公爵令嬢メリー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/19 03:06 UTC 版)
鉱泉療法で名高いピャチゴールスク滞在中、俺は、足の怪我で療養中の戦友グルシニツキー Грушницкий と再会した。 田舎地主貴族が幅を利かすこの町で、モスクワからリウマチ治療に来ているリゴーフスカヤ公爵夫人 княгиня Лиговская と、その娘メリー Мериの親子は、洗練されて美しく、人目を引いた。が、グルシニツキーと令嬢メリーとがいい雰囲気なのが、俺には面白くない。幸せな男が近くにいるだけで、うすら寒い気分になるのだ。幸か不幸か、昔関係のあったヴェーラ Вера も夫と共に来ており、しかも今の夫は公爵夫人とは遠縁で、住まいも隣同士だという。俺は、過去を感づかれないために、公爵令嬢を追い回すことを約束する。 レストランのホールでの舞踏会に始まり、何も知らないグルシニツキーと公爵夫人宅を訪れるなどして、俺はゆっくりと公爵令嬢に近づく。周到に計算された俺の立ち回りに、思惑通り、令嬢の心は次第にグルシニツキーから離れて行った。 俺に屈折した未練の残るヴェーラは、「あなたが公爵夫人宅に来なければ、私はあなたに会えない」と言う一方で、俺のメリーへの態度には嫉妬を隠せない。そんな或る日ヴェーラは、彼女と夫、そして公爵夫人親子が近々キスロヴォーツクへ移る予定だと教えてくれた。「あなたもいらして、隣に部屋を借りて下さい」そしてどう嗅ぎ付けたのか、グルシニツキーも、俺の2日後に、仲間を引き連れてキスロヴォーツクに到着した。 キスロヴォーツクで、俺は令嬢と馬を並べて郊外のポドクーモク川(ロシア語版、英語版)へ行き、浅瀬で馬に乗ったまま令嬢の頬に接吻した。彼女との距離は順調に縮まっているかに見えた。が、グルシニツキーと俺との関係はますます険悪になり、ついには決闘する運びとなった。 決闘は朝早く、キスロヴォーツク郊外の峡谷の崖の頂上で行われた。事態が公になると厄介なので、転落事故死への偽装を容易にするために、撃たれる者が崖っぷちの空地に立つことになった。俺がピストルの引き金を引くと、次の瞬間にはグルシニツキーの姿はもう眼前に無かった。 介添人を引き受けてくれた医師ヴェルネル Вернерが、グルシニツキーの遺体がら弾丸を抜き取り、事故死への偽装は一応成功した。が、グルシニツキーはメリーをめぐる決闘で死んだのだ、相手はペチョーリンだ、という噂は、たちまち町中に広まり、俺は N要塞に転属になった。俺はげっそりとやつれた令嬢メリーに、あなたと結婚するわけには行かない、とだけ告げ、キスロヴォーツクを去った。
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