公爵 スペインの公爵

公爵

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/30 15:46 UTC 版)

スペインの公爵

スペインの公爵の紋章上の冠

王室の称号プリンシペ(Príncipe)を除けば、スペイン貴族の階級には上からduque(公爵)、marqués(侯爵)、conde(伯爵)、vizconde(子爵)、 barón(男爵)、señor(領主)の6階級があり、公爵は最上位である[103][104]。すべての公爵位にはグランデの格式が伴い、グランデ委員会に属する[103]。グランデの格式を伴う爵位保有者は「閣下(Excelentísimo Señor (男性) Excelentísima Señora (女性))」の敬称で呼ばれる[104]

スペインの公爵位は現在155個存在し、有名な物には16世紀の宗教戦争時代に当主が軍人として活躍したアルバ公爵アルマダの海戦の際に当主無敵艦隊の司令官を務めたメディナ=シドニア公爵新大陸発見者とされるクリストファー・コロンブスの子孫が保有するベラグア公爵とラ・ベガ公爵スペイン語版アステカ皇帝モクテスマ2世の子孫が保有するモクテスマ・デ・トゥルテンゴ公爵スペイン語版フェリペ3世寵臣スペイン語版を初代とするレルマ公爵スペイン語版[105]フェリペ4世寵臣を初代とするサンルーカル・ラ・マヨル公爵スペイン語版オリバーレス伯爵の爵位を埋没させたがらず、「オリバーレス伯公爵」を名乗っていた)[106]ナポレオン戦争時代のイギリス軍司令官ウェリントン公に与えられたシウダ・ロドリゴ公爵スペイン内戦を起こしたエミリオ・モラスペイン語版の子孫が保有するモラ公爵スペイン語版フランシスコ・フランコ総統の子孫が保有するフランコ公爵などがある。またオスーナ公爵スペイン語版は、19世紀末の当主スペイン語版が駐ロシア大使を務めていた際に来客のために用意した金食器を川に捨てるという余興を催したことで、浪費を指して「オスーナ家でもあるまいし」という言い回しができたことで有名になった[107]

正式な称号とは認められていないが、カルリスタの王位請求者によって創設された171の称号の中にも4つの公爵位があった[104]

王室の称号プリンシペも公爵と訳されることがあるが(「大公」や「王子[108]」と訳されることもある)、これには皇太子に与えられるアストゥリアス公などがある[104]

公爵を含む伯爵以上の貴族の長男は他の称号を持たない場合には親の称号に由来する地名の子爵位を爵位の継承まで名乗ることができる[104]。貴族称号の放棄も可能だが、他の継承資格者の権利を害することはできず、また直接の相続人以外から継承者を指名することはできない[104]。貴族称号保持者が死去した場合、その相続人は1年以内に法務省に継承を請願する必要があり、もし2年以内に請願が行われなかった場合は受爵者が死亡した場所の州政府が政府広報で発表した後、他の承継人に継承の道が開かれる[104]。爵位の継承には所定の料金がかかる[104]。スペインに貴族院はなく、爵位をもっていても法的な特権は何も得られない。かつてグランデの格式を有する者は外交官パスポートを持つことができたが、これも1984年に廃止されている。だがそれでも爵位を持つことは社会的信頼が大きいことから多くの人が高いお金を出してでも取得を希望する[109]

歴史的にはスペインの前身であるカスティーリャ王国アラゴン連合王国ナバラ王国にそれぞれ爵位貴族制度があり[110]、17世紀のカスティーリャの貴族の爵位は公爵、侯爵、伯爵に限られ、この三爵位の次期候補者がまれに子爵を使った[111]。1520年までカスティーリャの爵位貴族は35名しかいなかったが、フェリペ3世時代以降に爵位貴族が急増した[111]

1931年の革命で王位が廃されて第二共和政になった際に貴族制度が廃止されたことがあるが[112]1948年に総統フランシスコ・フランコが貴族制度を復活させ[104][113]、国王による授爵と同じ規則のもとにフランコが授爵を行うようになった[104]。王政復古後は再び国王が授爵を行っている。

現存する公爵位

国民記憶法により廃止された公爵位

2022年10月、国民記憶法英語版の施行により、以下の公爵位が強制的に称号廃止となった[114]


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