さらに着陸船はスロットルを緩めて前に滑るようなかたちでゆっくり着地したため、クレーターができるほどの衝撃とはならなかった。 月面で宇宙飛行士が楽しそうにジャンプしている映像があるが、重力が弱く真空の月面でジャンプすれば空高く飛ばされるはずであるが、なぜ飛ばされないのか。 宇宙服の質量は約80kgあり、月面でも重量は約13kgwになる。また関節なども曲がりにくくなっており、高くジャンプするようなことは不可能である。 宇宙飛行士の背中の箱に、飛行士を吊り下げるワイヤーらしきものが見える。 フィルムの傷かアンテナのようにも見える。いずれにしろ吊り下げるには重心から外れている。 アポロ11号で月面着陸当日に撮影されたという映像と、翌日4km離れた場所で撮影されたという映像の背景(石の形状や配置など)を重ね合わせると、非常に酷似している。 月では遠近感がわかりづらいが、山や岩が十分遠くにあれば、ある程度移動してもその見え方は変わらない。またそもそも映像が翌日に別の場所で撮影されたという明確な根拠も示されていない。 月面の宇宙飛行士の動きを倍速にして見ると、地球での人間とまったく変わらない動きになる。 月の重力は地球の1/6であり、地球と比較した物体の落下時間はその平方根に反比例した約2.44倍となるから、倍速の映像と似ているのは当然。また重力差の影響で、ステップの踏み方など地球上のそれとは明らかに似ていない行動を見せる部分もある。 アポロ計画で使われたカメラには、被写体の大きさを測るために十字が刻まれているが、そのいくつかが欠けている写真がある。 十字が消えているのは写真の被写体が白い場合であり、黒い十字が強い白色の露出によって消されてしまったことで生じたものである。 月面の石に「C」の文字らしきものが書かれているのが写っている写真があるが、石をセットの小道具として配置した際のミスではないのか。 「C」の文字らしきものが写っているのはジョンソン宇宙センターのイメージライブラリにある写真だが、NASAに保管されているオリジナル写真ではそれが写っていない。また石と文字らしきものではフォーカスの合い方も異なっていることから、焼き増しの際に紛れ込んだホコリか髪の毛の可能性が高い。 前景(月面)と遠景(山地)の間に境目の線が写っている写真があるが、山地を背景に描いたセットを用いて撮影した跡ではないのか。 境目の線は月の地平線である。月では空気がないため距離感が失われやすく、また地球より小さい月では地平線がより間近にあることから、地球の風景に慣れていると月の風景は一見不自然に感じることがある。 月で撮影された写真はどれも露出・構図が完璧なものとなっているが、手袋をはめた状態でファインダーのないカメラで撮影した写真が、このような完璧なものばかりとなるのは不自然である。 宇宙飛行士はアポロ計画の宣伝性という面から、月面の写真を撮るための練習を多く重ねており、カメラについて熟知していたものと思われる。また公開されている写真が良好な状態のものに限られているだけであって、実際には失敗した写真も数多くある。NASAのアーカイブでは失敗した写真を見ることもできる。 科学・技術に関するもの 月へ往復する際、ヴァン・アレン帯(1958年発見)と呼ばれる放射線帯を通過する必要があるが、1960年代の技術でそれを防げたのか。 ヴァン・アレン帯の成分は陽子と電子である。かつては確かに放射線が宇宙飛行士へ障害を及ぼすのではないかと思われた時期があったが、その通過時間が短いことや、宇宙船および宇宙服でほとんどが遮断できるため、大きな問題とはならない。 月面の温度は日中ではかなりの高温になるはずだが、それに宇宙飛行士は耐えられないのではないか。また、カメラも故障してしまうのではないか。月面での写真撮影に用いられたのはハッセルブラッド500というカメラであるが、NASAの写真を見る限りこれがケースなどでおおわれていない。月ではわずか2時間で摂氏130度から-150度まで温度が変化する。フィルムの薬品は摂氏50度で変化し、カメラ内で膨張することでレンズを壊してしまう。また-50度になればフィルムもレンズも凍りつき、こなごなになるはずだ。 