印刷 版式による分類

印刷

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/26 18:02 UTC 版)

版式による分類

有版式

版の色々

凸版

版の凹凸を利用する印刷法の一つで、非画線部を凹、画線部を凸にして凸部にインクをつけ、紙に転写する方式[31]

活版印刷(活字や写真凸版・線画凸版、罫線などを組み合わせて版とする)はこの版式である。印刷時での圧力により紙に凹凸ができることがある[31]。また、印刷された文字にマージナルゾーン(インクの横漏れにより、実際の活字の線幅以上の余分な太さとなる部分)が見られるなどの特徴がある。版が鉛製で取り扱いにくいこと、オフセット印刷の発達などにより、活版印刷は廃れた。現在主に行われている凸版印刷は、樹脂凸版印刷およびフレキソ印刷である。樹脂凸版印刷とは、活版の代わりに感光性樹脂を刷版に用いるもので、週刊誌のモノクロページ、シール、ラベル印刷などで使用されている。ただし現在では、週刊誌のモノクロページはほとんど平版オフセットで印刷されるようになった。フレキソ印刷は、ゴムや感光性樹脂の版を用い、刷版にインキを供給する部分にアニロックスロールと呼ばれるローラーを用いる方法である。アニロックスロールは、表面に規則正しい配列で凹みを彫刻し、その凹部に詰まったインキを版に供給するもので、用途に合わせて凹部の線数を選択することができる。印圧がほとんどない「キスタッチ」が理想とされ、段ボールライナー、包装フィルムなどの印刷に使用されている。

ドイツで印刷術が流行した時期、凸版印刷術のアイディアは、レオナルド・ダ・ヴィンチが考案し、印刷機の設計図も描いたが、実用化されるのは、その300年後となる(佐藤幸三編、文・青木昭 『図説 レオナルド・ダ・ヴィンチ』 河出書房新社 (初版1996年)6刷2006年 p.22)。一説にレオナルドの手稿が鏡文字を用いたのも、この印刷用の版を意識してのこととされる(同『図説 レオナルド・ダ・ヴィンチ』 p.22)。

線画凸版

印刷物には文字だけでなく挿し絵などの図版も必要とされることが多い。図や表などの線画から光学的にネガフィルムを作成し、それを感光剤を塗布した亜鉛版(または銅版)に焼き付ける。感光したところだけ硬化して皮膜となるので、塩酸などで金属を腐食させることで感光部(画線部)だけが凸状に残る線画凸版が出来上がる。

写真版

写真を印刷するための凸版を写真版という。詳細は#写真印刷を参考。

鉛版

複製鉛版、ステロ版ともいう。活字や線画凸版を組版して作った原版は摩耗などにより一定枚数しか印刷出来ないのが通常であるため、原版に紙型を載せてプレス加圧を行って型を取り、その紙型を鋳型としてアンチモン合金を流し込んで複製版が作られる。この際、半円形に鋳造した物を2つ組み合わせれば「丸鉛版」となり輪転機にかけることが可能となる。これによって大量印刷が可能となった。

凹版の基本的仕組み
(下の版にある凹部分のインクが紙(上)に転写される)

凹版

版の凹凸を利用する印刷法の一つで、非画線部である凸部のインクを掻き取り凹部に付いたインクを紙に転写する方式。現在では電子彫刻された銅製のシリンダーを用いた刷版が使用されるため耐久性があり、大量の印刷に向いている。微細な線を表現できることから、偽造防止の目的で紙幣収入印紙などに採用されることが多い。

また、グラビア印刷も凹版印刷の仲間と言える。グラビア版は、ほかの印刷方法のような錯覚を利用した濃淡表現と、凹部分の深さの違いによるインクの量の増減による濃淡の変化の双方が可能であるため、写真などの再現性に優れている。かつて、雑誌においては本文は凸版で印刷され、写真ページはグラビアで印刷されていたことから、転じて写真ページのことをグラビアページと呼ぶようになった。現在は本文、写真ともオフセット印刷が利用されることが多い[32]

平版

オフセット印刷

平らな版の上に、化学的な処理により、親油性の画線部と親水性の非画線部を作成し、インキを画線部に乗せて、紙に転写する方式[33]。 一般的にはオフセット印刷と同義で理解されているが、オフセットとはインキが版からゴム版に一度転写されることを指すのであり、本来、平版印刷と言うのが正しい。オフセットする凸版(ドライオフセット印刷など)や凹版(パッド印刷=タコ印刷など)もまれに存在する。石版印刷(リトグラフ、リソグラフィ)も平版の一種。