月面の温度は120℃から160℃となるが、月面は真空であり熱が放射でしか伝わらず(真空の部分が断熱材となっている魔法瓶と同じ原理)、すぐにカメラなどには届かないため、大きな障害とはならない。また宇宙服にはそれら条件も考慮し、数十層にも及ぶさまざまな仕掛が施してあり、月面の環境でも問題とはならない。さらに宇宙飛行士が月に滞在したのは、月の1日では早朝から午前中にあたる気温が温暖なわずかな時間帯に過ぎない(月の自転速度は地球よりずっと遅い)。 アポロ計画の中でも月面着陸に関するミッションのみ成功率が異常に高く、地球周辺の実験やその後の火星に送られる簡単な無人探査衛星は失敗続きだったのはなぜか。 アポロ11号の前に、アポロ8号とアポロ10号が月へ有人飛行を行い、予行演習をしている(アポロ9号は地球衛星軌道上での月着陸船の試験)。また前身となるジェミニ計画を始め、実験は数多く行われており、その中に失敗が多くあるのは当然といえる。さらに当時は冷戦中であって、宇宙飛行士は(現役ないしは元)軍人が多く、生命をかけることをいとわない者だった。 アポロ計画の後、アメリカが地球軌道より向こうへ人類を送っていないのはなぜか。 当時は冷戦下であったため、ソビエト連邦への対抗という目的(「宇宙開発競争」)のためには、無謀に見える行為を正当化することも、膨大な予算を用いることもできた。アポロ計画に用いられた予算は、約254億USドル(現在価値で1,350億ドル、日本円だと13兆円から14兆円)である。同計画が途中で打ち切られたのも、予算の問題が大きかったこと、月面探査の結果から予算に比して得るものが少なかったことによる。また2004年にジョージ・W・ブッシュ大統領が2010年代をめどに再び有人宇宙船を送る計画(コンステレーション計画)を立てたが、次代のバラク・オバマ大統領の代で計画は中止された。これは研究の軸足を長期的な技術開発に移すためであるとされている。 地球の天文台や無人の月探査機から、アポロの痕跡が見えそうなものだが、報告されていないのはなぜか。 地球から38万km離れた月へ望遠鏡を向けたとしても、望遠鏡の分解能に限界があるためアポロの痕跡は写らない。また2000年代までに打ち上げられた月探査機に搭載されたカメラは、予算や積載可能限界の問題から性能が低いものが多く、アポロの痕跡を写せるほどの能力を有していなかった。2008年5月、解像度8mの「地形カメラ」を搭載したかぐやはぼんやりとした影にしか見えないものの、アポロ15号の噴射跡の写った映像を送信した。2009年7月には同じく月軌道を周回し、さらには高解像度のカメラ(解像度1.5m)を搭載したNASAのLRO(Lunar Reconnaissance Orbiter)が、着陸船から宇宙飛行士の足跡に至るまでくっきりと写ったアポロ11号、アポロ15号、アポロ16号、アポロ17号の着陸点撮影に成功しており、捏造説を否定する強力な根拠となっている。 着陸船・司令船に組み込まれたアポロ誘導コンピュータの性能は、自動車や1980年代の家庭用ゲーム機のそれよりも劣るのに、なぜこれで月まで航行することができたのか。 アポロの軌道は事前に地上のコンピュータなどで計算されたものであって、アポロのコンピュータは主にそのデータを受け取って軌道を補正することが目的であり、高度な機能は必要でない。さらに現行のコンピュータのように多様なデータ処理を目的に使用するのではなく、軌道補正のための数値処理に特化しているのであれば、かなり性能が低くても問題ではない。また信頼性の問題から、宇宙船には現在でも枯れた技術のコンピュータが搭載されるのが普通である。 月面に設置されたというレーザー反射鏡を使った実験は、アメリカで行われたもの以外成功していないし、現在は行われていない(大槻義彦)。 レーザー反射鏡を使った実験はアメリカ以外で成功していないというのは事実ではない。大出力のレーザーが必要であり、航空機の運航に影響しないよう配慮も必要なため簡単に行える実験ではないが、アメリカのマクドナルド天文台やフランスのグラース天文台等複数の天文台が月までの距離を計測している。そもそも地球から月までの距離は一定ではないため、計測は継続して行われている。月が徐々に地球から離れていることは理論的に推定されてはいたが、実際に確認できたのは、レーザーによる計測を長期間行っていたからである。2000年代になると測定機器の進歩もあってミリメートル単位の精度での観測が可能となり、重力定数の精密測定といったさまざまな研究への応用が可能となってきている。 レーザー反射鏡がなくても、月面で反射したレーザーを捕捉すれば実験に成功したことになる。従って、実験に成功した = 反射鏡が設置されていることの証明とはならない たしかにアマチュア無線の月面反射通信がある様にまったく不可能ではない。しかしレーザー反射鏡がない場合に月面で乱反射したレーザー光はとても微弱であり、地球上で捉えることは困難である。また、そもそも反射鏡がなければ月面の同一点からの反射光を用いた精度の高い観測を同一条件で行うことは不可能である。 仮にレーザー反射鏡が設置されており、反射に成功したとしても、レーザー光は往復とも地球の大気圏で屈折するため、精度の高い距離の測定は不可能である。従ってこのような実験には事実上意味がなく、反射鏡の実在や実験が実施された事実も疑わしい。 大気の屈折による測定誤差は計算により補正が可能である。各種天体観測ではコンピューターによる補正が行われるのが常識であり、そもそも天体観測技術とは補正の技術を含んだ概念である。 レーザー反射鏡は無人の着陸船でも設置可能であるため、反射鏡の存在は有人月面着陸の傍証とはならない。 冷戦時代であり、東西の宇宙探査は両陣営によって監視されている。後世になって、反射鏡設置のためにアポロ着陸地点にアメリカが無人探査機を送り込んだなら、その行動はソ連によって透っ破抜かれることとなる。 アポロ11号が持ち帰ったとされる月の石は、東京大学の研究で何の成果もあげられなかった。つまり、地球に存在する石と変わらなかったのはなぜか。 「月の石が地球の石と同じものである」と東京大学が発表したことはない。そのような発言をしたのは東大とは無関係であり、岩石学の専門家ではない大槻義彦早稲田大学名誉教授のみであり、それもテレビのバラエティ番組、ブログでの発言であって、学会などで発表したわけではない。また大槻の主張にはいくつかの事実誤認がある。詳細は月の石#月の石捏造説を参照。 伝説系のもの オーストラリアのパース周辺で、アポロの映像にコーラ瓶が映っていたと証言した者がいる。 パース地方の噂については、実際にそのような映像が流れたと確認されたことはなく、都市伝説であることがほぼはっきりしている。 アポロ1号の事故による3人の死亡者は、NASAの政策に反抗したための犠牲者ではないか。トーマス・ロナルド・バロンがアポロ計画は不可能であると証言し、500ページにおよぶレポートを提出したが、これは紛失。現状、公開されているのは50ページの縮尺版であり、しかもその内容にはNASAへの批判がなく、その部分は隠蔽されたのではないか。 アポロ1号の事故原因については、詳しく調査書がまとめられている。またトーマス・ロナルド・バロンのレポートは、NASAがウェブ上で公開している。さらに『これマジ!?』では、遺族の「killed(事故死した)」という発言を「殺された」と訳すなど、陰謀を印象付けるために意図的な曲解を行った疑いもある。アポロ1号の司令船が火災事故を起こしかねない欠陥をあらかじめ持っていたという意味で「殺された」という表現がされることもある。 その他 米アポロ計画の貴重なデータを記録した磁気テープの原本700箱分も行方不明になったのは、何かの隠蔽工作ではないのか。 行方不明となった記録テープは、その後オーストラリアの大学で発見されており、隠蔽工作ではなく管理がずさんであっただけである。「en:Apollo 11 missing tapes」も参照 資料の開示請求に、忘れた頃に応じるのはなぜか。隠蔽工作処理のためではないのか。 単に人手が足りないだけ。 地上の模擬施設で月面活動の訓練を行うアポロ11号の飛行士達。捏造説では実際の「月面での映像」も同様に地球上で撮影された物と主張している。 地球の周りを覆うように存在するヴァン・アレン帯 アポロ14号において宇宙飛行士が月面に立てた星条旗。なおこの写真でも背景に星は写っていない。
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