現代日本の出版物は、多くが平版オフセット印刷で刷られている。直刷りの凸版や凹版と違い、刷版上の画像が反転していないので間違いなどを見つけやすい。また高速、大量の印刷に適している。日本において平版印刷が普及した理由として写真植字が挙げられる。写真植字による版下作成はその後工程として製版フィルム化(集版)が不可欠であり、この工程を経る限り平版印刷が最適であるからである。カラー印刷英語版は殆どすべてこの方式である。

孔版

版(油紙など)に微細な孔を多数開け、圧力によってそこを通過したインクを紙などに転写する方式。

手軽な設備で実現できる。身近な代表例は理想科学工業プリントゴッコリソグラフ(製品名)。複製絵画に使用されるシルクスクリーンや、謄写版(ガリ版)も孔版の一種。文字や画像の印刷に限らず、物体表面に各種の機能性材料の皮膜を形成する技術として広く用いられている。一例では、カラーブラウン管のシャドーマスクや液晶表示装置のカラーフィルターといった部品が、印刷技術を用いて製造されている。別名ステンシル印刷とも称されるが、最近ではスクリーン印刷と呼ばれることが多い。ステンシルテンプレートは孔版の一種といえる。

無版式

無版印刷とは、製版フィルムや刷版などを作成することなく、直接、用紙に印刷する方式。

電子写真方式(静電記録方式)

電子写真方式(静電記録方式)はオフィスなどで用いられるレーザープリンターに広く普及している方式[34]

熱転写方式

熱転写方式には溶融型熱転写と染料熱転写がある[34]。染料熱転写は染料の加熱による昇華を利用したため昇華型熱転写と呼ばれていたが、必ずしも昇華の原理を利用しないものも利用されるようになっている(ただし分類上は印刷の過程と関係なく昇華型熱転写が使われることもある)[34]

インクジェット方式

インクジェット方式は1980年代に電機系の会社を中心に開発された[34]


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  2. ^ a b Etymoline
  3. ^ [1]
  4. ^ a b 出典:日本印刷産業連合会 各種統計[2] 。2017年に統計の対象となった8,517事業所のうち、6,247事業所がオフセット印刷。
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  15. ^ 「印刷・スペース・閉ざされたテキスト」ウォルター・オング(『歴史の中のコミュニケーション メディア革命の社会文化史』所収)p144 デイヴィッド・クロウリー、ポール・ヘイヤー編、林進・大久保公雄訳、新曜社 1995年4月20日初版第1刷
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  17. ^ 「印刷・スペース・閉ざされたテキスト」ウォルター・オング(『歴史の中のコミュニケーション メディア革命の社会文化史』所収)p149 デイヴィッド・クロウリー、ポール・ヘイヤー編、林進・大久保公雄訳、新曜社 1995年4月20日初版第1刷
  18. ^ 「世界を変えた100の本の歴史図鑑 古代エジプトのパピルスから電子書籍まで」p180 ロデリック・ケイヴ、サラ・アヤド著、樺山紘一日本語版監修 大山晶訳、原書房 2015年5月25日第1刷
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  20. ^ Hans Bolza: Friedrich Koenig und die Erfindung der Druckmaschine. In: Technikgeschichte. 34巻1号, 1967, p79-89|p=80
  21. ^ Hans Bolza: Friedrich Koenig und die Erfindung der Druckmaschine. In: Technikgeschichte. 34巻1号, 1967, p79-89|p=83
  22. ^ Hans Bolza: Friedrich Koenig und die Erfindung der Druckmaschine. In: Technikgeschichte. 34巻1号, 1967, p79-89|p=87
  23. ^ a b Hans Bolza: Friedrich Koenig und die Erfindung der Druckmaschine. In: Technikgeschichte. 34巻1号, 1967, p79-89|p=88
  24. ^ 『ビジュアル版 本の歴史文化図鑑 5000年の書物の力』p132 マーティン・ライアンズ著、蔵持不三也監訳、三芳康義訳、柊風舎 2012年5月22日第1刷
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  38. ^ a b Kipphan, Helmut (2001). Handbook of print media: technologies and production methods (Illustrated ed.). Springer. pp. 48-52. ISBN 3-540-67326-1. https://books.google.com/books?id=VrdqBRgSKasC 






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